Part42:「予期せぬ決着」
「どうぞ……って?」
「FLHはあなた方に接触し、回収される事を望んでいたようです。ですので、あなたにお引渡しします」
少し、いや多分に困惑しつつ、今も呆け気味の声で返した星宇宙に。ラグラデオスが回答したのはそんな説明の言葉。
「え……あの……俺たちと、戦わないの……?」
「はい、戦闘となる可能性も有していましたが。私にあってはその選択を排除致しました」
続け、探る様に尋ねた星宇宙の言葉に。ラグラデオスが返したのは、シンプルなあっけないまでの、戦闘を否定する回答であった。
「なんで……?」
ひとまず引き渡してくれると言うFLHを受け取るべく、同時にラグラデオス自身に近寄るためもあって。数歩歩み出つつまた尋ねる一言を返す。
「あなたの先の選択回答は、合理性には欠けるものと判別できます――しかし。現在のこの世界の有する、いくつかの好意的な面に強い価値を見出す判断と価値観。そして私の戦闘と言う多大なリスクを冒してまで、それを優先した判断――人の感情ですか。私の内に、それの経過を観測するという選択が生じました」
その星宇宙に、お堅い言葉を並べてそんな説明をするラグラデオスだが。
「言い換えれば――「あなたに興味が沸いた」、と表現できます」
次には、そんな柔らかく表現した言葉を紡いで見せた。
「え、俺に……?君が……?」
「はい、私としても予期していなかった選択取得です。現在の私も少し「驚いている」と表現できるかもしれません。推測すると、MODの影響でこの人の形態を有した影響なのかもしれません」
また続け、回答説明を寄越すラグラデオス。
解釈すれば。MODの影響か、ラグラデオスにも感情的なものが生まれ、星宇宙の今の回答選択がその「興味」を引いたらしい。
それがラグラデオスに戦闘の選択を回避させたと言うのだ。
「こ、これは……ひょっとして、〝スピーチチャレンジ成功〟ってコトなん……?」
「この「世界」がゲームシステムを模している事を鑑み判断するならば、その表現解釈も正しさに近いものかもしれません」
星宇宙が思わずゲーム的に解釈した言葉に。それにすら、端的な色で肯定を寄越したラグラデオス。
「えぇ……」
苛烈な戦闘への覚悟を決めていた所への、しかし思わぬ形でのそれに。星宇宙は最早そんな言葉を零すしかできなかった。
「――んん……」
呆れに近い困惑にまた持っていかれていた星宇宙だったが。そこへ収容モジュール内で眠る少女、FLHが。意識を取り戻したのか、微かな動きを見せたのはその時だ。
「っ!」
それに気づき、ひとまず困惑を抑えてそれに駆け寄る星宇宙。背後からはモカとファースモ同じように駆けよって来た。
「君っ、えっと……FLHさんっ?大丈夫っ?」
駆け寄って覗き込んだモジュール内で、FLHはか弱い様子で眼を緩慢に開く。
それに星宇宙は、ひとまずは呼びかける声を掛ける。
「んっ……大丈夫だ……すまない希望の星、手数を掛けた……」
呼びかけに、FLHである少女は緩慢な様子でしかしまず星宇宙と視線を合わせ。
返事を返すと合わせて、一番にまずはそんな詫びる言葉を寄越して来た。
「っ……」
「とっとっ……っ」
「あわわっ」
そしてスリープから目覚めたばかりで、まだ完全では無い様子の体を。しかし起こしてモジュールより這い出ようとする。
星宇宙はそれに慌て手を貸してFLHの身を支え、さらに背後から駆け付けたモカも手を貸す。
「――全容は、今にラグラデオスが伝えた通りだ」
「私は、ラグラデオスの計画の阻止のために呼び寄せた」
「〝希望の星〟――君と。‶生の祝福〟――RPの彼をだ」
星宇宙等に支えられながら、ここまでの一連の内容を肯定と補足する言葉をまずは紡ぐFLH。
星宇宙とそれにヴォートの事を示すらしい、特異な形容表現でもって。
「しかし、これにあっては予想に反した」
「君の決断にラグラデオスが興味を示し、戦闘を回避するとは――」
「――驚きだ」
「――改めて感謝を」
そしてしかし。同時にラグラデオスの予想外の賛同、戦闘の回避に驚く思いを示し。
そして、FHLは星宇宙にそんな感謝の一言を紡いだ。
(FLHさん……コマンド文を打ち込むのと同じように、なんかパツパツ区切って喋るんだな……)
腕中に支える、少女の姿のFLHからの言葉を聞きつつ。
しかし星宇宙にあってはFLHの独特な話し方に気が行き、そんな少し反れたことを考えていたが。
「……一体どういう?戦闘を回避できたのか……?本当に、何がなにやら……っ」
その背後から、声を寄越したのはファース。
星宇宙等の背後を守って一応の警戒をするファースは。戦闘が回避に至った事を察しつつも、しかしそれ以上の解決しない数々の疑問に、困惑の言葉を寄越す。
「ええっと……説明したいのは山々なんだけど、どっから話したらいいんだ……?」
それに、一応の全容は知るに至った星宇宙は。
複雑すぎるそれを、ゲーム中のキャラ――から改めこの世界宇宙の人であるファースに、何からどう説明すべきかまた困惑の声を零す。
「希望の星。恐れ入りますが、今はその時間猶予は無いようです」
しかし。
真上から引き続き宙にある、ラグラデオスより言葉が割り込まれたのは直後だ。
「え?」
「あなた方の別働の味方チームによって、この艦の動力に破壊工作が施されました。まもなく艦は爆発自壊します、早急な退避が必要と進言します」
また呆け疑問の声を返した星宇宙に、ラグラデオスから伝えられたのはそんな知らせと進言。
そして次には、今のメインコンピューター区画中に。警報警告の赤い光の点滅と、けたたましい警報音が鳴り響き始めた。
《――キャプテン・ファース、聞こえますかァ!仕事屋ズでもいい!艦の動力を暴走させた、爆発自壊まであと数分だッ!》
そして重ねてその事実を知らせるように、無線通信に飛び込んだのは破壊工作に向かったオックスからの知らせる言葉。
今にあってちょうど、向こうのチームの役割が成功完了したようであった。
「!」
「しまっ……!なんとか中止を……!」
「それは不可能です、そして推奨しません」
それを聞きファースや星宇宙は目を剥き、そして破壊工作中断の旨を発し掛けるが。
それはまたラグラデオスの言葉に遮られた。
「すでに艦の動力暴走は停止不可能状態にあります。合わせて、私はあなたとの戦闘を望まない選択を取りましたが、この艦に駐留配備されるParty部隊にあっては敵対を解かない可能性が大です」
「え」
そして告げられたその理由に、星宇宙はまた思わず声を零した。
「あ……!そうかPartyは!」
「はい。あくまで相互協力関係であり、私は意見方針のアドバイスと言う形を取っていたに過ぎず、Partyは私の指揮下にあるわけではありません。私のバックアップを失った後には、彼らは独自判断で艦を戦力として占拠接収、そして独自行動に移ることが予想されます」
そして次には、星宇宙はラグラデオスとPartyの関係性を思い出し。ラグラデオスはそれを補足。
「したがって、Party部隊の戦力を削いでおくためにも。艦はこのまま爆破処分する事を推奨します」
最後にはラグラデオスは、自分の居座る場所だと言うのに、他人事のようにそんな事を推奨する言葉を寄越して見せた。
「え……――ちょちょちょっ!じゃあ君はどうなるの!?」
その事を知らされ、星宇宙は慌て尋ねる言葉を紡ぎ向ける。それはラグラデオスの身に関する質問。
TDWL5のストーリー上では、ラグラデオスAIの提案を拒絶した場合には。彼女は戦闘ないし、今あるように艦の爆破によって破壊されてしまう結末を辿るのだ。
「〝お願い〟をさせていただけば、私も連れ出していただけるとありがたいです。無論あなたがそれを煩わしいと拒絶させるのであれば、私は艦と共に爆破処分を迎えます。あなたの選択の行く末を、観測できないのは残念ですが――」
それにラグラデオスが返したのはそんな説明。
下手をすれば自分の最期の可能性もあるというのに、その様相はどこまでの他人事のようなそれだ。
「わぁぁっ!そんな事はしないし、できない!連れてくから!――え、ど、どうすればいいの……っ!?」
それに慌て、連れて行く選択を決めて返しつつ。
実際にどうラグラデオスを連れ出せばいいのかを、星宇宙は「彼女」の体を右に左に見回しながら急き尋ねる。
「接続を外しますので、この人間体の体をそのまま連れて行ってください。どうにもMODの影響で、私のコアがこの人間体へと変換されたようです」
それにまた他人事のようにラグラデオスは告げると。次には機械音を立てて彼女の身を宙吊りにして支えていたアームが、その接続を解除解放。
「あっ、っとぉ!」
瞬間、落下して来た少女の体のラグラデオスを。星宇宙は驚き慌て、しかしなんとかお姫様抱っこでキャッチした。
「すみません、ありがとうございます。それと、中央の格納ポートを」
受け止めてもらった礼をまた端的に告げるラグラデオスは。床に降ろされ脚を着きながら、続けて空間の中心部、すぐそこに置かれる機械的な台座を示して促す。
「あ……これは……!」
「はい、〝ユートピア・デバイス〟です」
台座の蓋が自動で開き、そこから一つの何らかの機器がせり上がり星宇宙に差し出される。
大きな水筒のような、円柱状の機器装置。
それこそ、この巨大航空戦艦「エクログロフス」を強襲した目的。この世界の汚染されてしまった土地を浄化するアイテム――ユートピア・デバイスであった。
「っと」
ここまでの怒涛の展開に気が持っていかれてしまっていたが、それこそ一番の重要目標であるアイテム。それに歩み寄り手を伸ばし、星宇宙はその手中に掴み抱える。
「なんか……大変だったんだか、あっけなかったんだか」
そして確かに手中のものとなったその重要アイテムに視線を落とし。しかし星宇宙はここまでの予測してなかった経緯からのそれに、疲れたような言葉を零した。
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