Part39:「ハッキング&ファイアパワー」
PA整備デッキを突破して、さらに隔壁を通過した先に広がっていたのは、より一層広大な空間だ。
艦の内部上層の大半を占めると思しき広大なその空間は、艦の搭載機航空機の格納・整備ハンガーだ。
各所には、
Partyの用いるティルトローター方式の、大型の戦闘輸送汎用機――ヴァーティ・ホーク(以降VH)が。
そして一部には、貴重なジェット戦闘機の駐機する姿が見える。
星宇宙等チームは、そんなハンガーデッキへと繰り出て踏み込んだ。
ハンガーデッキ内に見えるは。慌て急ぎ航空機を準備、飛行甲板に上げようと作業しているPartyの整備兵に、いくらかの戦闘兵。
すでに騒ぎを聞きつけ、Partyの兵たちはおぼつかないながらも迎え撃つ体勢にあり。
踏み込んで来た星宇宙等チームとの先端は、ほぼ間髪入れずに開かれた。
「――右サイドッ、敵一個チーム!」
「左から来るよっ!」
先と同様、PA装備のファースとクラウレーが正面に立って火力をばら撒き。
それの遮蔽を受けながら、星宇宙等が細かく精密な応戦行動を行う。
「ッ――ヨォ、前方ッ。いよいよお出ましだッ!」
内のオックスから促し張り上げる声が上がったのは、戦闘開始からさほど経過していないタイミングだった。
「ッ、そりゃ出て来るかっ」
オックスに促された前方方向を見て。そちらに見えた光景に星宇宙も悪態交じりに声を零す。
広大な搭載機ハンガー空間の向こう側に見えたのは――複数体のPAメカ娘が隊形を組んで踏み出してくる光景であった。
無論、今の状況からその正体所属は敵Party部隊のもの以外ありえない。
ハンガーデッキの向こう側に、また別のPA整備デッキがあるのだろう。そこから準備を完了させ、出撃して来たようだ。
PartyのPAメカ娘部隊は、今先に星宇宙等が見せた形と同様。
PA一体ないし二体に、歩兵が二~三名が随伴援護する形を取って散会。
ハンガーデッキの広い空間を利用して散会展開。隊形を形成してこちらに向けて押して攻め上げはじめて来た。
「っォ!」
そして敵隊形から寄越されたのは、我武者羅な。手当たり次第な火力投射による銃弾の雨あられだ。
「流石に数的不利か……!」
「カバーだッ、一旦カバーしようっ!」
数的有利に物を言わせた敵Party部隊に。星宇宙やファースはさすがに状況不利を判断して突撃を中断。
各々散会し、近場のVH機の機体やトーイング・トラクター。積載された資材などの陰に飛び込みカバーした。
「ひょえー……っ!」
「流石に本腰入れて来たかッ」
近場のトーイング・トラクターにカバーした星宇宙とモカは。側や頭上を怒涛の如く掠めて行く敵の銃撃銃火を凌ぎつつ、冷や汗を垂らし声を零す。
「ぬォ!?ッー、まごまごはしてらんねェぞ!手を打たねぇと!」
向こうの積載された資材の陰、そこにカバーしたオックスから。掠めた銃撃に驚き零しつつ、早急な打開の必要性を訴える声が飛び来る。
「なら――これの拝借かなッ」
そんな声を受け聞いた星宇宙は、しかしすでに手は考えていたと言うように。背後に視線を送る。
背後近くには、ハンガー内のスポットに駐機する一機のVH機の巨体があった。
「スノーマンさん!これの拝借は行けるっ!?」
そして、そのVH機の陰に身を隠すスノーマンに、そんな尋ねる言葉を飛ばして向ける星宇宙。
「やっと出番だね、やろうか!」
そんなスノーマンからは賛成、同意の旨の言葉がすぐに返り寄越され、そして行動は開始された。
スノーマンは、開かれ降りていたVH機の昇降口から機内に上り入り。
星宇宙もトーイング・トラクターの陰から素早くVH機の陰に移り、スノーマンに続いて機内の昇り入った。
VH機のコックピットへと潜り乗り込んだ二人。
VH機のコックピットは、大型機に見られる横並び複座の座席配置だ。
先んじてスノーマンが機長に着き。次には操縦席の機械系を遠慮無しに、慣れた様子で開放して弄り漁り始める。
それを横目に見つつ、星宇宙は副機長兼ガンナー席に着き座る。
これよりの算段は、VH機の搭載する火器火力を頂き利用する事にあったが。
流石に大事な機体の操縦系には、セキュリティが掛けられている。そのままそれを使うことはできない。
「仕様は弄られてないね、ストライク・ヴァルチャーとの共通性は変わらず――これなら容易だ」
その機の操縦席の機械系を弄りながら零すスノーマン。そして次にスノーマンが取り出したのは、小さなメモリデバイス。しかしそれこそ、現状の打開のための鍵だ。
「許可承認されていないデバイスの接続は、現に慎んでください――ってね!」
スノーマンは、彼女(彼)のその今は可憐で理知的な美少女の顔を、しかし不敵に作りながら。そんな冗談めいた台詞と合わせて、操縦系から引っ張り出したケーブルのコネクタに、メモリデバイスを接続した。
一瞬、機内を沈黙が包み。外のハンガーデッキの激しい戦闘の音が届く。
しかし直後、コックピット内に電子的な起動音が響き。操縦系が発光、モニターが表示される。
そして操作系のメインモニターに映ったのは――セキュリティロック画面が解除され、システムがアクティブになる映像。
そう、スノーマンが行ったのはハッキング。彼女(彼)お手製の侵入プログラムによる、機体のシステムのジャックだ。
システムのディフェンスにあってはParty側も決して怠っていたわけでは無かったが。今回に在ってはスノーマンの技術手腕がそれを上回り、軍配がこちらに上がった。
「来た!ファイア・コントロール全アクティブ!」
画面に火器管制有効・全兵装アクティブの表示がなされ、固定されていて重かった操縦グリップ系が軽くなる。
それを言葉にして発しながら、星宇宙は頭上に上がっていた機の照準装置を降ろして展開させる。
「任せたよ、火力と戦術の女神さんっ」
機長席側から、星宇宙をそんなように形容して揶揄うスノーマンの言葉が寄越される。
それを横に聞きながら、火器操作系のグリップを動かした。
星宇宙の意思がグリップを通して反映され。VH機の機外に備わる固定武装――40mm機関砲という凶悪な得物が稼働し、その砲口をハンガーデッキ上の隊形を組んで押し上げて来る、Party部隊へと向く。
そして火砲の稼働に連動して動いた副機長席の照準器が、そのParty部隊を捉えて、照準のクロス越しにその姿光景を星宇宙の眼に届ける。
「ッ――」
小さな一呼吸の後に――星宇宙はグリップのトリガを引いた。
――直後に響いたのは、暴虐のまでの砲声。
40mm機関砲の投射砲撃音。
そして次には40mm機関砲弾の火線はParty部隊に飛び込み、炸裂した。
凶悪過ぎる機関砲弾を撃ち込まれ、その炸裂を受けては。流石のPAを正面に立てての強固な隊形もひとたまりも無かった。
PartyのPAメカ娘たちは、しかし40mm機関砲弾の直撃に、その自慢の装甲をあっけなく貫通されて撃破され。
その背後にカバーして援護体勢にあったParty歩兵達も、装甲の守りを無くしな上に、そこを炸裂に見舞われて脆くも散った。
「っぅ――」
非道の敵とはいえ、惨たらしいまでのその姿光景。
それに星宇宙は唾を一度飲みつつも、意思を確かに持ち直してグリップを操作。機の機関砲を動かして、火力火線を薙ぐように敵部隊へ注ぎ込んでいく。
機関砲の稼働に合わせて砲火は向きをゆっくりと動かし変え、敵部隊を文字通り薙ぎ払い浚えて屠っていく。
さらに流れ弾がParty兵たちの背後にあった、別のVH機を直撃し。次には爆発炎上したそれの爆炎風圧が、付近にいたParty兵たちをも襲った。
「――ふァ……っ」
機関砲の火砲による一薙を終え。星宇宙はグリップ操作を止めて、シートに微かに身を沈めて息を吐く。
そして照準器より眼を外して、肉眼で向こうの光景を見れば。
そこに見えるは爆発炎上したVH機の燻る炎に主張される、Party兵たちの無残なものと成り果て散らばり崩れる姿。
その光景が広がる、ハンガーデッキの前景であった。
「っぅー……」
ここまでを、この世界を潜り抜けて来る中で、星宇宙なりの「覚悟」は決めたつもりではあった。
しかし、改めてのその光景に。相手がいくら非道を成す存在であるとは言え、複雑な思いを抱えてしまう星宇宙。
「……大丈夫?無理がきてない?」
そんな所へ横より紡がれ聞こえたのはそんな一言、れはスノーマンのもの。星宇宙の心情を察してのそれは、彼女(彼)のクールな声調にしかし案ずる色が含まれている。
「正直言うと……だけど――ここが無理を通して、踏ん張る時だ」
それに星宇宙が返したのは、正直な所を含ませつつも、しかし同時に踏みとどまる意思を訴える言葉。
それは何より、自分自身に言い聞かせるものであった。
「そうか……だね」
それに、スノーマンもそれならそれ以上野暮なことは言うまいと、受け入れる一言で返す。
「皆と合流して、再開しよう――艦の中枢は遠くない」
そして星宇宙は意思、気持ちを確かに持ち直した色で促し。
二人はVH機のコックピットを立ち、後にした――
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