Chapter4:「クォンティティ・パワー」

Part24:「コンティニュー・プラン」

 ゲーム時間内で夜が明けた。

 ダイナーでの休息、睡眠を得て体力気力を回復させた星宇宙とモカは。準備を整え出発、予定していた行程を再開した。


 ここにきての説明となってしまうが、このTDWLには一応のメインストーリーの道筋がある。

 星宇宙が最初にこの世界で目覚めた時に、近くにあったスタート地点の祠のシェルター。

 本来では主人公(プレイヤー)はその内でコールドスリープから目覚めて、この荒廃した世界に初めて直面するという、チュートリアルを兼ねた流れがあり。

 そこから最初はこの世界を知り、そして生き延びるために最低限の指針を頼りに行動してゆき。次第にこのプライマリー・ダウンワールドの地の存続と復興を駆けた、大きな動乱に身を投じて行くというのがメインストーリーの大筋だ。


 どうにも星宇宙がこのTDWLの世界に転移?させられる際に、そのチュートリアルは省略されたようだが。

 しかしそこからここまでにあっては、星宇宙もそのメインストーリーを辿る形で探索、クエスト攻略を進めていた。



「――開始、と。流せてるかな?」


 星宇宙は自分の背後上方に撮影用スクリーンを投影させて、撮影放送を開始。動画配信が正常に始まっているかを確認する。


《――おっ、始まった?》

《あ、再開ですか》

《枠おつです》

《おはようございます》


 配信が正常に始まったことを証明するように、少し置いた後にコメント欄にコメントがポツポツと流れ始める。


「おはモカーっ」

「おはようです、枠再開です――挨拶的に、そっちはまだ朝早い感じ?」


 それらにモカと星宇宙はまず同じく挨拶で返し、合わせて向こうへ尋ねる言葉を紡ぐ星宇宙。


《こっちは朝8時を過ぎたくらいです》

「そっか――こっちはもうお昼ちょい前くらいなんだ。どうにも時間の流れがそっちとこっちで違う上、均一でもないみたいなんだよね」


 コメントで答える旨が流れ、それを受けて星宇宙もゲーム内側の時間時刻を告げる。


《あら》

《視聴する側としてはありがたいけど、謎》

《時間の修正、調整が掛かってる?》


 それに返る視聴者の皆からの反応や推測。


《かもしれない……全部推測の域を出ないけど》


 それに星宇宙も同意と推測の旨を返した。


《ところで、ここはクロンス・タウンの近くっぽい?》


 そこから視聴者の着目点は移り変わり、コメントに現在のロケーションを尋ねる旨が打ち込まれる。

 撮影スクリーンが捉え収める、星宇宙とモカの現在地。

 そこは周辺を見渡す事の出来る小高い丘。そしてその向こうにはそれなりの規模の街並みが確認できた。


「うん、そうだよ。俺等はこっち(ゲーム内)時間の朝から移動を始めて、さっきここに着いた所。〝RP〟と接触するにはここを越えるルートが近いからね」


 その尋ねられた旨を肯定し、そしてここまでの経緯とその目的を説明する星宇宙。

 星宇宙等は〝RP〟と言うある組織との接触・訪問を目的としており。そのためにダイナーから東へ進路を取り、その途中地点であるこの場所へとさっき到着したのであった。


《そうそう、RPに接触しとかないとね》

《こっからメインクエストに本格的に乗っていく感じか》

《サブクエに気を取られて、こんな早くここまで来た事ないわ……》


 説明にまた流れるコメント。


「あはは、俺はストーリーが気になってガンガンメインクエを進めちゃうタイプだから。サブクエを拾っていく人は展開が早く感じるかもね」


 それに笑って答える星宇宙。


《ところで×2、星ちゃんとモカちゃん、バニー衣装から着替えちゃったんだね?》


 答えた直後、また話題は変わり。次に着目されたのは星宇宙とモカの姿格好についてだ。

 二人は昨日のバニーコスチュームから、スタートの段階で着用していた衣装に。それぞれ様相デザインの異なる、アイドル衣装のような意匠で飾られた、学生制服のような衣装姿へと戻っていたのだ。

 正確にはその上から少しの軽アーマー装備や、弾倉ポーチなどを身に着けてカスタムしていた。


《ん?あぁー、まぁね……昨日は背に腹は代えられなかったけど。この世界感でのロールプレイには、バニー服はさすがに合ってないし》


 その尋ねるコメントに返しては、星宇宙は微妙な気恥ずかしさの覗く様子で理由を答え。合わせて「この制服姿も大概だけど」とまた微妙な顔で付け加える。


《まぁ、その趣味は同意できる》

《ハードな世界観は気持ち硬めで行きたいよね》

《わかるけど……でも正直ちょっと残念……》

《星ちゃんおじさんとモカちゃんのバニーは甚く目の保養でした》


 その星宇宙の言葉に対してコメントに流れたのは、星宇宙の趣味嗜好に同意しながらも、しかし同時に星宇宙等のバニー姿を惜しむ声。


「だよねっ、みんなもそう思うよねっ!」

「わぁっ」


 そこへ声を大にして声を唐突に割り入れたのはモカだ。それに星宇宙は温い様子ながらも驚く。


「ほらっ、みんなもやっぱり星ちゃんのバニー姿がいいんだって!星ちゃんバニーエロかわで格好よかったもんねっ!」


 モカは星宇宙に熱心に訴えながら、また視聴者の皆に同意を求める言葉を高らかに発し上げる。


《モカちゃん社長は今日も絶好調》

《スケベ全開モカちゃん社長》

《まぁ星ちゃんバニー姿案にはまた賛成なので人の事は言えない》

《陸軍としてはモカ軍の提案に賛成である》


 それにモカの姿をネタで表現しつつも、しかし同時に賛同する視聴者の皆。


「だよねっ!ねっ、ねっ、だからバニー服で行こうよっ、ね?ぐひゅひゅ♡」


 モカはその視聴者の皆の意見を後ろ盾に、星宇宙に向けてお願い、懇願の言葉を並べ立て。最後に可愛い顔と声でしかしゲスな声を漏らす。


「却下ですっ!もう防御効果は今の服とそこまで変わらないし、それより気が散る方が危険要素になりかねないのから着ませんっ!」

「ぐへぇっ」


 しかし星宇宙はそれを理由と合わせてバッサリ却下。それを受けたモカは、わざとらしく濁った悔しそうな声を漏らした。


「ほらっ、余計なやり取りはここまでっ。行程を再開するよっ」

「ふぇーいっ……」


 そして星宇宙は仕切り直して、行程再開を促し。モカはそれに未練がましそうな声で一応の承諾を示し。

 二人は進路行程を再開、向こうに見える街に向けて歩み進み始めた。

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