Part25:「〝Party〟」
二人は丘の上より確認していた街へと踏み入った。
街は荒廃したこの世界のロケーションの御多分に漏れず、打ち捨てられ荒れ果てている。
「――」
星宇宙とモカはそれぞれ、汎用戦闘用火器としているSCAR-HとM27 IARを構え。二人隊形を作って警戒しながら、瓦礫の散らばり積もる街路を進んでいる。
基本的にこの街は通過してしまう事が目的だが、通過の上で有用な物資アイテムなどの入手を期待して、ある程度の探索は行っていく予定だ。
「――ッ」
しかし、周囲に視界を走らせて警戒観察を行いながら進んでいた星宇宙が、目を微かに見開いたのはその時だ。
その理由は、星宇宙の耳が聞き留めた「物音」。
「止まってッ」
瞬間、星宇宙はモカに向けて。相方だけに届く声と、手を翳す動作で促す。
そしてほぼ同時に星宇宙とモカは進行を止めるのと合わせて、通り沿いの建物の壁にドンと身をぶつけるまでの勢いで張り付きカバー態勢に入った。
「――この向こうだ」
そして耳を澄ませて、聞き留めた物音をよりよく聞き確認する星宇宙。
音の発生源は、現在地よりすぐ向こうに見える街の十字路。そこを曲がった先から聞こえて来ていた。
星宇宙とモカはより慎重な動きで進行を再開。建物の壁沿いに身を預けて、互いをカバーしながら沿い進んで十字路の角までたどり着く。
「モカ、後ろをお願い」
「おっけ」
モカに背後の警戒を任せると、星宇宙は手元にSCAR-Hを控え。建物の角より慎重に、最低限だけ視線を出してその向こうを確認する。
「――ッ!」
視界が開け、十字路より向こうの光景が見え。そしてその向こうに見えたものを確認、認識した瞬間に、星宇宙はその顔を険しくした。
伸びる街路のさらに向こうには、現在地とはまた区画を挟んだ別の十字路がある。
そしてまずそこに見えたのは、十字路上に止まる数台の馬車と人々。この世界では良く遭遇する、キャラバン隊ないし旅程の一行のもの。
それにあってはいい。問題は、そのキャラバンの人々が置かれている状況。
キャラバンの人々は、多数の「武装集団」に「包囲」され、事実上拘束されていたのだ。
キャラバンを包囲するは、多数の重武装の『女達』だ。
多数見えるは、歩兵の役割を担うと思しき。艶を消した黒色の、ぴっちりボディスーツ状のプロテクタ戦闘服を纏う美少女や美女の女達。
そしてスクール水着ないし競泳水着のような形状の黒いインナーを纏い。反した、洗練された造形ながらも厳ついパワードアーマー装備に身を包んだメカ娘が数名。
その様相は、昨日に邂逅したToBのそれに似通いながらも明らかに異なる。何より現在のキャラバンを包囲するその女達の雰囲気は、明らかに只ならぬものだ。
「マジか……――〝Party(パーティー)〟だッ」
そして。
星宇宙はその黒い武装女たちの正体を知っており、その名を口に発して見せた。
Party――
今の場合にあっては、催し事ではなく『政党』の意味で用いられる。
今に向こうにその姿を確認できた女兵士やメカ娘たちの、その属する集団を示す名称。
その正体は、この世界が荒廃する前に栄えていたこの土地・国の政府組織と軍――いや、正しくはその正当後継者・唯一政党を自称しているだけの残党組織だ。
Partyはこの地での政府、国家の再建を謳ってこそいるが。その実態は秘密裏に温存していた武力戦力を用いて、この荒廃した世界の支配を企む過激派組織でしかない。
自分たちが選ばれた存在と信じ。このプライマリー・ダウンワールドで懸命に生きる人々のほとんどを、搾取の対象である下級の存在としか見ておらず。
その考えや行動方針の実態は、すでにカルト宗教の域である危険な集団であった。
「――ッ」
「えっ、マジ?」
そんな存在とのエンカウントに星宇宙は小さく舌を打ち。星宇宙の言葉を聞いたモカも、微かな驚きと歓迎していない様子で声を返した。
今も視線の向こうでは、見た目こそ見目麗しい美少女美女たちがしかし高慢な様子で。キャラバンの人々に、本来民を守るための物であったはずの充実した火器火力を突き出し向けている。
これにあっては、TDWL5のゲーム中にあるランダムイベントだ。
Partyの部隊は、徴収――という名目の略奪を行ったり、酷い場合には『浄化』などと言う名目で殺戮を行う。
今向こうに見えるは、まさにその現場だ。
Partyが出現するようになるのは本来ならばストーリーが後半になってからだが。おそらく難易度調整MODであるDWAの影響か、もしくはもっと別のイレギュラーの影響かもしれないが、出現遭遇が早まったと見られた。
そしてキャラクターが女ばかりなのは、キャラの性別変更MODであるDCTSの影響。
これが本来通りのゲームプレイの最中であったならば、アクシデントイベントのスリルを感じつつも、見た目に嬉しいTSキャラとの戦闘を楽しむ余裕もあっただろうが。
現状にあっては無論、そんな所ではない本気のマズイ事態だ。
見ての通りPartyの部隊は火器火力装備に恵まれ、相手取る立場からすれば明確な脅威だ。
「っー……」
その存在姿を向こうに確認し、星宇宙は取るべく手を考え。一瞬、この状況の迂回回避すらをも微かに浮かべる。
しかし。
何か抗う様子を訴えていたキャラバンの代表らしき女を。Party部隊の指揮官らしき美少女が、しかし嘲る残酷な顔色で、女の足を拳銃で撃ち抜いたのはその瞬間だ。
「ッ!」
ここまで届く代表者の女の痛ましい叫び呻き声。
それを見聞きした星宇宙の顔は険しくなる。
「ひどい……っ!星ちゃんっ!」
背後を警戒しつつも同じくそれを目の当たりにしたモカが。声を上げ、次には星宇宙に訴える旨の声を掛ける。
ここまでで確信していた事。ゲーム世界を反映はしているが、この世界の人々は確かに生きている。
それをみすみす見捨てる選択肢は、今完全に無くなった。
「分かってる――俺が突っ込むッ、モカは援護してッ!」
そして、意を決する様子で星宇宙はモカに言葉を返し、合わせての願う言葉を告げると同時に。
星宇宙は建物の角より飛び出して、唾棄すべき行為の現場たるその向こうに向けて駆け出した――
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