Part12:「ラッシュ&レスキュー」

「――んんッ」


 そんなムッツリ美少女おじさん弄りから仕切り直し。

 星宇宙は小さく一つ咳払い。

 向こうのセクハラピンチの舞台とこちらを隔てる、大きな商品棚に背を預けて。控えていた自身の得物、SCAR-Hを確認する。

 モカも星宇宙に続く形で控え、同じく自身の得物のM27 IARを確認。

これよりの、〝突入〟に備える。


「合図で突入する――モカ、オッケー?」

「いつでもだよっ」


 小さな声で、お互いの準備状態を確認する。


「よし――」


 それを聞き、星宇宙はハンドサインでモカに準備待機を促しながら、ひと呼吸を整え――


「――GOッ」


 合図の声を発すると同時に。

 商品棚からカバーを解き、その向こうの空間へと踏み混み突入した。


「――」


 星宇宙は向こうの空間へ踏み出すと同時にSCAR-Hを上げて構え、同時に視線を瞬時に走らせて周囲を再掌握。

 状況光景は先と変わらない、オータントたちがNPCの彼女を囲い嬲る光景。

 変化と言えば、NPCの彼女とオータントたちが侵入して来た星宇宙に気づき。その顔に目を剥く色を見せるくらい。

 しかし星宇宙は構わず、構えたSCAR-Hに装着の光学照準を覗き。NPCの彼女を嬲っていた一体の女オータントの、その頭部を照準のクロスに捕まえ。


 そして引き金を引いた。


 撃発の音が響き上がり――7.62mm弾が打ち出され、そしてオータントへと叩き込まれるまではほぼ同時であった。

 決まったのはヘッドショット。

 オータントの頭部を見事に撃ち抜き。そのオータントは次には身を打って飛ばしながら、床に突っ込むように崩れて沈黙した。


 その時には、星宇宙すでにその女オータントからは意識視線を外していた。次に視線と射線のスライドで捉えたのは、NPCの彼女を嬲っていたもう一体の女オータント。

 再び、そして今度は流れる動きから光学照準器にオータントの胴体を捉え。

 星宇宙は再び引き金を引く。

 再び木霊する銃声。

 今度にあっては星宇宙は数度切り打ちで引き金を引き、三発程の銃弾がオータントへと撃ち込まれた。

 銃弾はオータントの胸部周りに全弾命中。

 オータントを無力化し、その巨体を打ち崩してまた床に沈めさせた。


「――なっ!?」


 二体のオータントが崩れたタイミングで。驚愕の様子を見せたのは周りでたむろしていたオータントたち。

 突然の事態に困惑狼狽を合わせて見せながらも、彼女たちはその本能から反射でそれが襲撃行動である事を理解。身を動かし、応じる行動を見せようとした。

 しかし、それは遅かった。


「――ッ」


 その時にはすでに、星宇宙に続き突入していたモカが、たむろするオータントたちを掌握。その一体をM27 IAR装着の光学照準器に捕らえていた。


 そして引き金が引かれ、モカのM27 IARもまた銃声を木霊させた。


 モカの叩き込んだ初撃は、端に立っていた一体のオータントを、その首元を撃ち抜き沈黙させる。

 そしてしかし、モカの動き攻撃はそれに留まらなかった。

 モカは最初のオータントを撃ち仕留めると同時に、視線と射線をスライド。側方近くに立っていた二体目のオータントに5.56mm弾を数発叩き込んだ。

 撃たれ、崩れる二体目のオータント。

 しかしまだ終わらない。

 モカはさらに視線と射線をスライド、三体目のオータントに攻撃を叩き込み無力化。

 最後にモカは、反対端に立って古びたライフルを慌て構えようとしていた四体目のオータントを。しかしその動きを阻むように、またもの視線と射線のスライドから照準し、数発の5.56mm弾を叩き込んだ。


 まるで端から薙ぎ浚えられるように綺麗に崩れ落ちたオータントたち。

 モカの連続的な照準からの攻撃は、それを描き作るまでの早業であった。


 さらに時間を同じくして、モカの受け持ったカバー範囲の反対側でも同じ光景が起こっていた。

 それを成したのは星宇宙。

 星宇宙は、NPCの彼女を嬲ってた二体のオータントの無力化を成した後に。すぐさま態勢を移行。

 モカの背を護る様に、彼女の視界の反対側へと意識を向け。

 その周り近くにまたたむろしていた三体程の女オータントたちを、今にモカが見せた動きと同様の、連続的な射撃動作で仕留めて無力化して見せたのだ。


 瞬く間に、薙がれるように無力化されたオータントたち。

 しかし星宇宙とモカの二人はそこで油断せず、警戒の意識を維持しながら。NPCの彼女の側へ踏み込み近寄り、それぞれはNPCの彼女の身を庇う様に配置。

 無力化は確実か、他に残敵は残っていないか。それらの確認のための視線と射線を走らせる。


「――クリアッ!」

「クリアーっ!」


 そしてそこで初めて、二人はそれぞれ周辺の完全な無力化を確認。

 互いにそれを伝える声を張り上げた。


 突入からここまで、ものの10秒にも満たない早業。

 そんな姿を魅せた二人は、最後にその頭部を飾るバニー衣装の長く尖る造形のウサ耳を。

 ウサっ、と可愛らしく揺らした。



《――すっご……》

《早業……》

《二人ともホントに素人か?》


 二人の見せたタクティカルさに、それに驚く反応がコメント欄に流れる。


「――よしっ、オッケ。モカ、警戒支援をお願い」

「りょうかいっ!」


 そのコメント欄を横目に見て、内心気恥ずかしく思いつつ。

周囲空間の確かな無力化を確認した星宇宙は小さく一言を零すと、モカに託す言葉を向けながら警戒の構えを解く。


「大丈夫?」


 そして拘束されるNPCの彼女へと振り向き、そう安否を尋ねる言葉を掛けた。


「っ!……あ、あぁ……しかし、君たちは……?」


 そこまでの光景に呆気に取られていた様子のNPCの彼女は、ハッと気づいて回答を返すが。しかしまだ戸惑う色で、合わせて尋ねる言葉を返してくる。


「俺等は、フリーの仕事屋さ。ヤボ用でここに立ち寄ったんだけど、そこであなたを見つけてね――解くよっ」


 それに星宇宙は、前にキャラバンのカウストにも名乗って見せた自己紹介を、今にあってもお決まりの物のように名乗り返し。合わせて簡単な経緯を説明。

 同時にNPCの彼女の腕を拘束する縄を解き、彼女を解放してやった。


「っ……!す、すまないっ」


 NPCの彼女は支えを失い少し態勢を崩すが、直後には自身の力で踏みとどまる。そして立ち上がり身を解しつつ、礼の言葉を紡いで寄越す。

 その際。ぴっちりボディスーツタイプのスカウトスーツに飾られる、彼女のワガママな乳房がたゆんと揺れた。


(〝ファースさん〟……こんなエロエロボディの美女になってしまって……)


 そんなワガママボディの美女を前にして。しかし星宇宙はと言えば何か微妙な表情を浮かべて、内心でそんな名前と合わせての感想を浮かべていた。


 ファースというのは、他でもないNPCの彼女の名前だ。

 ファースはこのTDWL5に元より登場するキャラクターであり、そして明かせばお約束と言うか――その本来の性別は男性であるのだ。

 元はムキムキマッチョながらもスマートさを兼ね備える、ダンディーな色男。

 〝血盟の装甲騎士団〟と呼ばれる、このゲーム中に存在する派閥組織に所属するNPCキャラクターであり。そして条件を満たせば主人公の冒険に同行してくれるようになるコンパニオン、仲間キャラクターでもあるのだ。

 ユニットとして大変に強く頼りになり、何より非常に良い人なキャラクターであり。TDWL5に登場するキャラクターの中でも人気上位の人で。星宇宙もプレイの時には特に好んで冒険の相棒に選ぶコンパニオンの一人であった。


 そんな彼、ファースが今は女と姿を変えている理由は。今先に名前が挙がった『KUKKORO TS MOD』の仕業に他ならない。

 このお色気MODが、ファースを麗しい黒髪美女へと見た目の姿を変えているのだ。


 そんな、全部乗せなまでに良い男なキャラクターであるファースが。しかし今はぴっちりスーツ装備でボンキュボンな、見目麗しい美女へと姿を変えてしまっている事に。

 星宇宙はうれし恥ずかしくも、しかし同時に若干の解釈違いを心に抱いてしまっていたのであった。


 もっとも。

 試しに導入して見た後はすぐに外すつもりだったとはいえ。興味本位で当MODを入れてファースを今の姿に変えた張本人は、星宇宙自身であり。

 自分の行いが自分に返っただけというのがオチであるが。


《星ちゃんおじさん、何解釈違いみたいな顔しとんねん》

《君が始めたTSだろ》

《ファースさんは男性時のキャラ印象が強過ぎますわ》

《ファースさんのキャラは履修済みなのでエロい目で見るのは無いです》

《でも知ってるダンディおじさんがエロい美女になるってエロ漫画の展開みたいだよね》

《↑やめて、ファースさんをエロい目で見ないという覚悟が揺れる》

《俺は遠慮容赦なく行けるしイク》


 そんな星宇宙の顔色空から内心を察したのだろう。

 それに対してや、ファースを主題とする今の諸々の状況に対しての、ツッコミや反応のコメントがまた流れる。


(ミエナイ、キコエナイ、シラナイ、コムギコカナニカダ)

(むひゅひゅ、ファースさんエッチになっちゃったねぇ♡元からダンディでエッチだったけど、これはこれで♡)


 そんなツッコミ等のコメント群を、星宇宙は内心でそんな棒読みの言葉を浮かべて、見えない聞こえないフリでスルー。

 モカにあっては警戒の意識は保ちつつも。内心でそんなスケベおじさんムーブを浮かべつつ、チラチラとファースの姿を盗み見ている。


「……?どうかしたのか?」


 そんな星宇宙の浮かべる微妙な色に気づいたのだろう。ファースは少し伺う様にして、尋ねる言葉を寄越す。


「いや……なんでもない――すぐで申し訳ないが、詳しい話は移動しながらしよう。まずはここから脱出だ」


 星宇宙はそれに誤魔化すように答え。そして話を変え、まずはここからの脱出の優先を促す言葉をファースに紡いだ。

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