Part11:「捕らわれのTSぴっちりスーツ女騎士」

 そんな星宇宙の、珍妙な自分との戦いが繰り広げ慣れながらも。

 二人はバックヤード空間の物色を終え、有用な物資・消耗品アイテムを回収し終えた。もちろん星宇宙が惹かれたジャック品は全部置いていく、というかモカと視聴者が説いて置いていかせた。


「――よし、回収を終えたし次だな。〝彼〟を助けに行く」


 ジャンクを前に繰り広げた珍妙な葛藤から、気を取り直してそんな一言を発する星宇宙。


《あ、そうかここには――》


 その何かを示す星宇宙の言葉に、察しを付けて気づくコメントが打ち込まれる。


 このモールステージには、ある一人のNPCキャラクターがオータントに捕らえられ監禁されている。そのキャラクターを救出するサブクエストがあるのだ。

 一応の正式なルートだと、よその拠点でその救出クエストを受注してこのモールを訪れる流れであるのだが。

 実際の良くあるプレイスタイルとしては、探索に訪れたこのモールでその場を遭遇発見するのがよくある流れであった。



 星宇宙とモカは行動を再開。

 引き続きのステルス主体の動きで。スーパーマーケットエリアを後にして、従業員用階段を用いてモールの別階層へと移動。

 次に足を踏み入れたのは、モールのホームセンターエリアだ。

 今のスーパーマーケットエリア以上に荒れており、大きな商品棚が迷路のように入り組み倒れている。

 踏み入った星宇宙とモカは、その入り組み倒れる棚を遮蔽として利用し。ステルス行動で潜り縫い進んでいく。


「――この向こうだ」


 目指す場所への到着は、それからさほどは掛からなかった。

 この階層にいるモンスターのオータントたちは、モールのほぼ真ん中の一帯をたむろす空間として集まっている配置だ。

 その空間は、すでに商品棚を一つ挟んで向こう側。

 そのたむろするオータントを排除無力化して、その奥の牢屋代わりの一室に捕らわれている、件のNPCをこれより救出する算段だ。


「――くぁぅぅっ♡」


 しかし。

 その星宇宙の算段は、商品棚の向こうより唐突に聞こえて来た声色で、出鼻をくじかれた。


「んっ?」


 唐突に聞こえた声は苦悶のそれであるが、同時に何か色艶を含む妙なもの。それを聞き留め、星宇宙は思わず被と声を零した。


「やめ、ろぉ……あぁぅぅっ!♡」


 さらに立て続けにそんな何か抗うような、しかし同時に艶やかな悩ましさを含む声は聞こえ来る。


「この声は……?」

「うん?なにぞなにぞ?」


 今の陰鬱なステージにはあまりに似つかわしくない、届いたそんな声色に。

 星宇宙は訝しみ、モカも不思議に思う声を零す。

 そしてその思わぬ声色、事象の正体を確かめるべく。星宇宙はその腕中のSCAR-Hを控え、細心の注意を払いつつ商品棚より視線を出し、その向こうを伺った。


 そして目に映ったのは、事前の情報知識にあった通りの、モールの中央を広く取った雑多なたむろの空間。

 そしてしかしその雰囲気に反した、思いがけぬ光景であった。


「……っ、くぁ……っ♡」


 たむろのための空間の中央、そこに見えたのは一人の女――美女だ。


 ポニーテールに結われた長い黒髪がまず目を引き、その元には美麗な顔立ちが遠目にも伺える。

 女としては少し長身のその身体は、欲張りなまでに乳房に尻肉に太腿が主張し、反して腰回りは絶妙に括れた垂涎もののそれ。


 そしてそのボディが纏うは、身体のラインの浮き出るぴっちりとしたボディスーツ。

 白色を主体に、黒やグレーでラインやアクセントを描く配色に、またアクセント程度にプロテクタ類が付随。そんなぴっちりボディスーツ衣装に、これ見よがしにそのワガママボディは飾られ凹凸を主張している。

 補足するとその衣服装備は、〝スカウトスーツ〟と呼ばれるTDWL5内にバニラで登場する衣服装備アイテムだ。


 そんな姿の美女が。その両手首を縛り拘束されて、天井から吊られる形で晒されていた。

 そのためか前屈みの姿勢となり、尻を突き出す格好にさせられている姿がまた艶めかしい。


「ウヒヒ、いい声で鳴くぜぇ」

「いつまでその態度がもつかなぁ?」


 そんな中心で拘束されるぴっちりスーツ姿の美女に向けて、周囲から飛ばされる下卑た台詞が聞こえる。

 しかしその声々は、台詞の内容に反して何かハスキーっぽくも透る声色である。


 そのぴっちりスーツ美女を囲う様に姿を見せるのは――緑色の肌が目を引く、複数の〝モンスター女〟であった。

 いずれもその肌色こそ特徴的だが。白色の髪に飾られるその顔は端麗なものであり、そして鍛え上げられながらも豊満さを同時に有するボディが魅力を主張している。

 そんな逞しくも魅惑の緑肌モンスター美女たちが、拘束される黒髪美人を囲い。いずれもがいやらしい視線を美女に向けて、舌なめずり等をしながら、愉しそうにしている様相を見せていた。


「あっ」


 そんな、妖しく淫らな行いが繰り広げられる光景を向こうに覗き見て。

 しかし星宇宙が次に小さく零したのは、何かを思い出すような一声だ。


《これは……KUKKORO TS MODですね――?》


 そしてその何かに思い当たった星宇宙のそれを、代わりに回答するようにコメント欄に一つのコメントが流れる。


 明かしてしまえば。

 緑肌のモンスター美女たちのその正体は、オータント。

 そしてそのオータントたちに嬲られている黒髪美女は、救出目的であったNPCキャラクターであった。


 いや、本来であればその黒髪美女のNPCは〝男性〟であるはずであり。

 オータントたちも厳つくゴリゴリマッチョなナチュラルモンスターな姿であるはずなのだが。

 今に在ってはそのいずれもが、今見た通りに美女の姿となって、妖しく艶やかな舞台を演じている。


 これは、御多分に漏れずMODの仕業。

 有志が作った『KUKKORO TS MOD』と名称されるMODを原因とする光景であった。

 

 そのMODは、ここで救出する事となる男性NPCを、そしてオータントたちの外見を軒並みTSさせ。おまけにイベント・演出まで大きく変更し。

 バニラ状態であれば殺伐したオータントのたむろする空間であるここ場を。妖しいセクハラエロピンチの舞台とする、お色気MODであった。

 ネタ物ながらもかなり力を入れて作られた代物であり。

 それもMOD製作者は海外の人であったりする。


「くぅっ……私は、こんな事で屈したりはしな――……きゃぅんっ!♡」


 美女モンスターと化したオータントたちに囲われ、拘束されているNPCのその彼――もとい彼女は。その凛とした顔立ちに、毅然とした顔を浮かべて抵抗の意思を示そうとしたが。

 次にはそれは、可愛らしい悲鳴となってあっけなく崩れた。


 見れば、オータント女の一体がNPCの彼女の背後に立ち。彼女のその尻肉に太腿周りを、掴み撫でまわして嬲り出していたのだ。


「げへへ、いい体してやがるぜ」


 オータントはそのハスキーな声と美人顔に反した、下卑た言葉を発して舌なめずりをしながら。NPCの彼女の尻肉太腿を揉みしだいて堪能し始める。


「やめ……っ!……んぁぅっ!♡」

「こっちのお味はどうかなぁ?」


 必死に抵抗の意思を見せようとするNPCの彼女だが、しかしそれはまたも儚く崩れて甘い悲鳴に変わる。

 彼女の前側にも別のオータント女がまた立ち、こちらは彼女の豊満な乳房を持ち上げるように掴み。やはり揉みしだき、指を埋めて堪能し始めていた。


「んぁぅ……こんな、屈辱をぉ……あぅんんっ!♡」


 オータントたちに嬲られながらも、そのNPCの彼女は必死に抵抗の色をみせようとするが。

 その身体は反してまるで媚びるようにエロティックにくねり。美麗な顔はしかし蕩けてメスの色に出来上がり始めている。

 それらから、NPCの彼女の抵抗の言葉にはまるで説得力が無かった。


「しもうた、これも有効にしたままだった」


 そんなセクハラエロピンチの舞台を繰り広げる、当人たちをよそに。

 星宇宙は他人事の様相で。このお色気MODをまた入れっぱなしであった自分の不手際に気づいて、困ったように言葉を零している。


《あー、このMODねっ》

《おれも入れてるわ、クオリティがすごいよねコレ》

《清々しいまでにストレートな女騎士調教》

《エロパワーは偉大》

《HENTAIはグローバル文化》


 そしてコメント欄には事態光景の正体に、該当となるMODの気づくコメントが流れ。合わせてMODを評するコメントが流れる。


「おぉ……えっちだねぇ、むひょひょっ♡」


 そしてモカはと言えば、そんな声を零しながら。

 覗く向こうに繰り広げられるセクハラエロピンチの舞台を、夢中になって見入っていた。


《モカおじさん社長……》

《平常運転》

《おまエチ》


 そんなモカに向けての、ツッコミのコメントが流れる。


《しかしこのMODを入れてるとは。星ちゃんおじさんも、良い趣味してらっしゃる》

《むっつりスケベ美少女おじさん》

「あの、いや……これはネタで……っ」


 そして星宇宙に向けても、そんなような揶揄うコメントが流れる。

 それに星宇宙は頬を微かに赤らめ、少し慌てて誤魔化すような言葉を紡ごうとしたが。


《女騎士とか姫騎士が好みでござるか?》

《見るのが好き、それとも自分がなりたい派?》

「いや……あの、違くて……っ」


 コメントの皆は暖かくも容赦なく、さらに追撃が襲来。


《隠さなくいいよ、俺も好きだもん》

《んもぅ、オトコノコだなぁっ》

《星ちゃんおじさんも、オトコノコだもんね。そういうの好きだもんね、お姉さんわかってるよ》

「ヤメロー!シニタクナーイ!」


 理解を示しつつも揶揄うコメントが、怒涛の如く流れて来て。


「むひゅひゅっ♡星ちゃんマスターもスケベさんなんだねぇ?♡」

「……シテ……コロシテ……」


 とどめにはモカからもそんな揶揄う言葉が囁かれ。

 最後には星宇宙は真っ白になって、そんなうめき声を零すのであった。

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