Part10:「クラフト・ワークの亡霊」

 星宇宙とモカはバックヤード空間のアイテム物色を開始した。

 スーパーマーケットの表の売り場の方は、数多に並ぶ商品棚のしかしほとんどは、とうにその全てが持ち去られてスッカラカン状態だが。

 バックヤード空間にはいくらかの残された商品類が。合わせてここを根城とするオータントたちの物資が少なからず、アイテムとして配置されており。

 それを丁寧に回収していけば、なかなかに多分な物資補給を望めるのだ。


 二人は引き続きの警戒を維持しつつ、手分けしてのアイテム回収を行っていく。


「あっ、弾薬のマガジンが三つっ」


「救急パックの大みっけ」


「チリコンカンの缶詰だぁー、世界感っ」


 棚を探り、収納を開き、ものによっては無造作に置かれた物を見止め。

 見つかっていく弾薬に回復アイテムに、一時的なステータス上昇を望める食品アイテムなどなど。

 モカはそれらの有用なアイテムを見つけるたびに小さなリアクションを見せながらも。しかし反した的確な動きでそれを回収していく。


「星ちゃん、なかなかの収穫になりそうだよっ」


 そして別方でまた物色回収を担当する星宇宙に向けて、そんな言葉で呼びかける。


「うん?星ちゃん?」


 しかしそこで離れた向こうに見えたのは、その星宇宙の何か少し変わった様子であった。


「……あっ、木製の玩具っ」


「マグカップもっ」


「わっ、アルミ缶がいっぱい」


 星宇宙が見せるは、何か目に付く物品を手当たり次第に手にしていく姿。

 アイテム物色中であるので一見当たり前の動きに見えるが、しかしそこにはおかしなところが一つある。

 星宇宙が手に取っているのは、いずれもジャンク。

 回収しても使い道のない、二束三文で売る以外はデッドウェイトとしかならない。情景演出のためだけに置かれるジャンクアイテムなのだ。


《星ちゃん、それ全部ここ(TDWL5)ではただのジャンクだよ……》

《星ちゃん……ここは〝インフィニティ・フィールド4〟の世界じゃないんだ……っ!》


 コメント欄には、そんな星宇宙に向けての差し止め説くようなコメントの数々が流れている。


「あっ……しまった、また……」


 そのコメントに気づかされるように。星宇宙はハっと我に返ったかのような様子を見せ、手に取ったジャンクを何か名残惜しそうにしながら置いて手放す。


「ど、どーしたの星ちゃん?」


 その何か変わった様子を見せる星宇宙に、モカは少し困惑して尋ねる言葉を掛ける。


「あぁ、うん……コレ、〝別作品〟の癖が抜けないんだ……」


 その問いかけに星宇宙が返したのは、そんな一言だ。



 〝インフィニティ・フィールド4〟という名称(通称IF4)の。

 TDWL5を制作発売したゲーム会社が同じく作った。コンセプトやシステムが同系統で、何より同一のゲームエンジンを使用する、事実上TDWL5の同一シリーズであるゲームタイトルがあるのだが。

 IF4にあってはそのゲームプレイの目玉の一つとして、プレイヤーがコミュニティを築き発展させるシュミレーションパートを含んでいた。

 そしてそのコミュニティ発展に必要なあらゆる物を作り出すべく、その材料となるゲーム世界中のアイテム――主にジャンク品を回収するという行動が、大変に重要視されていた。

 星宇宙の行動は、その前作IF4のプレイ時の癖であったのだ。


 しかし、今作TDWL5にあっては残念ながらその手のシュミレーション、クラフト要素は存在しない。

 なので星宇宙の今の行為は、実りの極めて薄いほぼ無意味なものであった。



「あーぉ……そういう」


 その事情を説明されたモカは、納得と同時に労しいものを見る眼で星宇宙を見る。


《気持ちは痛い程分かる……》

《ジェネラル(IF4主人公の愛称)の性よの……》


 そしてコメント欄には、同じくIF4プレイ経験のある視聴者からの同意の言葉が流れる。


「いけないっ、必要な物資アイテムに目を向けないと……!」


 星宇宙は頭を軽く振るい、意識を取り直すための言葉を自らに言い聞かせる。


「えっと――あっ、銅のワイヤー束っ。電気配線に……っ」

「星ちゃん、それもジャンクだよ……っ!」


 しかし。その舌の根も乾かぬ直後に、星宇宙はまたジャンクアイテムを目に止めると、反射でそれを手に取ろうとしてしまい。

 それにモカのツッコミが飛ぶ。


「うぁっ!い、いかんいかん……っ」


 それにまたハっとなる星宇宙。

 だがその後も。


「あ、布生地のロールっ」

「それもジャンクっ!」


「あっ、ペンキ缶っ。塗装に――」

「それもゴミだよぉっ!」


「基盤だっ、これで拠点に電子端末を作って……」

「それもゴミ……」


「わっ、電源ユニットっ」

「それはゴミだ」


「わぁっ、アルミトレーが20枚もっ♡」

「そ れ は ゴ ミ だ」


 目につく傍から最早病気なまでの様相で、ジャンク品に反射で手当たり次第に手を伸ばそうとする星宇宙。

 一方のモカはその度にツッコミを入れるが、それはどんどん端的でシラけたそれになっていく。


《星ちゃん……》

《最早病だ……》

《星ちゃんはクラフトの魅惑の犠牲になったのだ……》

《モカちゃんがまたBOTになっちゃった……》

《そ れ は ゴ ミ だ》


 そしてコメント欄には、そんな星宇宙の姿をしかし同情し労わるコメントが。

 同時にツッコミマシンと化したモカへの労りが。

 そして多数のツッコミのコメントが打ち込まれ流れる。


「あああ……っ!「見落とすな、回収しろ」と訴えるんだ……!俺の中のなにかが……っ!」

「そ れ は ユ レ イ だ」


 果てに星宇宙は嘆きなまでの言葉を発し上げ。

 それにモカは普段の元気溌剌な様子から180°変わった淡々とした様子で、そんなツッコミの言葉を飛ばした。

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