第55話 ありがとう

突然、落下し始めた!


なんだ?

2時間経ってリアル化が解けて、プラモに戻ってしまったのか!


ガツン!

「ぐはっ」


幸い、コックピットはプラモに戻らなかったけれど、

10メートルの高さから地面に落ちた衝撃は凄まじかった。


シートベルトをしていても、その衝撃で体が跳ね回り、

ヘルメットをかぶっていたが、頭を機器に激しくぶつけた。



体中が痛くて目が覚めた。


どのくらいの時間が経ったのだろう?

コックピットがまだ、プラモに戻らないことを九郎に感謝した。


モビルスーツがそうだったように、

九郎がいないところではリアル化の時間制限があったハズなのに。

こんなことも想定していたのか?


九郎の有能さがとどまる所をしらない!


だけど、コックピットの機能はほぼほぼ死んでいた。

モニターは真っ暗になっていて、スイッチの類も意味を失っていた。

唯一点灯している、非常灯の弱弱しい光が、かすかな希望を感じさせた。


アニメの設定では、コックピットは宇宙空間でも数日は生き残れる仕様だったハズ。

毒は入ってこないし、二酸化炭素は酸素に戻され、循環するハズ。


だけど、いつまで?


例えば、10日間、1か月、空気が循環して助かるのか?

この毒の大地の真ん中へ、誰か助けに来てくれるのか?

無理だ!


「死にたくない!助けて!九郎!花梨!」

「だれでもいい、助けてくれ!」

「サポネ・・・パメラ・・・アルテ・・・グレイス・・・」

泣きわめいて、疲れて、すすり泣いて、また、泣きわめいた。


永遠に思えるような時間が過ぎていく。


「死にたくない!助けて!九郎!花梨!」


この閉鎖された空間で狂うのが先か、死ぬのが先か、どちらだろう?


「助けて!サポネ!パメラ!アルテ!グレイス!」


「助けて!九郎!花梨!」




「九郎・・・」






突然、コックピットが無くなって、地面に尻もちついた!

誰かの気配を感じたけれど、久しぶりの太陽の光がまぶしくって、

目を開けられない!


「「三蔵!」」

待ち焦がれていた声が聞こえた!


「九郎!花梨!」

何人かが抱き着いてきて、俺はそれにしがみつくと、温もりを感じた。


嬉しかった。安心した。


「サニィ~、よかったにゃあ!」

「大丈夫?」

「遅くなってごめん!」


みんなの温かい言葉に、もう、独りぼっちにはなりたくない!って痛烈に思った。


「こ、怖かったよ!めっちゃ、怖かった!寂しかった!死ぬかと思った!」

助かったと思ったら、また泣きわめいてしまった。


「ごめん!遅くなった!」

九郎が謝ってくれたけど、そうじゃないって首を振った。

「ありがとう!助けてくれて、ありがとう。来てくれて、ホントに、ありがとう。」

助かった実感がふつふつと湧いてきて、嬉し涙が止まらなかった。


「一人で死なせたりしないじゃん。」

「生きていてくれて、ホントによかったよ~。」

「嬉しい、みんなに会えて嬉しい!」

ようやく目が慣れてきた。


右に九郎、左に花梨が目に涙を浮かべて笑っていた。

「九郎、花梨、ありがとう。やっと見えたよ。」

「遅くなってごめんね。」

「ヒュドラ退治、ご苦労様。」


九郎が謝って、花梨が労ってくれてから、後ろへ下がると、

サポネ、パメラ、アルテ、グレイス、ミレーネがやっぱり涙を浮かべて笑っていた。


「ああ、サポネ、パメラ、アルテ、グレイスにミレーネまで、ホントにありがとう。

いたっ。」

起き上がろうと身じろぎしたら、体に激痛が走った。


「三蔵さん!」

慌てた声を出したパメラは、俺の肩に優しく手を置いた。

「完全回復!」


さっきまでの痛みが嘘のようになくなった。

「おお、完全回復ってこんなに凄いんだな!

うん?完全回復って、パメラ、そんなの使えたんだ!」


驚きを伝えるとパメラはいたずらっ子のような笑顔を浮かべた。

「ふふっ、三蔵さん、みんなに内緒ですよ。」


こんな表情もすさまじく可愛いわ。

パメラ!

恐ろしい子!


みんなに感謝を伝え、体の痛みが無くなると、疑問点が噴出してきた。


「うん?なんで、みんな、ここにいるんだ?

どうやって、ここまで来たの?」


周囲を見渡して見ると、草木が生えていない大地が広がっていた。

普通の土の色で!


「あれっ、地面が紫じゃない?

えっ、毒は?

もしかして、ヒュドラが死んだら消えてなくなったのか?」

思いつくままに疑問を吐き続けた。


そんな俺を、みんなニヤニヤしながら見つめている。


「三蔵がヒュドラを倒したのはすぐに分かったよ。

みんな、新しいスキルを手に入れたり、魔力が激増したりしたからね。」

九郎が先陣をきって、その次はアルテが引き取った。

「そうそう。お陰で、パメラ様もたちまち回復したんだ。」


「でも、2時間経っても帰って来ないからさ、探しに行くことにしたんだ。

だけどさ、リアル化が解けたらどうなるんだろうって気づいて、

慌ててコックピットだけリアル化が続くように頑張ってみたよ。」

「ありがとう、ほんとに九郎のお陰だな。ありがとう。」


その後、グレイスとばっちり目が合った。

「役に立たないとは思ったんですけど、

無理やり乗せてもらいました。」

てへって、グレイスが可愛らしく微笑んだ。


「来てくれてありがとう、グレイス。ずっと会いたかったんだ。」

胸が熱くなってお礼を言ったら、グレイスが頬を染めていた。


「ごほん、ごほん、毒の話じゃん。」

ワザとらしい咳払いの方をみると、むうって花梨に睨まれていた。


「ヒュドラが死んでも毒は消えていなかったよ。

だから、パメラが浄化しつつ、ここまで来たんだ。

目立つモビルスーツは無くなっちゃったし、

ヒュドラは切り刻まれていたから探すのに苦労したよ。」

九郎の言葉に俺は深々と頭を下げた。


「それはスマン!

だって、ヒュドラのヤツ、全部、首を切っても、また首が生えてくるんだぜ!

ほんで、生えてきた頭に毒を吐かれて、まともに喰らって。

あれだけ切り刻んでも、まだ復活しようとしやがって!

魔石を取りだしても、まだ怖かったんだぜ!


・・・ってか、ここまで凄く、遠かっただろ?」

「そだね。」


ニヤニヤ笑いの花梨が簡潔に答えてくれたけど、

新たな疑問が湧いてきた。


「うん?パメラが浄化してここまで来たって?」

「そだね。」


また、ニヤニヤ笑いの花梨が簡潔に答えてくれた。

周りのみんなも、当のパメラもニヤニヤしている。


「はあ?嘘だろ?俺を見つけるまで、何十キロもウロウロしながらだろ?

そんな力、普通じゃありえないだろ?」

「そだね。でも、パメラだし。」

「パメラだしの意味が分からん。」


「パメラは聖女だし。」

「聖女?なにそれ?聖女だしってまたまた!」

みんながニヤニヤしながら、俺を見つめていた。


「えっ、マジ?聖女って嘘だろ!」

「なんで嘘なのさ?」

コイツ、何言ってんだ?って、花梨はキョトンとした。


「パメラは男じゃね~か!」

ついに俺は絶叫した!


「女だし。」

「!!!嘘ぉ~!」

花梨の軽い回答に、またまた絶叫してしまった。


まわりのみんなはそんな俺のリアクションを見て超ニヤニヤしている~!

必死で笑い声をあげるのを我慢している~!


「こんな綺麗すぎる男の子がいるわけないじゃん。」

うん、それはわかる!


「こんな綺麗すぎる女の子が遠くカデックまで旅していたら危なすぎるじゃん?」

花梨がやれやれってポーズを取りながら話すと、

またまたアルテが引き取って超簡単に事情を説明してくれた。


「だから、私が男の子に変装するよう提案したんだ。

まあ、男の子でも可愛らしすぎて大人気だったのは計算違いだったが。

それに、伸ばしていた美しい髪を切ってしまうのは断腸の思いだったぞ。」


「三蔵は正直だね~。ホント、騙されるタイプだわ。」

花梨はしみじみとつぶやいた。


「えっ?みんな、気づいていたの?」

「まあ?しばらく見ていて、なんとなく。」

「すぐ、わかったにゃん。」


「分かるワケないでしょ。」

「おおっ、同志よ!」

九郎の言葉に俺は嬉しくなって、がしっと握手した。


「三蔵のリアクションが僕と同じでウケる。」

「うっせ~わ。」


「お返しにアッシらが異世界人だって教えたから。」

花梨がある意味爆弾発言をしたが、もうどうでもよかった。

「まあ、このメンバーだったらいいよ。」


「ふふふ。ボクを助けるためにイリス教国に召喚された異世界人たち!

それがホレズで出会うって!

出会いが殺されそうなボクを助けるってもう、

運命としか言いようがないですよね。」

酔ったようにそういうパメラの瞳には俺しか映っていなかった。


えっ、マジなの?

俺の右の方では、九郎がハンカチを噛んで悔し泣きしている!


「ちなみに、パメラは第一王女ね。」

「はいはい、第一王女ね・・・うん?第一王女?

このオーガルザ王国の王様の子どものなかで、一番上の女の子ってこと?」

「そう言ってるじゃん。」


「!!!嘘ぉ~!」

またまたまた絶叫してしまった。


「また九郎と同じ、リアクション。ウケる。」

「えっ、花梨、これも分かっていたの?」

「他国の聖女ってみんな王族関係だったじゃん。」

「そうだったわ・・・はあぁ。」

どっと疲れて茫然としてしまった。


「私もちょっと、いいですか?」

グレイスが思わせぶりに手を上げた。


「もう何を言われても驚かないわ。

うん、グレイス、どうぞ。」

「実は私、21世紀のフランスから転移してきたんです。」

「「嘘おぉ~!!」」

俺と九郎がハモッて絶叫した!


「「「「アハハハハハハハハハハ!」」」」

ついにニヤニヤ笑いで我慢できず、みんなが爆笑した!


「同じリアクション!」

「驚かないって言ったのに!」

「「「「アハハ!」」」」

「「ほ、ホントなの、それ?」」


グレイスは笑いすぎで出た涙を、指でぬぐっていた。

「ごめんなさい、冗談です。

花梨がこう言ったら面白いよって・・・」

「「だっは~!!」」

「ごめんね。」

花梨がてへって小さく舌を出した。


「せっかく、パメラ・・・様が全回復してくれたのに、どっと疲れたわ。」

「三蔵さん!ボクたちは仲間です。」

パメラが両手を腰に当てて、可愛らしく頬を膨らませて、俺を睨みつけた。


「あ、はい。」

「様は無しで。」

「あ、はい。パメラ、助けに来てくれて、ありがとう。

パメラがいなかったら死んでたわ。」


「ううん。三蔵さんたちが助けてくれなかったら、ボクは死んでいたんですから。」

パメラが瞳をウルウルさせ、顔を少し上気させて俺を見つめていた。

女の子だったんだな。

やっぱりめちゃくちゃ可愛いわ・・・


「そ、そうだ、最後の仕事をやらないと!

あの魔石、もらっていいですか?」


パメラが指さしたのは、ヒュドラの魔石。

直径1メートルくらいで、めちゃくちゃ光り輝いていて、

世界に二つとない秘宝って誰だって分かる。

「おう、いいよ。」


パメラが両手を魔石に当てて、目を閉じ集中し始めた。

「浄化!」


光り輝いていた魔石が輝きを失い、それどころかただの大きな岩になってしまった!

そしてピシピシってヒビが入り、小さな黒曜石のようにバラバラとなってしまった。


だけど、誰も惜しい!とは思っていなかった。

みんな、世界が救われたって思っていたんだ。


少なくとも、見渡す限りにおいて、紫の毒は無くなっていた。

そして、死の土地が肥沃な大地に変わったってなぜか、確信する。


・・・1年後、東の魔の森を東へ、東へ行った俺たちは

それが正しかったことを確認した。


少なくとも半年以上、ヒュドラが徘徊して毒まみれにした土地は、

全て緑の新芽が覆っていたんだ。


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