第54話 ヒュドラ
九郎、花梨、サポネ、グレイス、ミレーネと一緒に村の郊外に出ると、
九郎がモビルスーツをリアル化した!
「にゃあ!」
グングン大きくなるモビルスーツを見て、サポネが驚きの声を上げた。
背が20メートルほどのモビルスーツに、みんな度肝を抜かれていた。
俺はみんなの驚きぶりを楽し気に眺めながらコックピットに乗り込んだ。
見たことある白い、ヘルメットがある!
いそいそとヘルメットをかぶって、さあ、行くぞ。
「どっこいしょっと。」
モビルスーツが立ち上がると、みんなその周りから慌てて逃げ出した。
まずは慎重に歩いてみた。
歩くと振動が凄いハズだけど、コックピットの中の揺れは大したことない。
凄い!
うん、いけそう!
「じゃあ、ヒュドラをやっつけてくるよ。三蔵、行きま~す!」
こちらを見つめる仲間たちに向かってモビルスーツで手を振って、
ベハルカ村の方へ走り出し、そしてジャンプした!
背中のランドセルのジェット噴射を調節してバランスを取り、
上空200メートルくらいまで上昇していく。
ひゃっほ~!
絶景だ!
それに、前後上下左右すべてが見えて凄い!
また、空を飛ぶ爽快感が凄い!
2キロくらい飛んで着地し、助走してもう一度ジャンプした。
「じゃあ、武器を試してみようかなっと。」
途中、ビームライフルを1発だけ試射してみることにした。
「落ちろ~!」
数百メートル先の大きな岩を狙ってみたら、
狙い通りちゃんと当たって岩が大爆発した!
凄い!
マジで、ドラゴンだろうが、ヒュドラだろうが軽く退治できそう!
ふっふっふ!
64キロメートル行ったところで、ベハルカ村を見つけた。
そのあたりにはヒュドラは見当たらなかったけど、
その向こうの大地はずーっと先まで紫に染まっていた!
川だけじゃなかったのか!
草木が毒に侵され、朽ち果て、大地が毒の色に染まっている!
思っていたより、ずっと悲惨な状況に肝が冷えた。
マジか!
これがもっと、もっと広がっていて、100年続くのか!
俺たちのセベシュ村まで、こういう風になるのか!
絶対に倒すしかない!
ヒュドラだろうが、何だろうが!
やってやるよ!
さらに何度かジャンプして、ようやく、遠くにヒュドラを見つけた。
まずは近づかずに、空中で様子を窺った。
ヒュドラは首が9つ、立ち上がっている首の高さが10メートルほどか。
周りの木の葉を食っては、その木に毒を吐いて腐らせ、
次の木の葉を食っていた。
体を数発、ビールライフルで撃ちぬけば簡単なのかもしれないが、
魔石を壊したらもったいない。
さぞかし、凄い魔石だろうからな。
ジャンプしながら500メートルまで近づくと、気づかれてしまった!
ヤバいか?
だが、ヒュドラはすぐにこのモビルスーツに対する興味を失った。
最強ゆえに警戒心がないバカだ。
「落ちろ~!」
まずは、左端の頭を狙ってビームライフルを発射した。
ビームは狙いどおりヒュドラの頭を撃ちぬくと、
突き抜けて遠くの地面に当たって大爆発した!
ヒュドラの左端の頭は無くなっている!
よしっ!
でも、ビームが高エネルギーすぎて、
ヒュドラの頭ごときじゃあ、当たっても爆発しないのか!
1個ずつ、頭を撃ちぬいていかないと!
1つ頭が無くなって、ようやくヒュドラが警戒する様子を見せたが、
気にせず、ヒュドラの頭を左から順番に撃ちぬいていく。
500メートルほど距離を取っていること、
ビームが高速すぎることから、ヒュドラの警戒は全く無意味だった。
あっという間に、9個の頭、全てが消えてなくなった。
「ビールライフル、凄すぎる!」
ヒュドラの頭が爆発しなかったからか、その体、その首は立ったままだった。
「ふう、楽勝だったな。」
死体から魔石を得るべく、武器をビームサーベルに持ち替え、
ヒュドラへ接近していく。
ヒュドラまであと10メートルくらいのところで、
真ん中の首が物凄い速さで蘇り、ヒュドラが毒を吐いてきた!
「うわぁ!」
盾でなんとか防いだものの、盾からはみ出た部分に毒が飛び散っていった。
ドドドドドドド!
体全体から冷や汗をドバドバ出しながらも、
額のバルカン砲をヒュドラの頭に向けて発射して、蘇ったばかりの頭を粉砕した!
だが、今度は真ん中以外の首が一気に蘇ってきた!
「うわぁぁぁ!」
嫌悪と恐怖の悲鳴をあげながらも、
毒を吐かれる前に、ビームサーベルを一閃し、8本の首を斬り落とした!
そして、嫌悪と恐怖を抱いたままモビルスーツをジャンプさせ、
ヒュドラの真ん中の首に、ビールサーベルを突き刺した!
さらに、ヒュドラの体を横に両断し、さらにさらに縦に両断した!
4つに別れたヒュドラの体がようやく地面に倒れた。
「ふうぅ~」
だけど、すべての切断面は焼け焦げていたのに、
左胸の切断面から血が噴き出し始めた!
「あれ?」
そして、血管みたいなものが何本も伸び始めた!
「うわぁ!」
嫌悪と恐怖がさらに大きくなりながらも、左胸をビームサーベルで切り刻んでいく。
「そこぉ!」
そして、ヒュドラの胸から魔石を取り出した。
デカい!直径1メートルはあって、凄まじく光り輝いている!
「ふうぅ~。」
左胸の切断面は焼け焦げたままだったので、ようやく一息ついた。
「あ~、ビビった。
ってモビルスーツの体中、毒だらけだけど、どうやって洗おう?
ああっと、その前に・・・」
ヒュドラがまた蘇るかもしれん、早くヒュドラの体を処分しないと。
うん?モビルスーツの動きが悪い?
どういうことだ?
毒のせいか?
くそっ!
モビルスーツを分離して、飛行機として脱出しようとしたが、それも出来ない!
くそっ!
すぐに、全く動けなくなってしまった!
マジか・・・
不幸中の幸いは、ヒュドラが復活しようしていないことだけだ・・・
だけど、ここはセベシュ村から100キロ離れたところで、
そのうえ、ヒュドラの毒に侵された大地の真っ只中にいる。
パメラがさっき川の水を浄化して、魔力を枯渇させて倒れたままだったが、
ここはもっともっと広大な、ヒュドラの毒に侵された土地のど真ん中だ。
・・・無理だ。
もう、帰れない。
もう、助からない。
九郎、花梨、サポネ、アルテ、パメラ、グレイス、ミレーネ、
スパイス・ガールズやオポチュニティズの顔が思い浮かんだ。
もう、二度と会えないのか・・・
最後の会話は、九郎とこのモビルスーツのやり取りだったな・・・
花梨やサポネ、その他の人たちとは行ってくるって挨拶もしなかった。
くそっ。
なんで、伝説の魔獣、ヒュドラを相手にお気楽に出てきたんだ!
もう少し、何か話しておきたかった。
「行ってきます」を言うべきだった。
そうすれば、「気を付けて」「無事に帰ってきて」って言われて、
慎重に対応して、こんな目に合わなかったのではなかろうか?
会いたい!みんなに会いたい!
くそっ!
だけど、もう無理だ・・・
そんなことをぐるぐると、何度も、何度も考えていた。
涙がこぼれ、止まらなかった。
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