第53話 毒

サクハルは、ベラロッテに「弱い奴は下がっていろ」って言われて、

拗ねて遠くから見ていた。で、逃げ出して、カデックで飲んだくれているところ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「大変だ!

川の水が毒に侵されている!」


奴隷冒険者からの通報を受けたので、俺たちはランクルを飛ばして、

セベシュ村から上流20キロほどの地点に駆けつけた。


「なんだ、これは・・・」


オーデル川の水が紫色になっていた!


それだけじゃなく、魚の死体が大量にぷかぷかと浮かんでいて、

その紫色の水がゆっくりと近づいてきていた。


オーデル川の川幅10メートルくらい、上流見える限り全部、紫だ!

ヤバい!

これじゃあ、川の水を利用して農業なんて出来ない!


「鳥の声も聞こえないぞ!」

「もしかしたら、空気もヤバいんじゃあ?」

「逃げた方がいいんじゃ・・・」


みんなが不安に押しつぶされそうな中、

パメラが1歩、前に進んで、凛とした声を出した。

「ボクが浄化してみます!」


血相を変えてアルテがパメラにしがみついた。

「パメラ様!危険です!」


「大丈夫。今ならまだ、失敗しても大丈夫だから。」

心配するアルテをパメラは優しく宥めすかした。

「いや、でも、こんな大量の水を浄化って・・・」

俺がみんなの思いを代弁すると、

パメラはみんなと目を合わせてニッコリと微笑んだ。

「全力で、やってみるだけですよ。」


真剣な面持ちになったパメラが川の水に手を浸した。

「浄化!」


上流に向かって魔力を放出すると、

水の色が紫からグングンと普通の色に戻っていく!


「おお、パメラ様!」

「凄い!」


だけど、パメラは真っ青になって倒れてしまった!

「パメラ様!」

アルテが悲鳴を上げて、パメラを抱きかかえた。


パメラは気を失っていて、顔色が真っ青で、呼吸が荒く、

明らかに魔力の枯渇の症状だった。


「回復(小)!」


アルテが回復魔法を唱えたが、パメラの状態は変わらなかった。

うん、回復(小)は普通、怪我しか効かないからね。

アルテも当然、知っているハズなのに、動揺がヒドイ。


「村に帰って休ませよう。」

全て浄化したか、まだかなりの上流を毒が流れているか、

そもそも毒の原因は何なのか、確認はしないままだったが、

しばらくの猶予を得たので、パメラを休ませることにした。


倒れたパメラをセベシュ村に車で慎重に運んで、村長の家で休ませた。

パメラの顔色は少しマシになって、呼吸も普通になっているが、眠ったままだった。


「パメラ様・・・」

アルテが涙目で、ずっとパメラの右手を握りしめていた。


そんな中、歩いて2日の所にある隣村、ベハルカ村から緊急の連絡が来た!

「大変だ!ヒュドラが出た!」

銅ランクパーティが出会い、攻撃したところ、瞬殺されたらしい。


そして、ヒュドラの姿を遠めに見たベハルカ村の者たちは、

一目で心を折られ、村を諦めてこちらへ避難を開始したそうだ。


ヒュドラ、9つ、もしくはもっとたくさんの首を持つ大蛇。

不死身で、ヒュドラが吐いた息でさえ生物を殺す猛毒らしい。


ソイツが上流に現れて、毒を垂れ流しているのか!

許せん!


ソイツのせいで、ベハルカ村の大勢の人たちは故郷を無くそうとしていて、

パメラは水を浄化しようとして力を使い果たして倒れたままだ。


村長によると、数百年前にこの辺りに現れ、

ヒュドラが通った場所は、100年ほど毒に侵されたままだったらしい。


100年消えない毒って・・・

数百年前の伝説が残っているっていうことは、よっぽどのことということだ。


「本当にヒュドラが来れば、もう逃げるしかありません。

せっかく、ゴブリンの大軍を追い払っていただいて、

未来への希望が見えてきたのに・・・」


村長は、半分茶色い髪がすべて、白髪になりそうなほど、落胆していた。


ヒュドラを見た冒険者が口角泡を飛ばしていた。

「ヒュドラは、たくさんの口から毒を、

20メートル以上も次々と飛ばして来たんだ。

凄い速さで飛んできたそれを間一髪避けても、

落ちた毒のそばで息を吸っただけで、

悶絶してすぐに死んでしまったんだ!

俺は嫌だぞ!もう、ヒュドラになんて近寄りたくない!」


「ヤバいな。

でも、ヒュドラから逃げれたヤツ、いたの?」

「ああ、ビビって攻撃しなかった奴は無視していた。」


それまで黙って聞いていたブルーメがぼそぼそと話し出した。

「そうか。つまり、ヒュドラを倒そうとしたら、

少なくとも30メートル離れた遠距離攻撃で、

ドラゴンを倒すくらいの攻撃力が必要だってことだ。

まあ、本当に不死身だったらどうしようもないが・・・」


ブルーメは小さく首を振った。

「無理だ。撤退の準備をしよう。

さすがに、辺境伯に頼るしかないだろう。

まあ、辺境伯でも無理かもしれないな。

カデックはいよいよ終わりかな・・・」


深刻すぎる沈黙の中、突然、九郎が場違いな明るい声を出した。

「そんなこともあろうかと、準備していたんだ。

じゃじゃーん!」


九郎はアイテムボックスから、完成済みのプラモを取り出した。

「こ、これは、あの連邦の白いモビルスーツじゃないか!」

意味が分からず、しら~っとしている周りを他所に、

俺と九郎はマニア同士の楽しいテンションになった。


「これを分かるとは、さすが三蔵だね。」

「まあ、有名作品はひととおり見たからな。」

「アニメと同じ性能はあるから、ヒュドラだろうが、

ドラゴンだろうが、勝てると思うよ。」


「凄い!これをリアル化ってマジ凄い!

全ての男子の憧れじゃないか!

だけど、なぜファースト?」


俺の問いかけに、九郎はきりっとした表情となった。

「ファーストこそ至高であり究極!

伝説のプラモデル!

これがなければ、日本のプラモデルは終わっていたかもしれない!」


「大げさだな・・・でも、そんなお気に入りを、俺が操縦していいの?」

「ああ、三蔵がやってみてよ。

僕は練習したことがないし、ちょっと自信がないからね。

だけど、2時間以内に帰ってきて。

動かなくなるし、僕がいないからプラモ化するよ。」


「2時間ね。じゃあ、ちょっくら伝説の魔獣ヒュドラをやっつけに行ってくるわ。」

「・・・僕たちがなんとかしないと、パメラが無茶を続けるからね。」

九郎が声を潜めると、みんな心配そうに眠ったままのパメラを見つめた。


「行ってくるよ。」

アルテと眠ったままのパメラに声をかけたが、

アルテはパメラを心配そうに見つめたままだった。


★★★★★★★★★★★


すいません、ドラゴンではなく、ヒュドラでした・・・

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