第52話 バッドデイ

「オラ、邪魔だ、どけ!どけって言ってんだ!」

傍若無人に村人たちを怒鳴り散らしているのは犬人の大男の戦士だった。


「アイツだ・・・」

隣で九郎が悔しそうに唇を噛んでいた。


少し前に、大勢の冒険者がやってくると報告があった。

「バッドデイとその手下、銀ランクが3ついます。」

元バッドデイの左腕、現俺たちの奴隷ミアンダーがこっそりと伝えてきたんだ。


俺たちは温泉旅館の前で待ち構えた。


機関銃を3セット用意して、俺、九郎、花梨が構えていて、

旅館の玄関には完全武装のアルテが仁王立ちしていた。


スパイス・ガールズもオポチュニティズも一緒に戦ってくれると申し出てくれたが、

奴らに逃げられた時を考えて、旅館内で待機してもらっていた。


俺たちの10メートル向こうまで、完全武装の冒険者50人以上がやってきた。

どいつもこいつも欲望の油で目が曇っていた。


「そこで止まれ!」

大声で警告すると奴らは立ち止まった。

警戒はしているが、機関銃の知識は全くないようだった。


「君たちがトーエンかね?」

話し出したのはだらしなく太った中年の戦士だった。


「アンタは?」

「カデックギルド長のカルステンだ。

現在、魔物が溢れている状況で、魔物の退治に命を懸けている冒険者たちからの

宿泊の申し出を君たちは拒絶したらしいな。どういうことかね?」


「ここは俺たちの家だ。だれを泊めようが、拒否しようが自由だろ?」

カルステンはやれやれ、こんなことも分からないのかって雰囲気を出した。

「この村のために、魔物を退治してくれた冒険者を拒否するのはどうなのかと言っているんだ。」


「だれか、この村周辺の魔物退治の依頼を出したか?」

「・・・」

俺の当たり前の問いかけにカルステンは黙り込んだ。


「依頼はあったかと聞いているんだ。」

「・・・ないな。」

「じゃあ、勝手にやってきた奴らを拒否してもいいだろ?

そういえば、ゴブリンの大群にこの村が襲われたとき、

神父さんが助けを求めてギルドに行ったら、

助けるには金をよこせって言っただろ?

その場にギルド長、アンタもいたらしいな?

アンタも認めているとおり、ギルドはこの村の依頼を受けていないから、

冒険者だからって世話したりしないよ。」

追撃してやるとカルステンの顔は赤くなって頬が震えていた。


「・・・」

「さらにもう一つ。

この九郎が一人でギルドに行ったとき、そこの犬人の大男にぶん殴られ、

金を奪われたんだ。ギルド内で。

その犯人はそこにノウノウといるけど、罰も謝罪もないよな。

ギルドは冒険者を公平に扱うんじゃないのか?

俺たちの仲間をないがしろにしたギルドに、俺たちが協力するハズがないだろ?」


トドメトばかりに追撃してやると、カルステンの顔はどす黒く怒りに震えだした。


が、先に反応したのはバッドデイのリーダー、ベラロッテだった。

「うん?あひゃひゃひゃ!

お前、あの時のヒョロガリか?

お前が九郎なのか?悪かったよ、許してくれ。

これで気が済んだか?

じゃあ、九郎ともう一人、パメラってガキを差し出せ。」


ベラロッテは軽く口先だけで謝ると、

凶暴な笑みを浮かべて、大刀を俺に向けた。


「・・・教えてくれるかな?

二人を差し出さなかったらどうなるの?」

「決まっているだろ?

ギルドの妨害をしたんだ。首謀者は殺して、あとは奴隷落ちだ。」


「・・・差し出したらどうなるの?」

「ふん!許してやらんこともないぜ。」


「いや、そうじゃなく、九郎とパメラがどうなるの?」

「決まっているだろ。俺たちの仲間となって働いてもらうんだ。」

「奴隷としてか?」

俺の問いかけに答えず、ベラロッテはニヤ~っと厭らしく笑った。


「そうか、うん。決まったわ。

九郎とパメラ、大事な仲間をお前らに渡すくらいなら、

お前らと戦って、お前らを皆殺しにしてやるよ。」


「戦う?皆殺し?

金ランクの俺たちを?

50人以上いる俺たちを?

チビが大口を叩くもんだな?

お前はなぶり殺しにしてやるから、簡単に死ぬんじゃね~ぞ!

かかれ!」

「「「「「おお~!!!!」」」」


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!


敵の鬨の声とともに、とりあえず、100発ずつ、

俺は真ん中、九郎が右側、花梨が左側へ機関銃をぶっ放した!


次々と敵がぶっ倒れていく。


敵からの攻撃がないまま、一方的に撃ち終わると、即死したのが四分の一、

うめき声をあげ、のたうち回っている者が二分の一、

無事だったものの呆然としている者が四分の一だった。


無事だったのは、いち早く盾を構えた2人と

最後尾の雑魚っぽい10人ほど。


そしてわざと外してあげたギルド長カルステン、

バッドデイのリーダー、ベラロッテの二人だった。


カルステンとベラロッテは周りが血の海になっていることを見て、

明らかに動揺していた。


「さて、どうする?カルステンとベラロッテ。

もう1回、同じ攻撃を出来るんだけど。お前たち二人だけに。」

「ひいぃ!まっ、待ってくれ・・・」

カルステンは弱弱しく哀願し、右手をブルブル震わせながら持ち上げた。


そして、右手の平がこちらに向いた瞬間、俺の手にある拳銃が火を噴いて、

カルステンの手のひらを銃弾が貫いた。


「ぐわっ!」

カルステンが悲鳴をあげ、右腕を押さえると同時に、

今度はベラロッテが脱兎のごとく逃げ出した!


「ぎゃっ!」

が、何もないところで大転倒した!


「うぷぷ!何にもないところでコケルってドン臭!」

花梨が嘲るのを聞きながら、

俺は銃をぶっ放して、ベラロッテの太ももを撃ち抜いた。

ドン!

「ギャ~!」


「死ぬか、奴隷になるか選べ!

死にたくない奴は武器を捨てて、うつぶせになれ!」


俺の脅迫に、すでに闘志を全く無くしていたカルステン、ベラロッテ始め、

生きている敵全員がうつぶせになった。


温泉旅館からスパイス・ガールズ、オポチュニティズ、

ミアンダーが飛び出してきて、次々と縛り上げて行った。


元同僚のミアンダーを見た奴らは少しだけ目を見張ったものの、

黙って縛り上げられていた。


パメラがアルテを引き連れて、

縛り上げられたヤツの中から、ケガした者たちを治療していた。


そして、俺たちの目の前には後ろ手に縛り上げられ、

跪いているカルステンとベラロッテがいた。


「おい、ギルドってのはバッドデイを守るためにあるのか?」

まずはカルステンを蹴り飛ばし、その顔を何度も踏みにじった。

「ぐはぁ~、ゆ、許してください!」


「さっきは、俺たちを無詠唱魔法で攻撃しようとしたよな?」

「ひいぃ!そ、そんなことしていません!」

否定の言葉に一顧だにせず、カルステンの顔を踏みにじり続けた。


「まあ、いいや。

次、ベラロッテ、お前、俺たちの奴隷になるんだよな?」

「・・・」

不貞腐れているベラロッテ。


「うん、いいよ。」

俺は長剣を抜いて、ベラロッテの犬耳の先端をV字カットした。

「ひいぃ!」

そして、ヤツの腹すれすれに剣を地面に突き刺した。

ベラロッテのズボンが真っ赤に染まっていく。


「おがぁ~!」

去勢されたベラロッテが激しくのたうち回っていた。

「痛い、痛い、助けてくれ・・・」


「なあ、カルステン、ベラロッテ、どうする?

奴隷となって、俺たちの役に立つか?

それとも、死んで俺たちの面倒を掛けないようするか、選びなよ。

まあ、死ぬ前には、これまでのお礼はさせてもらうけど。たっぷりとな。」


「なる!なります!奴隷になります!」

異口同音に宣言されたので、奴らが持っていた奴隷の首輪(上)を奴らに着けた。

これで、俺以外、この首輪は外せないらしい。

俺たちがいない所でも、裏切ったりしたら、オートで死ぬ・・・らしい。怖い。


スパイス・ガールズを入れて、みんなで相談した結果、

奴隷どもをこう扱うことにした。


ギルド長カルステン

・ギルド長退任

・首都ウィンブラに行って、バッドカンパニーや王族、教会ほかの情報収集し、

月1度報告書を提出


バッドデイ・ベラロッテ

・ミアンダーの代わりにこの村で魔物退治


ミアンダー

・カデックに戻って、バッドカンパニー、辺境伯の情報収集

・カデックの若手冒険者の育成


その他の冒険者ども

・カデックで冒険者活動、ただし品行方正に。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る