第51話 ブルーメ&サクハル

スパイス・ガールズ ブルーメ


やってしまった!


雑魚だったオポチュニティズが、

たった1時間、トーエンと同じパーティになっただけで、

オークジェネラル3匹を無傷で倒したのを見て焦ってしまった。


九郎の車、温泉旅館、そして戦車の凄さは嫌というほどわかっていた。

聖剣は勇者が使ってこそ、その力を十全に発揮することも、

知識としては知っていた。

あんなに凄いトーエンの仲間から信頼されていて、

彼の決定には誰も異を唱えないこともちゃんと見ていた。


それなのに、彼を、三蔵を、みんなの面前で蔑んでしまった。


九郎だけが激発したが、花梨も、アルテも、パメラでさえ怒っていた。

単に九郎が先に怒りを露わにしただけだった。


彼らトーエンは、ボリスが言っていたとおり、真金ランクがふさわしいパーティで、

三蔵はそれにふさわしいリーダーだったのに。


ワイバーンの焼肉パーティの時、マリンとウィローが三蔵と仲良くなってきた。

マリンとウィローは気にしていなかったが、

三蔵がハーレムを目指すクズ野郎だと知ってしまったこともあるだろう。


戦車の攻撃が凄すぎて、それを生み出した九郎に目がくらんでしまったことも

あるだろう。

オポチュニティズが仲間として扱われていることに妬みがあったのだろう。


本当にバカなことを言ってしまった。


三蔵は、アタシの謝罪を受け入れてくれて、

気にしていない風で、魔石を取りに森に行ってしまった。


九郎は言い過ぎを謝罪してくれたが、アタシのことを許してくれただろうか・・・

花梨、パメラ、アルテの目はなんだか冷たいままだ。


「ブルーメ、アタシたちが倒した分の魔石を取りに行こう。」

ウィローがぎこちない笑顔を浮かべていた。


花梨たちと距離を取ってから、アタシはメンバーに頭を下げた。

「ごめんなさい。トーエンに嫌われてしまったのじゃ・・・」

「もう、言ってしまったから、しょうがないよ。

それより、信頼を取り戻すように頑張ろう。」

「大丈夫。三蔵は許してくれたって。」

マリンとウィローが両隣から腕を組んで励ましてくれた。


「私もブルーメと同じだったよ。

三蔵はハーレムを作りたいクズ野郎だし、

いつも私たちを立ててくれていたからね、つい格下に思っていたよ。

それに、あの戦車の攻撃の凄さ。

同じパーティにどうしてもなりたいって、誰だって思うよ。」

アメリアは同情してくれた。


「ねえ、どうしたらいいのじゃ?」

「言葉でいくら謝っても変わらないだろ。

態度で表そうぜ。」

ウィローが笑顔でそういうと、マリンも笑顔でつづけた。


「九郎の能力があるせいだけど、

彼らはセベシュ村、スラティナ村のために金なんて全く気にせず、

必死で働いているよね。

そのうえ、今日はオポチュニティズを全くの善意で成長させようとしていたよね。

だから、私たちは私たちの仕事、魔物退治を頑張って、そのうえで、

例えば、冒険者になりたい子どもたちを導いたらいいんじゃないかな。」


「いいね、それ。

あとは、三蔵は魔物の死体の処分とか、

魔石の回収とかの汚れ仕事を率先してやっているよね。

私たちもえり好みはなるべく止めようね。

まあ、私も三蔵のハーレムに入るのはゴメンだけど。」

「「「「ははは!」」」」

アメリアの最後の言葉にみんな笑った。


「まあ、ブルーメは少し言い過ぎただけだよ。

向こうがこだわり続けるなら、そんなケツの穴の小さい奴らと

付き合うのはごめんだよね。」

ブレンダが〆てくれるとみんな肯いていた。

「ありがとう、みんな。」

アタシはいい仲間を持ったことを感謝した。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


しばらくして、体調が回復したサクハルは早朝からギルドを訪れた。

ギルドにはギルド長カルステンと完全武装のバッドデイとその部下どもがいて、

物々しい雰囲気だった。


「・・・お前、ベイビーフェイスのサクハルか?

どうしたんだ、そのツラは?

パーティメンバーはどうしたんだ?」


バッドデイのリーダー、犬人のベラロッテがクンクンと鼻を鳴らしながら、

顔に狼の噛み傷が残っているサクハルに話しかけた。


「みんな、やられた。

俺もこの有様だ。

セベシュ村にマンティコアが出たんだけど、俺たちは何とか倒したんだ。

そうしたら、後ろから襲われ、俺以外、みんなやられちまった。」

サクハルは両こぶしをぐっと握りしめ、体をブルブルと震わせながら答えた。


「後ろから?誰がお前らを殺ったんだ?

うん?マンティコアをお前たちが倒した?」

「トーエンっていう、小僧どもだ。」

サクハルは吐き捨てるように答えた。


「トーエンねえ・・・おう、そういえば、スパイス・ガールズはどうした?

アイツらもセベシュ村にいたんだろ?」

ベラロッテの顔が好色そうにゆがんだ。


「トーエンに村人が人質に取られ、彼女たちも奴らのいいなりだ。

頼む!ギルドの掟を破って罪のない仲間を殺した、アイツ等を殺してくれ!」

プライドの高いサクハルが頭を下げると、ベラロッテはニヤリと口をゆがめた。


「へへっ、サクハル、金だ、依頼なら金を寄こせ。」

想定していたサクハルはすぐに答えた。

「分かっている。ベイビーフェイスの金を全部、出す。

だから、全力を出してくれ。」


「ほほう、気前がいいじゃねえか。

分かったぜ、さっそく出発だ。

トーエンをぶっ飛ばし!

九郎とパメラってガキを捕まえて!

ついでに、スパイス・ガールズも奴隷にするぞ!」

「「「「「おお~!!」」」」


「えっ、どういうことだ?」

出発が早すぎて驚いたサクハルだが、いまさらながらに、

バッドデイの連中がみんな準備万端なことに気づいた。


それに、俺はパメラと九郎の名前なんて出していない!

こいつ等、なんで知っているんだ?どういうことだ?


「ああ、いいタイミングだったぜ。」

ぼろ儲けしたベラロッテの頬は緩みっぱなしだった。


・・・4日前、道に迷ってセベシュ村にたどり着いた冒険者パーティがいた。

彼らは村人たちについて、温泉旅館とやらに入ろうとしたら止められたのだ。

ここはスラティナ村の宿だといわれ、彼らはそのまま引き下がったものの、

ギルドに帰ってからきちんと報告した。


・カデック城外でやせ衰えていたスラティナ村の人たちが生き生きとしていたこと。

・パメラという少年が凄い回復魔法使いだということ。

・スラティナ村の村人、200人以上が住める建物、食事を用意することが出来る

九郎という魔術師がいること。


報告を受けたギルド長カルステンはこっそりとバッドデイに相談して、

魔物が溢れているこの状況で、冒険者パーティの宿泊を拒否したことをもって、

セベシュ村に懲罰を与えることにした。


そして、パメラという凄い少年回復術師と九郎という生産魔術師を

バッドデイの奴隷にするのだ!


上手くいけば、あの生意気なスパイス・ガールズも奴隷にしてやる!

飽きたら娼館に高く売り払ってやってもいいな。

くふふ、ぼろ儲けだぜ!


そして、ギルド長とバッドデイ、その手下の銀ランクパーティ3つ、

銅ランクパーティ10の合計60人以上がセベシュ村へ遠征するまさにその朝、

現れたカモがサクハルだった。


しばらくして、サクハルは自分が金を出さなくても、

ギルド長とバッドデイはトーエンを襲うつもりだったと

ようやく気付いたものの、すでに後の祭りで、

サクハルが要求できたのは、自分が乗る馬車と

自分の食事の面倒をみさせることだけだった。


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