第49話 戦車
次の日、日の出前。
「・・・ニィニィ、起きて。」
「サポネ、おはよう!ほら、三蔵、起きろ!」
サポネが起こしに来ると、九郎が飛び起きて、俺まで起こしやがった。
いつもは寝起き悪い癖に!
「ふぁ~、どうしたの?まだ、夜明け前だろ?」
「なんか、来るんだって。」
緊張気味の花梨の言葉にすっかり目が覚めてしまった。
「そうか。スパイス・ガールズを起こしてきて。
ついでに、オポチュニティズも。」
オポチュニティズとボリスには、
温泉旅館「トーエン」の1階の1室を与えていたが、
昨夜はテントで泊まれと命令してやった。
で、ヤツらの部屋はアクエルと孤児たちの部屋にしてやった。
オポチュニティズには、依頼した農機具と牛を買ってこなかっただろ?
と責め立てて。
だが、オポチュニティズとボリスは一切抗弁せず、
むしろ、孤児たちを温泉旅館に泊めてくれるように、
大げさなポージングと大きなバリトンボイスでお願いしてきやがった。
チラッチラッとパメラの方を窺いながら。
ワザとらしすぎて、オポチュニティズとボリスを温泉旅館の前でキャンプさせても、
誰からも何も言われなかった。ざまぁ!
そんなどうでもいい話は置いておいて、
「サポネが東から敵が来るって起こしに来たんだ。たぶん、大敵だよ。」
「スンスン!う~ん、全くわからないけど。」
斥候のマリンが言うと、同じく斥候のライナーも肯いた。
「分からないっすね~。」
「そうか。じゃあ、来るまでに時間があるってことだな。
朝ごはんをちゃんと食べてから行こうぜ。」
「・・・アンタって、つくづく前向きなのじゃ。」
ブルーメにジト目で見られた。
宿泊客のスラティナ村の人たちを叩き起こして、
朝ごはんを早く食べるようお願いした。
朝食が終わったら、今度はグレイスさんにお願いだ。
「ねえ、グレイス。悪いんだけど、今日だけ、パーティから外れてくれないかな。
手ごわい魔物が来るらしいんだけど、
ついでに、ちょっとオポチュニティズを鍛えたいんだ。」
グレイスはじっと俺を見つめてから、肯いてくれた。
「今日だけですよ。」
「モチロンだよ。あんな奴らは1日で充分だ。」
「あんな奴らって、兄貴、ヒデエ!」
「じゃあ、気をつけて。行ってらっしゃい。」
グレイスが「行ってらっしゃい。」って優しく微笑んでくれたので、
天にも昇る気持ちになってしまった。
うむ。グレイスのところに絶対、帰るからね。
「よし、じゃあ、ランクルとジムニーに別れて、東の森に出発するぞ。
ジムニーは男で、ランクルは女な。」
「パメラ様はランクルだ!」
「そうしたら、ランクルは9人、ジムニーは6人で両方乗れないよ。
まあ、パメラがどっちに乗ろうと無理だけど。」
九郎がヤレヤレってポーズをとった。
「しょうがない。オポチュニティズ、走れ!」
「ひでえ!車で30分の所でしょ~が!」
「体を鍛えて強くなるんだ!」
「魔物と戦うヘロヘロでしょ~が!」
どうしようかと考えていた九郎がプラモを取り出した。
バッドデイに壊された、初代ランクルを手のひらに載せた。
「まともに走るかどうか、わかんないけど、初代ランクルで行こうか。
これで、2代目が8人、初代が7人で乗れるでしょ。」
「よし、オポチュニティズ4人、俺と九郎、あとは花梨、お前は初代だ。」
「2代目を運転できる人がいないじゃん!バカなの?」
花梨がぶーっとむくれていた。
「そうか、じゃあ俺がそっちへ・・・」
「死ね!」
「ぐほ~!」
冗談ぽく、本気の願いを口にしてしまったら、
花梨から手ひどい肘打ちを食らってしまった。
「サポが行くにゃ・・・」
みかねた、サポネが初代ランクルに乗ってくれた。
ありがとう、サポネ!
東の森へ向かっていくが、サポネの耳が、カギしっぽが下を向いていた。
「やっぱり、たくさん来ているにゃ・・・」
「マジっすか?全然、わかんね~。」
東の森近くに着くとすぐ、花梨がエアウォークで空に昇って偵察してくれた。
青空へ向かって姿勢ただしく、颯爽と見えない階段を上がっていく
花梨は惚れ惚れするほどカッコよかった。
そして、気取ったポーズで双眼鏡を覗いた。
「デカい魔物がいっぱい来ている!あと1キロ!
トロール!オーガ!トレント!
数えきれないくらいじゃん!」
「マジで、この15人だけで数えきれないトロールとかと戦うのか!」
ウォーレンが真っ青になって悲鳴を上げた。
「おいおい、ゴブリンの大群どころの話じゃないのじゃ・・・」
流石のスパイス・ガールズも顔が青ざめている!
一瞬、みんなの気分が沈んだあとに、
九郎が張り切って新作プラモを取り出した。
「そんなときは、じゃ~ん!90式戦車~!」
「戦車、キタ~!・・・どこの国のどの時代?」
俺が喜びの声をあげたものの、お約束通り、俺以外の反応がない。
「自衛隊の一世代前、現役かも・・・」
「凄い!こりゃ、楽勝だな!・・・で、何人で操縦するの?」
「知らないけど、運転手と砲手で行ってみようか。」
そして、九郎が戦車をリアル化した!
10メートルの平べったい形、キャタピラー、そして長い砲身、
美しい漆黒の~鋼・鉄・ぼ・でー!
みんな、見たことのない兵器に呆然としている!
「凄い・・・けど、これ何なのじゃ?」
ブルーメがおっかなびっくり戦車を撫でながら尋ねた。
「この長い砲身から12センチの砲弾が発射される。
たぶん、トロールだろうが、なんだろうが瞬殺。
これで、大きいヤツから順番に殺るから、小さいのを頼む。」
「12センチ?トロールが瞬殺ぅ?り、了解。」
ブルーメが似合わない素っ頓狂な声をあげた。
「そうそう、発射音が大きいかもしれないから、耳栓渡しておくね。
サポネ、気持ち悪いかもしれないけど、ちゃんとしておくんだよ。」
普段通りの九郎が耳栓の付け方をみんなに説明していた。
「お~い、近づいて来たじゃん。」
こちらも普段通りの花梨が空からゆっくりと降りてきた。
九郎と二人、90式戦車に乗って、俺は目標を探した。
戦車の弾を撃つってワクワクするわ~。
この東の森はスラティナ村用の開発のため、林道を切り開いていた。
そこから、魔物どもがチラリ、チラリと見えた。
背が5メートルくらいのトロール、デカい!
だけど、簡単な的だ!
ドン!
引き金を引くと腹に響く轟音が鳴ってすぐ、トロールの胸に当たって爆発し、
鋼球なんかが飛散して、傍にいた魔物も倒れ伏した!
「スゲー!」
「「「轟~!!!」」」
攻撃を食らったことを知った魔物どもが吠えて、こっちに向かって走り始めた!
ドン!
ドン!
ドン!
ドン!
ドン!
ドン!
ドン!
ドン!
大型の魔物と何匹か固まっている魔物を狙って次々と発射させた。
「凄いよ、九郎!すっごく当たる!この戦車、凄い!陸自、最高!」
「その調子、その調子!」
大型で鈍重な魔物どもは走っているものの、
目の前にたどりつくまで5分はかかりそうだった。
その間、戦いではなく、虐殺だった。
だけど、魔物どもは止まらず、その目は俺たちに対する憎悪で満ちていた。
3秒で次の狙いを定め、発射し、殺し続けた。
「九郎、砲弾は何発あるの?」
「イメージでは500発にしてみたよ。」
「撃つのは5分で100発くらいか。九郎、やっぱりお前は最高だよ。」
「うん。三蔵も今のところ、全弾、命中しているね。三蔵こそ、流石だよ!」
俺と九郎は互いを褒めあって、ニヤリと笑った。
3分経って、大型魔物が減ってきたので、狙いを定めるのに4秒かかりながら、
発射し、殺し続けた。
ついに先頭のオークが森の外側に出てきた。俺たちとの距離100メートル。
オークは背が2メートル近く、筋肉の化け物だけど、
オーガやトロールといると小さく見えた。
俺と九郎が戦車から飛び出ると、代わりに花梨が戦車のてっぺんに座って、
戦車の機銃を構えた。
「今度はアッシがこの機関銃をぶっ放してやるじゃん!」
「か、花梨?」
「分かっているじゃん!右しか撃たないから、左はよろしく。」
「「了解!」」
「スパイス・ガールズは右の後ろの、後ろの、後ろの方にいて、
抜けた奴を殺ってくれ。」
「そんなに後ろでいいのか?」
「狙ってねーのに、弾が人に寄って行っちゃうんだよね~!」
花梨の自虐にスパイス・ガールズはドン引きしていた。
「・・・後ろの、後ろの、後ろの、後ろの、後ろの、後ろの方~にいるわ。」
「オポチュニティズは左の左、銃弾から逃れた奴を頼む。」
「「「了解!!!」」」
「なんか、腕が鳴るぜ!」
「ああ、力が漲ってきた!」
戦車の攻撃で大型魔物を大量に殺したことでレベルがグングン上がり、
強くなったことと、デカい敵が激減したことで、
オポチュニティズが怯えを闘志に変えていた。
九郎が機関銃を2セット、サブマシンガンを2丁、用意した。
「パワー!!!」
さっきまで、体をぎゅっと丸めていたルイが、
不意に両手を天に突き上げ、絶叫した!
初めてルイの声を聴いた!
「おお、ルイは、パワーアップした時にだけ声を出すんだ!」
ウォーレンがパワーアップしたルイを惚れ惚れと見つめていた。
「そんな時だけかよ!」
「来たよ!」
「轟!」
バラバラとオーク、トロール、トレント、オーガが吠えながら、向かってきた!
ドドドドドドドドド!ドドドドドドドドド!
ドドドドドドドドド!ドドドドドドドドド!
ドドドドドドドドド!ドドドドドドドドド!
花梨と九郎が機関銃をぶっ放し始めると、
銃弾を食らった魔物どもが次々と倒れていく。
「サポネ、俺たちは花梨、九郎、パメラを守ることに集中だ。」
耳栓をしていてもサポネにとって、銃音は大きすぎるようで眉間に皺をよせていた。
サポネが体を寄せてきて、背伸びして、俺の耳元に口を寄せてきた。可愛い。
「オポチュニティズは守らなくて、いいにゃ?」
「アイツらはケガしたら嬉しいんだ。
パメラに治してもらえるからな。」
「兄貴に酷いこと言われている~!」
銃音の合間に遠くからウォーレンの叫び声が聞こえた。
「ほらな、アイツ等余裕だよ。」
「はいにゃ!」
サポネが耳とカギしっぽをピーンと立てて、ビシッと敬礼してくれた。
ホントに可愛い。
俺たちの前は一番弾幕が厚いため、近寄ってこれる魔物は全くいなかった。
オポチュニティズを見てみれば、
大きな盾を構えたルイが魔物どもの攻撃を引き受け、
その左右でウォーレンとカスパーとライナーが中々の連携を見せて、
オークはもちろん、オーガやトレント、トロールまで1匹ずつ、確実に倒していた。
しばらくして、流石に弾幕の中を突っ込むのは危ないと気づいた魔物どもは、
左の左、一番弱いオポチュニティズ目掛けて突撃していった。
「オポチュニティズ、頑張れよっと!」
俺はオポチュニティズに向かって突撃する魔物目掛けて
手りゅう弾を次々と投げまくった。
ドン!ドン!ドン!
ドン!ドン!ドン!
ドン!ドン!ドン!
ドン!ドン!ドン!
手りゅう弾で魔物どもを上手く間引けて、あるいはダメージを与えたので、
オポチュニティズは問題なく魔物どもを倒していった。
そして、ついに魔物どもが見えなくなった。
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