第48話 レッドカーペット
のんびりと朝ごはんを食べていると、誰かが騒がしく食堂に駆け込んできた。
「兄貴、助けてくれ!」
息を切らして、汗みどろのライナーだった。
疲れ切っているようで、目の下のクマが凄い。
「どうしたんだ?こっちに来るのは3日後の予定だっただろ。」
「孤児院の恩人と弟たちが嵌められて、奴隷に落とされそうなんす!
カデックを逃げ出して、今、こっちへ向かっているっす。
頼む、みんなを助けてくれ!」
「敵は誰だ?何人助ける?」
「敵はバッドデイの下っ端、銀ランクっす。
助けるのは10人で、まだ半分も来ていないと思うっす。」
「分かった。助けた子どもを乗せるから人数を絞るぞ。
九郎、花梨、アルテ、パメラ、来てくれ!」
「俺も行く!行かせてくれっす!」
「サポも行くにゃ!」
「ライナーは疲れ切っているから邪魔。
・・・サポネ、索敵頼む。」
「はいにゃ!」
サポネは耳とカギしっぽをピーンと立てて、ビシッと敬礼した。可愛い。
「そんな!俺も行かせてくれっす!」
悲壮感を漂わせライナーが食い下がってきたが、
パメラがライナーの手を握りしめた。
「ライナーさんは疲れ切っています。
戦いは三蔵さんたちに、回復はボクに任せてください。」
「はい!」
パメラに頼まれると、ライナーのヤツ、笑顔でいい返事しやがった!
後でシメてやる!
でも、パメラ。
恐ろしい子。
「アッシは助手席に乗るから。
九郎、ぶっ飛ばしな!」
「うん!みんな、揺れるから、舌を噛まないで!」
「ふっふっふ!それは大丈夫じゃん!」
車の走行に土の道はバウンドがひどいので、
いつもは20キロくらいしか出さないのだが、
今日はスムーズにグングン加速していく!
「おい、50キロ出ているぞ!なのに、何でこんなに揺れないんだ!
まるで、アスファルトの上みたいだ!」
「ふっふっふ!新魔法、レッドカーペットじゃん!」
「「レッドカーペット?」」
「そう!
オートでタイヤのところだけ、
空間魔法で固定して穴ぼこや段差を滑らかにしてるじゃん!」
「「天才か~!」」
「お前の有能さ、留まるところを知らないな・・・」
「ふっふっふ!
三蔵クンよ、九郎クンよ、アッシをもっと尊敬したまえ!もっと敬いたまえ!」
「「はは~、花梨さまを称えまする~!」」
そんな冗談言いながら九郎はランクルをぶっ飛ばし、
俺は出てくるゴブリンやマッドウルフをライフルで排除していった。
1時間近く走ったら、向こうから何かが来る!
「馬車だ!ボリスがいる!子どもたちも!
うん?ウォーレンたちがいないじゃん!」
すれ違おうとする馬車の隣で減速するとボリスが叫んだ。
「ウォーレン達が足止めしてくれているぅ!
頼む、あいつ等を助けてくれぃ!」
「お願いします!」
「「「「お願いします!!!!」」」」
急ぎ足で息を切らしている小柄な女が精いっぱい、頭を下げると、
10人くらいの子どもたちも一斉に頭を下げた。
「・・・任せろ!」
「敵は3人だぁ!」
ここからはウォーレンたちの姿が見えない。
何分、戦っているのか?
無事だろうか?
焦燥感に焙られた。
緩やかなカーブを曲がりきると、
「いた!」
300メートル先、3対3で戦っている!
ライフルでもかなり遠い!
ウォーレンがバランスを崩し、剣を弾き飛ばされた!
あっと固まるウォーレン!
「ウォーレン!」
身をひるがえしたカスパーがウォーレンを守って剣を受け止めた!
ほっとする間もなく、それまで戦っていたヤツの剣がカスパーの腹に突き刺さった!
「カスパー!」
カスパーが前のめりに倒れた!
それに気づいたルイが方向転換してメイスをフルスウィングすると、
カスパーを刺した敵はぶっ飛んでいった。
が、ルイもまた敵に背を向けてしまったので後ろから斬られてしまった!
「ルイ~!」
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
ようやく射程距離に入ったので、怒りに任せて撃ちまくった。
弾が当たって倒れた奴にもさらに追撃した。
ウォーレンが四つん這いになって、カスパーたちに近づいて行った。
動いている者がウォーレンしかいなくなって、20秒後、
ようやくウォーレンたちの傍にたどり着き、車を飛び降りた。
カスパーは腹から大量の血が流れていて、もう、うめき声も上げていない・・・
うつ伏せで倒れているルイの背中は、背骨が断ち切られているのが見えた・・・
!!!もう、これ、ダメなんじゃ・・・
「すまん、カスパー!死ぬな~!ルイ~!俺のせいで!俺のせいで!
死ぬな~!」
ウォーレンは半狂乱になって泣きわめきながら、地面を殴っていた。
「ボクに任せて!・・・回復!」
カスパーに駆け寄たパメラが、傷ついた腹に手を当てると
その手が光り、カスパーの流血が止まった。
流血が止まったことを確認した後、パメラはルイの背中に手を当てた。
「・・・回復!」
また、パメラの手が光り、ルイの背中の傷がみるみる塞がっていく!
「凄い・・・」
俺たちは息の飲み、カスパーとルイを見つめ続けた。
しばらくして、カスパーとルイが目を覚ました!
マジか!
「あれ?生きてる?どっこも痛くないぞ・・・」
カスパーが独り言ちると、
ルイは座り込んで手をグーパーグーパーして不思議そうにしていた。
ウォーレンはカスパーとルイに飛びついて大泣きした!
「よかった!ホントに、よかった!」
「パメラ様に感謝するんだな。」
布教の口ぶりのアルテの言葉を聞いたカスパーとルイは、
ウォーレンを優しく押しのけると、パメラに向かって跪いた。
「パメラ様、ありがとうございます。」
パメラは微笑みを浮かべながら肯いて、カスパーとルイを優しく諭した。
「友達を守りたいのは分かりますが、自分の身を大切にしてくださいね。」
「はは~!」
カスパーは涙を流しながら大仰に頭を下げた。
ルイは、いつもは重々しく、1回肯くだけなのだが、
今回は、うんうんうんうんうんうんと涙をこぼしながら何度も肯いていた。
まあ、今回も言葉を発することはなかったけど。
「約束ですよ。」
パメラは神々しさを感じる微笑みを浮かべて、
カスパーとルイの頭を優しく撫でた。
カスパーとルイの目から滂沱と涙がこぼれ落ちていた。
「ウォーレン!カスパー!ルイ!大丈夫ですか?痛い!」
先に逃げたハズのシスターが心配のあまり一人で戻ってきて、派手に転んだ!
「大丈夫か、アクエル!」
シスターはウォーレンに抱き起されて、
そして、三人が無事なのを見て、へなへなと座り込んだ。
「よかった、無事で!ホントによかった・・・」
シスターも涙をこぼしていた。
「他にも追いかけて来ている敵がいるかも知れない。村へ帰るぞ。」
「ちょっと待った!」
九郎がニヤリと手を挙げた。
「お、お前、まさか?」
「くふふ!じゃじゃーん!ジムニー誕生!」
「なに~!あの軽であんなに車幅が狭いのに、
オフロード最強の、あのジムニーか!」
「はい、ワザとらしい説明ありがとう。
1時間くらいならランクルと一緒に、動かせるハズだよ。」
「「天才か~!」」
花梨とハモってしまった!
「やった!前からハモってみたかったじゃん!」
花梨はガッツポーズして喜んでいた。こいつも可愛いわ。
「じゃあ、ランクルにウォーレン以外乗って先に馬車に合流な。」
「あ~、自分だけ新車に乗るんだ~!ずるいじゃん!」
「バッドデイに、俺たちが殺したことを悟られたくないから、
ジムニーで死体を森の中に捨てに行くんだけど。代ろうか?」
「遠慮しますデス。」
「俺、ランクルに乗ってみたいな・・・」
ウォーレンが気配を消してそそくさと逃げ出そうとしたのだが、
その首根っこを捕まえた。
「ウォーレン、お前は罰ゲームだ。こっち。」
「あっ、はい。」
10分ほど森の中へ突入して、3つの死体を丁重に地面に並べて、
とりあえず冥福を祈った。
埋葬する時間はないし、これまで人の死体は放ってきたし、
何より自分が殺したヤツだから、偽善ぽくて仕方がない。
だけど、死体を足蹴には出来なかった。
みんなの元へ向かいながら、暇つぶしにウォーレンに話しかけた。
「俺たちが、ウォーレンたちが戦っているところを見ると、
いつも死にそうなんだよな。」
「ぐはっ!そそそ、そんなことないだろ。」
「それなのに、パメラに気に入られてんだよな~。」
ボヤいてしまったら、ウォーレンがシュピっと反応した。
「あ~、兄貴、嫉妬ですかい?」
「しししし、嫉妬だとぅ~?」
「そういえば、兄貴がパメラ様によしよしされているところ、
見たことないよな~。」
「一度されてるし~!あっ、いや、アイツ、男だよ?
だから、喜ばないでしょ、普通!」
「もう、素直に感じましょうよ。パメラ様の無償の愛ってやつを!」
「・・・狂信者は気持ち悪いわ。
ごほん!そんなことより、お前ら、頼んでいた農機具と家畜はどうしたんだ?」
ウォーレンのくせに、俺をからかいやがって!
「ぐはっ!いや、その、アクエル達が奴隷にされそうだったんで、それで・・・」
「お前らが強かったら、カデックの街中であいつ等をぶっ飛ばせるんだ。
ホント、お前ら、弱いから依頼は達成できないし、
わざわざ助けに行かないといけないし。」
「いや、たまたまですって。た・ま・た・ま。」
「しょうがない。セベシュ村に帰ったら、お前らを俺たちのパーティに入れてやる。
そして、みっちりと魔物狩りをさせてやるよ。
昨日はオーガとか、トロールとか動きの襲いヤツらだったから、勝負になるだろ?」
「・・・何とか、頑張ってみるわ。」
「おう。弱くないお前らなら、1対1で勝てるさ!」
「へっ?パーティで戦うんじゃないの?」
「お前なあ、サポネでも一人で軽く狩るぞ?」
「ば、バカな・・・サポネちゃんが・・・」
「大丈夫!死にそうになったら愛しのパメラ様が治してくれるさ。」
「いや、当たりどころが悪ければ即死でしょ!」
「そこは頑張れ!気合いだ!」
「助けて~!」
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