第47話 メーメット&ウォーレン

銀ランクパーティ、ヴァニティのメーメットは焦っていた。

自分が提案したコンゼルへの魔石の運搬に失敗したからだ。


自分たちで直接取り扱えばぼろ儲け出来るハズだったんだ。

こんなハズじゃなかった。


まさか、50人規模の盗賊団が襲ってくるなんて・・・

戦力差がありすぎたから、戦うことなく降伏し、商隊みんなの命が助かったのだが、

代わりに自分の財産と、バッドデイの信頼を失ってしまった。


やむを得ず、独り占めにしようと思っていた孤児院の獲物を提供することにした。


明日になれば奴隷に落とすことができるが、

念のために、孤児院に様子をうかがいに行ったら、

もぬけの殻だったので、日向ぼっこをしていた隣人に尋ねた。


「おい、爺さん、シスターや子どもたちはどうしたんだい?」

「ああ、お布施を求めるために夕方まで出かけるって言ってたけどな。」

「そうかい、ありがとうよ。」


夕暮れが訪れて、もう一度、孤児院を訪れたが、やっぱりもぬけの殻だった。

メーメットに不安が押し寄せた。


「おい、てめ~ら、今すぐ各城門に行って、

午後にシスターとガキどもが出て行かなかったか確認しろ!」

「先に城外を探すんですかい?」

「城内なら、すぐに見つかるだろ。行け!」


そうしたら、2時間ほど前に、若い冒険者がガキを10人ほど、

グラディシュカ修道院に連れて行くって城外へ出て行ったってことがわかった。


だが、もう、城門は閉じてしまい、城外へ出ることは出来ない。

くそっ!


「明朝、夜明け前に出るぞ!

10人のガキの足じゃあ、遠くまでいけまい。」


翌朝、メーメットは賄賂を渡して城門を少し早く開けさせ、

弟分の銅ランクパーティと合わせて10人でシスターと孤児を追いかけ始めた。


「よし、カルステンとギーターはついてこい!

残りの奴らも急いで来るんだぞ!」


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


そのころ、ウォーレンたちはカデックから5キロほど離れた

集落の空き家にひそんでいた。


ここも魔物の襲撃が多くなり、農作物の収穫が難しくなったので、

住民たちみんな出て行ってしまったのだ。


夕暮れまで、もう少し歩くことが出来たのだが、

ウォーレンは夜間、最も安全な場所に泊まることにした。


そして、東の空が紫色に染まる頃、ウォーレンたちは出発した。

ボリスが馬車を操り、歩き疲れた子どもたちを荷台で順番に休憩させる計画だ。


歩き出すこと2時間。

「ウォーレン、後ろから走ってくる人がいる!3人だ!」

「くそっ、早い!」

「どうする?」

「3人か・・・俺たち3人で足止めする。お前らは先を急げ!

兄貴たちはもうすぐ来てくれるハズだ!だから、大丈夫だ!」


不安そうなガキどもに向けて、ウォーレン、カスパー、ルイは笑顔を浮かべ、

手を振った。


「危ないことしちゃだめよ、ウォーレン、カスパー、ルイ!」

今から命がけで戦うんだよ。

アクエルの少しピントのズレた励ましが嬉しくて、3人はほほ笑んだ。


ウォーレン、カスパー、ルイの3人が気合を入れなおし、待ち構えていると、

それに気づいたバッドデイの部下どもが

呼吸を整えながらゆっくりと近づいて来た。


銀ランクパーティ、ヴァニティの戦士2人と斥候1人で、敵の方が格上だった。

「てめえら、よくも俺様を出し抜こうとしてくれたな!

このお礼はたっぷりとさせてもらうぜ!」

「お礼はパ・・・にもらうから、ご遠慮申し上げるぜ!」

「ほざけ!」


偉そうな戦士が振り下ろした剣をウォーレンは上手く受け流し、

小手を狙ったが、キッチリと防がれてしまった。強い!


それからは受け重視にして、敵の攻撃をひたすら防いでいく。


つばぜり合いの最中、敵が口撃してきた。

「くふふ!もうすぐ、こっちの応援が来るのを解っているか?」

「それはこっちも一緒・・・だっ!」

ウォーレンはなんとか、剣をはじき返して、距離を取った。


カスパーとルイの様子をそっとうかがうが、やはり敵の方が優勢だった。

くそっ。


だけど、余裕を見せつけるべく、ウォーレンは笑顔を浮かべた。

「こっちの応援は天馬に乗って光の速さでやってくるんだぜ!」

「寝言は寝てから言え!」

実力差を確信した敵の猛攻が始まった。


ウォーレンはきっちりと防ぎ続けてはいたが、

動きが読まれ、反撃が出来なくなってしまった。


くそっ!

どうする?

逃げ出せるか?

無理だ!背を向けた瞬間にやられる!


くそっ!

どれだけ時間を稼げた?

1分か?2分か?


「それっ!」

「あっ!」

余裕のなさから、ウォーレンは敵の見え見えのフェイントに引っかかってしまった。

ヤバい!


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