第46話 サクハル&ウォーレン

一人になってしまったサクハルはカデックへ向かって

日が暮れてからもしばらく歩いていたが、

食事も用意しておらず、疲れ果ててしまった。


少しの休憩のつもりが深い眠りについてしまい、

気が付いた時には暗闇の中、マッドウルフ6頭に取り囲まれていた。


長剣を抜き打つと同時に1匹を切り倒した。


パーティならば、100匹いようとあっさりと打ち倒せる敵であったが、

暗闇で敵が見えにくかったこと、疲れ果てていたこと、仲間がいなかったこと、

マンティコアにやられた毒が抜けきっていなかったことから、苦戦していた。


残り3匹となったものの、サクハルはぜえぜえと荒い息を吐いていた。


そして、右から襲ってきた狼をぶった斬ったものの、

左から襲ってきた狼にふくらはぎを噛まれた。

「ぐわぁ~!くそっ!」

そいつに剣を振り下ろし殺したものの

最後の1匹に飛び掛かられた。

なんとか、マッドウルフの胴体を両断したものの、

「ギャ~!」

顔に牙を突き立てられ、頬肉をかみちぎられてしまった。


もう、回復ポーションは持っていなかった。


「くそっ!全部、あいつらのせいだ!殺してやる!」

サクハルは長剣を杖として、傷ついた足を引きずり、

カデックに向かって歩きだした。


明け方、ようやくサクハルはカデックへ半死半生でたどり着いた。


知り合いの回復術師に頼んだものの、

時間が経ち過ぎていて、もう端正な顔に、自由に走れる足には戻らなかった。


「くそっ!全部、あいつらのせいだ!

絶対に!絶対に!殺してやる!」


サクハルは呪詛を呟き続けながら自宅に戻ると、疲れから高熱を発し倒れた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


オポチュニティズ ウォーレン


オポチュニティズとボリスがカデックに戻った日、

カデックは大騒ぎとなっていた。


西にある商業都市コンゼルに向かって大商隊を結成し、出発したのだが、

行程半分くらいのところで大盗賊団に襲われ、すべての荷を奪われてしまったのだ。

その確定的な情報が入ってきて、カデック内の食料の値がまた一気に上昇していた。


「兄貴たちに頼まれたものは、鍬などの農具、牛、馬、馬車だけど・・・」

ウォーレンたちはまず、情報を収集することにした。


まず、ウォーレンはライナーとギルドに顔を出したのだが、

そこは修羅場だった。

「ごらぁ!てめえら、何、俺たちの荷を奪われてんだ~!」

バッドデイのリーダー、ベラロッテが部下の銀ランクの奴をぶん殴っていた!


「なにがあったんだ?」

近くにいた知り合いにそっと尋ねてみた。

「あの銀ランクの奴が大商隊の護衛をやっていたんだ。

ちなみに、バッドデイの大量の魔石も運んでいたらしい。」

「なるほど、大損だな・・・」


それに比べて俺たちの時は、命も荷も無事なうえ、兄貴たちと繋がりが出来た。

ウォーレンは、しみじみと自分たちの幸運をかみしめていた。


さんざん、ぶん殴ったあと、ベラロッテは銀ランクの奴をさらにつるし上げた。

「で、どうやって取り返すんだ、おめえよ~!」

「は、はい!孤児院のガキを娼館に沈めます!」

「うん?ちょっと早くね~か?」

「いえ、最近の食料の値上がりで、さらに追い貸ししています。」

「よしっ!まずは俺のところへ連れてこい!味見してやる!」


ヤバい!

俺はライナーと肯きあい、気配を消してギルドから走り出した。


カデックの孤児院は建物の割に人数が多いため、

10歳以下が住まう本棟と、

少し離れた所にある11歳以上が住まう別棟に別れている。


孤児たちはおおむね、11歳から真剣に働きだし、

13歳になると孤児院を出ていくのだ。


その別棟の責任者がアクエル、19歳の人間の女。

修道院出身で、回復魔法(小)のみ使える。

背が150センチくらい、濡れたように黒く輝く、長い髪の可愛いドジっ子だ。


そして、孤児たちの世話にすべてを捧げていて、

ウォーレンたちからすれば、守らなくちゃいけない大切な人だ。


「アクエル、いるか!」

孤児院の玄関に入って名を叫ぶとアクエルが笑顔で出てきたのだが、

引き戸に足をぶつけていた。

「あっ、痛っ・・・久しぶり、ウォーレン、ライナー。

どうしたの、そんなに急いで。

あれっ?カスパーとルイはどうしたの?」


「なあ、食料を買うのにまた金を借りたか?」

「なによ、藪から棒に。ええ、ええ、借りましたよ。

でも、返すのはいつでもいいって言ってくれたよ?

ほんと、バッドデイって評判は悪いけど、そんなことないと思うよ。」

バッドデイを擁護するアクエルにイラッとした。


「契約書をすぐに持ってこい!」

「もう、そんなに怒鳴らなくても。

・・・え~っと、どこだったかな・・・あっ、あった。

はいこれ。」

・・・

「おい、読め!」

「・・・返せなかったら、

孤児院の12歳以上20歳未満を奴隷にって書いてある!

うそっ!そんなこと言ってなかったよ!」

アクエルの顔色がサーっと真っ青になった。


「お前、字が読めるんだから、ちゃんと確認しろよ~!

弟たちまで奴隷になるぞ!」

ブルブル震えながら契約書を読み終わると、アクエルはウォーレンに縋りついた。


「ホントだ!私、騙されたの?どうしよ?ねえ、どうしたらいい?」

「ああっ、くそっ!ここに、11歳以上は何人いる?」

「えっと、私入れて10人。」


「よしっ、全員、連れて逃げ出すぞ!」

「えっ、ちょっと待って!」

「早くしろ!」

子どもたちに集合場所を教え、

色んな所で働いている子どもたちを迎えに行ってもらった。


嫌がるアクエルをシスター服から一般人の服装に着かえさせ、

集合場所のボリスさん家に急いだ。


「おい、ウォーレン、どういうことだぁ。

なんか、ガキどもが何人も、お前に言われて来たって言ってるぞぉ!」

途方に暮れた様子のボリスさんが出会うなり、問い詰めてきた。


先に着いたのが男の子ばっかりだったからだな。

「すまん、ボリスさん。

どうすればいいかな?実は・・・」


「マジか!あいつ等相手に、カデック城内で逃げるのは無理だろぅ?

そうだな、セベシュ村に行って、三蔵たちを頼るしかないぜぃ。」

「そうか!兄貴たちか!・・・でも、引き受けてくれるかな?

もう、いっぱいいっぱいだろ?」


「なに言ってるぅ?

アイツ等はスラティナ村の200人を文句も言わず引き受けたんだぞぉ。

10人やそこら増えても、関係ないだろぉ。」


「うん。でも、バレて、バッドデイとぶつかる可能性があるよな?」

「それだって、もう九郎がバッドデイにやられているから、今さらだぜぃ。」

「そうか・・・そうだな、悪いけど、兄貴たちを頼るか。」


「ああ。一刻も早く、逃げ出した方がいいぜぃ。

遅くても、明日には逃げ出したことがバレるんだから。

ああ、孤児院の本館は大丈夫なのかぃ?」


「借金の契約者がアクエルだから大丈夫じゃないかな。」

「そうか・・・そうだ!三蔵たちに迎えに来てもらったらどうだぃ?」

ボリスさんの提案にライナーの犬耳としっぽがピーンと立った!

「いい案っす!俺、今から走るっす。走って、兄貴たちを呼んでくるっす!」


「ライナー、ちょっと待て。

一人でなんか絶対に無理だ。

城外は魔物が溢れているんだぞ!

しかもすぐに夜だ。

どっかのパーティに頼もう。」


「そんな信頼できるヤツなんていないし、探す時間も、金もないっす。

俺一人なら気配を消してやり過ごすことが出来るっす。」

「いや、しかし・・・」


「ウォーレン。」

ライナーの決意は固く、その視線は抗いがたいものだった。


「わかった、頼むわ。だけど、絶対に無理するんじゃね~ぞ。」

「あ~、任せとくっす。明日の午前中には、兄貴たちと会わせてやるっすよ。」

胸をドンと叩いたライナーはダッシュで出て行った。


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