第44話 ワイバーン
今日も東の森の開拓に勤しんでいた。
「何か、飛んでくる!」
花梨の叫び声が響いた。
「ワイバーン、2匹だ!」
「ワイバーンってヤバいのか?」
「ああ、一番デカい獲物、多分、牛を襲っていくぞ!」
「牛を守らないと!」
「【リバティアイランド】の二つ名を持つアッシに任せるじゃん!」
花梨がいつもより、随分緊張した面持ちだった。
「どうすんの?」
「空中に立っていたら、目立つから襲ってくるじゃん?
それをアッシが退治するじゃん?」
「大雑把~!
・・・なあ、まだ、俺は空中に行けないかな?」
「まあ、イケるんじゃね?
アッシと同じペースで階段を登って、最後、
リバティアイランドを2m×2mにするから、そこで戦うじゃん。
透明で全く見えないけどね!」
花梨がほんの少しだけ、笑顔を見せた。
花梨と一緒に見えない階段を上っていく。
「うわぁ~、怖えぇ~。おしっこ、漏らしそうだわ・・・」
「そんなシャワー、イヤすぎるじゃん!
そんなこと言うのなら、なんで来たじゃん?」
「いや、花梨を一人で行かすのが嫌だったんだ。
もし、もしだよ、花梨が死んじゃったり、ケガするのを、
助けも出来ず眺めていただけなら、自分を殺したくなると思う。」
「アッシは楽勝なのに、バカじゃん!
でも、ありがと。」
花梨は俺を見てニンマリと笑った。
「よしっ、ここならきっと、アイツ等も気づくじゃん。」
そこは高さ30メートルくらいか、
辺りに高木は無く、大空に俺と花梨だけがぽっかりと浮かんでいた。
「おおっ、凄い世界だ!
だけど、もう階段、無くなっちゃったんだよな。」
「うん、ここ、2m×2mだけ。
落ちたら、パメラに治してもらうじゃん!」
「即死だわ!」
「ほら、来たよ!」
ワイバーンにロックオンされたのが分かった。
デカい!体長10メートルくらいある!
ワイバーンは茶色い体の空飛ぶトカゲだった。
俺は片膝をついて、ライフルを構えた。
ドン!ドン!
両方のワイバーンの右目に当たって、血が流れた!
ギャ~!
ワイバーンは不快そうに声を上げたが、そのままこっちへ突っ込んで来た!
ギャ~!
大口を開けた!俺たちを食らうつもりだ!
「これでも食ってろ!」
俺はその大口目掛けて、手りゅう弾を投げつけた!
ボン!
上手く喉で爆発すると、ワイバーンは左へ旋回しながら墜落していった。
もう一匹のワイバーンは羽を広げたまま、空中で静止していた!
「・・・どうなってんの?」
「2本のエアブレードで串刺し。」
「・・・お前、最強だな?」
「まあ、真っ直ぐ突っ込んでくるバカならね。
さあ、降りるよ。」
何事もなかったかの様な花梨。
「カッコいい~!」
「まあよ?三蔵はもっとアッシを称えるべき!称えるべきじゃん!
あっ、お~い、ワイバーン落ちるよ~。」
花梨の言葉とともに、空中で静止していたワイバーンがまっすぐ、落ちた。
「三蔵、天空の美女王、花梨さまをエスコートするじゃん!」
「ふへっ?」
ニンマリとした花梨が右手をしゃなりと差し出した。
「畏まりました。それでは、美女王さま、下界へ降りていきましょう。」
俺は花梨の手を取って、彼女より半歩早く降りていく。
仲間たちが俺たちを見上げていて、気分が上がった。
「天空の美女王さま、降臨!ほら、拍手!」
パチパチパチパチ!
「リンネェ、カッコいいにゃ~!」
「うふ!ありがと、サポネ!」
褒められた花梨は嬉しそうにサポネを抱きしめていた。
「ところで、ワイバーンってどうしよう?」
「肉は凄く美味いらしいよ。爪や牙、骨も役に立つはず。」
「じゃあ、僕、村に帰って、どうしたらいいのか聞いてくるよ。」
「サポ、解体しておくにゃ!」
うっきうきのサポネがビシッと手を挙げた。
この世界では、ワイバーンを倒したら焼肉パーティだそうだ。
九郎が声をかけたら、仕事をそうそうに終わらせて、
セベシュ村、スラティナ村合同の焼肉パーティがちゃっちゃと準備された。
さらに、大人にはワインを、子どもにはリンゴジュースをグラス1杯だけ用意した。
ちなみに、ワイバーン2匹もいれば500人でもお腹いっぱいになるらしい。
それでやっぱり、開会の挨拶っていうものがあって、パメラがご指名された。
「それでは、パメラ様、お願いします!」
「皆さん、お仕事ご苦労さまです!
たっくさんあるので、お腹いっぱい食べてくださ~い!カンパ~イ」
「「「「「カンパイ!パメラ様、頂きます!!!!!」」」」」
いや、ソレ狩ったの俺と花梨なんですけど!
乾杯が終わると、すぐにスラティナ村の女の子たちがサポネを誘いに来た。
「サポちゃん、一緒に食べよう!」
「はいにゃ!」
サポネが嬉しそうに女の子たちについて行くと、
「僕も行ってくるよ。」
九郎がいそいそとついて行ってしまった。
子どもと共通の話題とか、大丈夫なのか、アイツ・・・
花梨はイケメン神父クリスエスと余所行きの笑顔で語り合っていた。
グレイスはミレーネと一緒に、お母さまグループと焼肉を囲んでいた。
パメラは笑顔で、行列となっているみんなの挨拶を順番に受けていて、
そのパメラをアルテが見守っていた。
あれっ?おれ、一人ぼっちになってる~!
フラフラと歩きだした。
「おい、三蔵、一緒に食べようぜ!」
声をかけてきたのは顔見知りのスラティナ村の男の子だったが、
親が慌てて止めに入っていた。
俺って、マジで、人気ないわ。
子どもにはまあまあ、人気あるんだけどね。
べっこりと凹まされたまま彷徨っていると、向こうにだらしない笑顔を浮かべている
オポチュニティズとボリスの姿が見えた。
なので、近寄ってみたら、
スラティナ村の若い女の子たちに囲まれている~!
少し前、スラティナ村の人たちがカデック城外にいた時も、
このセベシュ村に来る際も、優しい言葉をかけてくれる者は全くいなかったそうだ。
特に役人どもは、ほんと、厄介払い出来てせいせいだって態度だったらしい。
そんな中、誰も金を出していないのに、自ら馬車を、馬車を引く牛を用意して、
さらに護衛までしてくれたのがオポチュニティズとボリスだけだったんだ。
だから、彼らはスラティナ村の人たちからえらく買われている。
もう、老若男女問わずモテモテだ!
「あ、兄貴、一緒にどうです?」
ウォーレンと目が合って呼ばれ、カスパーにも誘われた。
「ここで一緒に食べましょう。」
・・・だけど、奴らの周りの女どもが俺を白眼視している~!
く、悔しい~!
「ありがと、だけど行くところがあるんだ。」
行く当てなんてなのに、フラフラと別方向に歩き出した。
しばらく人の波に漂っていると、
「おい、三蔵、待つだが!」
面倒くさい声が聞こえた。
ドワーフの鍛冶師ベルントだ。
「おい、マンティコアの魔石、出すが!
儂が付与してやるだが!」
「いや、そんないい武器持ってないから、もう少し待ってくれよ。」
「大丈夫だが!普通の武器を伝説の武器に変えてやるだが!」
ベルントがもの凄い力で縋りついて来たので、
くすねておいたワイン1本押し付けた。
「これをやるよ。」
「おおっ!気が利くが!」
ベルントがワインに目がくらんでいるうちに、気配を消して逃げ出した。
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