第42話 温泉旅館
みんなと一緒に村の外れの広い敷地に着くと、
九郎は得意満面でアイテムボックスから新作を取り出した。
「じゃじゃーん!」
それは古びた2階建ての直方体の木造建築で瓦屋根が印象的だった。
サポネ、パメラ、アルテ、グレイス、ミレーネ、スパイス・ガールズ、村長たちも
当然、見たことない形状で、古びた建物だからリアクションに困っていた。
「なにこれ?」
「温泉旅館!」
九郎の言葉に、俺と花梨のテンションが爆上がりした!
「「天才か~!!」」
「お、温泉!やったじゃん!さすがじゃん!一緒に来た甲斐があったじゃん!」
興奮しすぎの花梨が九郎の背中をバンバンと叩いた。
「だろ?1階は僕たち8人の部屋、温泉、食堂、
2階は12畳間が18部屋、大体、180人泊まれるイメージ。」
「凄いな!だけど、214人に少し足りないか・・・」
「いや、食事が終わったあと、食堂を大部屋とすれば、
スラティナ村の全員、泊まれるハズだよ。」
「おおっ、大部屋となっても、ボロボロのテントより、100倍いいよ。
温泉付きだしね!
でも、200人の食事はどうなるの?」
「夕食はバイキングで準備済のイメージ。だけど、朝食は作らないと無理だね。」
「夕食バイキングって、ヤベ~じゃん!最高じゃん!」
「だろ?じゃあ、三蔵は朝と昼の食料を、花梨はアメニティと服を頼むよ。」
「いや、ちょっと待った!
うん、あんまり夕食が豪華だと、セベシュ村に叱られる。
イメージはごはん、みそ汁、サラダ、牛皿でどうだろう?」
「・・・牛丼屋か!まあ、三蔵、好きだったもんね。
うん、そだね。それでもセベシュ村から不満がでそうだね。
うん、セベシュ村用の肉も準備しようか。」
「「了解!!」」
俺たち3人が煩悩を全開にしてリアルした温泉旅館は、
横幅50メートル、奥行き15メートル、高さ12メートルの2階建てだった。
「デカい!」
超デカい!
コテージすら見せていないスパイス・ガールズ、村長たちはもちろん、
コテージで暮らしているサポネ、パメラ、アルテ、グレイス、ミレーネまで、
口をあんぐりさせて、温泉旅館を見上げていた。
それを見て九郎は満足げに肯いた。
「さあ、案内するよ。
ここ、玄関で靴を脱いでね。
まず、右手に行こうか。厨房と食堂だよ。」
「おおっ、外見に比べて中は新しいな!」
「ああ、それに、美味しそうな匂いだ!」
厨房は誰もいないのに、湯気と美味しい匂いが漂っていて、
夕食の準備万端みたいだった。
食堂は120畳敷きの大きな座敷で、8人は囲める座卓がたくさん並んでいた。
「じゃあ、玄関の左手ね~。
玄関側がお風呂で、男風呂と女風呂に別れているよ~。
右手は僕たち、トーエンの部屋だよ~。
じゃあ、2階に行こうね~。」
開放的でゆったりとした階段を上がっていく。
スパイス・ガールズ、村長たちは初めての和風建築に興味津々だった。
「2階は客間である12畳間が18部屋あってね、
1つの部屋に10人まで泊まれるから、2階でマックス180人ね。
そのうち、1つはオポチュニティズとボリスの部屋だから。
食事が終われば1階の食堂を大部屋にするから、
スラティナ村の人たちはかつかつだけど、ここに全員泊まれるよ。」
ここまでほへ~って見て回っていたブルーメが慌てて口を挟んだ。
「九郎、アタシたちの部屋はどこなのじゃ?」
「ないよ。だって、村に家をタダで借りているんだろ?」
「じゃあ、儂らの部屋も・・・」
「ないよ。」
「「「「「そんな~」」」」」
スパイス・ガールズと村長たちのガッカリした声が廊下に響いた。
「昨日、話したとき、お前ら、何にも言わなかったじゃないか!」
「だって、こんなに凄い屋敷だって思ってなかったのじゃ!
そうだ!アンタたちの部屋を一つ、貸してよ。」
「やだよ。ここは俺たちの家なんだから、俺たちが客を決めるんだ。」
「ぶ~、ぶ~!」
「新住民の家の建築が進めば、部屋は空いていくさ。」
「そんなのいつになるか分からないのじゃ!」
ブルーメたちは諦めきれなくて、ブチブチと怒っていた。
温泉旅館を隅々まで探検してサポネ、パメラ、ミレーネが戻ってきた。
「クロニィ、ここは屋根裏部屋ないにゃ?」
「「「天才か~!!!」」」
その発想はなかったわ!
「にゃ!」
俺、九郎、花梨の掛け声で、サポネをびっくりさせてしまった。
「ありがとう、サポネ!お陰で、もっとたくさんの人が住めるよ。」
花梨がサポネのピンクの髪を優しく撫でると、サポネは目を細めて喜んでいた。
「あの、アレ、やって・・・」
サポネがもじもじしながらお願いしてきた!可愛い!
「「もちろん、やりますとも!!」」
俺、九郎、花梨、サポネは右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、
胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした!
「「「「イエ~イ!!!!」」」」
「でもさ、失敗だよ。僕が創造主なのに、すっかり限界を決めつけていた!」
「まあまあ、いいじゃん。
サポネが可愛い・・・助けてくれたんだから!」
「どんな言い間違いだよ!」
「えへん!そんなことより、絶対にトーエンが屋根裏じゃん!」
「だな!1階より、断然広くなるし、
1階は冒険者どもに貸し出して、夜番させよう。」
「いいね、いいね!」
「・・・なんか、仕事が増えた!」
せっかく温泉旅館に泊まれることになったのに、ブルーメたちは喜んでなかった。
「パメラ様、村長、スラティナ村の人たちが到着しました~。」
いいタイミングで来てくれた!
村長たち村の中心に向かって歩いていく。
そこには、ボロボロで疲れ切った200人がいた!
全ての目が疲れ、猜疑、諦念、憤怒など、穏やかではない色に染まっていた。
代表して話しかけることになっていた村長は気おされ、絶句したままだった。
村長の隣に立っていたパメラが柔らかな笑顔を浮かべて話しかけた。
「スラティナ村の皆さん、初めまして。パメラと申します。
皆さん、遠いところをご苦労様でした。
皆さんの泊まる所と食事は、この九郎たちが用意してくれました。
しばらく、骨休みしていただいてから、どうしたいか、
どうするか、みんなで考えましょう。
まず、ケガや病気、疲れがひどい方はこちらへ来てください。
ボクが回復魔法をかけますので。
元気な方は、食事が出来ていますので、
九郎たちについて行ってください。」
食事が出来ていると聞いて、スラティナ村の人たちの表情がパッと明るくなった。
「ほ、本当ですか?」
スラティナ村の村長だろうか、声を出したのは痩せぎすの疑り深そうな中年だった。
「モチロンです。」
「・・・失礼ですが、泊まる所と食事、明日からはどうなるのです?」
「あくまで仮ですが、貴方方の住む家が完成するまでは用意する予定です。」
「「「「おおっ!!!!」」」」
スラティナ村の人たちからようやく歓声があがった。
そして、7割くらいの人が、九郎と花梨の後ろに足取り軽く、
ぞろぞろとついていった。
「兄貴!」
「おおっ、ボリスさん、オポチュニティズ、護衛、ご苦労様です。
美味いメシを用意しているから、食ってくれ。
悪いけど、たくさんはダメだぞ。
夕飯が終わったら、話を聞かせてほしい。
じゃあ、行こうか。」
歩き出した俺の腕をボリスさんがガシッと掴んだ。
「ちょ、ちょ、ちょ、一つだけ!
あのさ、俺もパメラ様と握手させてくれ!」
「・・・はあ?」
随分、真剣なのはよくわかったが、何言ってるか分からなかった。
「だって、ウォーレンの奴は、「貴方たち、最高です!」って
パメラ様に両手を握られたんだろ!
頑張った俺にもご褒美を!プリーズ!」
「・・・気持ち悪いからダメ。」
「ええええ!ひどいぜ、ウォーレンだけなんて・・・」
「・・・パメラがそんな気になることを祈るんだな。
お前らから手を掴もうとしたら、その手を斬り落とすぞ!」
「うわぁ、マジだよ、あれ・・・」
カスパーがドン引きしている~!
「・・・疲れが酷いから並ぼうっと!」
さっと諦めたボリスは、パメラの前に出来ている行列の最後尾に並ぼうとした。
「元気いっぱいだろ、お前。」
逆に俺がボリスの奴を引きずって歩いていった。
温泉旅館「トーエン」の営業はこんな感じ。
・営業時間は日の入りから日の出まで
・泊まれるのはスラティナ村人、俺たちとこの村を守る冒険者たち
・2階は女と子どもがいる家族だけ
・夕食はリアル化した時に準備済、用意する人は前後半交代で
・朝食および昼のおにぎりはグレイスの指揮のもと調理
・21時以降、お風呂禁止(俺たちだけが入る)
・セックス、酒、喧嘩は禁止
ちなみに違反したらテント暮らしなのだが、たぶん、守られるだろう。
酒は用意しないし、パメラの言葉を守らない奴はいないからな。
初日、スラティナ村の人たちは疲れ切っていたので、お風呂に入らず、
夕食が終わるとすぐに眠ってしまった。
もちろん、旅館に入る前に、体はクリーンの魔法で綺麗にしたし、
汚い服は処分して、俺たちとお揃いのジャージに着かえている。
快適になって、食事が終わったあとの村人の満足げな笑顔を見て、
俺と九郎は右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、
胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチしたよ。
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