第40話 スラティナ村

夕方、ようやく全部の魔物の死体の処理が終わって、

みんなと村へ歩いて帰っていたら、遠くから声が聞こえた。

「兄貴~!姉御~!」


オポチュニティズのウォーレンが笑顔で、大きく手を振っていて、

その隣には悲壮感を漂わしているイケメン神父がいて、俺たちに向かって叫んだ。

「村は!セベシュ村は大丈夫なのか?」


イケメン神父の名はクリスエス、18歳、セベシュ村の司祭だ。

カデックから2日かかるところを、1日で強行してきたらしく、疲れ果てていた。


「大丈夫ですよ。みんな無事です。」

「そうなのか、よかった・・・」

クリスエスはほーっと安どの吐息をもらすと、へたりこんだ。

花梨がかいがいしく、クリスエスにタオルとスポドリを渡していた。


「ところで、なんでウォーレンはここに?

他のメンバーはどうしたんだ?」


「いやだな~、兄貴たちを探して来たんですよ~。

ゴブリンの大群が出たって話ですけど、

兄貴たちがセベシュ村を助けたってことですよね?

あと、みんな、ボリスさんも1日遅れて来ます。」


「兄貴は止めろ、俺たちの方が年下だ。

でもなんで、みんな来るんだ?」


「ヒデエ!兄貴たちの役に立ちたくって来るのに!

ゴブリンに村が荒らされたんでしょう?

俺たちは、村の立て直しに役に立ちたくって!」

「お、おう。ありがとうな。」


それから村長宅で話し合いを持つことになった。

メンバーは、村長と村の幹部4人、俺たち8人、

スパイス・ガールズの5人とイケメン神父とウォーレンだ。

まあ、村長たちはパメラが言ったことにすべて賛成するだろうが・・・


イケメン神父クリスエスが眉をひそめたまま、話し始めた。

「3日前に村がゴブリンの大群に襲われ、応援要請に行ったのだが、

修道院とギルドに断られたんだ。

一方、辺境伯さまは援軍を送ってくれたのだが、

それはまやかしで、体のいい厄介払いをすることだったんだ。

カデック城外で難民となっていたスラティナ村の人たち200人を

兵士と言い張って、送り込むことだったんだ。」


「ええっ!いや、もう大丈夫だから、戻ってもらいましょう。」

「いや、それはもう駄目なんだ。

そんなことしたら、命令違反でスラティナ村の人たちは殺されてしまう!」

「じゃあ、どうしたら・・・」


セベシュ村300人が来年の収穫まで生きていけるかどうかって時に

200人追加って・・・


みんな途方に暮れる中、パメラが凛とした声を出した。

「受け入れましょう。なんとかなります。

ねえ、三蔵、九郎、花梨?」

「「俺たちに丸投げかよ~!」」

俺と九郎はハモって絶叫した。


「ごめんなさい。

でも、九郎の魔道具と三蔵と花梨の知恵があればなんとかなりませんか?

ボクに出来ることならなんでもします!

お願いです!」

パメラにウルウルした瞳で懇願された。」


「「「えっ・・・あ~・・・うん。」」」

九郎はもちろん、俺も、花梨でさえも堕とされてしまった。


パメラ。

ほんと、恐ろしい子。


それを見てほほ笑んだグレイスが手を挙げた。

「そのスラティナ村の人たちに関する知っていることすべて、教えてもらえますか?

何が不足しているとか、何を持って来るか、もめ事はあるか、

病気の人はいるか、もうとにかく知っていることすべてです。」

「そ、それは・・・」

クリスエスは言いよどんだ。あんまり知らないみたいだ。


「全部で214人、子どもが50人くらいだ。

みんな、食料が足りなくてガリガリだ。

数人の病人がいるが、城外に置いていくとそのまま死ぬか、殺されるから、

一緒に来ている。


食料は移動の2日間分支給があったけど、持っている食料はそれだけ。

テントは60張あるけどもうボロボロで、

他の財産もなくって、着の身着のまま、まあ極貧状態だよ。

たぶん、メシさえもらえれば何でもいいって感じだよ。」


クリスエスの代わりにウォーレンがスラスラと説明したが、

あまりの状態にみんな眉をひそめていた。


「おいおい、そもそも子どもに病気の人、テント60張持って、

ここまでたどり着けるのか?」

「ああ、ボリスさんが車を8台用意して、

それにテントと病人、子どもを乗せてんだ。

ラバが1頭、牛が5頭、あとは人が引っ張っているよ。」


「凄いじゃないか!前は車1台とラバしかいなかったんだろ?」

俺の賞賛に、ウォーレンは会心の笑顔を浮かべた。

「カデックの周辺も魔物に荒らされまくっているからね、

デカい家畜は格安になっているんだってさ。

ちなみに牛は4頭がメスで、たっぷり乳がでるぜ。

俺たちとボリスさんは、兄貴たちに全部、賭けることにしたからさ、

全財産、牛と車に変えちまったよ。

必要なら金か、魔石と交換するぜ!ていうか、交換してくれ!」


ウォーレンは「どうだ!」って顔をしていた。

「貴方たち、最高です!」

表情を輝かせたパメラがウォーレンの手を掴んで、ブンブン振っていた!

ウォーレンが感激のあまり、涙をこぼしそうだ!


「ええ、素晴らしいですね。」

元商売人のグレイスからも合格点が出た!


「村長さん、まず空き家はありますか?それと食料はどうです?」

「空き家はボロボロのヤツが3件だけ、あります。

食料ですが、儂らの分だけでも春まで持ちません。

ちなみに、お昼に食べたごはん、あれは美味いですな、

ですが、あれだけの量でも村全員にはちょっと足りません。」


「セベシュ村だけで、春まで持たないって厳しいね。

うん、現状は分かったから、先に帰って考えることにするよ。」

キリっとした表情の九郎はさっと立ち上がって、村長の家を出て行った。

実は、パメラに頼られて嬉しかったようだ。


「サポネ、九郎を守ってあげて。」

「任せるにゃ!」

サポネが九郎を追いかけるのを見届けて、グレイスが村長に尋ねた。

「セベシュ村ではどんなものを作っているんです?」

「小麦、大豆、クローバーで牛を放牧していました。

小麦と大豆の収穫は半減で、さらに小麦の一部はゴブリンに奪われました。

牛は、おとりにしたので全滅です。」

「そうですか、奇跡がないと厳しいくらいですね。」

あまりの厳しさに、グレイスは眉をひそめた。


「米で換算すると、セベシュ村300人で1食30キロ、

それがスラティナ村の200人で倍、

さらに3食ってことは1日180キロ必要で、

これが、まあ、1年くらい必要ってことか・・・」


「マジで詰んでるじゃん。

できれば夏、遅くて秋に収穫できるものが必要だけど・・・」

そんなのあるって村長たちを見つめたら、さっと目を逸らされた。


「・・・長期的には、200人分の家と畑を作る必要がありますが、

そんな場所はありますか?」

「東の森と湿地なら使っていただいて結構ですが・・・」


「じゃあ、明日はまず、村人たちは3軒の空き家を直すのと、

放牧地の柵と牛舎の手入れを優先してお願いします。

スパイス・ガールズたちは魔物の駆逐を頼む。

俺たちは東の森と湿地に行ってみたりして、色々考えてみるわ。」


夜の帳が降りた中、俺たちは静かにコテージに向かって歩いていた。

俺も花梨も深刻な表情をしていたのだろう、

パメラが俺たちの袖を摘まんで悄然と謝ってきた。


「ごめんなさい。

貴方たちだって出来ないことがあるのに、安請け合いしちゃって。」

「いやいやいや、パメラのせいじゃないよ。

もう、スラティナ村の人たちはこっちに向かっていて、

もう帰れないんだから。」

「そう、そう!パメラのせいじゃないじゃん!」


必死でパメラを慰めていると。グレイスが落ち着いた声を出した。

「何かいい案はあるのですか?」

「中長期的な、食料のことならね。

芋なら、今(6月初旬)から植えても秋深まる頃に収穫できるはずだけど。」


「いも?ああ、ポテトですね。

あれが大量にあるならいいですね。1年、乗り越えれそうです。」

「芋か、いいじゃん!

アッシは100円ショップでも売っている野菜の種とかどうかなって

思ってたけど。」


「いいね、いいね!芋だけだと、飽きちゃうし。

でも、やっぱり中長期的なんだよな~。

それに、住むところについては、何にもアイデアが浮かばない。」


「スラティナ村の人たちをずっとボロボロのテントで

住まわすわけにはいかないけど・・・」

「やっぱり、九郎にいいプラモを作ってもらわないと・・・」

俺たちの話をパメラは胸の前で両手をぎゅっと握りしめて聞いていた。


「・・・ボクは何をすればいいですか?」

「そうだな、九郎に頑張ってって笑顔で応援してあげて。」

「うん、それがいいじゃん!」

俺と花梨の言葉に、パメラは笑顔を浮かべた。


「はい!あとは食事のお世話もしましょうか?」

「「「それはダメ~!!」」」

俺、花梨、アルテはパメラのやりすぎを必死で止めた。

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