第38話 マンティコア

俺たちはランクルの機動力を活かして、

村人たちが頑張っているゴブリンの死体の焼却を手伝い、

寄ってきた魔物どもを駆逐していった。


昼になって、九郎が村に帰っておにぎりを山ほど持ってきてくれた。

大勢の村人たちが初めて食べたおにぎりを美味いって言うのを見て喜んでいたら、

背後から怒鳴られてしまった!


「なにをサボっている!

早く片付けないと、もっと魔物が寄ってくるだろうが!」

ベイビーフェイスのサクハルが俺たちや村人を見て激怒していた。


さっきまで賑やかだったのに静まり返り、楽しい雰囲気が消し飛んでしまった。


「・・・お前らが率先してみせろ。」

「黙れ!俺たちは魔物を倒すのが仕事だ!」

睨みあう俺とサクハルを制して、サポネが警告してくれた!

「何か、凄い速さで来るにゃ!」

サポネの声が震えていて、耳とカギしっぽが垂れ下がっていた!

強敵か?


風のように走ってきたのは、10メートルはありそうな巨大なライオンの化け物!

凶悪すぎる青色の目の人間の顔、その巨大な体は紅毛のライオン、

サソリのような尻尾の化け物だった!


これまで出会った魔物とは明らかにレベルが違う!怖い!

そいつは人間50人くらいを見て、舌なめずりした!

「マンティコア・・・もっと森の深いところにいるんじゃ・・・」

サクハルが震えながら、呆然と呟いた。


マンティコアは怯える獲物をみて、口を大きく開けて笑った。

その表情は欲望と悪意に染められていた。

背筋が凍る!怖い!


「おら、魔物を倒すのはお前らの仕事だろ、行け。」

マンティコアに一番近くにいたこともあってけしかけてやると、

サクハルは「う、うわぁ~!」と奇声をあげながら、逃げ出した!


ビシュ!

「ぐわぁ・・・」

マンティコアのしっぽから針が飛び、

鎧を貫通してサクハルの背中に突き刺さった!速い!


「ぎゃぁぁ~、痛い!痛い!助けてくれ・・・」

倒れたサクハルの悲鳴で我に返ったベイビーフェイスの連中は

サクハルを助けようと1歩、前に出た!


「ガルルルル~!」

だが、マンティコアが凄まじい闘気で威嚇すると、

ベイビーフェイスの連中は悲鳴を上げ、サクハルを見捨てて逃げ出した!


間髪入れず、マンティコアは背を向けたベイビーフェイスの連中に

向かって飛び掛かった!


速い!


マンティコアは、一人目の腕を噛んで、その体を大木に向かって放り投げ、

二人目は頭突きで弾き飛ばし、

三人目は別の方向に逃げていたのだが、しっぽの針を飛ばしてしとめて、

最後のヤツは、わざわざ前に回り込み、そいつの驚き、恐怖で涙を流す顔を見て

ニヤ~ッと笑ってから、悲鳴を上げ続ける男の頭を丸かじりした!


「ひぃ!」

村人たちは息を飲むだけで、悲鳴を上げることすらできなかった。


強い!

これ、勝てないんじゃ・・・


「英雄に加護を!」

パメラの凛とした声が聞こえると、俺たちの体に凄まじい力が漲ってきた!


パワーアップした俺たちの気配を感じてマンティコアは食事をやめ、

俺たちを値踏みし始めた。


そして、俺に対して、憎悪の視線をくれた!

うっ!

ビシュ!ビシュ!

俺を狙ってマンティコアが針を撃ってきた!

「くっ!」

カン!カン!

紙一重で長剣の腹で受け止めることが出来た!


パメラの加護のお陰だ!


ホッとする間もなく、マンティコアがダッシュした!

速い!

狙いはアルテか?

マンティコアは高速でステップを踏み、何度も方向を転換し、

最後はパメラ目掛けて突っ込んできた!


「パメラ様!」

アルテが盾を構えてパメラを庇うと、

マンティコアは凄まじいスピードでその漆黒に輝く盾に体当たりした!

ヤバい!


ガツン!

アルテが渾身の力で受け止めて、ガシッと膠着状態となっている!

盾を魔石で強化してよかった!


俺は剣を構え、滑るようにマンティコアに迫っていった。

「うおぉ~!」

俺の振り下ろしを、マンティコアはバックステップして躱した!


だけど、パメラの加護を受けるまでは目で追うのがやっとだったのに、

マンティコアの動きがゆっくりに見えた!やれるぞ!


マンティコアは左へジャンプして躱してから、俺に飛び掛かってくるつもりだ!


俺は空を切った剣を勢いそのまま、

左から襲い掛かってくるマンティコアに対して、燕返しで斬りつけた!


ガキリ!

マンティコアがその大きな牙で、長剣を受け止めていた!

マジか!


ビシュ!

見えない位置から放たれたマンティコアの尻尾から針が放たれ、

向こうにいる村人が4人倒れた!

「ぎゃあっ!」


俺はマンティコアに斬りかかるが、軽いステップで躱され、距離を取られた。

「・・・」

慌てて駆け寄ったパメラが魔法を唱えると、

倒れていた村人の体がぼんやりと光って、

痙攣していたハズなのに、むくりと起き上がった!


村人たちは信じられないように、自分の手足を見て、

それからパメラに感謝の祈りをささげ始めた。


マンティコアがその欲望にまみれた目を見開いて、

パメラをロックオンした!


「九郎!手りゅう弾をそのまま10個転がしてくれ!」

「わかった!」

九郎が手りゅう弾をリアル化し、マンティコアに向かって適当に投げつけた。


マンティコアは少し警戒して、距離を取ったものの、

ピンを抜いていないので、手りゅう弾は転がったままだった。


「パメラ!アルテの後ろから絶対に出るな!」

「は、はい!」


「三蔵!前!」

花梨の声が響いた。


「弱いヤツしか狙わないのか?俺を倒して見ろよ、クソ野郎!」

挑発してやるとマンティコアが唸り、突っ込んできた!


が、何かに躓き、コケた!

チャンス!


斬りかかろうとした俺だったが、

マンティコアは尻尾の針を撃ってきて、

それを躱すのが精いっぱいでチャンスを逃してしまった。


ダダダダダダダダダダダダダダ!

だが、その隙に九郎がサブマシンガンを乱射して、

マンティコアに何発も命中させた!


だけど、嫌がる程度で、ダメージを与えられない!

くそっ!

せっかく、花梨がエアシールドを上手く張ってくれたのに!


マンティコアは後ろに下がって、いらただしげに首を振った。

グルル!


「三蔵!」

パメラが叫んだ。これは加護の時間が半分過ぎた合図。

加護が切れると100%負ける!

どうする?


九郎が今度は機関銃をセットした。

ダダダダダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダダダダダ!

機関銃が弾切れとなるまでぶっ放したが、全て躱されてしまった!


だけど、マンティコアの行動範囲を制限し、俺の剣が届く!

「おらぁ!」

右手だけで、マンティコアの顔目掛け、長剣を振り下ろした!


が、長剣が届く前に、マンティコアが左前脚で剣を持つ右腕を蹴ってきた!

「ぐっ!」

剣を弾き飛ばされた俺を見て、マンティコアはニヤリと笑った。

くそっ!


そして、マンティコアは俺の喉首を食いちぎろうと

大きな口を開けてジャンプしてきた!


俺は必死でバックステップしながら、左拳をマンティコアに繰り出した!


ゴキン!

俺の左拳は見えなくなり、激痛が走った!

左手首がマンティコアに食われていた!


マンティコアの目が得意げに光っていた。



ドン!

マンティコアの顔が膨れ上がると同時に、口の中からくぐもった爆発音が聞こえた。

マンティコアの目がうつろになり、目、鼻、口、耳から血が流れ出した!


俺は左手に、ピンを抜いた手りゅう弾を握っていたんだ!


マンティコアはまだ死なず、ふらふらとしながら、逃げ出そうとした。


「とどめ!」

九郎がロケットランチャーをリアル化し、ミサイルをぶっ放した!

ドン!


マンティコアに命中・爆発し、マンティコアは弾け飛んだ!

だけど、その体は焦げているものの、まだ原形をとどめていて、

しかもまだ、もぞもぞと動いている!化け物め!


ドン!

もう1発、ミサイルが命中し、ようやくマンティコアは動かなくなった。


だけど、信用できず1分ほどさらに待ったが、

マンティコアがぴくりとも動くことはなかった。


「ぐうぅ。」

ようやく緊張が解け、さらにパメラの加護が解けたようで、

マンティコアに食われた左腕から、殴られた右肩から激痛が走った!


「「「「三蔵!」」」」

みんなが一斉に駆け寄ってきてくれた。


「サニィ、これ!」

大泣きしているサポネが、血だらけの肉の塊を差し出してきた。


マンティコアが吐き出した俺の左手らしい。

パメラはそれを受け取って、俺の左腕にくっつけた。


「・・・回復!」

パメラが悲鳴のような声で回復魔法が唱えてくれると、

あっという間に体中の痛みが無くなってしまった。

それどころか、左手も元通りになっている!


指なんて、親指の根元はここかな?って具合だったのに、

ちゃんともとに戻っている!

グーパーチョキをしてみるが思い通りに動く!


「ふう、助かった~。

パメラ、本当にありがとう。

痛くって、左腕無くなって、泣きそうだったのに。ホントにありがとう。」

お礼を言ったら、パメラの目に涙が溜まっていた。


「よかった。でも、無茶しちゃダメですよ!

でも、三蔵さんがいなかったら、皆殺しにされていたかもしれません。

本当にご苦労さまでした。」


「花梨もありがとう。せっかくチャンスくれたのに、活かせずごめんな。」

「みんな無事だったからまあいいじゃん!」


「九郎もありがとう。ロケットランチャーなんかあったんだな。」

「えへへ!ほかにも新兵器あるんだけどね。」

久しぶりに俺と九郎と花梨は右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、

胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。

「「「イエ~!!」」」


「た、助けてくれ・・・」

サクハルの弱弱しい声が聞こえた。

まだ、生きていたんだ!

手持ちの毒消ポーション、回復ポーションでなんとか生き延びたらしい。


パメラに最小限の回復魔法を唱えてもらうと、

気まずそうにサクハルは立ち上がった。


「おい、さっきの続きをしようか?」

「続き?」

「ああ、俺たちは魔物を倒すのが仕事だ!って、

カッコよくいったのに、お前は戦いもせず逃げ出したけど・・・」

「くっ!」

「仲間に見捨てられてやんの、ウケる!」

「ぐっ!」


サクハルの顔が赤黒くなって、まさに暴発するかと思われた時、

「こっ、これはまさか、マンティコアか?一体、だれが・・・」

ようやくスパイス・ガールズがやって来て、

マンティコアの死体を見て驚きの声をあげた。


「倒したのは、俺たちだよ。

ちなみにベイビーフェイスは戦いもせず、

ビビって逃げ出したあげく、サクハル以外は殺されたよ。」


スパイス・ガールズは俺の指さした先に散らばっている、

ベイビーフェイスのぶっ壊された死体を見て息を飲んだ。


「そ、そうか・・・」

スパイス・ガールズは悲しみにくれていたが、

その中にはやっぱりかという諦めの感情が見えた。


その彼女たちの表情を見て、サクハルは羞恥のため顔を真っ赤にした。

「くっ、覚えていろ!」

負け犬の捨て台詞を吐いて、サクハルは逃げ出した。

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