第37話 サクハル

同じ話を2度、投稿していました。ごめんなさい。

教えてくれてありがとうございます。


★★★★★★★★★★★


ゴブリンの大群を蹴散らした翌日。


いつものトレーニングはせずに、セベシュ村の中心に向かっていくと、

ぞろぞろと出かけようとする村の男どもと出会った。


「ああ、パメラ様!おはようございます!」

一斉に跪くオッサンども!

パメラを見つめる瞳はキラキラ輝いていた。

オッサンどもの瞳が。

怖い。


「おい、アルテ、昨日の夕方、コテージに帰ってくるのが遅かったけど、

何やらかしたんだ?」

「心外だな!パメラ様が傷ついた人を治療しただけだ。」

アルテは強く否定はしたが、その目は泳いでいて、

しっぽは垂れ下がって巻いている!


「・・・もしかして、全員に回復魔法しちゃったとか?」

「ぎくっ!全員じゃないぞ。やってほしいって頼まれた人だけだ!」

「同じじゃね~か!」

小声でアルテとやりあっていたら、パメラが凛とした声で男どもに話しかけた。


「ああっ、ボクなんかに跪かないでください。どうか、立ってください。」

オッサンどもはパメラの指示に嬉々として従い、立ち上がって気を付け!した。


「皆さん、おはようございます。

体調はいかがですか?」

「バッチリです!」

「パメラ様のおかげです!」

パメラの言葉に次々といい返事をするオッサンども。怖い。


「今日はゴブリンの死体の片付けですね。

ご苦労様です、頑張ってください。

でも、決して無理はしないでくださいね。

この村の未来のことはこの三蔵、九郎、花梨に任せておけば大丈夫ですから。」

「「「おい!!!」」」


「「「「ありがとうございます!頑張ってきます!!!」」」」

オッサンどもはスキップでもしそうなルンルンの足取りで、

ゴブリンの死体数百を片付けに行った。


まあ、ゴブリンの魔石を得られるから得はするけど。


「はあ、僕は灯油を用意するよ。」

毒気を抜かれた九郎がランクルをリアル化すると、

そのトランクには灯油入りポリタンクがずらりと並んでいた。流石!


ランクルを眺めてみたけれど、昨日の激戦の跡は何一つ、残っていなかった。

「そういえば、昨日、ゴブリンキングに金棒で

ランクルを殴られたときはビビったよな。」

「うんうん。ガードパイプがあって、ホントによかったわ。」

「俺たちを守ってくれて、ありがとう。」


ランクルをナデナデしてから、乗り込んで出発して、

まずは、グレイスとミレーネを村長宅に降ろした。


グレイスは村の女たちを指揮して、これから30キロの米でおにぎりを作るのだ。

10キロの米を3袋運び終えると、

村長宅を興味津々覗いていたパメラに話しかけた。


「さっき、未来のことは俺たちに任せれば大丈夫って言ってたけど・・・」

「えっ、無理なんですか?」

超ビックリしたみたいで、パメラがその澄んだ瞳を俺に向けた。


無理だよ?当たり前じゃない!

食料の不足する300人の世話を、しかも数か月だなんてどうするのさ!


「・・・まあ?考えはあるけど?」

だけど、無理って言えない!

なんとかするしかない!

・・・パメラ。

恐ろしい子。


「はあ、よかった。貴方たちならきっと大丈夫って信じていました。」

パメラはほっと胸をなでおろし、ルンルンの足取りで歩き始めた。


超かわいい!

くそっ、男の子のくせに!

なんて可愛いんだ!


「お~い!最高傑作が出来たが~!」

ベルントが大きな盾をぶんぶん振り回しながらやってきた。

なんか、ありがたみがドンドン減っていく気がする。


「がっはっは!

盾の要素として必要な、硬さ、軽さ、衝撃を逃がす、

に、ゴブリンキングの魔石の力をすべて注ぎ込んでやったが!

盾の強化したものはあんまりないから、本当に世界最高峰の盾だが!」


自信満々なベルントに、漆黒で、鈍く輝いている盾を手渡されたアルテは

ほうっと酔ったような息を吐いた。

「うん、軽いな。取り回しも楽だ。

ありがとう、ベルント。

これでサポネ様を髪の毛一本、傷つけさせたりしない!」

アルテがキリっとしたいい顔だった。


「「「いや、仲間みんな守れよ!!」」」

俺、九郎、花梨がハモってしまった。


そんな俺たちを全く無視して、ベルントは剣を差し出してきた。

さっきまでのハイテンションが嘘のように事務的に。


「三蔵の剣だ。どんな種類の攻撃魔法も斬れるハズだが。しょぼい魔法だが。」

「おう、ありがとう。」

「また、いい魔石があったら、任せるが!

じゃあ、疲れたから寝るが!」

ベルントは大あくびしながら帰っていった。


「昨日のゴブリンの死体を食べに、魔物が寄ってきているらしい。

さきにスパイス・ガールズが行っているはずだ。

そろそろ、行こうか。」


昨日の戦場跡にたどり着いたら、男の叫び声が響いた。

「ゴブリンの群れが来たぞ~!」

「よしっ、車を降りて行こう!」


駆けつけてみると、ゴブリン100くらいが、

スパイス・ガールズ、昨日は出会わなかった若い男5人と戦っていた。

「お前ら、後ろから牽制しろ!」

若い男に怒鳴られたが、そんな必要は全く感じなかった。


若い男たちは強いし、なにより、スパイス・ガールズが圧倒的だった!

ブレンダ(ドワーフ・神官)は俺より背が低いのに一番前にいて

ゴブリンどものヘイトを集め、大きな盾でその攻撃を防ぎ、

大きな棍棒で次々と殴り倒していた。


その左右にはウィロー(猫人・戦士)とマリン(犬人・斥候)が軽快な動きで

ゴブリンをほんろうし、1匹ずつ、確実に仕留めていた。

ブレンダの後ろにはブルーメ(人・魔術師)と

アメリア(エルフ・精霊弓手)が魔法を練っていた。


そして、ブルーメが放った巨大な火の玉は10個に分裂し、

10匹のゴブリンを焼き尽くした。


アメリアの魔法は、天から落とした雷で、

この群れで一番デカいゴブリンを一撃で殺した!

やる!さすが、金ランクパーティだ。


ちなみに、男たちは、スパイス・ガールズと比べたら大したことなかった。

ていうか、スパイス・ガールズが粉砕した敵のおこぼれを

拾っているイメージだった。


昨日は村人たちと一緒に帰ってきて、

スパイス・ガールズの元にすっとんでいったらしい。


ビビって逃げ出したゴブリンのうち、10匹ほどがこっちへ来た!

「私に任せろ!」

昨日、まったく戦わなかったアルテが滑らかに進み出ると、

流れるように10匹のゴブリンを盾で粉砕していった!


いや、盾って攻撃用だったっけ・・・


「強くなってる!凄い、アルテ!」

「ありがとうございます、パメラ様!」

パメラの賞賛にアルテは嬉しそうに笑っていて、

しっぽが緩やかに振られていた。


「遅いぞ!」

言葉とは裏腹に笑顔のブルーメたちが近寄ってきた。

「流石、金ランクパーティだな。圧倒的だ、凄い。」

「まあな。アタシたちはこの辺境最強パーティなのじゃ!」

ブルーメが自信たっぷりに、高らかに宣言した。


「おい、お前たち、なんで俺の指示に従わないんだ?」

高圧的にしゃしゃり出てきたのは、20代、背は185センチくらい、

細マッチョのイケメン戦士だった。


「・・・誰?」

「俺は銀ランクパーティ、ベイビーフェイスのサクハルだ。

お前たちのことはブルーメに教えてもらった。

・・・だけど、本当にこいつ等、そんなに強いのか?」

サクハルはブルーメに問いかけた。

「まあ、こいつ等がゴブリンの大群を蹴散らしたのは確かなのじゃ。」


「ふ~ん、まずは、お前たちのランクを教えてくれ。」

サクハルは目を細めて、俺たちを見定めようとしていた。

勝手にライバル認定されたみたい。


「見習いだよ。」

正直に答えてやると、サクハルたちはポカンとしたあと、怒りを露わにした。

「俺たちをバカにしているのか?冗談はよせ。」

「本当だよ。

登録したばかりで、トラブルがあって、結局、ギルドに行かないままだからな。」

ちゃちい見習いの身分証を見せてやると、

サクハルたちの視線は露骨に嘲りを含んだ。


「昨日、彼女たちが苦戦したのは、奇襲され、

村人300人を逃がそうとして、余裕がなかっただけだ。

それに、俺たちが村人たちを先導せず、一緒に戦っていたら楽勝だったさ。」


スパイス・ガールズを弁護するフリをしつつ、

マウントを取ろうとするサクハルをブルーメは心配そうに見つめていた。

男5人はみんな20代くらいのイケメンで、

同じ年ごろのスパイス・ガールズと仲がよさそうだ。


もしかして恋人同士なのだろうか。三蔵、ショック。


「なるほど、そうかもしれないね。」

挑発を否定しなかったんだけど、ヤツの留飲は下がらなかったみたい。


「なに余裕ぶって見せているんだ?お前らの方が強いって言いたいのか?」

「えっと、今のテーマはセベシュ村を魔物から守ることで、

俺たちのどっちが強いかじゃないだろ?」


「い~や、関係あるね。当然、強い方が、セベシュ村での主導権を握るんだ。

見習いが出しゃばるところじゃない。」

「俺たちは来たばっかりで、何も知らない。

だから、基本はスパイス・ガールズに任せるけど。」


俺にとったらサクハルの好感度は最初からゼロのままなので、

ヤツの希望に反して、任せる相手はスパイス・ガールズってちゃんと言ってやった。

ベイビーフェイスは銀ランクで、スパイス・ガールズよりランクも下だし。


「・・・じゃあ、俺たちの命令に従うんだな?」

嫌味はちゃんと伝わったらしいが、

怒りを必死で我慢して、マウントを取ろうとしてくるサクハル。


「聞こえなかったのかな?

アンタたちではなく!金ランクの!スパイス・ガールズの!

合理的な!指示なら従うよ!」


バカにも分かるように言ってやったら、サクハルが吠えた!

「小僧!舐めてんじゃね~ぞ!

みんなの前だろうが、ぶちのめしてやろうか?」

リーダーをバカにされて、ベイビーフェイスの連中も臨戦態勢だ!


このバカがリーダーってことはよっぽど強いのかな?

そうは見えなかったけど・・・


遠くから村人の声が聞こえた!

「あっ、向こうで村人が困っているぞ~。

助けに行こうぜ~!」

俺は暢気な声を出して、怒り心頭のサクハルを無視してやった。


走り出した俺の後ろで花梨がプリプリと怒っていた。

「・・・何、アイツ等。たかが、銀ランクのくせに。

あんなのと仲がいい、スパイス・ガールズも大したことないね!」

イケメン無罪はないようで、一安心だ。

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