第36話 ウォーレン

オポチュニティズ ウォーレン


三蔵の兄貴たちは俺たちを置いて先に行ってしまった。

兄貴たちがいない道のりは少し心配だったけど、

魔物の数は思っていたよりずっと少なかった。


きっと、兄貴たちが掃除してくれたに違いない。

そっけなくしていたくせに。

あのツンデレ野郎が。


兄貴たちと別れて2日後の夕方、無事にカデックに帰り着いた。

みんなでボリスさんの家兼馬小屋兼倉庫に転がり込んで、

無事に帰りついたことに乾杯してから、飲んで、飲んで、飲みまくった。


もう、ひたすら酒が美味かった。


次の日の昼頃、二日酔いに悩まされながら冒険者ギルドに顔をのぞかせた。

他の奴らは荷物を守っていて、ボリスさんは小麦の値段を調べていて、

どのタイミングで、どこの商会に売り払うか考えているだろう。


「おお、ウォーレンじゃねえか!

ずいぶん、ギルドに来なかったから魔物にやられたかと思ったぜ!」

「ヤバかったんだけどな。

どう、最近は?凄いヤツ、来た?面白いこと、あったか?」


兄貴たちはきっと、このギルドに来ているハズ。

あのメンツなら目立って、もしかしたら誰かと揉めているかも?

絶対、なんか、やらかしたハズだ!


「なんだいきなり。凄いヤツって?

ああっ、逆に凄いヤツがいたぜ!

そう、昨日の朝に、ここにヒョロガキがたった一人で、来やがったんだ。

そういや、お前と似たような服を着ていたな。

来るなり、バッドデイの連中に1発でのされてさ、

そのうえ、大事そうに持っていたおもちゃをぶっ壊されてよ~。

その壊れたおもちゃを見て半泣きになって、そのまま帰っちまったよ。

あんな弱くて、根性のないヤツ、初めて見たよ!

一体、何しに来たんだか!ぎゃはははは!」


・・・絶対、九郎の兄貴だ!

なんで一人だったんだ?

さすが、兄貴たち。ワケ解らん。


とりあえず、ボリスさんの家に戻ってみんなにさっきのことを話してみた。

「で、どうする?さっそく兄貴たちとバッドデイが揉めたみたいだ。

どっちを取る?」

「そうじゃないな。」

まだ、二日酔いがひどいカスパーがこめかみを押さえた。


「やったのはバッドデイだって、はっきり言ってたぜ。」

「ああ、そうじゃない。兄貴たち対バッドデイとギルドってことだ。」

「ギルド?どういうことだ?」


「ギルド内で揉めたのに、ギルドは関知しなかったんだろ?

止めようとせず、慰めもせず、ほったらかしだ。

それを兄貴たちがどう思う?」

「誰だって怒るよな~

じゃあ、兄貴たち、余計に不利じゃね~か。

しょうがない、中立にしとくか?」


「バカか、お前はぁ!」

帰ってくるなり、ボリスさんが叫んだ。

「パメラ様の味方、一択だぁ!俺は、全部、賭けるぞぉ!」

「やっぱり、商売人じゃなくて、ギャンブラーだな。」


「うるせ~。みんな、バッドデイとギルドに賭けるだろうさ。

そこを逆張りだぜぃ。

勝ち目はちゃんとあるぜぃ?

バッドデイはしょせん、金ランクでそれ以上じゃねえ。

だけど、トーエンというパーティはだな、空を歩く女、

家、車、武器を生み出す魔法使い、

三蔵は・・・まあいいや。


それにパメラ様だぞぉ!

もう、世界最高の真金ランクとなる可能性しかねぇじゃねえかぁ。

それによぉ、考えても見ろぉ。

ピンチを助けてやったら、

きっとパメラ様がよしよししてくれるぜぃ?

それか、俺の両手をぎゅっと握って、ありがとって言ってくれるぜぃ?

サポネちゃんからは、ボリニィって呼ばれるんだぜぃ?

やるしかないだろうがぁ!」


幼女好きとは気づいていたが、男の娘も好きだったのか!

「うむ、ただのギャンブラーじゃなくって、変態ギャンブラーだった!」


「変態ギャンブラーは確かだが、俺もトーエンに賭けるべきだと思う。

一昨日も言ったが、彼らは伝説となるって思っているからな。」

カスパーが冷静にこう言うと、ライナーが大きく肯いて続いた。


「うん、アイツらに命を助けられたんだ。

敵の方が強そうだからって、

命の恩人を見捨てるようなクソにはなりたくないっすね。」

ルイはどうかと見つめてみれば、やっぱり無言で大きく肯いた。


うん、兄貴たちの傍にはパメラ様もいるんだよな。

大っぴらには言えないけど、俺もパメラ様によしよしってしてもらいたい!

サポちゃんにウォーニィって呼んでほしい!


「決定、俺たちはトーエンに全賭けだ!

・・・といっても、兄貴たち、どこにいるのかな?どうしたらいい?」


「あの車に、あの家、あの美女たち、あの能力、勝手に有名になるさ。

で、彼らがどこにいるかっていう情報が早く来るのがギルドだよな。

だから、ギルドで待っていればいい。

ついでに、辺境伯、修道院、ギルド内部、

バッドデイの情報に聞き耳を立てていればいい。」


「聞き耳だけでいいのか?せめて、情報屋から情報を買うとかさ。」

「俺たちみたいなのが、辺境伯とかの情報を買ったら、たちまち筒抜けになるぜ。」

「ああ、そうか。じゃあ、俺はもう一遍、ギルドに行ってくるわ。」

「俺はこの街で今、何が高く売れるか、何が安く手に入るかを調べてくるぜぃ。」


そして、カスパーの言うとおり、

次の日に、三蔵の兄貴たちがどこに行ったか分かったんだ。


早朝のギルドが最も混む時間帯が終わってからのんびりとギルドに到着した。

どんな依頼があるか見てみると、

依頼料が安い魔物退治がメチャクチャたくさん貼られていた。


みんな魔物に困っていること、

もう金を払う余力が無くなっていることを窺わせた。

そのあとは、ひたすら知り合いと駄弁っていた。


聞こえてきた噂話は、

・辺境伯の兵も多すぎる魔物に怯え、遠征のペースが落ちてきたらしい。

・カデックの東にあるセベシュ村、ベハルカ村は切り捨てるらしい。

・バッドデイが直接、大商隊を組んで、コンゼルに向かっているらしい。


大商隊とすれ違わなかったけど、

兄貴たちと一緒にいる時にでも、すれ違ったのかな?


そういえば、結局、ボリスさんが言っていた、

辺境伯が商隊に護衛を出すって話はなかったらしい。

ほんと、正確な情報を掴んでこいよな。

もう少しで死ぬところだったぜ。


だけど、そのおかげで兄貴やパメラ様に出会ったんだから、

何が幸いになるか分からないよな。


夕方になって、バッドデイのリーダー、ベルモントがやって来た。

ベルモントは40歳近くの犬人の戦士で、

大きな体にふさわしい大きな刀を武器としている。


すると、ギルド長のカルステンが奥から出てきて、ベルモントと談笑を始めた。

俺は話し相手を変えるふりして奴らに近づき、その話に聞き耳を立てはじめた。


突然、扉がバンと開いて、

汗みどろの若い神父さんが一人でギルドに駆け込んできた。

「セベシュ村がゴブリンの大群に襲われた!

頼む!助けに行ってくれ!」


ギルド長はへらへらと笑いながら、立ち上がった。

「神父さん、いつの話です?ギルドにはそんな情報はないですよ。」

「バカな!

今日、村人300人がこのカデックに逃げて来たはずだ!」

「それが本当なら、先にグラディシュカ修道院へ頼んだらどうです?

神父さんにとってはギルドより、修道院の方が親しいでしょう?」


「くっ。」

神父さんは黙り込んでしまった。

修道院に先に頼んだのにダメだったのか・・・


「それにですね、本当に、冒険者の誰一人、そんな情報を持ってきていませんし。」

そうなのだ。

この街中も、ギルドも、通常運転だ。

だけど、神父さんの焦りは本物だ。


この矛盾を満たすのは・・・兄貴たちだ!


「・・・本当なのか?」

「ええ、ええ。しかし、辺境伯さまの元にもそんな情報が届いたようで、

念のために応援部隊を送るそうですよ。」

「応援部隊?おおっ!」

喜ぶ神父さんを見て、ギルド長とベルモントの意地の悪い笑みが大きくなった。


「ええ、ええ。さすが辺境伯さまです。

城壁の外にいる、スラティナ村の連中を送るようです。」

「兵士じゃないじゃないか!」


それどころか、難民たちは長くなってきたキャンプ生活で食料は足りず、

劣悪な環境で衰弱していた。


「神父さん、武器を持てば兵士なのですよ。」

「そんな!」

「へっへっへ。

神父さんよ~、金だ!

金さえもらえれば、俺たちがゴブリンの100や200退治してやるぜ!」

ベルモントが下品に笑いながら、露骨な仕草をしながら金を要求した。


「くっ!」

金も持っていないらしく、神父さんは絶望に震えながらギルドを出て行った。

俺はさりげなく、神父さんを追いかけた。

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