第35話 コテージ②

ちょうど村人たちが戻ってきたので、

村長と少しだけ話をしてから、俺たちは村の外れへ出て行った。

村人たちにコテージを見せたくなかったんだ。

コテージじゃあ、300人の食事の面倒なんて見切れないからな。

花梨がサポネとミレーネとお風呂に入り、九郎は自室にこもってプラモづくりだ。

なので、俺は晩御飯を作るグレイスにお手伝いを申し出た。

「いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう。

手伝いたいんだけど、何かあるかな?」

「じゃあ、キャベツの千切りをお願いします。」

「それ、得意だ!」

グレイスと並んで、キャベツの千切りを始めた。

以前、花梨が用意してくれた菜切り包丁が使いやすく、

ざっくざくとキャベツの千切りが出来上がってゆく。

「ホントに包丁を上手に使いますね。」

「ありがとう。でも、グレイスの方こそ8人分の料理って大変だろ?

ありがとう、いつも凄く美味しいよ。」

「レシピを見て、どんな味だろうって想像しながら、新しい料理に挑戦する。

楽しいですよ。

みんな美味しいって言ってくれますし。」

「本当に美味しいからしょうがないよね。

今日は何を作ってくれるの?」

「今日はトンカツとコロッケとみそ汁です。」

「おおっ、ついに揚げ物まで!やった!」

「うふふ、期待しすぎないでね。」

グレイスが、温度が高くなった油に、パン粉をまぶした豚肉を投入した。

「・・・なんか、さらに手際がよくなった気がするけど。」

「よくわかりましたね!私もそう思います。」

「動きに無駄がまったくなくて、そのくせ優雅っていう感じ。」

「そんなに褒めても余分には作りませんよ。」

「しまった!バレテーラ!」

「うふふ。やっぱり二つ名【三ツ星シェフ】のお陰ですね。」

「トンカツとコロッケだと、【三ツ星シェフ】っていうより、

料理名人の美人お母さんってカンジだけどね。

三ツ星シェフに相応しいレシピ本ってあるのかな~。」

「うふふ!美人ってお世辞も上手なんですね!

でも、今のレシピ本で充分ですよ。

私が作ってあげたいのはミレーネと三蔵さんたちですから。」

グレイスが手際よく、油からトンカツを救い上げた。

トンカツの余分な油を切った後は、コロッケを油に投入した。

「ねえ、グレイス。」

「はい、なんです?」

「ここまで一緒に来てくれたけど、これからどうするつもり?

どこかで商売とか始めてみるつもりはないの?

俺たちと一緒にいたら、今日みたいに危ない目に合うかもよ?」

グレイスが縋るような目で俺を見つめた。

「戦闘に役に立たないと傍にいたら、ダメですか?

私とミレーネの人生を助けてくれた恩返しをしたいんです。

美味しい料理を作るくらいじゃ、ダメですか?

・・・ダメですか?」

「これからも美味しい料理、作ってください。」

「うふふ!任せてください!」

笑顔を浮かべてグレイスは右肩を俺の左肩にトンとぶつけてきた。

ナニコレ、ナニコレ!

「あ~、揚げ物じゃん?何々?」

残念ながら、お風呂から花梨たちが上がってきて、

いい雰囲気が霧散してしまった。

ちっくしょ~!

料理が出来上がったのに、まだ、パメラとアルテが戻ってきていない。

「遅いねえ~。」

「サポ、迎えに行ってくるにゃ。」

「ありがとう、ゴブリンに気を付けてね。」

そして、その間にグレイスがお風呂に入ると、九郎がリビングにやってきた。

「あれ?食事まだなんだ。」

「パメラたちがまだ帰ってないんだ。」

「そうなんだ。うん、この3人だけになるの、久しぶりだね~。」

「ホントだ~。でも、1か月も経たないうちに、人生激変じゃ~ん。」

「マジそれな!

平凡な高校生活が、異世界転移したものの、

チートをもらえず、俺たち、この世界に来たときは、心を折れかけたよな?」

九郎はうんうんと肯いた。

「ホントに!プラモだけが支えだったよ。」

「俺じゃないのかよ!」

「アハハ!」

俺が突っ込みをいれると花梨が笑った。

「あ、三蔵もいた!」

「もう、ええわ。そういや、花梨はこの世界に来てどう思ったの?」

「空間魔法って色んな所に瞬間移動出来るって思った!」

「「確かに!夢だ!!」」

「まあ、初日に想像した未来とは全然違うけど、すっごく楽しいじゃん!」

花梨はテーブルに頬杖をついて、笑っていた。

「よかった!」

「九郎と三蔵を選んだアッシを褒めてやりたい!偉い!偉い!」

「俺たちも選んでもらえて嬉しかったよな?」

「モチロンだよ!」

「・・・二人とも、ホントにありがとう。」

花梨が珍しい表情を見せた。

少し照れているカンジ!可愛い!

「「こちらこそ、ありがとう。」」

「ところで、明日からどうする?

なんか、この村を助けるぜ!って雰囲気になっちゃたけど、いいのかな?」

「義兄弟になったとき、困っている人を助けるって誓ったじゃん。」

「だよね。毎日、村人たちに米30キロ渡すくらいなら、楽勝だし。」

「九郎ってホント、有能だよな~。」

「ホント、ホント!クラスメイトたちの見る目の無さにビビるわ!」

「ありがとう。でもさ、三人揃ってトーエンだと思うよ。」

俺と九郎、貴船さんは笑ってから、右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、

胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。

「「「イエ~イ!!!」」」

「「「ただいま~!」」」

サポネが、パメラとアルテを連れて帰ってきた。

「「「おかえり~。」」」

ただいまを言ってくれる人もできて、嬉しいな。

ちょうど、グレイスとミレーネがお風呂から上がってきた。

「じゃあ、美味しい夕ご飯を頂いて、明日からの作戦会議しようぜ!」

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