第34話 鍛冶師

「サニィ、リンネェ、ほら、魔石、こんなに大きいにゃ!」

サポネがガオーってポーズで、2つの大きな魔石を掴んでいた。可愛い!


一つは光り輝いている!こんなの初めてだ!

「大きい!輝きが凄い!さすが、ゴブリンキングの魔石だな・・・」

エルフの女が呟いていた。


俺たちの話中に、サポネがゴブリンキングと

もう1体の巨大なゴブリンから魔石を取ってきてくれたのだ。


「さすが、サポネ、気が利くね。いつもありがとう。」

「可愛い!」

花梨がぎゅっとサポネを抱きしめた。


猫人の戦士、ウィローが俺とアメリアの間に割り込んできた。

「なあ、この車に乗ってみたいんだけど、ダメかな?」

「いいよ。3人までな。」

「やった!」


ウィローと、アメリア(エルフの精霊弓手)、ブレンダ(ドワーフの神官)が

車に乗り込んだ。

「すっげ~。」

「この椅子、最高だな!」

「なあ、さっきみたいにぶっ飛ばしてくれよ!」


はしゃいでいる3人を見て、乗りたかったのに、

「警戒しろ!」って言われたマリン(犬人の斥候)が拗ねていた。


ブルーメが興味津々に尋ねてきた。

「ねえねえ、アンタたちのことを教えるのじゃ。」


「内緒だぜ?

実は、俺と九郎と花梨はある国の魔法とかのエリート学校の生徒だったんだ。

だけど、俺たち、貴族じゃないからさ、イジメられて追放されちゃったんだよね。

それで冒険者になろうとしてさ、このオーガルザ王国に来たんだ。

最初、首都のウィンブラでダンジョンに潜ろうかって言ってたんだけど、

ある奴らと揉めて、サポネを連れて逃げ出したんだ。」


「へ~、エリート学校の生徒だったんだ。なるほどね~。」

「このカデックに来る途中、困っていたパメラとアルテ、

その次にグレイスとミレーネを助けて、昨日、カデックに着いたんだ。」


「へ~、そうなのじゃ。

ずいぶん、みんなに信頼されているみたいだけど、時間は短いんだね。」

「ホント、嬉しいね。」


向こうに村が見えてきて、そこまでもたくさんゴブリンの死体が転がっていた。

「これって、ブルーメたちが倒したの?」

「そうなのじゃ。200くらいは倒したんだけどね。」

「さすが、若いのに、金ランクパーティだけのことはあるな・・・」


村には80軒の家があり、スパイス・ガールズと半分ずつ、

ゴブリンがいないか確認することになった。


徹夜明けの九郎は車でお昼寝してもらうことにして、

危ないからパメラとグレイスとミレーネも車にいてもらい、

その護衛をアルテにお願いした。


「こっちにゃ!」

サポネが近くにある家の中を覗かずに、まっすぐ進んでいく。


俺と花梨は視線を交わしたけど、そのままサポネについて歩いた。

ある家の所で、止まった。

「陰に隠れているのはバレているにゃ!」


のっそりと出てきたのは5匹のゴブリンで、うち1匹は二回りくらいデカかった!

「サポが全部殺るにゃ!」

サポネが殺気たっぷりに短剣を構えた!


ポカ!

「にゃ!」

花梨がサポネの頭に拳骨を落とした!軽くだけど。


「サポネ、強くなったのは分かっているけどさ、まずはゴブ1匹にしとくじゃん!」

「だって!」

「だってじゃない!」


5匹のゴブリンが剣を振り上げて襲い掛かってきた!

「「邪魔!」」

二回りデカイやつの剣に合わせるつもりで剣を振りぬいたら、

相手の剣ごと、そのデカイ体を切り裂いてしまった。


ゴブリンキングを倒したから、やっぱり強くなっている~!


花梨は花梨で、これまでエアブレードは1匹しか切れなかったのに、

一太刀で3匹まとめて切り裂いていた。


「大事な話をしているんだ!」

「空気を読め、バカ!」

ゴブリンの死体に向かってののしってから、

少し出遅れたら他の奴らが瞬殺されて固まっているゴブリンを指さした。


「ちょうど、1匹になったよ。さあ、やってごらん。」

「気を付けてね。」

拳骨をくらい、半べそをかいていたサポネの背を、花梨は優しく押した。


「がー!」

ゴブリンが体にそぐわぬ長剣を、両手で、サポネに向かって全力で振り下ろした!

これ、喰らえば即死だ!


ああっ!


俺たちの心配をよそに、

サポネは難なく躱して、余裕ある動きでゴブリンの頸動脈を切り裂いていた。


ほんとに、余裕だった。


「・・・ごめん、サポネ。楽勝だったね。」

「うん。5匹でも勝てたかも。」


「でも、思ったよりずっと、緊張したにゃ。

心配してくれて、嬉しいにゃ。」


「「ええ子やぁ~」」

花梨に、先にサポネを抱きしめられてしまったから、

俺はサポネの頭をナデナデしてあげた。


その後は、家の中に隠れていたゴブリン5匹をサポネが難なく倒した。


何件かの家の中はひどく荒らされていて、隠していた食料も無くなっていた。

襲われた時に囮にした20頭ほどの牛はすべて食い散らされていた。


ただ、10数個ある井戸は汚されてはいたものの、

全て使えるようでブルーメたちは安心していた。


まあ、彼女たちの借りている家はめちゃくちゃ荒らされていて、

その時は激怒していたけど。


俺たちが村内のゴブリンを駆逐し終えて、村の中心にある村長宅へ到着すると、

ドワーフの男が汗みどろで、ゼエゼエ荒い息を吐いていた。


「兄さん?なんで、一人だけいるの?」

スパイス・ガールズのブレンダ(神官・ドワーフ)が素っ頓狂な声をあげた。


「決まっておろうが!

ゴブリンキングを倒したんなら、その魔石があるじゃろがい!

儂に、それで武器を強化させてくれ!」

ドワーフの男がブレンダにほれ、ほれと手をぐいぐい差し出した。


「いや、それ、彼らだから。」

ブレンダが面倒くさそうに俺たちを指さすと、

ブレンダの兄がこっちにすっ飛んできた!


ブレンダの兄は、目だけは妹と同じクリクリで可愛らしいが、

顔の半分は髭に覆われていた。おっさんだ。


また、妹と同じく背は140センチくらいだが、体の幅は妹の倍はあった。

太ってはいない。筋肉の塊だ。


う~、汗臭い!まぎれもなくおっさんだ!


「お前たち、儂は【リインフォース】の二つ名を持つ、凄腕鍛冶師だ!

ゴブリンキングの魔石は儂に任せるが!

最高の武器に仕上げてやる!」


嫌悪感がぬぐえない!

「ヤダ。」


「なんでだが!儂は【リインフォース】の二つ名を持つ、最高の鍛冶師だが!」

「なんで、2度言う?ヤダ!」


「なんでダメなんだが!」

「初対面だし、名前も知らないし、魔石の使い方をちゃんと考えたいから。」

ゴブリンの男の大きなくりくり目が見開かれた。。


「すまん、興奮しすぎて名前も言ってなかったか。

儂の名はベルント、ブレンダの双子の兄だ。」

「「「うそだ~!!!」」」


「本当だよ。

腕はカデック一なのは確かなんだけど、なんせクセが凄いから、

カデックでは仕事を回されなくなっちゃってここに来たんだ。」

ブレンダがやれやれって感じで言うと、ブルーメが話を継いだ。


「だけど、本当にカデック一、

いや、もしかしたらオーガルザ王国一の鍛冶師なのじゃ。

【リインフォース】の二つ名を持っているように、

武具の強化を最も得意としているのじゃ。」


「・・・失敗とかないの?」

「儂が?失敗?それ何?成功しかしたことないが!」

ベルントは自信たっぷりに分厚い胸を張った。

どうしようかなって仲間を見渡したら、みんな、俺を見つめていた。


任されちゃった!

・・・まあ、RPGなら一番守るべきは回復魔法を使えるヤツだから、

パメラを守るべきか?


「じゃあ、アルテの盾を強化するかよ?」

「えっ、私の盾でいいのか?

ゴブリンどもの戦いは見ていただけだったが・・・」


アルテは表情も硬く、言葉は遠慮がちだったが、

そのしっぽは凄まじい速さで振られていた。可愛い奴だ。


アルテの盾とゴブリンキングの魔石をベルントに渡した。

「おお、これがゴブリンキングの魔石か!

デカくて、輝きが凄いな!

うむ、凄い能力を付与出来そうだ!

・・・おい、魔石から手を放すが!」


なぜか俺の手は魔石を全力で握りしめている~!

「あっ、すまん、つい、アンタに拒否反応が!」


「お前、いい加減にするが!」

ベルントはじろりと俺を睨んだ後、ゴブリンキングの魔石を高く掲げた。

「ふんふん!創作意欲が沸々と湧いてきたが!

明日も強敵が来るかもしれんから、

明日の朝までに最高傑作を用意してやるが!

がっはっは!」


「おい、もう一つ、デカい魔石があるんだが。」

「ふ~ん、輝きが少ないな・・・ゴブリンジェネラルか?

まあ、それなりの強化は出来るが。」


ゴブリンキングのと違って、ベルントのテンションが上がらなかった。

「じゃあ、俺の剣に頼む。敵の魔法を斬りたい!」

「この魔石じゃあ、しょぼい魔法しか斬れんが。」

「まあ、それでいいよ。よろしく。」

ベルントはご機嫌で自分の工房に戻っていった。


「三蔵!ありがとう!」

満面の笑みのアルテがしっぽをぶんぶん振りながら、お礼を言ってくれた。

「みんな、強くならないとな。」


サポネが「ハイハイ!」って手を挙げた。

「はい、サポネくん。」

「サポ、短剣と吹き矢と・・・2つスキル増えたにゃ~。」


「おお、だからあれだけ戦えたんだな。

サポネ、おめでとう。明日からは短剣の練習もしような。」

「にゃん!」


「アッシは、結界魔法を覚えたじゃん!」

「くぅ~、また花梨が羨ましい魔法を・・・」


「ボクは加護のスキルをもらいました。」

「おめでとうございます!パメラ様!

私はシールドバッシュのスキルを頂きました。

全てはパメラ様のお陰です!」

「パメラ、活躍してないから~!」

つい、全力で突っ込んでしまったが、アルテのやつ、

俺を頭のオカシイ奴のように見ていやがる!


「まあまあ、お約束じゃん。」

口を尖らせていたら、花梨に慰められてしまった。


もう、誰も話ださないことを確認して、グレイスが嬉しそうに手を挙げた。

「私はなんと、二つ名【三ツ星シェフ】をもらいました!」

「凄い!グレイス、おめでとう。二十歳越えて、二つ名って・・・」


グレイスから生じる凄まじい冷気に俺は動けなくなってしまった。

「さ・ん・ぞ・う?」

「おめでとう、グレイスさん。」

「ありがとう。」


バカねって表情で言いながら、花梨が余計なことを訊いてきた。

「三蔵と九郎はどうだったじゃん?」

「・・・総魔力量が増えたのと、魔力放出量が増えただけ。」


「ふっふっふ!」

俺の残念そうな言葉を聞いて、九郎は意味深に笑いだした。


「う、嘘だ!嘘だと言ってくれ!九郎、俺を一人にしないでくれ!」

「ざ~んねん!僕はアイテムボックスを手に入れました!」

九郎は、俺に向かって得意げに宣言した。


「マジか・・・なんで、俺を捨てていくんだ。

それもアイテムボックスなんて、羨ましすぎる。」

ギリギリと歯を食いしばった。


「やったじゃん!

これからは魔物の死体は九郎のアイテムボックスに放り込むじゃん!」

花梨は賞賛と一緒に、盛大な嫌がらせをぶっこんだ~!


「・・・えっと、実は、僕のアイテムボックスは

自分のプラモしか入らないんだ・・・」

「・・・それでも、ゔらやましい!!!」

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