第32話 大軍
次の日の夜明け、九郎が超ハイテンションでリビングにやって来た!
「やあやあ、おはよう、みんな!
12時間、これに大半の魔力を注ぎ込んだよ。」
テーブルの上に置かれたのは前と同じランクルのプラモだが、
前後のバンパー、屋根の前後左右にガードパイプが付いていた。
「魔物や冒険者に攻撃されたら大丈夫かなって心配していたんだ。
だから、ボディも窓も防弾使用にしてみたよ、イメージでね。
あと、サンルーフがあるんだ。
これで上からも攻撃出来るよ。」
「おおっ~!」
って感激したのは俺だけだった。
「なあんだ。アッシの左右に彼氏が乗れるよう、
10人乗りになったのかと思ったじゃん。」
「ジュースが出てくる蛇口を付けてほしい・・・」
「空を飛ぶ車が良かったです。」
花梨、アルテ、グレイスの言葉に九郎の心はへし折られた。
「くっ、要求がキツイ、キツ過ぎる・・・」
いつもどおり、朝ごはんを食べて、トレーニングをしてから、
コテージを片付けた。
そして、九郎が鼻息荒く、新しいランクルをリアル化した。
「さあ、グラディシュカ修道院へ行こう。今日中に着くぞ。」
俺の言葉を聞いてパメラとアルテは項垂れていた。
特にアルテは、日本文明中毒だからな・・・
だけど、どうすればいいんだろう・・・
悪路走行性能がアップし、より快適に走るようになった新しいランクルを、
ご機嫌で1時間ほど走らせると、三差路に着いた。
北に行けばグラディシュカ修道院へ、
東へ行けばセベシュ村、ベハルカ村があるらしい。
「何か来たにゃ!」
セベシュ村の方から4頭の馬が駆けてきた!
事情を聞くべく、車を降りて待つことにした。
神父と兵士が馬上にあって、それぞれ空馬を連れているが、走り続けてきたらしく、
2人も4頭も疲れ切っていた。
騎馬は俺たちに気づいて止まると、神父が馬上から尋ねてきた。
イケメン神父だ!
「君たちは?」
「カデックに来たばかりの冒険者です。どうかしたんですか?」
「セベシュ村にゴブリンの大群が襲ってきたんだ!
私はグラディシュカ修道院へ、彼はカデックに応援を求める途中なんだ!」
!!!
「助けに行きましょう!」
パメラが凛と声を上げた。
「待て!その前に、花梨、バケツを4つ!
2リットルの水を4本!スポーツドリンクを2本!」
「は、はい!」
「貴方たち、ほんの少し、休憩してください。
馬に水を用意します。
その村はどんな状況ですか?」
「ゴブリンが2000以上、襲ってきたんだ。
冒険者20人が防いでいる間に、村人は避難する計画となっている。
スパイス・ガールズっていう、金ランク冒険者がいるから大丈夫だと思うが・・・」
4つのバケツに水を入れると馬がバケツに顔を突っ込み、水を貪るように飲んだ。
「貴方たちはこれを飲んでください!」
「ありがとう。おおっ、なんだこれ、美味いな。」
神父と冒険者は花梨の差し出したスポドリを飲み干すと、
ほんの少し笑顔を浮かべた。
「ありがとう、君たちのお陰で元気が出たよ。」
「俺たちが助けに行きます!」
「頼む!俺たちもすぐに加勢を連れて行くから!」
神父たちと別れ、仲間たちと視線を合わせた。
「パメラ、アルテ、グラディシュカ修道院へ、行かなくていいのか?」
「モチロンです。困っている人を助けましょう!」
パメラは迷いなく答え、そのパメラをアルテは眩しそうに見つめていた。
「グレイスたちはカデックの街に引き返したほうが・・・」
「三蔵さんたちと一緒の方がきっと安全です。」
グレイスもきっぱりと言い切った。
信頼してもらって、胸が熱くなった。
「分かった。舌を噛むから口を開くなよ。飛ばすぜ!」
20分ほど、いつもの倍の速度で走ると、鬨の声が微かに聞こえてきた!
近い!
スピードを緩め、指示を出す。
「九郎、武器をリアル化!たくさんだ!出し惜しみするな!」
「おう!」
「九郎はサンルーフから、花梨は窓から攻撃!」
「りょ!人がいない所を撃つじゃん!」
花梨はまだ、射撃がそんなに上手じゃない。
「タイミングを見て、車から降りるけど、降りるのは俺とアルテだけだ!
子どもは絶対に降りるな!」
「「「はい!」」」
大勢がこっちに来ている!
ゴブリンか?それとも村人か?
「人間じゃん!」
数十人、数百人が逃げてきているのか!
ブー!ブー!ブー!
クラクションをけたたましく鳴らし、申し訳ないけど、村人たちに避けてもらった。
百人以上の住民たちとすれ違うと、その500メートルほど向こうで、
10数人の人たちが数十倍はいるゴブリンと戦っていた。
殿の冒険者たちか?
数の暴力に押され気味だ!
「まっすぐ、突っ込むぞ!」
ブー!ブー!ブー!
クラクションをけたたましく鳴らし、
避けた冒険者の隙間にランクルを突っ込ませた!
ドンドンドン!
数匹のゴブリンを弾き飛ばした!
ゴブリンどもが驚き、前に進む圧が少し減った。
よしっ!
「人は後ろにしかいないぞ!」
「手りゅう弾、投げまくるよ!」
ドン!ドン!ドン!
サンルーフから顔を覗かせ、九郎がポイポイと手りゅう弾を投げつけると
次々と爆発し、多くて10匹くらいのゴブリンが倒れていく!
「アッシは左からサブマシンガンで!」
ダダダダダダダッダダダダダダダダ!
左後部の窓を開けて、花梨が連射すると数匹のゴブリンがぶっ倒れた!
近くにいたゴブリンどもが、ボロボロの剣や槍、投石なんかで攻撃してくるが、
車のボディと窓ガラスは傷つかず、すべて弾き返していた。
「九郎、この車、凄いな!」
「だろ!」
俺はゴブリンの数が多い方へ、多い方へ突き進み、ゴブリンどもを轢き殺していく。
「右斜めから魔法だ!」
アルテの声が響いた。
「任せて!」
九郎が投げた手りゅう弾が魔法より早くさく裂し、ゴブリンメイジが爆死した。
「体が大きい奴がいるぞ!」
「上位種だ!
アイツらが指示を出しているぞ!
これだけいれば、ゴブリンキングもいるかも!」
九郎と花梨の攻撃は上位種に狙いを定めた。
右前方にひと際、ゴブリンの大きな群れが見え、そこへ突っ込んでいった。
数匹のゴブリンを轢き殺してほんの少し減速した瞬間、
背が2メートル近くの巨大ゴブリンに受け止められ、前に進まなくなった!
近すぎて、手りゅう弾はダメだし、花梨のサブマシンガンの射程外だ!
「バックするぞ!」
ギアをバックに入れ、アクセルをべた踏みした。
止まったことで、後ろに近づいていたゴブリンどもをバックで轢き殺していく。
車の前進を止めた巨大ゴブリンがバランスを崩し、ガードパイプから手を離した。
「チャンス!」
巨大ゴブリンの後ろで手りゅう弾が爆発し、前のめりに倒れた!
ギアをセカンドに入れて、アクセルをべた踏みして急発進し、
巨大ゴブリンの頭を踏みつぶして、さらに前へ、前へ突き進んでいく。
「おいおい、この車、加速がヤバいぞ!ひゃっほ~!」
ゼロヨンみたいな加速にテンション、ダダ上がりだ!
右で手りゅう弾が爆発し、左はサブマシンガンの軽快な音が響き、
次々とゴブリンどもが倒れていく。
向こうに、さっきのよりさらにデカイ奴がいた!
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