第31話 カデック
朝になって、ボリスとオポチュニティズに別れを告げ、出発した。
昨日、ボリスとウォーレンに仲間にしてくれって言われたけど、
男だったから反射的に拒否してしまった。
オポチュニティズの4人は全員18歳で、俺たちより2つ年上だ。
みんな俺より20センチ以上、背が高くて、彫りの深い顔だったけど、
貧乏で、弱っちいから花梨のお眼鏡には叶わなかったらしい。
仲間にしてあげなくて、ちょっと、申し訳ないなって思っていたけど、
朝からパメラの回復魔法を、デレデレしながら受けているのを見て、
仲間にしなくて正解だったと確信した。
もし、次会っても他人のフリをしてやる。
まあ、その代わりに武器がボロかったので、
コンゼルで倒したノトーリアスの武器を譲ってやったら、
大喜びしていたよ。
あとは、今日の昼ご飯は外で、お好み焼きパーティする予定。
さぞかし、匂いにつられ、たくさんの魔物を呼び寄せるだろう。
ウォーレン達と別れた翌日の朝、カデックの街に着いた。
ここは東の魔の森から魔物が侵入するのを防ぐ城で、高い城壁に囲まれていた。
人口は8千人くらい、うち兵士が500人、冒険者が1000人くらいという、
荒れくれものどもの街だ。
このカデックの街の周辺にいくつかの村があって、
兵士は魔の森の手前にある村を守るのが仕事で、
魔の森に入って魔物を狩るのが冒険者の仕事と棲み分けが決まっている。
最近は、魔物が溢れすぎているらしいが・・・
とりあえず、カデックの街では情報収集だけする予定だ。
九郎が冒険者ギルドへ、パメラとアルテが教会へ、
花梨とグレイスが飲食店なんかへ情報収集に向かった。
サポネは、バッドカンパニーの連中に出会いたくないので、
俺とミレーネと城壁の外でお留守番だ。
九郎が羨ましそうに俺を見ていたけど、
いざっていうとき、サポネを守れないといけないからな。
九郎がいないとランクルもコテージも維持できないから、
三人でレジャーシートの上でゴロゴロしたり、
鬼ごっこしたり、算数を教えたりしたのだが、
時間が過ぎるのがすごく遅かった。
昼ごはんのコンビニ弁当を食べ終わってしばらくすると、
ようやくみんなが戻ってきた。
九郎がひどく落ち込んでいて、花梨が激怒している!
「どうかしたの?」
「ここのギルド、ホントに最低!ほら、九郎、出して!」
九郎がリュックから取り出したプラモのランクルが壊れている!
「どうしたんだ、これ?」
「ギルドに入ったらすぐにバカどもに囲まれて、殴られたって!
気が付いたら、金を奪われていて、ランクルは踏みつぶされていたって!」
「ギルドの中で?」
「そう!そんな九郎に、誰も声をかけたりしなかったんだって!」
「本当かよ?殴った奴は?」
「犬人が中心だったけど・・・」
「くそっ!九郎、すまん。みんなで行けばよかったな。」
「いや、僕が弱いのがいけないんだよ・・・」
「そんなことないです!
最初はみんな、若くて、弱いんです!
そんな人を守るつもりがないってことは、もう終わっているんです!」
いつもニコニコ笑顔のパメラも激怒していた!
「・・・昨晩のキャンプ地に戻ろう。」
サポネが九郎にそっと寄り添って、手を繋いでいた。
「クロニィ、元気だして・・・」
「ありがとう、サポネ。」
こんなことがあるかもしれないとコテージやたくさんの武器は俺が守っていたが、
当然、九郎を一番に守るべきだったと後悔していた。
コテージをリアル化すると、九郎は
「あとは任せるよ。」
って部屋に閉じこもってしまった。
新しい車を作成するらしい。
まあ、九郎にとっては、プラモを作ることが一番の気晴らしだから、
そっとしておこう。
だけど、まだ、花梨が怒っていた。
「ねえ、なんかやり返すじゃん!」
「そうなんだけど、ギルドもムカつくけど、街中で暴れるワケにはいかないし、
連中が何人いるかもわからないよな・・・
悔しいけど、復讐は後にしよう。」
「・・・後回しばっかじゃん。」
花梨が子どもっぽっく、口を尖らせた。
「・・・ごめん。」
「・・・こっちこそ、ごめん。無茶だった。」
花梨は頭を左右に振って気分を入れ替え、仕入れてきた情報を話し出した。
「まず、カデックの通行証を持っていないっていったら、
通行証を作るのに、1人大銀貨5枚(2万5千円)要求された。」
「うわぁ、他の都市の5倍以上って・・・」
「ホントに、金に困っているのが丸わかりじゃん。
あとは、ウォーレンたちが言ってたとおりじゃん。
領主のオリテンブルク辺境伯は兵士100人を2セット、
ずっと巡回させているけど、魔物の脅威は減らないんだって。
農作物の収穫は壊滅だから、魔石がいくらあっても足りないみたい。
一つの村が魔物に耐えられなくなって、カデックまで村ごと逃げて来たんだけど、
城内に場所がないから、場外でテント暮らししているんだって。」
「マジか、きついな。そんなのどうやったら助けられるんだろう?」
「魔物を全部、やっつければいいにゃ?」
「魔物を全部、倒せたとしても、きっと問題が山積みじゃん。
情報もないし、伝手もない。
今のアッシたちだけじゃ無理じゃん。」
「俺たち、全然ダメだな・・・
アルテとパメラはどうだった?」
アルテは重くなっていた口を開いた。
「もともと修道院はイリス神さまの威光を広げるために、
この東の魔の森を切り開くことを目的としたものなのだが、
どうやら魔物から自分たちの農地を守るのに汲々としているようだ。」
「領主も教会も困っている人でなく、自分たちを守るのを優先か・・・
こんな遠くまで来たのに、夢も希望もないな・・・」
「・・・」
「グラディシュカ修道院の場所は?」
「東へ歩いて2日だ。」
「とりあえず、明日の朝、九郎の様子を見て、グラディシュカ修道院へ出発だな。」
「はぁ。」
アルテの返事はため息だった。
「あの・・・修道院に行った後はどうするつもりですか?」
グレイスが遠慮がちに問いかけてきた。
「以前、花梨と九郎と話し合った時は、俺と九郎は冒険者になりたいって、
花梨は旅して困っている人を助けようって話だったんだ。
でも、カデックのギルドが信用できなくて、
バッドカンパニーっていうクランの連中がいるなら、
サポネはこの街にいられない。
そうだな、今度は北のドーブラ公国だったっけ?
そこを旅してみるとか・・・」
「ええっ!どこかへ行ってしまうのですか!」
パメラが凄く寂しそうな顔をしていた。
「ちょっと待て!そうだ!私がお前たちを修道院に住めるように交渉してやる。」
「ああ、いい案ですね、アルテ!」
パメラとアルテがすがるように俺たちを見つめた。
「いや、そもそも教会には絶対に近寄りたくないんだ。ごめんな。」
「そ、そうなんですか・・・」
パメラとアルテがガックリとしているが、こればかりは譲れない。
花梨もこの話を聞いているが、黙っているので賛成なんだろう。
「私たちは一緒に行ってもいいですか?」
「もちろんだよ。ただ、やりたいこと、住みたいところがあれば教えてね。」
「ありがとう。」
グレイスとミレーネは笑ってくれたものの、
パメラとアルテが落ち込んでいて、花梨はまだ怒っていた。
「気分転換に外で体を動かしてくるわ。」
逃げ出そうとした俺の袖をサポネが摘まんだ。
「サポも行っていいにゃ?」
「うん、一緒に行こうか。」
あぜ道を歩き始めてしばらく行くと
雑草がぼうぼうと伸びている麦畑が広がっていた。
辺りに人影はなく、面白いものは何にもないのに、
サポネは笑顔でスキップしていた。
「なあ、サポネ、こんなに遠くまで来たけど、どうかな?
何か、困っていることはない?」
「ないにゃ!毎日、楽しいにゃ~。」
「そっか、よかった。じゃあ、やってみたいこと、なんかない?」
「やってみたいこと?
う~ん、う~ん、このままずっとサニィたちと旅したいにゃ~。」
上目遣いで甘えてくるサポネが超可愛い!
「そっか。うん、俺もそれがいいな。
でも、行き止まりまで来ちゃったんだよね。
どうしようかな~。」
サポネは黙ったままだったけど、林の手前で俺の袖を引っ張った。
「サニィ、何か怖いモノがいるにゃ・・・」
・・・何故か知らないけど、負ける気がしないな。
魔物なら、やっつけてやろう。
ギルドの奴ら、九郎をイジメやがって!
サポネとの楽しい時間を邪魔しやがって!
八つ当たりしてやるぜ!
向こうからやって来たのは背が2メートルは軽くある角のある巨人だった!
長い棍棒を持っている!
「オーガにゃ!」
「サポネは離れていて。」
サポネはブルリと体を震わせて、闘志を見せた。
「サポも戦うにゃ!」
「じゃあ、サポネは牽制だけしてくれ!
棍棒は伸びてくるから気を付けて!
行くぞ!オーガ!」
滑るように近づくと、オーガは棍棒を横殴りに振り抜いた!
全力でしゃがんで躱し、そして前方に飛びながら、長剣で右足を切断する!
キン!
マジか!
太ももの筋肉で防ぎやがった!
傷つき、血は流れているものの、オーガにとってはかすり傷だ!
慌ててバックステップしたが、
棍棒が今度は上から降ってきたのを横っ飛びで躱す。
「こっちだにゃ!」
サポネがオーガに石をぶつけたので、一瞬、オーガの気がそれ、
その間に態勢を立て直した。
「サポネ、ありがとう!」
奴の硬い体を切り裂くにはどうしたらいい?
決まっている。
剣に魔力を纏わすんだ、インパクトの瞬間に!
失敗したら死ぬ、この緊張感の中でやれるか?
「ごおおおおおお!」
オーガがサポネを狙った!
「サポ、大きく逃げろ!」
必死でバックステップしたサポネの鼻先を棍棒が通過した!
「俺が相手だ!」
オーガを食い止めるべく、前に出たら、
オーガがまた俺を狙って棍棒を横殴りに振ってきた!
「うおっ!」
ジャンプしてオーガに飛び込み、空中で渾身の片手突きを放つと、
長剣がオーガの喉に突き刺さった!
「やったにゃ!」
オーガの目は光を失い、その巨大な体は前後にフラフラとしたあと、
仰向けに倒れた。
「ふ~、怖かったな。」
「サニィ、強いにゃ!カッコいいにゃ~!」
「フフフ、まあよ。」
長剣を構え、大見えを切ってやった。
観客は一人だけだけど。
「魔石!魔石!魔石!」
サポネは俺の大見えに全く興味を示さず、魔石を取り出し始めた。
恥ずかしい・・・
ピクン!
サポネの耳とカギしっぽがピーンと立った!
どうしたんだ、敵か?
「サニィ、サポ、回避のスキルをもらったにゃ~。」
サポネが嬉しくって体をクネクネさせた。
超可愛い。
いやぁ、九郎に見せてあげたかった。
これも見たらたちまち、元気になったハズだ。
「おめでとう。さっき、上手に避けたもんな。さすが、サポネだね。」
褒めるとサポネは目を細めて、頭をほんの少し差し出してきた。
「ありがとう、サポネのお陰でさっきも助かったよ。本当にありがとう。」
ご希望通り、サポネの頭を優しく撫でた。
「サニィの役に立てて嬉しいにゃ~。」
「じゃあ、魔石を取って、コテージに帰ろうか?
みんなに俺たちの活躍を自慢しようぜ。」
「はいにゃ!」
俺たちは意気揚々と帰っていった。
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