激闘編

第29話 オポチュニティズ

人気がなく寂しいですが、書いてある分だけ投稿続けます。


★★★★★★★★★★★


俺たちの名はオポチュニティズ、カデックの新進気鋭の銅ランクパーティだ。


今、俺たちは絶対絶命のピンチに陥っている。

俺たち4人プラス護衛対象のボリスさんはマッドウルフ20匹に取り囲まれていて、とっくの昔に切り札の毒は無くなっていた。


カデックへの街道で50匹ほどの大きな群れに襲われた俺たちは

馬車を守りながらなんとか岩場をまでたどり着き、岩場を背に戦っている。


半分くらいは殺したものの、俺たちは疲れ切っていて、

それを奴らはちゃ~んと解っていた。

全方向から包囲されない位置取りだが、代わりに、

逃げ出す隙が全く無くなっていた。


悪知恵の働くマッドウルフどもは連携しながら、襲い掛かるフリをして、

俺たちをさらに疲れさせようとしていて、

そのうち、チャンスを見つけて一斉に襲い掛かってくるだろう。


いつまで、持つだろうか・・・


俺たち、オポチュニティズは同じ孤児院出身の兄弟同然の4人で3年前に結成した。

俺、ウォーレン(戦士)がリーダーで、サブがカスパー(戦士・猫人)、

ライナー(斥候・犬人)、ルイ(戦士)の全員18歳の男だ。


1年くらい前から、カデックの周辺に魔物がたくさん出没するようになっていて、

そいつらを上手に狩っていた。


数か月前、王都からバッドデイっていう金ランクパーティが100人ほどの

冒険者を連れてきた。


それまではカデックの冒険者には派閥なんてものはなかったのに、

奴らはそれを持ちこんで、仲間内で美味しい依頼を囲い込むようになっていった。


まだまだ駆け出しの俺たちには魔物がどこに出たかっていう

情報が回ってこなくなった。


そんな時だ。

近所に住んでいる没落商人のボリスさんから声をかけられたのは。


「おい、いい話があるんだが、噛んでみないか?」

「へ~、いい話って。」


「ボリスさんの話はギャンブル性が高すぎるからな。

ちゃんと説明してくれるか?」

俺は食いついてしまったのだが、カスパーが冷静に説明を求めた。


「今、カデックでは食料が不足している。わかるよな?」

「ああ、周辺では魔物が多すぎて農作業、収穫が難しくなっているし、

コンゼルからの食糧の輸送もやっぱり魔物のせいで少なくなっていて、

全部の物の値段がすんごく上がっているよな。」


「そうだ。コンゼルでは魔石が、このカデックから送られないので、

メチャクチャ不足しているそうだ。

つまり!こっちから魔石を持っていけばぼろ儲け!

向こうから食料を持って帰ればぼろ儲けってワケだ!」

どうだって鼻息を荒くしたボリスさん。


「みんな、ちゃんと分かっているけど、難しいから誰もしないんでしょ。」

カスパーが何をくだらないことをって塩対応だったのだが、

ボリスさんはまったく応えていなかった。


「ふっふっふ。これは極秘情報なんだが・・・

20日後に、ここの騎士団を護衛として、大商隊が出発するらしい。」

「へ~、それに混ぜてもらえばいいんじゃない?」


「みんなと一緒じゃぼろ儲けできないだろ?奴らより、先行しないとな!

だから、今から出発して、帰りにその大商隊とすれ違うようにするんだ!」


「おお!帰りは騎士団が魔物を掃討済の街道を行くワケか!」

「そうだ!

それに、行きは魔石だけだから軽くて、旅の日数を少なくすることが出来るんだ。

それに、秘密兵器がある!これだ!」

ボリスさんが自信満々に差し出したのは液体が入った小さな瓶だった。


「なにこれ?」

「毒だ!しかも即効性のな!これで傷つけられれば魔物でも即死だよ!」

「むむむ!報酬は?」

「俺とお前らパーティで半々だ。」

「乗った!」


行きはコンゼルまで通常、15日のところを10日で駆け抜けた。

ボリスさんの用意した毒の効果は凄くて、魔物どもを簡単に倒していったのだが、

魔物の数が多すぎて毒がもう無くなってしまいそうだった。


そして、コンゼルにたどり着くと魔石は本当に高く売れた!

ぼろ儲けだ!


「危ないから帰りは他の商隊と一緒に行くべきだ。」

カスパーは冷静にそう提案したが、ボリスさんは強気だった。


「帰りは騎士団が護衛している大商隊とすれ違うハズだ。

そこまで無事ならいいんだ。行こう!」

今は春小麦の収穫後で、1年で最も小麦の安い時期らしい。

馬車に積めるだけの小麦を買って、1日でも早く、カデックへ帰るんだ。


俺とボリスさんは欲に目がくらみ、カスパーの提案も聞かず出発した。


行きは魔石だけだったので、荷が軽かったのだが、

帰りは小麦をたくさん積んだもんだから、

ラバの歩みは遅くてカデックまで通常通り15日はかかりそうだった。


だけど、その中間くらいで、カデックからの商隊とすれ違うハズ。


なのに、ボリスさんのネタはガセだったのか、手違いがあったのか、

カデックまで後2日のところまで来ても商隊とすれ違うことはなかった。


幸いなことに、行きよりも魔物の数が少なくてなんとかここまで来れたけど、

切り札の毒はとっくの昔に無くなっていて、俺たちは疲れ切っていた。


そんな時にマッドウルフの群れに襲われたんだ。

数が多すぎる!

ヤバい!


デカい体のルイが大きな盾と大きな棍棒を構えて、

狼どものヘイトを集めてくれていた。

その後ろではラバがひどく怯えていた。


ルイの右には、矢、投げナイフが無くなってしまった

斥候のライナーが短剣を構えていたが、

そのライナー目掛けて狼が襲い掛かってきた!


ライナーが短剣を振ると、狼はバックステップして逃げて行ったが、

次の狼が飛び込んで、ライナーの右足に噛みついた!

「ぎゃぁ!」


「ぎゃわん!」

ルイが棍棒を振り下ろし、ライナーに噛みついている狼を叩き潰した!


今度はルイに向かって、狼が高く跳躍した!

ルイは大きな盾で弾き返したものの、狼どもが一斉に襲い掛かってきた!


「ルイ!」

俺は長剣を振り回して、ルイに襲い掛かる狼どもを蹴散らし、

1匹は殺したものの、懐に飛び込まれてしまった。


喉に噛みつこうとしてきた狼の牙を防ぐために右腕を犠牲にした!

「痛い!」

くそっ!もうダメか!


「ぎゃわん!」

ドン!ドン!ドン!

遠くから何かの音が聞こえると、俺の腕を噛んでいた狼が突然脱力した!


なんだ?

ブー!ブー!ブー!


向こうから大きな音を鳴らしながら、大きな車が、

馬が引いてもいないのに高速で走ってくる!


なんだ、あれは!


狼どもの警戒がそちらに向けられ、その隙に俺たちは態勢を整えなおした。


その車から男が一人、女が二人、車から軽やかに降りてきた。


背の低い男と鎧を着た女、二人が長剣を抜いて、こちらへ向かって走り出した。


もう一人の鎧を着ていない女は階段を上がるように空中を歩いている!

なんだ、あの女は!


長剣を持った男と女は俺たちが苦戦した狼を次々と一刀両断していく。

強い!


群れの後ろにいた狼のボスの首が突然、コトンと地面に落ちた!

斬られたのか?

一体、だれが、どうやって?


群れのボスが死んでしまったから狼どもは一斉に逃げ出し始めた。


緊張感を失った俺たちは疲れと傷の痛みで立っていられず、

地面にへたり込んでしまった。

「助かった・・・」


俺は右腕を、ライナーは右足を手ひどくやられ、

ルイもカスパーもボリスさんも浅いもののたくさんの傷を負っていた。


あと、ほんの少し、彼らが来るのが遅ければ俺たちは全滅していた。


背の低い男が剣を鞘にしまって、こちらへ歩いてきた。

だけど、本当に助けてくれたのか?

お礼に金や荷を奪われるんじゃないか?


「大丈夫かい?」

背の低い男が傷だらけの俺たちを見て、心配そうに尋ねてきた。


「助かったよ。どうもありがとう。」

ボリスさんが痛みをこらえて立ち上がり、お礼を言った。


「ボクは、〈回復(小)〉なら出来ますが・・・」

狼がいなくなってから、車から降りてきた凄い美少年がなぜか、

申し訳なさそうに申し出てくれた。


こちらからしたら、ほんの少しの回復でもありがたいしかないのに。


「ありがとう。おかげで随分マシになったよ。」

「いやいやいや、回復(小)じゃなくて、回復(中)だろって回復具合だったよ!」


治療してもらってその回復具合に驚いたのだが、

受けた傷が酷すぎたので、まだ剣は振れそうになかった。


「まだ、痛そうですね。もう一度・・・」

「同じ回復魔法は1日、1度しか効果がないんだぜ。」

「そうだったのですか!教えていただき、どうもありがとうございます。」

美少年はこんな常識も知らなかったらしいが、

心底、感謝してくれて、気分がよかった。


「アルテ、この人に回復魔法かけてくれる?」

「はい、パメラ様。」

「ほう!あれだけの剣技に回復魔法まで使えるとは!凄いな。」


つい褒めてしまうと、水色の髪の綺麗な犬人アルテは、

表情は変わらなかったものの、彼女のしっぽは激しく振られていた。


二人の回復魔法のおかげで、まだ痛いが、なんとか剣は振り回せそうだ。


その後、パメラ様とアルテが仲間にも回復(小)をかけてくれた。


それを見た俺はなぜか胸がいっぱいになって、パメラ様に跪いてしまった。

「パメラ様、どうもありがとうございます!」

「ありがとうございます!」

仲間も跪いて心からのお礼を言った。


マジで。冗談なんかではなく。

そうしたいと思わせる何かがパメラ様にはあった。


「大げさですよ。」

パメラ様はニッコリと笑ってくれた!

おおっ、神か!


全員の治療が終わると、改めてボリスさんが深々と頭を下げた。

「助けてくれてありがとうございました。

俺はボリス、カデックの商人です。」


「俺たちはカデックの銅ランク、

いやもうすぐ銀ランクになるハズの冒険者パーティ、

オポチュニティズです。」


「俺たちはこのパメラをカデックまで送っていくところなんだ。」

代表者は剣技が凄かった背の低い男で、

彼は俺たちより少し年下みたいだった。


「カデックまではあとどれくらいなの?」

「1日と半分くらいかな。」


「そうか。アンタたち、まだ本調子じゃないだろ?

急いでいくのか?」

「ああ、1日くらいなら遅れても大丈夫だ。今日はもう休みたいよ。」

俺の弱音を聞いて背の低い男は後ろを振り返って肯くと、俺たちに向き直った。


「もしよかったら、俺たちと一緒にキャンプするか?」

「いいのか?助かる。ありがとう!」

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