第28話 従兄
グレイスたちと出会ってから4日目。
カデックへ向かう途中、木陰でお昼休憩を取っていた。
今日のお昼ご飯はピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ。
一番に食べ終わるとミレーネが蝶を追いかけ始め、
サポネとパメラが、ミレーネと一緒に楽しそうに追いかけ始めた。
かっぽかっぽと馬2頭がのんびりと引っ張っている箱型馬車が近づいてきた。
先頭を歩いている護衛は俺たちをちらっと見ただけで通り過ぎた。
しかし、御者と並んで座っている男がこちらを見て、驚きの声を上げた。
「「あっ!」」
同時に、隣に座っているグレイスも驚きの声を上げていた。
「グレイス、知り合い?」
「ええ、従兄のトーマスです。」
グレイスの口調は苦々し気なものだった。
少し通り過ぎてから馬車が停まると、
そのトーマスがニヤニヤと笑いながらこちらへ歩いてきた。
トーマスは、背が俺と同じ150センチくらいで、高級そうな服を着ている、
20代半ばの上目遣いが似合う男だった。
彼は武器を携えてはいないので、俺はのほほんと様子を窺うことにした。
「やあ、グレイス、久しぶりだね~。」
「そうね、トーマス。」
如才ないトーマスに対してグレイスはそっけなく答えた。
トーマスは俺たちを一人ひとり観察して、意外そうな表情となった。
「へ~、ポガデッツ商会のドミニコのものにならなかったんだ~。」
グレイスは怒気を含んだ表情となった。
「やっぱり、彼らの企みを知っていたんだ。」
トーマスはグレイスを上目遣いで見上げ、ニヤニヤと笑っていた。
「親父に根回しが来ていたからね~。
それよりさ、この人たち、誰なの?貧乏人ぽいっけどさ~」
やっぱり、俺たちを馬鹿にしてきた!
「私たちを助けてくれた人たちよ。」
「へ~、よくここまで来れたね~。
武器は持ってないし、めちゃくちゃ弱そうだし~。」
「・・・」
グレイスも、俺たちの誰も何も言わないから、
トーマスは下卑た笑顔を浮かべて、調子に乗って話し続けた。
「ねえ、グレイス。ウチのエーズガン支店に顔を出しなよ~。
そうすれば、君を今よりずっといい暮らしをさせてあげるよ~。
現地妻ってヤツだけどね~。」
グレイスはチラッと俺に視線をくれ、口元をほんの少しだけほころばせた。
「残念だけど、お断りするわ。
もう結婚しているもの、この三蔵とね。」
グレイスは優雅に近寄ってきて、俺と腕を組んだ。
ビックリして、さらにドギマギするが、必死で表情に現さないようにする。
「なに?嘘だろ?なんでそんなチビと!」
お前もチビだろ!
というツッコミを飲み込んだ。みんな、そうだと思う。
「それに、貴方だけでなく、誰も今の私よりいい暮らしは出来ないわ。」
グレイスは自信満々に言い放った。
「へっ?何を馬鹿なことを!
みんな、貧乏くさい服を着ているし、
馬車すらないじゃないか!」
トーマスとその仲間たちは俺たちを馬鹿にした笑いを浮かべていた。
バカはお前たちだけどな!
コンゼルの街から4日以上移動したこの場所で、
俺たちの荷物が全くない異常さに気付かないんだから。
「九郎、車を出して。」
「はい、グレイス様!!」
グレイスの凛とした指示に、九郎がいい返事した!
意外と演技派だ!
「車だって~?
一体、どこにあるんだい~?
大丈夫かい、グレイス~?」
トーマスが調子に乗って嘲り続けるが、俺たちは誰も相手にしなかった。
すぐに、九郎が観客の視線を意識しながらプラモのランクルを地面に置いた。
「なんだ、車のオモチャじゃないか!」
トーマスが笑いながら一歩近づいて、大きな声で嘲った。
「それ以上、近づくんじゃない!怪我するぞ!」
プラモに近づこうとしたトーマスとその仲間たちを
花梨がいつもと違う、凛とした口調で制止した。
「怪我?何を馬鹿な!」
トーマスとその仲間たちが騒いでいるのを他所に、
「ミレーネ様、どうぞこちらへ。」
耳とカギ尻尾をピーンとしたサポネがミレーネを
ランクルから少し離れた所へ誘った。
サポネが得意げで、ミレーネがお嬢様ぶっていて、可愛い!
「出でよ、ランクル!」
九郎が仰々しく叫んだ。
オモチャがグングンと大きくなってランクルがリアル化した!
「な、なんだ、これは!」
「こ、こんなものを具現化するなんて・・・」
「こっちの箱型馬車より大きいぞ・・・」
トーマスとその仲間たちは驚きの余り、茫然としていた。
「ご苦労様、九郎。
さあ、出発するわ。
車に乗りなさい、花梨、サポネ、九郎。」
パメラがグレイスの筆頭執事の座を奪って指示を出すと、
花梨が頬を膨らませ、サポネは耳を畳んでがっかりしながらも、
貴族とかの従者っぽく、整然と車の3列目に座っていった。
「貴方、出発準備をしてもらえるかしら。」
「わかったよ、マイハニー。」
グレイスの頼みに、甘い笑顔を浮かべ、胸焼けしそうな言葉を使ってみた。
ブルルン~
エンジンを掛けると、
初めての音に驚いたトーマスの護衛たちが剣に手を伸ばした。
「待ちたまえ。
この音は、君たちを攻撃するものじゃない。
車が動く準備をしたものだ。」
アルテが姿勢正しく、言葉も騎士っぽく護衛たちに待ったをかけた。
顔は真剣そのものだが、尻尾が激しく揺れている~!
すっごく楽しそうだ~!
「ミレーネ様、座席へどうぞ。」
アルカイックスマイルのパメラが、ミレーネに優雅に手を差し出して車内へ導き、
そして自分も乗り込んだ。
「グレイス様、どうぞ。」
アルテが、グレイスに優雅に手を差し出して助手席へ導いてドアを閉めた。
バタン!
「うわっ!」
近くではなかったのに、ドアが閉まったことに驚くトーマスとその仲間たち。
最後にアルテがランクルに乗り込んだ。
ウィ~
助手席の窓を開けてやる。
「おおぉ~。」
今度は感激した風のトーマスとその仲間たち。
おもしろ!
驚きっぱなしのトーマスとその仲間たちに向かって、
グレイスが愛想笑いを浮かべて手をゆっくりと降った。
「それでは皆さん、ご機嫌よう~。」
挨拶が終わると、俺はゆっくりとアクセルを踏んだ。
「う、動いたぞ!」
「誰も、引っ張っていないのに!」
「す、すごい!」
「ほ、欲しい、あの車!」
トーマスとその仲間たちの驚きの声を楽しく聴きながら加速していく。
しばらくして、誰かが我慢できず噴き出すと、みんな揃って爆笑した。
「「「「「「アハハハハハハハハハハ!!!!」」」」」
「馬鹿じゃん、マイハニーって!」
「笑われていたの、俺かよ!」
「「「「「「アハハハハハハハハハハ!!!!」」」」」
俺含めてみんな、笑いすぎて超しんどかったよ。
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