第27話 裏切者

「じゃあ、これからはみんなの安全と楽しさを第1にして旅をしよう。

とりあえずの目的は、グラディシュカ修道院へパメラを送ること。

途中、魔物を狩りながらカデックへは歩きの半分、8日くらいを目途に。

カデックでどうするかは、これから考えよう。


もうすぐ出発するけど、さっきグレイスさんたちを助けた時にいたゴロツキどもは、

銅ランクパーティしかいなかったらしい。

コンゼルの街には銀ランクが4つあるそうで、

こいつらが待ち伏せしているかもしれないから、慎重に行こう。」


「戦いは任せておけよ。」

アルテが自信満々に言うと、サポネとパメラが「はい、はい」って手を挙げた。

「サポは敵を見つけるにゃ!」

「ボクは〈回復(小)〉が使えます。」


「おおっ、それは頼りになるな!」

俺がうんうんと肯くと、サポネとパメラは嬉しそうだった。


グレイスさんがおっとりと手を挙げた。

「食事は私が用意しますから!」


「「「「やった!超たのしみ~!」」」」

みんなが歓声をあげたので、グレイスさんは腕まくりをして、

鮮やかにエプロンを付けた。



・・・・・・・・・・・・・・


20時過ぎて、出発した。

コンパスと車のヘッドライトを頼りに、1時間ほどゆっくりと東へ進んでいた。


「止まって!」

サポネが鋭く声を出したので、みんなで索敵すると・・・


「何人か、いるにゃ?」

「うん、たぶん、いるね。」

「どのくらい?」

「4、5人にゃ。」


俺とアルテが堂々と、花梨は光学迷彩を使ってこっそりと車から降りた。


俺はサブマシンガンを構え、アルテが盾を左手に、右手に片手剣を持って、

前方を睨みつけた。

用意していた投光器で前方をさらに明るく照らした。


車の20メートル先に大きな盾を持ったプレートアーマーがただ一人、現れた!


全身鎧のくせに、油断なく盾を構えていた。

仲間が昼間にコンゼルの街で圧倒されたから、ずいぶん、警戒しているようだ。


「たぶん、ノトーリアスっていう銀ランクパーティの一人です。6人組です。」

グレイスの小さな声が聞こえた。

残り5人は麦畑に隠れているってことか。


「アイツの周りにバラバラと隠れているにゃ!」

今度はサポネが小さな声で教えてくれた。

可愛いうえに、ホントに役に立つ、凄い子だよ。


うん、囲まれていなければ大丈夫だ。うん。


だけど、どこにいるか分からないから、

サブマシンガンを闇雲に撃っても当たらないな。

どうしよう?


プレートアーマーがだみ声で怒鳴った。

「なんだか、凄い馬車じゃね~か。

お前らがグレイスを攫ったんだろ?

お前ら、死にたくなければ降伏しろ。

お前らは20人の冒険者に囲まれているんだ。

今すぐグレイスを解放すれば、見逃してやる。」


「ねえ、グレイス。こいつとどんな関係?友達?」

プレートアーマーにも聞こえるように大きな声で問いかけた。


「長い間、私たちの護衛でした。

でも、夫が亡くなった時は、他の護衛があるとかで行ってくれなかったんです。

その後は、ポガデッツ商会の用心棒みたいで・・・」


「最低の!裏切者だな!」

吐き捨ててやると、アルテも追随してくれた。

「ああ、こいつ等の言うことなんか、信じられるワケない!」


「黙れ!お前たちはもう囲まれている!

これが最後だ!降伏しろ!」


プレートアーマーの脅しの言葉を無視して車の中に話しかけた。

「九郎、手りゅう弾を6個、くれ。」

「うん、ちょっと待って。」


「危ない!」

カン!

アルテが矢から守ってくれた!


「ありがとう!」

アルテにお礼を言って、手渡された手りゅう弾のピンを次々と抜いていく。

「お礼をプレゼントするぜ!」


油断を誘うため、プレートアーマーの左奥に3つ、右奥に3つ、

余裕で逃げられるように、山なりで投げた。


「バカめ!どこに投げているんだ!」

プレートアーマーの嘲笑が終わると同時に、空中で次々と爆発した!

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


「ぎゃぁ~!痛い!いた・・・」

手りゅう弾の爆発で、中の破片が飛び散り、被害を受けた何人かの悲鳴が聞こえた。


プレートアーマーも背中とふくらはぎをやられたようで、

跪いて呻きながら、腰に付けたバッグに手を伸ばしていた。


「4人は死んで、右の奴は逃げ出したにゃ!」

「じゃあ、俺はプレートアーマーを殺ろう。」


一歩、前に出たら、アルテに手首を掴まれた。

「油断するな、私の後ろをついて来い。」

やだ、カッコいい!


盾を構えたアルテは油断なく近寄っていく。


「ぎゃあ!」

遠くから男の断末魔が聞こえた。


「あとは、そのヨロイの男だけじゃん。」

逃げ出そうとした男を始末した花梨が空中の見えない階段を優雅に降りてきた。

ほんと、カッコいいわ。

「さんきゅ。」


ギン!

プレートアーマーが起き上がりざま、横殴りに剣を振ったのだが、

アルテが盾でしっかりと受け止めていた!

ふん!

俺は剣を抜いて、上段から鋭く振り下ろした。

ギン!


「ぎゃっ!」

俺の剣は鉄の籠手を、剣を持った右腕ごと斬り落とした。


「た、助けてくれ・・・」

プレートアーマーが自分の途中から無くなった右腕を掴みながら

哀れっぽく命乞いをしてきた。


「死にたくなければ、質問に答えろ。

だれに、何を頼まれたんだ?」


「ポガデッツ商会!ドミニコに頼まれたんだ!

グレイス・・・さんを連れて来いって!

悪かった!だけど、アイツらには逆らえないんだ!

逆らうと殺されるんだ!

頼む、助けてくれ!」


「グレイスさんの夫を殺したのに許すわけないだろ?」

カマをかけてみると、余裕が全くないプレートアーマーは絶叫した。

「俺たちじゃない!それは侯爵だ!」


「侯爵が?・・・あんなにお父さんが献金したのに・・・」

後ろからグレイスさんの凍り付いた声が聞こえ、背中が寒くなった。


「本当だ!嘘じゃない!俺たちは悪くないんだ!」

「何言っている?俺を殺そうとしたじゃないか?」

「それは射手だ!俺は盾を構えていただけだ!」

「はい、そうですか。」


やり取りが面倒くさくなって、首を飛ばしてやると、花梨に揶揄われた。

「ああ、三蔵って気が短いんだから!」


「侯爵のことだって、本当のことかなんてわからないだろ?

今すぐ逃げ出すから、拷問する時間ないし。

嫌いだから、拷問なんてしないけど。」

拷問って単語で花梨が顔を歪めた。


・・・・・・・・・・・・・・


30分ほど車で東に進んで、再度、コテージをリアル化した。


俺が最後にシャワーを浴びて、リビングに戻ったら、

グレイスさんがたった一人、テーブルに座って、肩を震わせて泣いていた。


アイツらと出会ってからずっと落ち込んだままだった。


俺は黙って、熱いカフェオレを2杯用意して、

そしてグレイスの隣に座った。


「・・・グレイスさん、熱いカフェオレを入れてみたよ。

コーヒーに牛乳をたっぷり入れているんだよ。飲んでみて。」


コーヒーカップをそっと差し出し、

自分のカフェオレをゆっくりと飲んでいた。


はぁ~っと大きなため息を吐いて、グレイスさんはカフェオレを口に含んだ。

「これも美味しいですね、砂糖が無くても甘いですね。」


「気に入ってもらえてよかった。

・・・ねえ、もしよかったら、俺に思っていることを吐き出したらどうかな。

ちなみに、俺の口は貝より固いよ。」


「・・・」

「あっ、熱く熱せられるとパカって開いちゃうけど。」

「ダメじゃない、うふふ。」

渾身のギャグがウケた!やったよ!


「絶対に、誰にも話さないし、口に出せば気分が楽になるよ。」

「ありがとう。」


グレイスさんは俺の腕をつかんで、その額を押し付けてきた!

「酷い、酷すぎるよ!

ずっと領主に献金してきたのに!

ずっと前から、私たちを嵌めるつもりだったんだ!


夫を殺して!

親戚たちを脅かして!

取引先や従業員まで裏切らせて!

私が跡を継いだあとも献金をしていたのに!

ずっと、ずっと、馬鹿な女だって嘲笑われていたんだ!

ごめんなさい、お父さん、貴方、大事な商会を守れなかった!」

グレイスさんは声を押し殺して熱い涙をこぼしていた。


「・・・グレイスさんのせいじゃない。

相手が悪辣だっただけだよ。

・・・ごめんな。

俺たちの力はまだ小さくて、そいつらにやり返すことが出来ない。

でも、グレイスさんとミレーネがずっと笑顔でいられるように頑張るから。

二人が安心して眠れるように、これから立ちふさがる奴らはぶっ飛ばすから。


今、信じてもらわなくてもいいよ。

まだ、出会ったばかりだからね。

これからの俺たちを見ていてくれ。

グレイスさんとミレーネが笑顔でいられるように頑張るからさ。」


「・・・ありがとう。」

俺はグレイスさんが泣き止むまでの間、じっとグレイスさんの熱を感じていた。


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