第26話 プレゼント

コテージに入ると、花梨がサポネをお風呂に連れて行った。

クリーンの魔法で綺麗にしたけれど、やっぱり血だらけだった手は、

気分的にお風呂でしっかり洗ってあげたいみたい。


グレイスさんとミレーネにはアルテがキッチン、トイレの使い方、石鹸での手洗いを

得意げに教えていた。


一通り教えてもらうと、

グレイスさんは欠伸を連発していたミレーネをベッドで寝かしつけた。

まだ日も暮れていないけれど、ミレーネは色々ありすぎて疲れたみたい。


そして、グレイスさんは、ウキウキしながらケトルでお湯を沸かし、

熱湯をティーカップに注いだ。

「凄い・・・熱湯だわ。」

「うんうん。」


そのティーカップに興味津々、紅茶のティーバック浮かべた。

「おおっ、ちゃんと綺麗な色が・・・」

「うんうん。」


グレイスさんはティーカップをのぞき込んで、うっとりと香りを楽しんだ。

「香りもいいわぁ。」

「うんうん。」


そして、紅茶を口に含むとはぁっとため息をついた。

「美味しいわぁ。最高級品と肩をならべそうね。」

「うんうん。」

いちいち、アルテが得意げに同意しているのがウザい。

まあ、可愛いけど。


そして、グレイスさんはテーブルの上にあった本をなんとなく開くと

大きな目を見開いた。

「こ、これは!なんて綺麗な絵なの!なんて美味しそうなの!

こ、これはもしかして、料理の作り方が書いてあるのですか?

アルテさん、これ、読めるんですか?」

料理のレシピ本に食いついたグレイスさん。


「ああ、俺なら読めますよ。」

がっくりしているアルテを横目に、グレイスさんに椅子ごとくっついた。

「どのページがいいですか?料理が好きなんですか?」


「料理が大好きなんですよ~。

料理を作ってあげると父や夫は美味しいって喜んでくれたんですよね~。

それなのに、二人とも亡くなっちゃって・・・

傾きかけた商会の経営にいっぱいいっぱいになって、

料理もしなくなっちゃったんですよね~。

あっ、これ、これです!」


ナポリタンとオムライスだった。

この世界であんまりない色が気に入ったとのことで、

トマトも米もないらしい。

「さっきのケチャップっていうやつを使えばいいんでしょう?」

グレイスさんは楽しそうに笑っていた。


そして、ナポリタンとオムライスの作り方を読み上げていくと、

グレイスさんはこれまた置いてあったメモ用紙に、

楽しそうにレシピを書き写していた。


俺に代わって、最後に九郎がお風呂に入った。

みんながまったりとしているテーブルの空いている席に座ると、

花梨が大きな木箱を差し出してきた。

「三蔵、これ、プレゼント。」


初めての女子からのプレゼントだ、わ~い!

って心の中は思っていたのだが、表面上は冷静に対応した。


「ありがとう。開けていいかな?」

三徳包丁、出刃包丁、刺身包丁、筋引包丁、菜切包丁とペティナイフが入っていた。

「うん?なんで包丁を?しかも、こんなにいっぱい?」


「だって、アンタのスキル「使い手」なら、どんな包丁でも使いこなせるじゃん!」

「天才か!」

「まあよ!」

久しぶりのやり取りに花梨と笑いあったのだが、

隣からぞくりとする視線を感じた。


そっーっと隣を見てみると、

「使ってみたい!使ってみたい!使ってみたい!」

って視線で訴えてくるグレイスさんだった。

「・・・花梨、ありがとう。でも、みんなで使おうね。」


「うふふ!」

手に持っている出刃包丁をグレイスさんがうっとりと見つめていた。

絵面がヤバい!


九郎がお風呂から上がってきて、みんな揃ってから、

グレイスさんにいろいろと教えてもらった。


・1年くらい前から、カデックの東にある魔の森から

魔物が次々とあふれ出てきて、カデックの領主オリテンブルク辺境伯は

手に負えなくなり、王都に応援を要請した。


・王都は王位継承争いまっただ中で、兵を送ることができなかったので、

冒険者約100人を王都からカデックへ送った。

・最近はこのコンゼル周辺まで、魔物が押し寄せていて、

ついでに盗賊も現れ始めた。


・コンゼルの領主であるグバルディオル侯爵は最近、金をどん欲に集めている。

・ちなみに、グバルディオル侯爵の娘は王位争い中の第3王子に嫁いでいる。

・カデックまでは歩いて15日くらい。グレイスも行ったことがない。

・パメラが行く予定のグラディシュカ修道院のことはあまり知らない。


グレイスの話しぶりは明晰で、さらに誠実さを感じさせた。


楽しそうだったサポネの耳とカギしっぽがシュンとなっているのに気付いた

九郎が心配そうに声をかけた。

「サポネ、どうかしたの?」


「・・・王都からカデックに行った冒険者パーティって金ランクのバッドデイで、

バッドカンパニーの弟分にゃ・・・」

「じゃあ、サポネが見つかったらヤバいのかな?」

サポネは悲しそうに肯いた。

「ごめんにゃさい。迷惑かけて・・・」


「大丈夫だよ、サポネ。」

一番早く慰めたのはパメラだった。

「三蔵も、九郎も、花梨も、君を大事な仲間だと思っているから、

全然、迷惑だなんて思っていないよ。

それよりも、どうやって君を幸せにしようかってずっと考えてくれている。

3人も!こんなに凄い人たちが!

・・・ボクは君がうらやましいよ。」


「パメラ様!パメラ様には私がいます!」

寂しそうに微笑むパメラを見て、アルテが叫んだ。


「うん、それに僕たちもいるよ!

まだ出会ったばかりだけど、パメラは僕たちの仲間だよ!」

九郎が熱を込めて話すと、パメラは花が咲いたような笑顔を浮かべた。


「ありがとう。」

よくある5文字をもらって、九郎の顔は紅潮して絶頂したような感じだった。


パメラ!

・・・男のくせに、可愛すぎる!

なんて、恐ろしい子!

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