第25話 イエス・サー

「・・・さて、俺たちは西へ逃げ出した。カデックは東だ。

どうしよう?」

「夜に、ランクルでコンゼルの街を迂回したらいいじゃん?」


「道が分かるかだけど・・・グレイスさん、なんとなくでも分かる?」

「道は分からないけれど、街の南には畑が広がっていて、

細い道がたくさんありますよ。」


たくさん道があるなら、コンパスを頼りに適当に東に行けばいいか。

いざとなったら、麦畑を突っ切ってしまおう。


「じゃあ、それまで休憩しようか!」

話し合いが終わったらすぐに、サポネが俺の袖を引っ張った。

「お腹、すいたにゃ~。」

「しまった!お昼ごはん食べてないじゃない!」

「花梨、この前のバーベキューの肉とか、海鮮とか余っていたよね?」


九郎の言葉に花梨は肯くと、右手を突き上げた。

「グレイスとミレーネの歓迎パーティじゃ~ん!」

「パーティ!パーティ!パーティ!」

楽し気なサポネのコールに合わせて、

キリっとした表情のアルテのしっぽが激しく振られていた。


花梨が伊勢エビ、牡蠣、ホタテ、刺身、肉、肉、肉を取り出した。

「これは!こんな大きなエビ!貝!

・・・信じられない・・・。」

グレイスさんが興奮して大きな声を出した。


「まあまあ、そんな難しいこと考えないで食べましょう。」

「パメラ、ミレーネ、エビはこうやって食べるにゃ~。」

サポネがお姉さんぶって説明していた。可愛い。


ふんふんと肯いて、パメラとミレーネが伊勢エビを食べると、

美味しすぎたらしく、だんだんと足踏みしていた。


「こ、これは!なんてプリップリなの!しかも、甘い!甘いわ!」

グレイスさんがなんだか、美食レポーターみたいだった。


その後もグレイスさんは一つ一つ、食材のみを丁寧に味わい、

焼肉のタレを、年のために出していたソース、醤油、

マヨネーズをじっくりと味わっていた。


もちろん、ミレーネのお世話もちゃんとしていて、

優しくて綺麗で、いいお母さんだった。


みんながお腹いっぱいになったころ、サポネが反応した!

「何か来るにゃ!いっぱいにゃ!」

「ああ、最近はこの辺りには、昼間でさえ、魔物が出るって忘れていました!

ごめんなさい!どうしよう?」

グレイスさんが動揺していた。


やってきたのは鹿の群れだった。

50くらいか?


鹿どもは俺たちを見つけるといったん立ち止まり、そして口を大きく開け、

歯茎まで見せた。気持ち悪い。

「笑い鹿です!」


「どんな奴ですか?」

「獲物を見つけると笑うんです。

素早くて、身軽な動きで、攻撃を避けるのが上手いそうです。

こんなにいたら銀ランクでも危ないわ。」

「そりゃ、大変だ。」

「へ?それ、何です?」


ダダダダダダダダ!ダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダ!ダダダダダダダダ!

話し中にセッティングしていた機関銃を掃射して皆殺しにしてやった。


あっ、1匹、逃していた!


笑い鹿は口をカチカチと鳴らしながら、軽快に跳ねて、こっちへ向かってくる!

狙いは子どもたちか!


「パメラ様は髪の毛1本たりとも傷つけさせん!」

アルテが立ちはだかると、笑い鹿は首をぐっと下げて、鋭く跳躍した!

速い!角で刺し殺すつもりだ!


ガッ!

アルテが盾で受け止めていた!


そして、アルテが盾を絶妙に動かすと、

笑い鹿の攻撃がそれて、その首がアルテの前に差し出された。


ズバッ!

アルテの剣が一閃し、笑い鹿の首が落ちた。


「凄い!アルテ、凄い!」

「まあ、こんなもんですよ。」


パメラの激賞にパメラは大したことはありませんよって風で応えた。

だけど、その大きなしっぽはブンブン振られていて、

喜んでいるのが丸わかりだった。

可愛い。


だけど、アルテって、こんなに強かったんだ。びっくりだよ。

「バーベキューの臭いで、魔物を引き寄せちゃったね~。」

「だね。しょうがないから、少し移動しようか。」

花梨と九郎が何事もなかったかのようにバーベキューの後片付けを始めた。


俺とサポネは笑い鹿の死体から魔石を取り出していた。

「うにゃ~、サニィ!サポ、解体のスキルを頂いたにゃ~!」

「おおっ、凄いな!サポネが魔石の取り出しを頑張ったからだな!」


本当はサポネの頭を撫でてやりたかったんだけど、

笑い鹿の血だらけになっていたので、断腸の思いで自重した。

早く、手を洗ってナデナデしたい。


魔石の回収が終わるとサポネは花梨と九郎の元へすっ飛んでいき、

解体のスキルのことを伝えると、

二人から褒められ、頭を撫でられて凄く嬉しそうだった。

先を越された!悔しい!


アルテと一緒に近づいて来たパメラがにっこりと笑った。

「優しいのですね。」

「なんで?」

「サポネと一緒に魔石を回収したことです。」

「ああぁ。それは俺も上手にできるからだよ。」


「ふふふ。そうですね。」

パメラがニコニコ笑っていて、なんだか恥ずかしいなって思っていると、

アルテからめちゃくちゃ睨まれていた。怖い。


「・・・えっと、アルテって強いんだな。

最後の奴、凄く速かったのに、全く危なげなかったよな。」

「君たちに褒められても嫌味かなって思ってしまうな。」

「機関銃とか、反則だから。」


「まあ、私は、パメラ様だけでなく、自分自身も傷一つなく守るつもりだからな。

もっともっと強くなってみせる!」

「おおっ!主だけでなく、自分自身も傷一つなく守るって超カッコいいな!」

「そ、それほどでもない。」

そっけなく答えたアルテだったが、お約束通り、しっぽがブンブン振られていた。

ちょろい。心配になるくらいだわ。


車で10分ほど移動してから、車をプラモ化して、

代わりにコテージをリアル化した。


初めてコテージを見たミレーネは固まってしまい、

グレイスさんはふーっと大きく息を吐いたあと、首を3度振った。


「車といい、食事といい、武器といい、この家といい、

まあ、なんと凄い人たちに助けられたんでしょう。

どうやったら、貴方たちに恩返しができるのか途方にくれますね。」

「自分たちが勝手にやったことなんで、お気になさらず。」

出来るだけいいニッコリ笑顔で答えてやったよ。


「痛い!」

「ちょっと、こっち。」

突然、ほっぺを花梨にぎゅーぎゅーにひねられ、俺と九郎はドナドナされた。


「気を付け。」

花梨の目がギラリと怖くて、絶対に逆らえない!

マジ怖い!

「「イエス、サー!!」」


「よく聞け。アンタたちは着々とハーレムを築いている!

次は、イケメンを助けろ!わかったな!」

「「イエス、サー!!」」

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