第24話 コンゼル
パメラたちと出会ってから4日後、商業都市コンゼルが見えてきた。
「じゃあ、ここから歩こうか。」
青空が広がっていて、爽やかな風が優しく吹いていた。
先頭をサポネとパメラがおしゃべりしながら、仲良く歩いていた。
その後ろには、アルテがふさふさのしっぽを穏やかに振りながら歩いていた。
イリス教国を逃げ出して、わずか10日ほどで仲間が3人も増えてしまった。
サポネ、12歳の猫人。
ピンクのショートの髪、カギしっぽの可愛い斥候。
いつも一所懸命で、リアクションも超可愛い。
パメラ、12歳の男子。
短い黒髪、黒目の礼儀正しい子。
貴族の御曹司らしいけど、傲慢さは欠片もなく、愛想もいい。
男の子のくせに、めちゃくちゃ可愛い。
おかげで、九郎がそっちの世界へ足を踏み入れてしまった。
アルテ、19歳の犬人の戦士。
背が高く、水色の長い髪、大きなたれ目が可愛い。
何より、態度はキリっとしているのに、
ふさふさ尻尾が感情を豊かに表しているのがめちゃくちゃ可愛い。
パメラを溺愛していて、俺たちを少し警戒していて、
特にパメラのことが好きな九郎を毛嫌いしている。
だけど、コテージや車の設備に魅了されつくしている。
さらに、俺たちがご飯を作ると、ありがとうと笑って受け取り、
ふさふさの尻尾がブンブン振られている。
もう、餌付け完了済みだ。
コンゼルの大きな門をお昼前にくぐった。
オーガルザ王国東部の物資はすべてこのコンゼルに集まって、
各都市へ送られるらしい。
城門をくぐると、東西に大きな通りがまっすぐ伸びていて、
多くの馬車や人が行き来していた。
どこでお昼ご飯を食べようかとキョロキョロしながら、
特にサポネは鼻をクンクンさせながら歩いていた。
「ちょっと右見て。」
大通りを右に曲がった通りで何やら揉めていた。
大きな商店の前に何人かのガラの悪い男たちがいて、
女と子どもを取り囲んでいたが、
その前を通る人たちは知らぬ存ぜぬと素通りしていた。
なにやら、30代の人の好さそうなチビハゲデブを立てながら、
50代の毒々しいチビハゲデブが、20歳くらいの女をネチネチ責めていた。
「何度も言っているように、グレイス様、貴女には2つの選択肢がある。
1つは、ミレーネ様と、身一つでこの街を出ていくこと。
もう一つは、このドミニコ様の妾になることだ。
貴女なら知っているだろう?
この街を一歩外に出れば、どんな危険が待っているか。
貴女は嫌がっているが、妾だって、いいじゃないか!
ドミニコ様は知ってのとおり、このコンゼルの有数の商会長様で、
ミレーネ様の面倒もちゃ~んと見てくれると仰っておられるんだから。
もうクラージュ商会は終わってしまったんだ。
分かっているだろう?
貴女に味方がいるか?
クラージュ商会が散々世話してやった奴らでさえ、
誰も貴女を助けに来ないじゃないか!」
女は俯いて肩を震わせていて、女の子はその女にしがみついて泣いていた。
「どうかな、グレイスさん、悪いようにはしないよ。」
今度は、30代の人の好さそうなチビハゲデブが猫なで声を出した。
あれだ、警察やヤクザがよくやるという、飴と鞭の役割分担だ!
女の目から涙がこぼれた。
どうしよう?
女と子どもを助けるべきか?
だけど、この街に来たばかりで事情も分からない。
あの女の方が悪いって可能性だってある。
そのうえ、敵はいっぱいいるが、
こちらには九郎、サポネ、パメラと守るべき人が多い。
ここは素通りか?
いや、しかし・・・
悩んでいたら、これまでの上品さをかなぐり捨てて、
パメラが俺と九郎の腕をぎゅっとつかんだ。
「お願い、あの人たちを助けて!」
「うん、助けよう!」
即座に応えた九郎の声には怒りが込められていた。
俺もようやく、覚悟が決まった。
「おう!九郎は準備!すぐ、逃げるぞ!」
「アッシも行くじゃん!」
「私も行く!」
「サポも!」
「サポネは逃げる準備。」
腕を撫したサポネは九郎が捕まえてくれた。
「なんだ、お前ら!」
俺たちが女に近づいて来たのを見て、ガラの悪い男たちが立ちはだかってきた!
「邪魔!」
バン!バン!バン!バン!バン!
2丁拳銃で5連射して男たちの額に命中させると、
2人のチビハゲデブと8人のガラの悪い男が後ろに吹っ飛んで気を失った。
街中で人を殺さないように、ゴム弾を用意していて正解だったよ!
「逃げるじゃん!」
「あ、貴方たちは?」
「そんなの後!」
花梨が驚いている女の手を掴んで引っ張った。
「あっ、こら!」
無事だった男が逃げようとする女につかみかかってきたが、
アルテが片手剣の鞘でその男をぶん殴った。
九郎がリアル化してくれたランクルにみんな飛び乗り、
追いかけてきた男どもの目の前でドアをバタンと閉めた。
「なんだ、これは?」
男どもはランクルに驚いている隙に、九郎が急発進させて逃げ出し、
そのまま入ってきた西門を強行突破して、30分ほど走ってから止まって、
みんな車から降りた。
「あっ、あの、皆様は一体・・・」
車の中は異様な緊張感で黙ったままだったから、
女も子どもも困惑したままで、怖がっているようだった。
「おい、みんな。一列に並んで。まず謝るから。
誘拐みたいになってごめんなさい!」
「「「「「ごめんなさい!」」」」」
6人並んで、深々と頭を下げた。
顔を上げると、笑顔を浮かべて、ゆっくりと話しかけた。
「大丈夫、安心してほしい。
貴女たちを傷つけたりしない。
どこか行きたい場所があれば、安全に連れていくから!
そこまでの食事も寝床もちゃんと用意します!
だから、安心してください!」
だけど、その女も子どもも驚いていたまま、固まっていた。
女は20歳くらいか、背は170センチくらい、
胸もお尻もすっごく大きいのに腰は括れていて、
濃い茶色の髪、緑色の瞳、その右目元にはホクロがあって、
めちゃくちゃ色っぽかった。
子どもは5歳くらいの女の子で、栗色の髪をツインテールにしていて、
緑色の瞳をしていた。親子だろうか?女と似ていて可愛い。
「三蔵、アンタ、固すぎるんだよ~。
まずは、一休みしよ?」
苦笑いの花梨は俺の肩をポンポンと叩くと、
アイテムボックスからタープテントを取り出した。
「アイテムボックス!」
女は驚いて大きな目を見開いていた。
「凄い、アイテムボックスを持っているのですか!」
「持ってるじゃ~ん!でも内緒、内緒。」
「は、はい。誰にも話しません。
でも、こんなものをアイテムボックス入れている人を初めて見ました!」
「そうなんだ~。」
花梨は、気にせずバーベキューテーブルを取り出すと、
そこにお昼ご飯の後に食べようとおいていた苺3パック、
紅茶、アップルジュースを並べた。
「・・・アイテムボックスって、なんか、
もっと凄いモノが入っているって思ってました。」
女がなんだか、がっかりしたようだった。
「まあ?九郎が凄いからね~。
自己紹介や事情とかは後でね。
ひとまず、食べて飲もう!美味しいよ~。」
花梨が勧めると、俺、九郎、サポネ、パメラとアルテが苺を摘まんだ。
「「「「「「いただきます!」」」」」
「美味しいにゃ!」
サポネが先頭をきって苺を食べ、みんなが続いて舌鼓をうった。
それを見て、女と女の子もいいのかなって感じで苺を口にした。
「美味しい!」
女の子が驚きの声をあげると、アルテが尻尾をブンブン振りながら同意した。
「そうだろう!そうだろう!どうぞ、食べて食べて!」
「ありがとう。」
「ママ、リンゴジュースも美味しいよ!」
女の子が笑顔で、苺とリンゴジュースを母親に押し付けた。
「本当、美味しいね。」
母子がようやく笑ってくれた。
「じゃあ、俺たちから自己紹介します。三蔵です。」
「僕は九郎です。」
「アッシは花梨で~す!」
「この3人でトーエンって冒険者パーティを組んでいます。」
「サポもにゃ!」
サポネがビシッと右手を上げて、抗議の声をあげた。
「うん、そうだね。
今のところ、サポネと4人、カデックに行って冒険者をやる予定です。
こっちがパメラとアルテ、とりあえずカデックまで同行する約束です。」
ふんふんと女は肯いているが、
隣にいるパメラとアルテが何故か、ズーンと落ち込んでいた。
女はツインテールの女の子の肩を抱いて、話し始めた。
「私はグレイスと言います。この子は娘のミレーネ。
もともと、私の父は綿を取り扱っているクラージュ商会の会長でした。
半年前、父が病気で亡くなると、私の夫が商会長を引き継ぎました。
3か月前に、夫が商会長を引き継いだ挨拶をするため、
ホレズの街に向かう途中、盗賊に襲われ、殺されてしまったんです。」
グレイスの声は悲しみに震えていて、ミレーネの肩を抱く力が強くなっていた。
「だから、私が商会長を引き継いだのですが、
番頭に裏切られて、すべての財産をポガデッツ商会に奪われてしまったんです。」
グレイスは悔しそうに顔を歪めた。
「ヒドイ、ヒドイ!」
「うん、酷すぎるよ!」
「・・・えっと、番頭とポガ・・・商会の会長ってさっきのチビハゲデブの2人?」
俺の毒のある表現に、グレイスの頬がほんの少し緩んだ。
「人の好さそうな方が会長のドミニコ、悪者顔が番頭のラズルです。」
「よし、あいつ等、ぶっ飛ばそう!」
「待て待て。グレイスさん達はどうしたいのかな?」
グレイスは俺たちのお揃いのジャージ、ランクル、
バーベキューテーブル、アップルジュースなんかを見比べた。
「貴方たちはいったい・・・」
「俺たち、「トーエン」は困っている人を助けることを使命にしているんだ。
九郎は凄い車や凄い武器を具現化する超レア魔術師!
俺、三蔵は九郎の具現化した車や武器を上手に使用する戦士。
花梨はアイテムボックス他色々使える超有能魔術師!
そして、サポネはまだ12歳なのに、斥候の天才だ。
しかも超可愛い!」
九郎も花梨もうんうんと肯くと、サポネは恥ずかしそうに体をクネクネさせた。
「褒めすぎだにゃ~。」
「よし、やるぞ!」
俺と九郎、花梨、サポネは右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、
胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。
「「「「イエ~イ!!!!」」」」
グレイスとミレーネだけでなく、パメラとアルテもポカンとしていた。
気を取り直したアルテは、なぜだか俺たちを睨んで、
ワザとらしく咳払いした。
「う、ううん。
グレイスさん、私たちもこの4人に助けられたんだ。
ホレズで出会ってから、私たちを無償で、ここまで運んでくれた。
まあ、凄い力を持っているからなんだが。
信頼できるよ、この4人は。」
アルテが話し終わると、今度は笑顔のパメラが一歩前に出た。
「大丈夫です。私たちを信じてください。」
パメラの言葉が一番、心に届いたようだった。
なんか、パメラは信用できるって強く思う。
グレイスが透き通っている涙をこぼした。
「この3日間ほど、ずっと考えていました。
どうすればいいんだろうって。
この街の人たちはポガデッツ商会と
そのバックにいるグバルディオル侯爵を恐れて、
私たちを助けようとはしてくれませんでした。
親戚やずっと一緒に働いてきた従業員たちも、です。
長い間、取引を続けたホレズの商会もポガデッツ商会と手を結びました。
もう、どこにも行く当てがないんです。」
九郎が吠えた!
「僕たちと一緒に行こう、カデックへ!
行きたい場所、やりたいことが見つかるまで、一緒にいればいい!
・・・いいよね?」
最後はお約束どおり小声となって、恐る恐る花梨にお伺いをたてた。
「モチロン!
さっき、三蔵やアルテが言ったように、
食事や寝床、服だって、何だって用意するからさ、九郎が。
だから、このまま一緒に行くじゃん!」
「ありがとうございます!」
グレイスは涙を止めて、雲間からの陽光のような小さな笑顔を浮かべてくれた。
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