第23話 雨
ランクルが走り始めて2時間ほど、空が黒い雲に覆われ、雨が降り出した。
「・・・どうしよう。次の宿場まで走る?
この辺りでコテージに泊まる?」
「「コテージ!!」」
サポネとパメラが声を揃えた。
「じゃあ、コテージに泊まろうか。」
「やった~!」
サポネとパメラがハイタッチして喜び、
アルテはそれを微笑ましく見つめながら、
フサフサの尻尾が激しく振られていた。
「うん、僕も新しいプラモを作ってみたいな。」
九郎の言葉に花梨が身を乗り出して食いついてきた。
「おおっ、新しいヤツって何?何つくるの?」
「まあ、強くなるヤツ。具体的には秘密。」
九郎はどう、どう、凄いだろってカンジで応えたのに、
花梨は露骨に肩を落とした。
「なあんだ。じゃあ、いいわ。」
「そこまでがっかりしなくてもいいじゃない。
てか、花梨は何がよかったの?」
「えっと、サグラダファミリアとか、モンサンミシェルとか、
ノイシュバンシュタイン城とか?」
「えっ~、どんだけ凄いのを期待してんの!
それに、そんなの快適じゃないだろ?滅茶苦茶、カッコいいけどさ。」
「そこはアッシの想像力にお任せじゃん!中身は超近代的にしてみせるよ?」
「製作期間1か月を超える超大作になりそうだね。まあ、覚えておくよ。
それより、昼ご飯、夜ご飯、朝ご飯を決めようよ。」
九郎と花梨と相談した結果、昼は餃子パーティ、夜は水炊きパーティに決まった。
そして、またコテージをリアル化した。
「コテージ!コテージ!コテージ!」
ルンルンしながら、サポネとパメラがコテージに入っていく。
その後をアルテがすました顔で入っていったのだが、
フサフサの尻尾がパタパタ振られていて、嬉しいのが丸わかりだった。
可愛い!
「あれ?コテージの中は外と違って、ジメジメしていないんだな?」
アルテが呟くと九郎が得意げに食いついた。
「ああ、それはね、温度と湿度を快適なように調整しているんだよ。」
「ほ、ほう、そうか。凄いんだな。」
アルテは感情を表さず、言葉は少なかったけれど、
尻尾がもう、これでもかっていうくらい、振られていた。
感情を隠そうとしているみたいだけど、バレバレで超かわいい。
そして、餃子パーティ。
俺たちでは上手に作れないので、お気に入りの市販品を大量に用意した。
そして、ホットプレートに大量に並べ、
焼きあがるやいなや争うように食べていく。
「美味しいにゃ!」
サポネは口の中にたくさん放り込んで、
もっしゃもっしゃとご機嫌でもぐもぐしていた。
「本当に美味しいですね!」
パメラは餃子を半分に切って、それを上品に食べ、瞳を輝かせていた。
「う、うむ。これも中々だな。」
そっけなく言って、ゆっくりと食べているアルテだったが尻尾がまたまた、
これでもかっていうくらい、振られていた。超かわいい。
「む。み、見るな、見るんじゃない・・・」
俺が尻尾を見てニコニコしていることがバレてしまうと、
アルテは恥ずかしそうに頬を染めて、俯いてしまった。超かわいい!
「三蔵さん、アルテをイジメるのは止めてもらえますか?」
アルテが困っていることに気付いたパメラに叱られてしまった。
食事が終わると、トランプをやってみることになった。
暇な時間をどうするか九郎と花梨と相談したとき、
TVゲームや、ボードゲームも出そうかって話になったんだけど、
今回はトランプだけにしたんだ。
TVゲームがあって、このメンバーがいるなら、もうずっと引きこもりでもいいわ
って思ってしまったが、九郎も花梨も同じだったみたい。
異世界に来て引きこもりはカッコ悪いから、
TVゲームは絶対に止めておこうと思う。
トランプもこの世界にはないので、ちゃんと説明する。
まずは、一番簡単なババ抜きからだ。
サポネ、パメラが超ワクワクしていた。
で、やっぱり、サポネとアルテはババが手持ちになるとバレバレだった。
アルテは、表情はキリっとしたままだが、尻尾が垂れ下がってしまい、
サポネに至っては体全体でシュンとなっちゃっていた。
だけど、大丈夫。
サポネのカードを引くのは九郎にしてやったから。
サポネの持っている複数のカードのうち、九郎がババじゃないのを摘まむと、
サポネは露骨にがっかりする。
そうしたら、九郎はそのカードを引くのを止めて、別のカードを摘まむ。
そして、サポネの表情が輝くのを見て、九郎はそのカード、つまりババを引くんだ。
お陰で楽しく盛り上がることが出来たよ。
夕食が終わって、九郎が新作プラモを作るために部屋にこもってしまった。
花梨とサポネがお風呂に入り、アルテはベッドメイクに向かった。
そして、テーブルの向かいにはニッコニコのパメラが座っていた。
「・・・パメラ、この生活はどうかな?」
「最高に楽しいです!
皆さんと一緒にご飯を食べたり、体を鍛えたり、トランプで遊んだり。
三蔵さん、九郎さん、花梨さん、サポネもすっごく優しくて、
本当に貴方たちと出会えて嬉しいです!
・・・あの、ボクたち、迷惑かけていませんか?」
最後のセリフは少し、怯えながらの上目遣いだった。
ズキューン!
なんだこれ!
男のくせに、なにこの可愛さ!
パメラ!
恐ろしい子!
「えっと、ほら、知っていると思うけど、
ランクルもコテージも九郎が魔法でリアル化してさ、
食べ物や服なんかを用意出来るんだ。
だから、九郎さえいれば、何にも元手がいらないんだよね。
それに、パメラもアルテもいい人だから、全く困ってないよ。
いいや、二人と出会って、旅がより楽しくなったよ。」
パメラが、花が咲くように笑った!
ズキューン!
なんだこれ!
男のくせに、なにこの可愛さ!
パメラ!
恐ろしい子!
「そうですか!ありがとうございます!」
ニッコニコのパメラがヤヴァイくらい超可愛かった。
「あの、命を助けていただき、本当にありがとうございました。
目の前でアルテの腕が切り落とされた時、
ボクは本当に死を覚悟しました。
6人の銀ランク冒険者をアッという間に、貴方たちは倒してしまいました。
・・・それに、お腹を刺されて死にそうだったアルテに
高級ポーションを2本も頂き、
お陰で後遺症も傷痕もありません。ありがとうございます。
そういえば、あんな遠距離を攻撃できる武器ってなんなのですか?」
パメラは心底不思議そうにコテンと首を傾げた。
ぐはっ!
駄目だ!拷問より、パメラに正面から尋ねられた方がゲロっちまう!
「・・・ライフルっていう武器で、魔法の力で鉄の弾を飛ばすんだ。
九郎の生み出した魔道具だよ。」
「なるほど、九郎さんと三蔵さん、空を走っていた花梨さん、
三人とも凄いんですね!」
パメラは俺を尊敬の眼差しで見つめていた!
ヤヴァイ!
ドキドキする~!
「・・・凄いのは九郎だよ。俺は九郎の作った凄いモノを使っているだけだから。」
俺の自嘲の言葉に、パメラは首を傾げた。なんて可愛いらしい・・・
「もちろん、九郎さんは凄いです。
だけど、九郎さんの作った凄い武器を、
三蔵さんは上手に使っていたじゃありませんか。
貴方のお陰で、ボクたちは助かったのですよ。」
俺は九郎より、ランクルも拳銃もライフルも絶対、上手に扱える。
だけど、それは九郎の魔道具ありきであって、
九郎の功績を盗んでいるのではと不安に思っていた。
もちろん、九郎も花梨も、そんなことは絶対に思わないだろう。
だけど、そう心の奥底で不安に思っていた。
「ありがとう、パメラ。」
パメラのお陰で、俺は九郎と対等なんだってようやく腑に落ちたんだ。
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