第22話 アルテ②

就寝のために一緒に階段を上がってきたサポネに向かって、

パメラ様が小さく手を振ると、サポネはニッコリ笑って大きく手を振った。

二人とも可愛い。

「おやすみなさい。」

「おやすみにゃさい。」


サポネは何事にも一所懸命に取り組んでいて、純粋で、

リアクションが可愛らしい。


一方、パメラ様は、これまでは王女と言う身分から、平民とは付き合えず、

王から嫌われていることから貴族たちからは無視されていた。

おそらく、パメラ様にとってサポネは初めての友達だろう。

サポネが身分差に臆せず、仲良くなってくれてよかったと思う。


扉を閉じ、ベッドに横たわると、私はパメラ様の耳元に口を寄せた。

「誰にも聞かれたくないので、こんな態勢で失礼します。」

パメラ様はコクンと小さく肯いた。


「今日は命を助けていただき、どうもありがとうございました。

パメラ様は回復魔法のスキルを得られたのですよね?」

パメラ様は目を合わせてくれたが、その瞳は困惑に彩られていた。


「と言いますか・・・【聖女】の二つ名を授かりました。」

「!!!!!」

あまりの驚きに絶句してしまった。

なぜ、今頃になって?

普通は誕生日の日に授かるのに!

聞いていた誕生日が間違えていたのだろうか?


「お、おめでとうございます。」

「ありがとう、なのかな?ボクはこれからどうしたらいいんだろう?」


他の国は聖女がいるのに、わが国だけいない。

だから、本来ならば、王都に帰還して報告すべきなんだろう。

そうすれば、この国をあげて祭り上げられるだろう。


だけど、現在の状況は最悪だ。

次男と三男による王位争いに巻き込まれるのは必至だ。

中立を選べればいいのだろうが、

うまく運ぶには有力な後ろ盾や政略が必要だが・・・


パメラ様も私も、王室や高位貴族に絶対的に信頼できる人はいない。

さらに、パメラ様を殺そうとしたのが兄である可能性が充分に考えられるし、

さらに、教会関係者に信頼できる人も知らないし、

ていうか、絶対的に信頼できる人はどこにもいない。


「たしか、グラディシュカ修道院の院長である主教さまは

人格者だと聞いておりますので、相談してみましょう。

ただ、三蔵たちにはもうしばらく内緒にしておいた方がよろしいかと。」


「・・・そうですね。命の恩人に対して申し訳ないけれど・・・」

パメラ様は申し訳なさそうに、目を伏せた。


「まだ、出会ったばかりですから。

ただ、九郎に気を付けてください。

パメラ様は男の子だと言っているのに、彼はよからぬ目で見ています。」

「ええっ!嘘でしょ?」


「本当です!

そのうえ、九郎はサポネにもイヤらしい視線を向けています!

本物のクズです!

本来ならば、あのイヤらしい視線を向ける相手と同道するなどありえません!

・・・しかし、車といい、食事といい、このコテージの設備といい、

捨てることができないものばかりです。」


「本当にそのとおりです!

このパジャマだって下着だって着心地は最高です!

・・・男子用で可愛くないですけど。

サポネのパジャマ、滅茶苦茶可愛かったし、

サポネとお揃いがよかったな~!

でも、シャワーやお風呂、本当に気持ちよかったですね~。」


パメラ様は小さい拳を握りしめて力説していた。可愛い!


「はい、本当に!」

「この布団の質の高さも信じられませんね。

それにお風呂のシャンプーや基礎化粧品の効果で、

アルテ、貴女の髪も肌もいつもよりずっと艶やかで綺麗ですよ。」

パメラ様は私の髪を優しく撫でてくれた。


「それはパメラ様も同じですよ。

凄く可愛くて、凄く綺麗なので、もう男の子とは信じてもらえないかもしれませんね、うふふ。」


褒めすぎてしまったらしく、パメラ様は恥ずかしそうに頬を染めた。


「・・・パメラ様の力、スキルも教えてもらえますか?」

「実は、「完全回復」と「回復(小)」の二つだけなんです。」


完全回復は、私を治してくれたように、どんなに深い傷も、

血を流しすぎたとしても完璧に回復する。


さらに、酷い状態異常や四肢欠損すら完璧に回復するという、究極の回復魔法だ。

まさに、聖女に相応しいスキルだ。


一方、「回復(小)」は神官など回復職が全員取得する、

基本中の基本スキルで、流血が少なくなる、痛みが少なくなる、

少し早く治るくらいのもの。


落差がありすぎる!


「「完全回復」は凄い!本当に凄いです!

・・・えっと、二つだけで、もう一つは「回復(小)」ですか?」

「はい。」


「確か、「完全回復」と「回復(小)」の間には、

中、大、毒、解呪とかたくさん種類があるハズですが・・・

その「完全回復」はどのくらい使えるのでしょう?」

「感覚的に2~3日に1度っていう感じですね。」


「申し訳ありません!

私を助けるために、それらが後回しになってしまったのですね!」


「いいのです!アルテと一緒に生きたいのです!

傷ついた貴女を見たくないのです!

貴女を助けることが出来ないならば、【聖女】になっても意味はありません!」


パメラ様の言葉に胸が熱くなって、忠誠心がグングン増していく。

「ありがとうございます!

実は、私も【聖騎士】の二つ名を授かったのです。

新たに「盾師」「片手剣」「回復(小)」のスキルを頂きました。

きっと、【聖女】パメラ様からいただいたのでしょう。

この力で、今度こそ、パメラ様を守って見せます。

九郎が狼藉を働くようであればたたっ斬ってやります。」


「ふふふ。九郎が死んでしまえば、この生活は出来なくなりますよ。」

「ああ!それはダメですね。半殺しにしてやります。」


「ふふふ。きっと大丈夫ですよ。

サポネも随分、あの三人を信頼しているようですから。」

「そうですね。

しかし、まだパメラ様の正体、私たちの二つ名は隠しておきましょう。

明日も、男の子の格好をしてくださいね。」


「はい。・・・明日が楽しみなのは久しぶりです。」

「本当に・・・では、おやすみなさい。」


・・・・・・・・・・・・


気持ちのよい朝を迎えた。

名残おしいが、着心地のいいパジャマを脱いで、用意されたジャージに着替えた。


ジャージ!

凄く動きやすくて、これはこれで、着ていてうれしい。


ジャージは花梨のこだわりで、ベースは黒でラインが色違いのお揃いだ。

三蔵が赤、九郎が黒、花梨が水色、サポネがオレンジ、

パメラ様がピンク、私が白だ。


「なんか、戦隊モノみたいだな。」

「だな!」

昨晩、このジャージに着替えてみんながリビングに集まった時には、

三蔵と九郎が楽しそうに意味の分からないことを言っていた。


パメラ様と1階に降りると、洗面所で花梨がサポネに洗顔を教えていた。

「おはよう!アルテとパメラにも洗顔、教えるからちょっと待ってて!」


「これでいいにゃ!」

「ダメ!クリームが落ちてない!もっとちゃんとやりな!」

サポネがいい加減に洗い流そうとしたら、花梨が厳しく指導した。

なんか、化粧とか、おしゃれに厳しいみたいだ。

ちょっと怖い。


だけど、教えてもらった通りに洗顔すると、

今までで最高のツルツル、モチモチ肌となってしまった。ああ、幸せ・・・

こんなに次々と快楽を与えられてしまったら、もうダメだ。


たった半日で、この人たちと別れることなんて無理と思い知らされてしまった。


リビングに行くと三蔵と九郎が朝ごはんを用意してくれた。

ごはん、みそ汁、ベーコンエッグ、ほうれん草のおひたしというらしい。

二人とも料理はしたことないらしいが、なかなか美味しかった。


ウィンブラからホレズまで、

旅の間の無味乾燥な食事を思い出したら絶望しかない。


食べている途中、三蔵、九郎、花梨が下らないことで揉めたのが可笑しくて、

パメラ様、サポネも笑っていた。


「ベーコンエッグには、塩コショウが最高じゃん!」

「なに言ってんの?醤油でしょ!」

「それこそ何言ってんだ?ベーコンの塩味だけで充分だろ?」


三人とも譲らず、私たちに向かって

「俺と同じ味付けにしてください!」

って頭を下げていた。


大笑いしすぎて、笑い疲れてしまったら、

そうだって花梨に見つめられた。


「ねえ、アルテ。塩、コショウ、砂糖とか調味料ってどんなのがあるの?

安く売っている?」


こんな常識をなぜ、聞くんだろう?

だけど、私たちにとっては驚きでしかない車や

この家は彼らにとって常識なんだよね。


もしかして、遠い異国から来たのだろうか?

海の向こうや魔の森の遥か向こうにあるという伝説の国とか・・・


「・・・そうだな。よくあるのは、塩、コショウ、砂糖、辛子、唐辛子くらいか。

塩は安いが、そのほかは王都ではまあまあの高級品だな。」

「王都ではってどういうこと?まあまあって?」


「ダンジョンで得られた魔石からコショウなんかの調味料も生まれるそうだ。

お金持ちはそれなりに買っているはずだよ。」

「「「ああぁ、魔石か~」」」


花梨、三蔵、九郎が残念そうに声をそろえた。

息ぴったりだ!

本当に仲良しだな。


朝食が終わると、三蔵たちは1時間ほど体を鍛えるらしいので、

パメラ様と私も一緒にやってみることにした。


ラジオ体操。・・・何?ラジオって?

腕立て伏せ、腹筋、背筋。

今日は短距離ダッシュで、明日は長距離走。

剣の型。


「なかなか、キツイな。」

休憩中に話しかけると、花梨は私用のタオルを渡してくれた。


「そうだね~。だけど、体力がないせいで、ケガしたくないからね。」

「なに、このタオル!凄いフカフカ!

ああ、もうこれ以上、中毒にするのは止めてくれ~!」

「アルテも面白いこと言うじゃん!」

花梨の笑いを含んだ言葉に、三郎、九郎はもちろん、パメラ様まで笑っていた。

恥ずかしい・・・


トレーニングが終わるとみんなシャワーで汗を流した。

男子のフリをしているけど、パメラ様もシャワーを浴びてご機嫌だった。

不安だったけど、三蔵たちはパメラ様が男子と思い込んでいるようだ。


「じゃあ、そろそろ、行きますか!」

九郎が、コテージを小さくしてしまった。


「「「ああっ!!!」」」

サポネ、パメラ様、私の残念がる声が揃ってしまった。


三蔵が私を見てニヤニヤしている!ふん!


「そんなに気に入ってくれたんだ。嬉しいな。

じゃあ、今晩もこのコテージに泊まろうね。」

九郎はにこやかに笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る