第21話 コテージ

「さる貴族の御曹司って言ってたけど、本当かな?従者がたった一人だぜ?」

「二人とも上品だし、本当なんじゃない?

貴族と言ってもピンキリだろうし。」


「あっ、そうか。じゃあ、一緒に行ってくれって言われたらどうする?」

「困っているんだし、助けてあげようよ!」

九郎が弾けるように応えた。


「さる貴族って自分の出自のことを教えてくれないし、

そのうえ、銀ランクパーティに襲われたんだぜ?ヤバいだろ?」

助けてもいいとは思っているんだけど、一応、注意喚起しておく。


「それは僕も考えたんだけど、ただ、金に目がくらんだだけかもしれないだろ?

それに、若い女と子どもが困っているんだ、助けてあげようよ。」

熱っぽくパメラを見つめる九郎にぞわっとした。


「・・・おい、九郎。お前、もしかして、パメラを気に入った?

御曹司って男だぜ?分かっているのか?」

「はぁ・・・三蔵、僕、知らない自分を見つけちゃったよ。

ロリは性別を超えるんだって!」

「キモッ!」

「名言ぽく言ったけど、それ、ヤバすぎるから!」


「イエス・ロリ、ノー・タッチ!だから大丈夫だよ。」

「「ええっ~。」」

花梨と二人、ドン引きしてしまった・・・


パメラがサポネと一緒に川遊びを始め、アルテが一人で戻ってきた。

「お待たせしました。

皆さんも東へ行くんですか?」

「ちゃんと決まってはいないけど、カデックに行くつもり。」

「もしよければ、同行させてもらえますか?」

「いいですよ。ああっと、そのなんとか修道院に着く期限はあるのですか?」


「ありがとう!

期限はないから、急ぐ必要はないな。

えっと、ちなみに、その、連れて行っていただくお礼は・・・」

「パープルヘイズでしたっけ?

アイツ等の金と武器で充分ですよ。」

「ありがとう!」


アルテは喜ぶと、今度はランクルを見つめた。

「九郎さんは凄い魔術師なのだな。

三蔵さん、花梨さんも銀ランクパーティを圧倒するということはさぞ、

名のある冒険者と見ましたが・・・」


自分たちのことを内緒にしているので、

俺たちのことも異世界人だとは言わないでおこう。

まだ、サポネにも言ってないしな。


「まあ、その辺りはご想像にお任せしますよ。」

そう応えると、アルテはあいまいな微笑みを浮かべた。


サポネとキャーキャー楽しんでいるパメラを呼ぶと、

サポネと一緒に、手を繋いで帰って来た。


「一緒に行くにあたって、一つだけ条件があります。

それは言葉遣いです。仲間なんですから、尊称、敬語は無しということで。

どうですか?」

アルテとパメラを見比べた。


「いいですよ、それで。」

悩んでいるアルテを横目に、パメラが簡単に了解した。


「パメラ様!」

驚いたアルテに向かって、パメラはにっこりと笑った。

「アルテも様付けはやめてくれるかな。

アルテは・・・ボクの命の恩人だからね。」

「それは・・・」


アルテとパメラのやり取りを余所に、サポネが甘えてきた。

「ニィニィ、リンネェ、急がにゃいんだったら、もう少し・・・」

「よしっ、じゃあみんなで川遊びしよう!行こう、サポネ、パメラ!」

嬉しそうな九郎が率先して、川に突入していった!

そして歓声を上げながら続いたサポネ、パメラに向かって水をかけた。

「にゃ~!冷たいにゃ~!」

サポネとパメラがやり返し、三人でキャーキャー言っている!


俺と花梨も川に突入し、みんなで水を掛けあった。

「アハハハハハハ!」

飽きるまで水を掛けあった後は、泳いでみたり、

魚を追いかけて遊んだよ。


しばらくして、川から上がって、パメラを見つめているアルテに近寄った。

アルテはパメラと一緒に川遊びをしたいようだが、必死で我慢していた。

きりっとしているようだけど、可愛いな。


「パメラが楽しそうでよかったね。」

「そうだな。川遊びはたぶん、初めてだし、

サポネと仲良くなって嬉しそうだ。

君たちのお陰だな。ありがとう。」


「せっかくだから、アルテも川遊びを楽しんだらどうかな?」

「む!いや、私はパメラ様に危険が来ないか見張っていないと。」

とか、言いながら、アルテは俺をちらちら見て、そわそわしていた。

可愛いな。


「俺がびしっと索敵しておくよ。」

アルテがしゅぴっと立ち上がった!


「そうか!三蔵がそこまで言ってくれるなら、頼もうか!

パメラ様~!」

アルテはパメラに向かって手を振りながら、

ついでにふさふさの尻尾をブンブン振りながら駆け寄っていった。


日が傾いてきたので、みんな名残惜しそうに川から上がってきた。

「サポネ、風邪ひいちゃうとダメだから、着替えるよ。」

ビショビショのサポネを花梨が優しく促した。


「パメラ様、このジャージとやらに着替えましょう。」

アルテがパメラを連れて、木陰で着替えていた。


「じゃあ、次の宿場まで行こうか。」

俺の提案を聞いて、ニヤリと笑いながら九郎がビシッと手を挙げた。


「ちょっと待った~!

宿場までどのくらいかかるか分からないし、ここで泊まろうよ。」

「車で、6人で寝るのはしんどいだろ?」

「そんなときには、じゃじゃーん!コテージ!」


九郎は得意げに、リュックから、

両手に載るくらいの大きさのコテージのプラモを取り出した!


「「おおっ!」」

俺と花梨は歓喜した。

「九郎、やるじゃん、やるじゃん!

ああ、水洗トイレ、お風呂、シャワー、エアコン、ベッド・・・」

「いいねえ、いいねえ!」

「だろ?だろ?」


意味が分からずポカーンとしているサポネ、パメラ、アルテを放って、

久しぶりに、俺と九郎、貴船さんは右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、

胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。

「「「イエ~イ!」」」


それを見たサポネは耳とカギしっぽをピーンとした。

「にゃ~!サポもやりたい!」

「ようし、4人でやるか!」

二人ずつ、右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合うと、

4人一斉に胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。

「「「「イエ~イ!」」」」


「テンション、アガルね!」

「おう、で、晩御飯、何にする?コテージだから、作るんだろ?」

九郎と花梨がピタッと止まった。


「あれっ?ひょっとして、料理が得意じゃなかった?」

逆鱗に触れないように慎重に、丁重に花梨に話しかけた。

「失礼、失礼!三蔵は失礼じゃん!」

触れた!逆鱗に!なぜ?


「アッシがいくら、イイ女だったって、苦手なモンくらいあるって!

どんだけ、完璧な女を期待しているのさ!」


「完璧なんて求めてな・・・」

「ヒドイ、ヒドイ!三蔵、ヒドイ!」

オヨヨと泣き真似を始める花梨。

酷いのはお前だ!


とは口が裂けても言えません・・・


「あ~っ・・・」

チラッとアルテとパメラに視線を向けたが、さっと逸らされてしまった!


「・・・みんなで、カレーでも作ってみるか。」

「いいね!カレー!あっ、サポネとパメラは食べられるかな?」

「リンゴと蜂蜜でも用意しておくか。」


俺たちの話に聞き耳を立てていたサポネがまた、耳とカギしっぽをピーンとした。

「リンゴ!蜂蜜!リンゴ!蜂蜜!リンゴ!蜂蜜!」

ホント、可愛いわ。


そんなやり取りのあと、ようやく、九郎、花梨と一緒にコテージに触れて、

煩悩を全開にして、魔力を注入した。


キタ~!

三角の尖った屋根がカッコいいコテージ!


「これはね、小さいタイプで6人用だよ。

一階はリビングダイニング、風呂、トイレ、六畳間が一つ、

二階は屋根裏になっていて、六畳間が二つあるんだ・・・」


九郎が得意げにぺらぺらと話していたが、

キラキラと目を輝かせたサポネとパメラが御託を無視して

コテージに入っていった~!


「お待ちください、パメラ様!」

「玄関で靴を脱ぐんだよ~。」

続いて、花梨、アルテ、俺が入っていったのだが、

「なんだよ、僕の話を聞いてくれよ・・・」

ボヤキながら、九郎もついてきていた。


玄関に入ると、開放的なリビングダイニングが広がっていて、

木のいい香りが漂っていて、エアコンが効いている~!

「最高だよ、九郎!」

「だろ?」


リビングの真ん中には階段があって、右手奥にはキッチンがあった。

階段を見つけたサポネとパメラが笑いながら駆け上がっていく。


「九郎!最高じゃ~ん!」

花梨はお風呂のドアを開けて歓声を上げていた。


俺、アルテ、九郎はきょろきょろと室内を確認しながら、階段を登っていく。

階段をあがると左右に扉があったが、右の扉が開いていた。


九郎の言っていたとおり、屋根裏部屋は天窓があって、

なんかオシャレ!

俺も星を見ながら、ここで眠りたい!


その六畳間にふっかふかのベッドが2つ、並んでいた。

「ニィニィ!このベッド、使っていいにゃ?」

サポネが瞳をキラッキラさせながら尋ねてきた。


「「いいよ。」」

たった3文字が終わる前に、サポネとパメラがベッドにダイブした!

「ふかふかにゃ~。」

「フフフフフフフフ!心地いいね、サポ。」

「そうだにゃ、パメラ。」

二人は見つめ合ってニコニコしていた。


身分差があるのに、もう友達になったみたいだ。よかった。


「キャー、凄いじゃん!九郎、さいっこう~!」

階段を駆け上がってくるなり、花梨が九郎に後ろから抱き着いた!


「うわっ、花梨、止めて~!」

九郎、マジで嫌がっている~!


気にせず、花梨はウキウキしながら話しかけてきた。

「ねえねえ、部屋割はどうする、どうする?」

「私はパメラ様と一緒の部屋で!」


アルテがいの一番に反応すると、パメラがほんの少し不服そうな表情となった。

サポネと一緒の部屋がいいのかな?

駄目だ!サポネはお前なんかにやれぬ!


「じゃあ、サポネは1階がいい?2階がいい?」

「屋根裏がいいにゃ~。」

「じゃあ、アッシたちは2階で、1階は九郎と三蔵ね。」

「おう。」


「じゃあさ、悪いけど、アッシ、お風呂に入りたいじゃん。

だから、ゴメン!三蔵と九郎、カレー、作ってくれる?」

「「了解!!」」


みんなで1階に降りて、まずはトイレの使い方を説明した。

水がスイッチ一つで流れるのを見て、

サポネ、アルテ、パメラは「おおぉ~!」って驚いていた。


・・・ちゃんと水が出る!

ホントに九郎の能力は凄いわ!

マジ、友達でよかった!

あっ、義兄弟だったわ!


その後、お風呂に行って、花梨がシャワー、シャンプー、

リンスの使い方を説明した。


「シャワー!お湯が出てくる!凄い!ちょうどいい温度だ!」

サポネ、アルテ、パメラは「おおぉ~!」ってもっと驚いていた。


「サポネは今から、アッシと一緒に入ろうね。まずは、洗ってアゲル。

アルテも一度は、髪を洗ってアゲルね。」


「パメラは僕と一緒に入ろうか?」

九郎がさりげなく言ったが、アルテが血相を変えてパメラを抱きしめた。

パメラの顔が大きな胸に埋まって苦しそう。羨ましい!

「九郎と入るくらいなら、私が一緒に入ります!」

「九郎、アンタは絶対、一人で入りな。」

反論不可能な怖い視線で花梨に言われてしまい、九郎はガックリとしていた。


花梨がサポネを連れてお風呂に入ると、外へ出てみた。

水やお湯はどこに流れているんだろう?

気になってコテージの下を覗いてみたけれど、

どこにも、何にも流れていなかった。

ホッとしたよ。


テーブルの上に置かれていたレシピ本を読みこんで、調理開始だ!

まずは、お米を洗って、炊飯器にセットした。

スイッチが入ったよ!


次は、ジャガイモとニンジンの皮をピーラーでむいて、刻んでいくのだが、

パメラもやりたいというので、ジャガイモをお願いした。


刻んだジャガイモを充実感溢れる表情で見つめるパメラが可愛い!

いや、超可愛い!

や、ヤヴァイ!九郎と一緒になってしまう!

俺は生粋の女好きなのに!

それも、年上好きなのに!

パメラのやつ、なんて、ヤヴァイ男の子なんだ!


野菜と肉を軽く炒め、その後、煮込んでいく。

ニンジンが柔らかくなってきた所で、カレールゥ(辛口)を投入し、

張り切っているパメラがゆっくりと混ぜていくと・・・

スパイシーな、いい匂いが漂って~きた~!


「カレー、最高!」

テンションあがってきた俺と九郎は思いっきりハイタッチした。

バチン!

「「いてえ!ぎゃはは!」」


カレーが出来るまでに、味噌汁と野菜サラダの準備をしていく。

「美味しそうな匂いにゃ~!」

タイミングよく、サポネがお風呂から上がってきて、

可愛い鼻をクンクンさせていた。


ピンクの短い髪の毛がサラサラで、肌も艶々で輝いている。

「サポネ、お風呂はどうだった?」

「お風呂もシャワーも気持ちよかったにゃ~。」

九郎の問いかけにサポネはうっとりと目を細めた。


「そう、良かったね。髪の毛もサラサラで益々可愛いよ。」

「ありがとにゃ~」

九郎が嬉しそうに褒めると、サポネはすっごく照れていた。可愛い。


「サポネ、アルテ、パメラ、味見してみて。」

小皿に入れたカレーをみんなが味見してみると・・・


「「辛い!美味しい!けど、辛い!」」

「美味しい!辛いけど、美味しい!」

子ども2人の分を小鍋に分けて、大量に蜂蜜を投入して、

甘口カレーの出来上がりだ!


みんなでカレーを食べたら、大好評だった。

俺たちも久しぶりにカレーを食べて超ハイテンションになってしまったよ。

うむ、カレーは正義。


デザートとして、俺はビワを用意してみた。

「甘くて、さわやかで、美味しい!」

これもまた、大好評だったよ。


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