第20話 アルテ
凄い!本当に凄い!
馬車より倍は速いし、何より、この乗り心地、このフカフカの座席!
振動が馬車とは比べ物にならないくらい少ないこともあって、
いくら乗ってもお尻が痛くならない。
そのうえ、車の中は、初めて聞く軽快なリズムの音楽が流れていて、
柑橘系の爽やかな匂いが微かに漂っている。
ああ、最高だ!
私がたった二人にやられてしまった奴ら6人を軽く一蹴した、
得体の知れない武器や魔道具を使っている三蔵たち。
正直、信用するのはどうかと思った。
三蔵、九郎、花梨は16歳らしいが、同じような雰囲気を感じるから、
一緒にいて自然だ。
一方、サポネ、彼女は猫人で彼らより4歳は年下だから、
三人といると違和感しかない。
だけど、サポネは三人を慕っていることがよくわかり、
三人は信用できるのではと思い直した。
一方、パメラ様はどうやらそんな不安は全くないらしい。
なんだったら、サポネと友達になりたいみたいだ。
後で、パメラ様と色々と話をしないといけない・・・
お昼近くになって、前の席に座っているサポネが嬉しそうな声をあげた。
「にゃんにゃんにゃ~!石ころがたくさん転がっているにゃ~!」
「河川敷って言うんだよ。ここで昼ご飯食べようか?」
「何を食べるにゃ?」
「お弁当の予定だったんだけど、お客さまがいるから変えようか?
サポネは何が食べたい?」
九郎が甘い声をだすと、サポネは上目遣いをして、
手を組んで体をくねくねさせた。
「パメラ様とアルテ様がいるから、バーベキューがいいにゃ~。」
「パメラさん、アルテさん、肉、大丈夫っすか?」
サポネの意見が最優先らしく、三蔵が振り向いて尋ねてきた。
「ああ、二人とも大好きだ。」
「バーベキュー!バーベキュー!バーベキュー!」
正直、テンション爆上がりだ。
必死で冷静なフリをしたけど、サポネと一緒に踊りたいくらいだった。
車を停止させると、九郎は車を小さな玩具に戻した!ナニコレ!
そして、九郎、三蔵、花梨の3人がその小さな玩具に魔力を通すと・・・
また、車が元に戻った!
・・・凄い!
だけど、一体、何がしたいんだろう?
サポネがウキウキしながら車の後ろの扉を跳ね上げると、
そこには色んな物が積まれている!
さっきまで、私たちの座席だったのに!
ナニコレ!
そして、九郎たちは呼吸ぴったりに、
まずは4メートル四方のタープテントを張った。
「ふ~、これで日焼けしなくてすむじゃん!」
花梨が満足そうに汗をぬぐっていた。
日焼けを気にしているんだ!
どうりで、肌が凄く白い。
ていうか、その肌の艶、張り、一体何者?
貴族のお姫様でもそんな綺麗な肌、中々いないよ。
九郎と三蔵、サポネがテキパキと働いて、さあ、肉を焼こうって段階になった。
慌てて、声をかけた。
「あの、改めまして、助けていただき、どうもありがとうございました。」
「ああ、気にしないでください。
・・・えっと、先に食べましょう!」
よだれをたらさんばかりのサポネを見て、三蔵は苦笑して肉を焼き始めた。
バーベキューコンロは見たことのない精密なものだし、
椅子はなんと、折り畳み式でさらに座り心地もよかった。
信じられない・・・
肉は6人で食べきれないくらいあるし、その肉のジューシーさ、
タレの美味しさもまた信じられないくらいだった。
パメラ様も一心不乱に食べていた。
これまでの旅は、携行食で美味しさは二の次だったからなぁ。
お腹いっぱいになって食べ終わり、もう一度、お礼を述べた。
「あの、改めまして、助けていただき、どうもありがとうございました。」
サポネが小さな物体を一つずつ、甲斐甲斐しく配っていく。
「デザートにゃ!」
「スプーンで食べてね。」
「美味~い!ハーゲン、最高~!」
パクついて喜びの声をあげた花梨を見て、パメラ様もスプーンを口に入れた。
「冷たい!甘い!美味しい!冷た~い!」
パメラ様も夢中でパクつきだした。
・・・また、遮られてしまった。
もう、しょうがない・・・
私もまたハーゲンとやらを口に入れた。
「冷たい!甘い!美味しい!冷た~い!」
パメラ様と同じ反応をしてしまった!
ナニコレ!
冷たくて、こんなに甘いなんて!
こんなのきっと、王様でも食べたことないよ!
こんな美味しい物、凄い物を魔法で作りだせる九郎ってホントに凄い!
こんな美味しいものばかり食べさせられたら、
もう九郎たちの世話になり続けるしかないよ!
食べ終わるとすぐにサポネが川の浅瀬で遊び始め、
九郎、三蔵、花梨が微笑ましそうに眺めていた。
楽しそうなサポネを見て、パメラ様がうずうずしている!
「・・・パメラ様、もう少しだけ待ってくださいね。
あの、改めまして、助けていただき、どうもありがとうございました。
このご恩にどう報いたらよいでしょうか?」
私の言葉に三人は驚いたようだった。
まるで、お礼なんて考えてもみなかったみたいだ。
藪蛇だったか?
「・・・ああ、お礼ね・・・ああ、何度もお礼を言ってくれてたのに、すいません。
いや、まずは事情を教えてほしい。」
差しさわりのないようボカシてパメラ様のことを説明することにした。
「・・・わかりました。
跡継ぎが病気で亡くなったことに気を落とされた当主様、
つまりパメラ様の父上が、体調を崩されたんだ。
そしてパメラ様の兄である次男、三男による跡目争いが始まって、
ち・・・四男で跡目とは関係ないパメラ様は
遥か東方の修道院に行くことになったのだ。
そして、この街から、護衛としてアイツ等を雇ったのだが・・・」
「アイツ等は?」
「銀ランクのパープルヘイズってパーティです。」
「銀ランクか・・・盾のヤツとか中々強かったよな・・・
襲われた理由は?」
「分からないな。」
「ああ、すぐに殺しちゃったからな、失敗だ。
まあ、しょうがないか。あと、その修道院ってどこにあるの?」
「最果ての街カデックの近くにあるグラディシュカ修道院です。」
ふ~んと肯くと、三蔵は花梨と九郎に尋ねた。
「・・・お礼、どうしよう?」
「・・・アイツ等の持ち金と装備を全部もらえばいいんじゃない?」
「だね!」
中々いい装備だったし、私が支払った前金も持っていたし、これで充分か。
「申し訳ないのですが、二人で相談したいことがあるから、
少しだけ、時間をもらえるか。」
そういって、私は少し離れてパメラ様と相談し始めた。
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