第19話 パメラ

ホレズの街のホテルに泊まって、情報を集めた。

ここらはこの国一番の穀倉地帯で、魔物とかは全くいないらしい。

魔物は東の果ての街、カデックのさらに東に広がる魔の森にいるそうだ。


ホレズの街を東に向かって出発して、今度は商業都市コンゼルを目指す。


ランクルを九郎が運転していて、

俺は後部座席でぼんやりと遠くまで広がっている荒れ地を眺めていた。


ゆっくりとカーブを曲がると、助手席の花梨が不審そうな声を出した。

「あれ?なに?なんか、揉めてる?」


花梨の視線の先、かなり向こうで、6人対2人で睨み合っている!


そして、6人の方は武装した4人が剣を抜き、

一方の2人の方は護衛が子どもをかばって剣を抜いていた。

その護衛は敵対する敵対する6人に比べ小柄で、水色の長い髪だった。女か!


「どうする?」

「子どもを助けよう!」

「了解!飛ばすよ、気を付けて!」


ランクルを加速させると、舗装されていないから、車体が踊りまくっていた。

ビー!ビー!ビー!


戦闘を止めさせるべく、クラクションを鳴らしまくると、

剣を持った2人はこちらをさっと警戒した。

一方、後の2人は逆に素早く、水色の髪の女に襲い掛かった!


「くそっ!ライフル!」

「おう!」

九郎は運転しながら器用にライフルをリアル化して、俺に手渡してくれた。


俺は窓を開けて、半身を載りだし、ライフルを構えた。

まだ、200メートル以上ある。

車が上下左右に揺れまくっていて、狙いが定まらない!

当たるか?


2人の敵から挟み撃ちされ、水色の髪の女が剣を持つ右腕を切り落とされた!

しまった!


ドン!

ようやく決意して引き金を絞ると、

振り下ろそうとした剣を持つ男の右肩を撃ちぬいた。


撃たれた男がぶっ倒れると、その傍の男がぎょっとこちらを見た。

200メートル向こうからの遠距離攻撃は想定していないようだ。


ドン!

また引き金を絞って、傍らの男の右肩を撃ちぬいた。

「よしっ!」


あと150メートル!


「奴らの真ん中を突っ切ってくれ!途中で出る!」

「わかった!」

「アッシも出るよ!」

「気を付けてにゃ!」


2人の魔術師が前に出てきた!

「前!魔法だ!」

俺はまた、半身を載りだし、ライフルの引き金を絞った。

ドン!


キン!

素早く魔術師の前に出た男が盾で銃弾を防いだ!

マジか!


そして、2人の魔術師がロッドをこちらに振ると、大きな火の玉が2つ、

車に向かってきた!

「うわぁ!」

九郎の悲鳴が響いて、急ブレーキが掛けられた!


「任せて!」

火の玉二つが何故か左へ逸れていく!


花梨がエアシールドで逸らしたのか!

流石だ!

ランクルはスピンターンして静止した。


俺はドアを開き、飛び降りるとライフルをぶっ放した。

バン!

「ぎゃっ!」

盾がかばっていない方の魔術師を殺した。


ヒュン!

「ぐっ!」

一瞬、止まっていた俺の右肩に矢が突き刺さっていた!

痛い!


盾の男の向こうにもう一人、射手がいたのか!


慌てて次の矢を躱し車の陰に隠れた。


「サニィ、大丈夫?」

「任せろ!」

心配そうなサポネを安心させるため、痛いのを必死で我慢して、

自信満々な声を出した。


盾の男は、まだ盾を構えて俺を警戒していたが、

突然、頸動脈から大出血して倒れた!


花梨が空中を駆け上がり、奴の死角からエアブレードで切り裂いたんだ!

花梨は返す刀でもう一人の魔術師も切り裂いた!

凄い!超カッコいい!


だが、花梨に気づいた射手が花梨に向かって弓を引いた!


バン!

ライフルが火を噴き、矢を放つ前に射手は倒れた。


矢が刺さったままの肩が痛いのに、流石俺だぜ!

「三蔵、大丈夫か?」


九郎がポーションを手に車を降りてきたが、

俺はライフルを構えて歩き出した。


と、俺に撃たれて倒れていた男二人が弾けるように立ち上がり、

子どもに向かって短剣を持って駆け出した!

バン!

さっと銃を構えて、一人の頭を撃ちぬいた。


だけど、もう一人の男が短剣を子どもに突き刺そうとした!

間に合わない!


その瞬間、水色の髪の女が子どもをかばった!

ドン!


バン!

頭を撃ちぬき、最後の男も倒れた。


「アルテ!」

子どもの悲鳴とともに、水色の髪の女が崩れ落ちた!

その腹に短剣が突き刺さって、服が真っ赤に染まっていく!


遅かった!くそっ!


「ヤバい!」

俺にポーションをぶっかけようとしていた九郎が、

そのまま倒れた女に全速力で駆けていった!


「あっ!」

死ぬ恐れが全くないので、文句を言うわけにもいかず、

俺も走ろうとしたが、激痛によって、そろそろと歩くことしかできなかった。


「アルテ!アルテ!」

泣き叫びながら、子どもが女の腹に刺さっている短剣を抜くと、

服に血が恐ろしい勢いで広がっていく!


「アルテ!」

子どもが血を止めようと腹に両手を置いた。


九郎が水色の髪の女の、斬られて転がっていた腕を掴んでから、

女の傍にたどり着くと、女の腕をくっつけ、

その傷ついた腕と腹にポーションをぶっかけた。


すぐに、水色の髪の女の体が淡く光りだし、そして、女の目が開いた!

斬られた手も動いている!


「マジか!凄い効果だ!凄い高級品だったんだ、あのポーション!」

「マジ凄い!マジ凄い!」


「アルテ!」

子どもが悲しい涙を嬉し涙に変えて、女に抱き着いた。

「・・・なんで?パメラ様!ああっ!」


水色の髪の女と子どもが抱き合って泣いていた。


それを見た俺たちは肯きあって、

それから最後のポーションを俺の肩にぶっかけた。


凄い!傷はほとんど治った!

だけど、まだ少し痛いな・・・


しばらくして、二人は笑顔を浮かべて立ち上がった。

「助けていただいて、どうもありがとうございます。

こちらはさる貴族の御曹司、パメラ様です。」


水色の髪の女が子どもを紹介してくれた。

パメラ様と呼ばれた子どもは、身長は130センチくらい、12歳くらいか?

黒髪、黒目で第2次性徴前だからか、男の子のくせにすっごく可愛い!


「私の名はアルテ、パメラ様の従者です。」

水色の髪の女アルテは20歳くらいの犬人で、

身長が160センチくらいで胸が大きく、

大きな赤い目は垂れていて、大きなたれ耳、

ふさふさの尻尾がめちゃくちゃ可愛い!


「俺の名は三蔵。」

「花梨で~す!」

「九郎です。」

「サポネにゃ!」


アルテとパメラは俺たちとランクルをしげしげと見比べた。

「あの・・・」

パメラが何か言いだそうとしたけれど、

誰かに見つかる前にさっさと逃げ出さないと。


「申し訳ないけど、この状況を見られたくないから、すぐに出発したいんだ。」

パメラたちが応える前に、九郎が割り込んできた。


「ちょっと、待って。ねえ、花梨、この死体、アイテムボックスに入らないかな?」

おおっ!その手があったか!


「イヤに決まってるじゃん!イヤに決まってるじゃん!」

花梨は心底、イヤそうだった。

「「ですよね!!」」


「・・・えっと、申し訳ないけど、この状況を見られたくないから、

すぐに出発したいんだ。

もしよかったら、この車に乗ってもらってもいいけど・・・」

何事もなかったかのように、話をやり直してみた。


アルテは俺たちを見比べてから、サポネをじっと見つめると、

サポネは顔をこてんと傾け、にっこりと笑って肯いた。


「すいませんが、私たちも乗せていってもらえますか?」

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