第18話 試練

異世界から勇者たちが転移してきて10日目、

今日は聖女に12の試練が与えられる日だ。


勇者たちが転移してきた場所である教皇の謁見の間に集まったのは

フラガン王国の聖女シャルロット、枢機卿ラーグルフ、

ドーブラ公国の聖女オフィーリア、枢機卿ゼノビア、

オルベス公国の聖女グレイス、枢機卿イルーシブのたった6人。


本来ならばいるはずの、オーガルザ王国からは聖女は見つかっておらず、

また枢機卿も亡くなったばかりだった。

その部下である大司教の一人がこの部屋に入ることを申請してきたのだが、

もちろん却下されたのだった。


そして、聖女3人に神託が下された。


12の試練のうち8つで、残り4つは来年追加される。

① ジュエルモンスターの魔石(熊、狼、鹿、猪)

② マンティコア討伐

③ ミノタウロス討伐

④ ドラゴン討伐

⑤ キング討伐

⑥ ダンジョン50階踏破

⑦ 1万人救助

⑧ 開発または浄化


頭の中に語られた試練を聖女が口にして、

それを枢機卿が必死にメモしていた。


これからの3年間に、この12の試練をいくつ突破するかによって

真の聖女と次の覇権国、教皇が決まるのだ。


「前回、前々回とあまり変わらないようだな。

ということは、残りの4つも変わらないかもしれないな。」

枢機卿ラーグルフの言葉に残りの者たちは肯いた。


⑨ 北の森のスフィンクス討伐

⑩ 南の海のセイレーン討伐

⑪ 東の森のヒュドラ討伐

⑫ 西の森のゴルゴン討伐


前回、前々回の残りのこの4対の魔物は同じ個体しか確認されていないもので、

過去、討伐されたことがなく、難易度が跳ね上がる。


「前回はフラガン王国がダンジョン50階踏破する中で、

試練を5つクリアして1位になったんですよね。」


フラガン王国の聖女シャルロットが確認すると、

枢機卿ラーグルフは重々しそうに肯いた。


「うむ。そのようですな。

聖女さま、とりあえず、この試練の内容を伝えるのは

ごく一部に限られますよう。」

「はい。わかりました。」


このような重要なことをごく一部だけに教えることで、

彼らの権威が上がっていくのだ。


枢機卿ラーグルフが枢機卿ゼノビアに厭味ったらしく声をかけた。

彼は、ゼノビアが公爵の姪であること、若く非常に美しいこと、

【神眼】という二つ名を持っていること、

何よりも自分を尊敬していないことから大嫌いだったのだ。


「貴船花梨に逃げられたそうだが、見つかったのか?」

「いいえ。」

「ほうほう、それは残念だったな。

アウグストだったか、聖女の護衛3人も殺されたそうだが、

犯人は分かったのか?」

「いいえ。」

「ほうほう、それは重ね重ね残念だったな。

貴重な戦力を失ってしまっては、

ただでさえ難しい試練が、さらに困難になってしまったな。」


言葉で表すと心配しているようだが、

その言葉の裏には「ざまぁ!」っていうのが透けて見えていた。


「心配は大きなお世話ですわ。

貴方たちへのちょうどいいハンデです。

それでは、1年後の神託で会いましょう。」


ゼノビアはラーグルフとの価値のない会話をそうそうにブチぎって、

聖女シャルロットを連れて堂々と謁見の間から出て行った。


1年後、またここで残りの試練4つがここに来た聖女に示され、

またその時と、さらに1年後、その時の試練の全員の克服状況が示されるのだ。


「・・・まだまだ自信たっぷりですな。」

彼女たちが部屋から出ていくともう一人の枢機卿イルーシブが呟いた。


「ふん、虚勢だろう。」

「そうかもしれませんがね。どうです、ラーグルフ卿、我らと手を結びませんか?」

イルーシブの提案に、ラーグルフは虚を突かれたようだった。


「手を結ぶだと?」

「そうです。と言っても情報交換とかのレベルですが。

ゼノビアの言葉をすべて信じるのは危険だと思うのです。」


「どういうことだ?」

「勇者たちの鑑定を教会でも行い、ゼノビアの鑑定と同じ結果でしたが、

【神眼】の二つ名を持っている彼女の鑑定の方が優れている可能性があります。」

「もっと勇者どもの能力が分かっていたのに、隠していたと言うのか?」

「その可能性は充分にあります。

だから、性格に最も難のある連中を連れて帰るのかと・・・」


ラーグルフはドーブラ公国へ行く対馬宗次郎【雷神】、富士谷勇気【大魔導師】、

佐々与次郎【金剛】、仏生寺 善【剣帝】、浅枝鈴也【拳帝】を思い浮かべた。


どいつもこいつも自分の力を過信し、この世界の者どもを徹底的に侮蔑していて、

それをほんの少しでも隠そうとしない愚か者だった。


男だけなので、この5人に聖都ラテランの最高級娼婦をあてがったらしいのだが、

不細工だ、デブだ、ババアだ、サービスが悪いと文句の言い放題だったらしい。

一晩中、くんずほぐれつしていたくせに。


少なくとも、自分は対馬たち5人と仲良くなんてできない。決して。


「・・・よかろう。」

「よろしくお願いいたします。」

イルーシブは深々と頭を下げながら、ニヤリと笑った。


イルーシブは昨晩、ゼノビアとも同様の関係を結んでいる。

反目しあっている奴らをうまく操り、出来れば殺し合いをさせるのだ。


最後に勝利の美酒を味わうのは俺だ!


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


その日、異世界勇者17人はフラガン王国へ、ドーブラ公国へ、

そして、オルベス公国へと旅立っていった。


聖女フィーリア一行は、ドーブラ公国へは船で10日間、モライン川を遡り、

その後、7日間馬車で移動する。


フィーリアたちとともに対馬宗次郎、富士谷勇気、

佐々与次郎、仏生寺 善、浅枝鈴也はドーブラ公国が用意した旅客船に乗船した。


その船はこの世界で最も豪奢な船であったが、対馬たちが満足することはなく、

騎士たち、船員たちの目の前で、大きな声で文句を言いまくっていた。


「なんだよ、このちゃちい船は!」

「船室が狭すぎるぜ!」

「トイレなんて絶望しかなかったわ。」

「ホント、何が楽しくって、こんな船に10日間も乗らなくちゃいけないんだ!」

「最悪だぜ!」


「まあまあ、勇者さま、そんな事はおっしゃらずに。

船は、馬車よりずっと楽で速いのですから。

準備が出来たようです。まずは、昼食をいただきましょう。」


絶世の美女である聖女フィーリアが笑顔を浮かべて丁重に対応すると、

彼らは頬を染めて、文句も言わず昼食を食べた。


そしてすぐに深い眠りに落ちた。


・・・・・・・・・・・・・・


「起きろ!」

対馬たちは怒鳴り声と体の痛みで目が覚めた。


そこは甲板の上で、聖女フィーリア、その護衛フレーゲルら騎士ども、

そして船員どもがニヤニヤしながら、

転がっている対馬たちを取り囲み、見下ろしていた。


「なんだ、テメーら!あががががが!」

跳ね起きて、怒鳴りつけようとした対馬は首から強烈な電撃を受けて倒れた。


「な、なんだ?」

理解できない状況に困惑する富士谷たち。


「サルどもに説明してやる。」

フレーゲルが対馬たちを見下げ、嘲り笑いを浮かべながら説明を始めた。


「お前らには奴隷の首輪をつけた。

俺たちに歯向かおうとしたり、首輪を外そうとしたら、

対馬みたいにキツい電撃を浴びることになるぞ。」


「なっ!」

対馬たちは自分たちの首にそーっと手を伸ばし、首輪に触れてびくっとした。


対馬たちの顔色が蒼白になるのを見てニヤリと笑ってから、

フレーゲルは付け加えた。


「外そうとするなよ?

安物じゃないからな、絶対に外れないし、下手したら死ぬぞ?」


「そんな!なんで・・・」

「なんでだって?お前ら、この10日間のことを覚えていないのか?

お前らは俺たちをずっと馬鹿にしていただろ?

ずっと無能だと蔑んでいただろ?

それを自慢すらしていただろうが!

この!愚か者の!野蛮人どもが!」


フレーゲルはそう吐き捨てると、富士谷を何度も蹴りつけた。

その他の騎士たちも対馬たちを蹴りまくった。

「このや・・・あぎゃ!」


対馬がフレーゲルたちに敵意を覚えたせいで、

また電撃を受け、悶絶していた

「ひいぃ!」


「ぎゃははははは!!!!いいぞ、いいぞ!

その首輪の性能をどんどん試してみろよ!

身をもってその凄さを感じるハズだぜ!

ぎゃははははは!!!!」


対馬たちを馬鹿にする笑い声が360度、彼らを取り囲んでいた。


しばらくして、周りの奴らの笑いを制すと、またフレーゲルが話し出した。

「イリス神の姿を覚えているか?

神は金髪碧眼、つまり俺たちは神の子どもだっていうことだ。

神を知らなかった野蛮人どもが!

立場を解っていない野蛮人どもが!

お前らは一生、俺たちの奴隷として働くんだ!死ぬまでな!」

「「「「ぎゃははははは!!!!」」」」


これまで、対馬たちの横暴な態度を必死で我慢していた者たちは

彼らを心配することなどなく、彼らの転落を嘲笑っていた。


「ごめんなさい!許してください!もう、2度と、あんな態度はとりません!

どうか、許してください!」

一番先に折れたのは富士谷勇気だった。


富士谷は土下座して、額を甲板にこすりつけて哀願した。

「ごめんなさい!許してください!もう、2度と、あんな態度はとりません!

どうか、許してください!」


それを見て、佐々与次郎、仏生寺 善、浅枝鈴也も土下座し、哀願した。

最後に対馬がしぶしぶ土下座した。


静寂が辺りを包んだあと、フレーゲルが一つ、ため息をついた。


「お前らなぁ、もっと早く気づけよ。

俺だって、こんな悪役はやりたくないんだぜ?まったくよう。

・・・わかった、今回だけは許してやるよ。

だけど、次はないぜ!」


「「「「「あ、ありがとうございます!」」」」」

大きな、心のこもったお礼の言葉が響いた。

心底ビビっていた対馬たちはホッと肩をなでおろしていた。


「ほら、もう顔を上げろよ。」

フレーゲルの優しい声を聴いて、対馬たちは顔を上げた。


フレーゲルたちは悪魔の笑みを浮かべていた!


「バカめ!許すワケないだろ?

人間がサルと約束して守るか?

そんなワケないだろ!

お前らは一生、俺たちの奴隷だ!

俺たちのために働け!戦え!死ぬまでな!

ぎゃははははは!」


「そ、そんな・・・」

絶望する対馬たち。


「お前らは、これから俺たちの忠実な僕となってダンジョンを攻略してもらう。

やることはこれまで話していたことと一緒だ。

変わったことは俺たちの命令に背けなくなったことだけだ。

安心しろ。命令に背かなかったら殴ったりしないし、

ちゃんとエサは与えてやるからな。」

「「「「ぎゃははははは!!!!」」」」


「そ、そんな・・・」

周りから嘲笑され、対馬たちは絶望の淵に沈んでいった。



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