第17話 ハービン

「なんとか穏便に済ませたかったんだがな。

お前らが悪いんだぜ?」


ハービンのセリフが終わるとダールが突っ込んできた!

ドン!

キン!

俺は両ポケットから二丁拳銃を取り出し、

ダールとハービンの心臓を狙って撃った。


「ぐっ!」

ダールは剣で防ごうと試みたものの、間に合わず、その胸は血に染まり、

信じられない物を見たような顔をしながら前のめりに倒れた。


が、ハービンは左手に持つ丸い小盾で銃弾を防いでいた!

「なにぃ!」


「おいおい、慌てるなよ。俺はなんにもしてないぜ。」

銃の攻撃に驚いたようだったが、ハービンは余裕の笑顔を浮かべていた。


「・・・ダールは剣を抜いて、向かってきたよ。」

「ああ、だから死んだな。」


ハービンも、クレットも、ダールが死んでも全く気にしてないようだった。


「仲間なんだろ?家族なんだろ?」

「もう死んだから、元、だな。

ダンジョンで荷物持ちと、見張りが必要だから入れてやったら、

調子に乗りやがってな。

俺たちと同格だと自惚れて、鬱陶しかったんだよ。」

ハービンは穏やかな表情のまま、ダールの死体を蹴り飛ばした。


コイツ、イカレテいるのか?


ダールに剣を突きつけた動きは見えたが、あれが本気じゃなかったらヤバいか・・・


「・・・アンタを攻撃したのは悪かった。すいません。」

「それ、面白そうな武器だな。お詫びに見せてくれよ。」

「アンタに渡すのは怖いから、ダメだ。」

「・・・なんだ、意外と肝が小さいんだな。」


「ホント、小さいし、バカだわ。ようやく、アンタが怖くなるなんて。」

「はあ、やっとかよ。」

ハービンはため息をついてから、ニカッと笑った。


「あっ!」

右横、5メートルの所で女の驚く声がでた。

クレットだった!


ハービンの隣に黙って立っていると思っていたのに!

いつの間にか、後ろに回り込もうとしていて、

花梨が仕掛けていたエアシールドにぶつかってビックリしたらしい。


以前、花梨の空間固定を見せてもらったら、光を反射しないし、

どの角度から見ても歪みがないから、ここにあると聞いても全く分からなかった。

ほんと、花梨の能力が凄すぎる。


「・・・これ、なんなの?なんで分かったの?」

クレットは表情を動かさず、花梨を見つめた。


「アンタたちを信用していないだけじゃん。」

花梨はふんと鼻を鳴らした。


「はっは~、お前ら面白いぜ!」

ハービンが剣を抜いて、襲いかかって来た!


俺は慌ててハービンの鼻と右足を狙った。

ドン!


ハービンは予測していたかのように躱しやがった!

「マジか!」

「はっは~!死ね!」


振り下ろされた豪剣をなんとか躱し、

ドン!

鼻と腹を狙ったら、鼻は剣で、腹は小楯で守られた!

マジか!


さらに銃をぶっ放して、なんとかハービンと距離を取った。


俺の背後の大木に大きな切り傷が残っていた!

斬撃を飛ばしたのか!ヤバい!


花梨は近づこうとするクレットから距離を取ろうとしていて、

時折、クレットから投げられたナイフをエアシールドで防いでいた。


「やるなあ、お前ら。楽しいぜ!」

戦闘狂のセリフを吐いて、またハービンが襲ってきた!


「九郎!」

「う、うん!」

ドン!

キン!

俺は胸と腹を狙って撃ったが、今度は剣で防がれてしまった!


ダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダ!

「ぐわっ!」

だけど、九郎がサブマシンガンを乱射したらハービンの右足に当たった!


「ハービン!」

クレットの驚いた声が響いた。


「九郎、サブマシンガンを!」

「ほい。」

九郎と一緒に、ポーションに手を伸ばしたハービン

目掛けてサブマシンガンを構えた。


ドン!

眼の前に転がった何かが爆発し、一瞬で煙が広がった!


「撃て撃て!」

ダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダ!ダダダダダダダダダダ!


奴らの攻撃が怖くて、めったやたらに撃ちまくった。


すぐに煙は無くなっていったが、ハービンもクレットもいなくなっていた。


「九郎、手りゅう弾を。」

「ほい。」


悔しくなって、奴らが逃げたと思われる森の中へ10個、

適当に全力で投げてやった。

ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


振り向いたら、馬車が逃げ出そうとしていたので、威嚇射撃して停止させた。


ビビっている御者に対してとっておきの笑顔を見せた。

「なあ、いろいろと教えてくれるか?」


御者の名前はグリュース、ウィンブラの奴隷商会の幹部で、

今回はバッドカンパニーから買い取った奴隷を売り払った帰りとのことだった。


「あいつ等の能力、二つ名知っている?」

御者は目つきが悪く、顔もいかつく、奴隷商会の幹部ということで、

人の命とか尊厳を奪いまくったはずなのに、俺たちに対してビビっていた。


「能力は知らない!二つ名は【感知】と【幻影】って聞いた。」

「ありがとう。じゃあ、金、全部よこせ。」

「無理だ!バッドカンパニーに殺される!」

「ふ~ん、じゃあ、殺してから奪ってもんだけど。」

「わ、わかった!助けてくれ!」


御者から金を奪って追い払うと、すぐにランクルをリアル化して発進させた。

ハービンとクレットが怖くて、

九郎は後ろ、花梨は左、サポネは右に注意しつづけた。


サポネは必死に気を張っているものの、

耳もカギしっぽも垂れ下がっていた。


1時間走って、ようやく警戒を解いて、気になっていたことを話し合った。


「ふうぅ、怖かったな、あいつ等。」

「マジでマジで!三蔵の撃った弾丸、全部、防がれてたじゃん!」


「二丁拳銃無敵って思っていたけど、自信なくなったわ。

あいつの二つ名【感知】って言ってたけど、

俺の狙った先を感知したってことかな?」


九郎の顔をじーっと見つめてやったら、ちゃんと意図が伝わった。

「ボクが狙い通りに撃てないから当たったっていいたいワケ?」

「正解!」

「バカにするんじゃないよ!ばっちり、狙い通りだったさ!」

「ホントに?」

「いや、腹を狙ったら足に当たってた。」

「「「アハハハハ!」」」


「花梨はよく、女を防いだよな。ほんと、凄いわ。」

「まあね、まあね。三蔵と九郎はアッシに対する敬いが足りないわ。」

「花梨さまって呼べばいいか?」

「それがバカにしているじゃん!」

「「「アハハハハ!」」」


「俺、ハービンに集中していたんだけど、

あの女じっと隣に立っていたと思ったてた。

幻を見せながら気配を消して移動してるという、

二つ名【幻影】ってそういうことだったんだな。」

「うんうん。」


「なんか、あの女がぼんやりとしたような気がしたんだ。

だから、なんとなく、エアシールドを張り巡らせてみたじゃん。」

「ほんと、凄いわ。ありがとう、花梨さま。」


「いい加減にしなさい!」

「「どうもありがとうございました!!」」

ど素人なりにお笑い風に〆てみたんだけど、

サポネは全く笑ってくれなかった。三蔵、しょっく。


ちなみに、俺が御者にカツアゲをしているときに、

サポネはダールに向かって、黙って祈りをささげていた。


「ねえ、サポネ。アッシらと一緒はもう、イヤになっちゃった?」

花梨が恐る恐る尋ねると、サポネは弾けるように首を振った。


「そんにゃことないにゃ!

ごめんにゃさい!サポのせいで、危にゃい目にあって!

ごめんにゃさい!」


花梨は、泣きだしてしまったサポネの肩を優しく抱いた。

「そんなこと!

サポネは大事な仲間だからね。

いや、アッシはサポネのことをほんとに、

ほんとに大事な妹と思っているじゃん。

大事な妹は守るのが当然じゃん?」


「そうだよ。サポネは僕たちといて楽しいかい?」

九郎はサポネの髪を優しく撫でた。


興奮した様子を見せたらぶん殴ろうと観察したけれど、

九郎はただただ優しく撫でていた。


「楽しいにゃ・・・」

「これからも一緒にいてくれるかい?」

「お願いしますにゃ・・・」

ようやく、サポネに笑顔が浮かんだ。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


御者は馬車を走らせながら考えていた。


どうしよう、金を全部、奪われてしまった。


商会長は許してくれるだろうか?

バッドカンパニーは許してくれるだろうか?


そもそも、ハービンたちがあのガキどもにちょっかいを掛けなければ

問題なかったんだ。

そうだ、全部、アイツらのせいだ。


だが、商会長が、バッドカンパニーがそれで許してくれるだろうか・・・


森の中から男女が飛び出してきた。

「遅いぞ!」

ハービンは血だらけになっていた。


「どうしたんだ?」

「最後、チビが投げたものが近くで爆発しやがった。

破片が飛び散って、このありさまだよ。

さっさとポーション、寄越せ。」


ハービンはいつもの余裕が消え失せていた。

「くそっ、ガキどもが!いつか必ず、なぶり殺してやる!」

ハービンの呪詛に、自分のことではないのに、御者は恐れおののいていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る