第16話 ダール
俺は14歳の時、孤児院出身者で冒険者パーティを結成した。
なんとかバッドカンパニーの幹部に名前を憶えてもらったものの、
なかなか冒険者ランクもバッドカンパニー内の席次も上がっていかなかった。
それは、功績が少なかったからで、その理由は仲間の質が悪いからで、
仲間の質を上げようと思えば、功績を上げるしかないという、
悪いらせんに陥っていた。
そんな時だ。
妹として可愛がっていたサポが二つ名をもらったって言いに来たのは。
なんでコイツが!ってどす黒い感情が沸き起こった。
同時に、チャンスだ!と思った。
そして、俺はバッドカンパニーにサポを売って、席次を上げた。
その後、俺は出来の悪い仲間を捨てて、新しいパーティ、ストラグルに加わった。
ストラグルはたった二人で、しかもわずか20歳だというのに、
もうすぐ金ランクという超有望株だった。
ハービン。背は2メートル近く、筋骨隆々で、【感知】の二つ名を持つ戦士。
長剣を片手で軽々と操り、その上、小さな丸い盾での防御も鉄壁だった。
クレット。背は160センチのしなやかな体で、【幻影】の二つ名を持つ斥候で、
黒い長い髪、目つきの鋭い綺麗な猫人の女。
二人とも孤児院出身だったので、前から入れてほしいと頼んでいたのだが、
冒険者ランクを上げるか、クラン内の席次を上げろって言われていた。
席次は上がったが、理由が理由だったので不安に思いながらも、
パーティに加えてくれって頼んでみたら、あっけなく了解をもらった。
ちょうど、二人だけでの行き詰まりを感じていたらしい。
それまでダンジョンの15階までしか行ったことのなかった俺だが、
ストラグルに加わってたった3か月で30階をクリアして金ランクに上がった。
ハービンとクレットは金ランクをとりあえずの目標としていたので、
盛大に大宴会したよ。
15歳で金ランク冒険者となったので、もう女どもが群がってきて困ってしまった。
ただ、大宴会が盛り上がっている時に、
前のパーティメンバーが哀れっぽく無心してきやがって、
その時だけは酒が不味くなったので、蹴り飛ばしてやった。
その後、バッドカンパニーのリーダー、プリサイスからお褒めの言葉をもらって、
新しい任務をもらった。
ウィンブラの周辺の村々に奴隷を売りに行くのだ。
そういえば、サポは奴隷となって、
新人冒険者を奴隷落ちさせる仕事をしているらしい。
どうでもいいけど。
30人の男奴隷を運んだのだが、
舐めた口を叩いた奴をハービンがぼこぼこにしたら、
みんな従順になったので、お気楽な旅行になってしまった。
しばらくダンジョンにこもってばかりいたので、青空の下が楽しかった。
タダで仕入れたモノが若い農奴として高く売れて、馬鹿馬鹿しいほど儲かった。
だが、広大な農地所有者はまだまだ農奴が足りないらしく、
またいつでも持ってきてくれ、高く買うぜって笑っていた。
全員売り終わって帰る途中、丘の上に差し掛かったら、
木陰で暢気に昼寝をしている連中がいた。
念のためにハービン、クレットとともに馬車を守るために前に出た。
「気持ちよさそうだな!」
ハービンがにこやかに笑いながら話しかけた。
昼寝をしていたのは、若い男2人、若い女1人と子ども・・・
「サポネじゃないか!
なんでこんな所に!
アゼットさんはどうしたんだ?
お前、奴隷の首輪がないぞ!
どうやって外したんだ!
そいつらは誰だ!」
畳みかけるとサポネは「ひぃっ!」って怯えた声を出して、
若い男たちの後ろに隠れた。
3人は俺と同い年くらいか、男の一人はチビで、もう一人はヒョロガリだった。
女は金色の髪で、肌が白い綺麗な女だった。
ハービンがうん?と首をかしげながらサポネを見つめた。
ぽかり。
「痛い!なにするんだよ、あにぃ!」
ハービンが俺に拳骨を落としてきた。
「お前がサポネを怯えさせたからだろ。黙っていろ。」
ハービンは俺に小言を言ってから、奴らに笑顔を浮かべた。
「俺たちはサポネと同じ孤児院出身なんだ。まあ、兄妹ってことだな。
なあ、サポネ。一緒にウィンブラへ帰ろう。
事情は分からないが、絶対に、お前を守ってやるから。」
サポネはびくっと反応したが、黙って男たちの後ろに隠れたままだった。
それを見て、ハービンは肩をすくめると、さらに奴らに穏やかに話しかけた。
「サポネが頼りにしているアンタたちは誰だい?」
「・・・トーエンっていう冒険者パーティだよ。」
なんだ、コイツ等。街でも、ギルドでも全く見たことないぞ。
「なんでお前らが・・・」
我慢できなくなって、トーエンを問い詰めようとした。
ぽかり。
「痛い!なにするんだよ、あにぃ!」
話し出した俺を制止すべく、ハービンがまた拳骨を落としてきた。
「お前は黙っていろ。」
顔は笑ったままだが、ハービンの目は全く笑っていなかった。
「おい、何やってんだ!」
御者が待ちきれず、怒鳴り声を出した。
「悪いな、もう少し待ってくれ。」
ハービンは御者に応えたあと、また奴らに向かって穏やかに話しかけた。
「俺たちはウィンブラの金ランクパーティ、ストラグル。
ハービン、クレット、ダールだ。」
俺の名前を聞いて奴らがぴくっと反応した。
俺がサポを奴隷にしたことを知っているみたいだ。
「なあ、ここまでサポネを守ってくれたアンタたちには悪いが、
俺は、家族は一緒にいるべきと思っている。
だから、サポネ、俺たちと一緒に帰ろう。
絶対に、俺たちが守ってやるさ。」
サポは怯えたまま、黙ったまま、男たちの背から出てこなかった。
サポのその様子を見て、チビ男が口を開いた。
「家族だからって一緒にいる必要はないだろ?
仲の悪い家族はいっぱいいるし、
結婚したら新しい家族に移るんだからな。」
金ランクパーティだと名乗ったのに、チビ男たちの様子は変わらなかった。
コイツ等、バカなのか?
「サポと結婚したのかい?」
ハービンが雰囲気を和らげるべく大げさに驚いて見せたが、
チビ男たちは表情を硬くしたまま、丁寧な口調で答え続けた。
「例えばの話だよ。
孤児院はたくさんの人がいるんだろ?
だけど、アンタたちのパーティはたった3人だよね。」
「・・・アンタたちは、サポネと出会ってどれくらいなんだい?」
「・・・時間じゃないだろ?
アンタたちの方が、圧倒的に付き合いが長いんだろうさ。
だけど、サポネは俺たちの背中で、アンタたちから隠れて震えているよ。」
「・・・だから、コイツの頭に拳骨を落としただろ。」
ハービンの口調がチロリと危険な香りを漂わせた。
ハービンの気配が変わったことに気付いたのだろう、
チビ男は変わった黒い服の両ポケットに手を突っ込んだ。
暗器を持っているのだろう。バレバレだな。
ヒョロガリの方は、肩から下げていた見たことない
黒い変な形の金属を抱え込んだ。
「・・・サポネと出会ったのは3日前だ。
その時、サポネはやせ細っていて、ボロボロの服で、小汚かったよ。
今はどうだ?
服は清潔で、やせ細ってはいないだろ?
髪や肌をみてくれよ、艶々だろ?
まあ、そんなことよりさ、
サポネはずっと俺たちの背中で、アンタたちから隠れて震えているよ。
これがすべてだろ?」
ハービンは、はあ~っと大きなため息を吐いてがっくりと肩を落とした。
「なあ、もう一度、言うぜ?
俺たちは金ランクパーティなんだ。」
「うん、聞いたよ。」
「・・・金ランクはこの国に20もないんだぜ。」
「アンタたち、若いのに凄いんだね。」
ハービンが遠回しに脅かすが、チビ男は暖簾に腕押し、全く堪えていなかった。
コイツ、バカなのか?
「ちなみに、お前たちのランクは?」
「見習いだよ。」
コイツはバカだ!
「てめえ、見習いだと~!舐めてんのか!」
ついチビ男を怒鳴りつけてしまうと、
俺の喉元にハービンの剣が突き付けられていた!
いつの間に!
ハービンが俺のことをゴミのように見ていた。
冷汗がダラダラと流れた。
「黙れ。・・・3度目だ、次はないぞ。」
わずかに肯くとハービンは剣をおろしてくれた。
その間に、チビ男たちは3歩ほど、後ろに下がっていた。
「見習いとは思えないが・・・まあ、いいさ。
おい、サポネ。
コイツ等がケガするのを見たくなけりゃ、こっちへ来い!」
ハービンがついに、本気の圧を出した!
サポネの震えは大きくなって、男たちを見比べた。
また俯いて、しばらくすると、男たちの間から1歩前に出ようとした!
「サポネ、行くな!僕たちと一緒にいるんだ!」
これまで黙ったまま、震えていたヒョロガリが、サポネの肩を掴んで叫んだ。
「アッシたちと一緒に行こう!行くんだ!」
女も強気に叫んだ。
「・・・一緒にいて、いいにゃ?」
サポが俯いて、震える声でつぶやいた。
「モチロンだよ、サポネ。
・・・ということだ。ごめんね、金ランクパーティさん。」
チビ男がサポネの頭を優しく撫でて、俺たちを見つめて莞爾として笑った。
ハービンは、もう一度、はあ~っと大きなため息を吐いて
がっくりと肩を落とした。
俺は腰を少し落として、いつでも剣を抜ける態勢を取った。
ハービンはすぐに顔を上げると、どう猛な笑みを浮かべた。
「なんとか穏便に済ませたかったんだがな。
お前らが悪いんだぜ?」
俺はチビ男を切り捨てるべく、飛び出した。
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