第14話 サポネ②

ランクルの後部座席をフルフラットにして、布団を敷き詰めると、

座っているサポネの後ろに回った花梨は、サポネの肩に優しく手を置いた。


「じっとするじゃん。」

花梨は水のいらないシャンプーで、花梨の髪を優しく洗っていく。

「本当はお風呂でちゃんと洗いたいんだけどね。

これでもずいぶん、綺麗になるよ。」


髪を洗い終わると、花梨はサポネの正面に回った。

「もうちょっと、じっとするじゃん。」

そして、今度は鼻歌を歌いながらフェイスケアを始めた。

サポネは初めて嗅ぐいい匂いにクンクンと鼻を鳴らしながら、

気持ちよさそうにしていた。


髪と肌の手入れが終わるとサポネと花梨は並んで眠った。


サポネはこんなにフワフワで、サラサラの布団に寝るのは初めてで

嬉しくってゴロゴロしたけれど、

疲れ切っていたからたちまち眠りについてしまった。



夜中。

サポネはがばっと起き上がった。


スキル「索敵」が仕事をしたのだ。

「何か、来るにゃ!」


前の席で眠っていた三蔵と九郎が目を覚まし、窓を少し開けると

わお~ん!

遠く、狼の遠吠えが聞こえた。


「・・・バーベキューしたら、移動するべきだったな。

九郎、機関銃を出してくれ。

俺は外で待ち受けるけど、九郎と花梨は車の中でサブマシンガンを撃ってくれ。」


九郎がリュックから取り出した小さな玩具を大きな機関銃にリアル化した!

それを持って、三蔵は車の外へ出て、三脚をセットし、機関銃を構えた。


花梨も欠伸をしながら起きてくると、サブマシンガンを受け取って車を降りた。

そして、車の屋根に見えない階段を上がった!


心配そうなサポネに、九郎は笑顔を見せた。

「絶対に大丈夫だからね。でも、怖かったら隠れていてね。」


しばらくして、気配がかなり近づいてきた!

「20くらいいるにゃ!」

「おう!」

サポネの警告に外の三蔵が応えた。


いくつもの、何かの呼吸音と足音が聞こえてきた。


九郎が車のエンジンをかけ、用意していたサーチライトを点灯すると、

20頭くらいの大きな狼がこちらを警戒して立ち止まり凶悪な唸り声をあげた。


ダダダダダダダダダダダダダダダ!

ダダダダダダダダダダダダダダダ!

「ぎゃわん!ぎゃわん!」

三蔵が機関銃をぶっ放すとたちまち狼は全滅してしまった!


「凄すぎにゃ・・・」

サポネは茫然としていたが、

三蔵と花梨は何事もなかったかのように車の中に戻ってきた。


「サポネが気づいてくれて助かったよ。ありがとう。」

「「ありがとう。」」

優しくお礼だけ言うと三人はたちまち寝る態勢を整えた。


「「「お休みなさい。」」」

「お休みにゃさい・・・」


・・・・・・・・・・・・・・


サポネはいつもどおり日の出の30分前に目が覚めた。

フワフワした布団、そのサラサラの手触りを確認して、

昨日のことが本当だって分かって笑顔になった。


隣では花梨が幸せそうに眠っていた。

前の席からは、三蔵と九郎の寝息が聞こえた。


サポネは何か三人の役に立ちたいって思った。

そうだ!狼の死体から魔石を取ろう!


サポネは気配を消すと車からそっと降りた。

そして、昨晩捨てた自分のボロボロの服に着替えた。

みんなとお揃いのジャージは汚したくなかったんだ。


ダンジョン内では魔石を残して魔物の死体は消えてしまうので、

サポネはこれまで魔物の死体から魔石を取り出したことはなかった。


狼の肉は美味しくないから、魔石だけ取り出すことにした。

初めてだから時間がかかったけど、何回かやっているうちに上手になってきた。


朝日が昇ってしばらくすると、三蔵が欠伸をしながら車から降りてきて、

体をほぐし始めた。


「おはようにゃ!」

サポネが元気よく駆け寄ると三蔵はビックリしていた。


「おはよう、サポネ。何していたの、こんなに朝早く。」

「サポはいつも日の出前に起きるにゃ。

時間があったから狼の魔石を取ってきたにゃ。」


はいっとサポネが両手を前に出すと、小さな魔石が20くらい載っていた。

またまた三蔵は驚いたあと、サポネを優しくねぎらった。

「ありがとう。大変だったろ?

俺たち、死体から魔石取り出したことないから本当に助かったよ。」

三蔵に笑顔で感謝されて、サポネは満足そうに微笑んだ。


花梨と九郎も起きて、車の外へ出てきた。

「あ~、サポネ、そんな汚い服、もう着たらダメじゃん!

いくらでも新しい服、用意してあげるから!」


「サポネ、着替えたら朝ごはんにしよう。サンドイッチだよ。」

花梨と九郎の掛けた声に、サポネは弾けるような笑顔を浮かべた。

「ありがとにゃ!」


「やっぱり、昨日のシャンプーとフェイスケアが効いているね。

サポネ、昨日よりずいぶん可愛くなったよ。」

「「うんうん!」」

花梨が可愛くなったって褒めると、三蔵と九郎がうんうんと食いつくように肯いた。

「ありがとにゃ・・・」

サポネは照れて頬を真っ赤に染めていた。


朝ごはんはサンドイッチとリンゴジュースだった。

またサポネは美味しい、美味しいと言ってたくさん食べた。


「狼の死体が転がっているし、今日はさっさと出発するか?」

「うんうん!」

「さあ、サポネ、車に乗って!」

三人は笑いながら車に向かって歩いて行く。


「三蔵さま!九郎さま!花梨さま!ホントにサポも一緒に行っていいにゃ?」


サポネの言葉に、三人はしばらく固まってから、

ギギギと壊れかけのロボットのように振り向いた。


「三蔵さま?」

「九郎さま?」

「花梨さま?」


「「「なんでサマ付け?」」」


「サポはバッドカンパニーの奴隷だったし、

みにゃさまに助けてもらったし、みにゃさま、凄い力をもっているし、

サポは、にゃんにも役にたたにゃいし!」


一緒に行きたいのに、あまりの実力差と彼らを奴隷にしようとした罪悪感が

サポネを覆っていた。


「サポネは仲間だ!」

九郎が怒ったように大きな声を出すと、三蔵は落ち着いた声を出した。


「役に立つとか、立たないとか関係ないよ。

九郎も言ったように、サポネと俺たちはもう仲間だからね。

昨日、サポネの歓迎会しただろ?

それに、夜中、いち早く狼に気付いたのはサポネじゃないか!

狼の魔石も取ってくれたし、サポネのお陰で凄く助かっているよ。」


「サポネ、一緒に行くじゃん?」

少し不安そうに、花梨がサポネに手を伸ばした。


「ホントにいいにゃ?」

「「「行こう!!!」」」

「にゃん!」

サポネは笑顔を浮かべて花梨の手を掴んだ。


「でも、「サマ」はよくないよな!」

「お兄ちゃんがいい!」

「キモッ!」

九郎が叫んだら花梨が吐き捨てた。


「サポネ、さまはダメだ。他の呼び方にしてくれ。」

三蔵がやっぱり笑顔でそう言ったので、

サポネは空を見上げてう~ん、う~んと悩んだ。


「にゃあ、サニィ、クロニィ、リンネェって呼んでいい?」

「「「OK!!!」」」

「ありがとにゃん!」

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