第13話 サポネ

今日はサポネの運命が変わった一日。


サポネは物心ついたときから、孤児院で育った。

孤児院は貧乏で年下の子どもたちもたくさんいるから、

12歳になったら出ていかないといけない。

そして、少しでも孤児院に恩返ししなきゃいけないんだ。


1か月くらい前、突然、【暗殺者】の二つ名がついた。

その日がサポネの12歳の誕生日だった。


二つ名がある人は凄く強くなるから、優遇される。


サポネは嬉しくて舞い上がり、

一番仲の良い、孤児院のお兄であるダールについ言ってしまった。


ダールは15歳、濃い茶色の髪で、カッコいい上に、

若手冒険者で一番の有望株らしい。


ダールはサポを抱きしめてくれて囁いてくれた。

「可愛いサポ、サポが好きだ。」

「嬉しいにゃ・・・」

「なあ、サポ、ちょっと困っていることがあるから、助けてくれないか?」

「サポでも出来るにゃ?」

「サポしか出来ないんだ。」

こんなセリフは初めて言われた!

しかも大好きなダールに!

嬉しい!


手を繋いでふわふわしながら行った場所は冒険者ギルドだった。


そこでダールは優しい笑顔を浮かべ、サポネの前に紙を広げた。

「これは俺たちのパーティに加わるって契約書だよ。

サポ、ここにサインしてくれる?」

サポネは自分の名前は書けるけど、他の字は読めない。


だけど、ダールを信じきっていたから迷わずサインした。


でも、騙されていたんだ。


その契約書はバッドカンパニーの奴隷になるって契約書だった。


サポネは奴隷になったことに気づかないまま、

ダールと手を繋いでニコニコしたまま、バッドカンパニーの根城に行き、

なんのことかわからないまま奴隷の首輪をつけられてしまった。


気付いた時には、反抗はもちろんできなくて、文句すら言えなくなってしまった。


ダールは意気揚々とバッドカンパニーのリーダーに伝えた。

「コイツ、【暗殺者】の二つ名がついたんです。」


リーダーの名はプリサイス、【調教師】の二つ名を持っていて、

でっぷりとした40歳くらいの冷酷な男だ。


「ほう、いいじゃないか。すぐ使えるか?」

プリサイスは隣の男に相談した。


隣の男はサブリーダーのクリート、【神の目】の二つ名を持っていて、

痩身の40歳くらいの計算高い男だ。


「鑑定。・・・確かに【暗殺者】の二つ名があるな。

スキルは、「隠密」「追跡」「索敵」「遮断」か・・・

武器を扱うスキルがないから、しばらくは使えないな。」


クリートの鑑定結果を聞いて、プリサイスは残念そうに首を振ると部下に命じた。

「おい、アゼット、今、俺は忙しいんだ。

だから、このガキの面倒をしばらくみろ。

後で俺が育てるから、優しくするんだぞ、優しくな。」

「へい。」


「それから、ダール。よくやった。お前は昇進だ。」

「あ、ありがとうございます!」

ダールは喜びの声をあげてから、床に額をこすりつけた。


「ダール・・・」

サポは奴隷の首輪のせいで、文句も言えなかった。


ダールは初めて見る気持ち悪い笑顔を浮かべた。

「ありがとう、サポ。お前のお陰で俺は出世したよ。

お前も、これからはバッドカンパニーの役に立つんだぞ。

アゼットさんは優しいけど、ちゃんと言うことをきけよ。」


サポネはアゼットのパーティに入らされた。


アゼットのパーティの役割は、何にも知らない若手冒険者を嵌めること。

男は奴隷に、女を娼婦にして売り払うんだ。


サポネの役割はその狙いを定めた若手冒険者たちを襲いやすい場所まで

バレずに追跡すること。


たった1か月で、10人以上が奴隷、娼婦になってしまった。

イヤでイヤでたまらなかった。だけど、どうしようもなかった。


アゼットたちはサポネに暴力を振るうことはなかったけど、

雑用でこき使いまくったうえに、

お金はほんの少ししか渡さなかったので、いつも空腹のままだった。


そして、今日は男2人と女の3人の初心者パーティが獲物だ。

目当ては男の持つ、長剣。なかなかの業物らしい。


彼らはど素人丸出しの動きだったのでやすやすと尾行できた。

絶対に、ど素人だった。


だからアゼットたちは油断しまくり、余裕を見せ、

彼らをいたぶって遊ぼうとしていた。


だけど、彼らはアゼットたち4人を瞬殺した!


そして、サポネの奴隷の首輪を外してくれた!

凄い!所有者しか外せないのに!


命を狙ってきたアゼットのパーティメンバーだったのに、

サポネをこの大嫌いな街から連れ出してくれるって!


でも、東門へ向かって歩きながらサポネに不安が押し寄せていた。

確かにアゼットたちを瞬殺したけれど、

3人とも軽装すぎて、しかもこのまま危険な城外へ出ようとするから。


三蔵は長剣と小さなリュックだけで、防具無し。

アゼットたちを殺した、初めて見た小さな武器はいつの間にか無くなっていた。


九郎は大きめのリュックだけで、

花梨にいたっては全くの手ぶらだったから。


そんな不安は九郎がすっかり解消した。

九郎のリュックに入っていた小さな玩具がすごい物に変わった!

車っていう馬もいないのに走る魔道具だって!

凄い!


その後は、サポネの歓迎会を開いてくれた。

初めて食べたエビ、貝、刺身の美味しいこと!


サポネは本当に食べていいか、何度も3人の顔色を窺ったけど、

サポネが食べれば食べるほど、3人は喜んでくれた。


生まれて初めて肉に飽きてくると、コンビニスイーツが並んだ。

甘い!こんなに甘くて、柔らかくて美味しいの、初めて食べる!

サポネは蕩けるような笑顔を浮かべていた。


生まれて初めて、サポネは美味しいものをお腹いっぱいになるまで食べた。


食事が終わると九郎が改めてお茶を用意した。

「なあ、サポネ、これまでのこととか、

バッドカンパニーのことを教えてくれないか?」


サポネはう~ん、う~んと悩んで申し訳なさそうな表情となった。

「・・・二つ名だけは言えないにゃ。」


「うん、言いたくないことは言わなくていいよ。」

三蔵の優しい言葉にサポネはホッとすると、

二つ名だけ言わずに、これまでのことを一から話した。


それを聞いた3人は表情を曇らせた。

「大変だったね。」

すっかり同情してしまった花梨がサポネの髪を優しく撫でた。


「バッドカンパニーの奴らをぶっ飛ばそうよ!」

九郎が怒りに震えながら立ち上がった。


「バッドカンパニーは真銀ランクで、

クランに金ランクが4、銀ランクが20、銅が100以上あって、

全部で500人以上、

そのうえ、どこかの貴族と繋がっているってサポネが言ったでしょ。

今の俺たちじゃ全然無理だ。今回は諦めよう。」


三蔵が冷静に判断すると、九郎は意気消沈して、ドスンと腰が落ちた。

「・・・せめて、サポネを嵌めたダールだけでもやっつけようよ。」


九郎の悔しそうな声に、三蔵はう~んと唸っていた。

「知らない街で、知らない敵が500人以上だぞ。絶対に無理だ。」

「だね。」

花梨が苦々しく同意すると、九郎はがっくりと肩を落とした。


「サポは助けてもらっただけで充分にゃ。ホントにありがとにゃ。」

サポネが三人を見つめながらお礼を言うと、三人は少しだけ笑顔を浮かべた。


「まあ、強くなったら、バッドカンパニーの連中をぶっ飛ばしてやろうぜ!」

「「了解!!」」

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