第11話 ダンジョン
次の日の朝と昼の間に、初めて冒険者ギルドを訪れた。
イメージどおり、銀行の窓口みたいなのが並んでいて、
イメージどおり、綺麗なお姉さんが笑顔で座っていた。
その手前には、何人かの荒れくれものが雑談していたが、
入ってきた俺たち3人を見て、興味を持ったみたいだった。
「・・・おいおい、いつからココは子どもが来るところになったんだ?」
「チビに、ひょろがりに、可愛いお嬢ちゃんか。
冒険者が、ダンジョンが、危険って知っているのか?」
「それになんだ、あのへんな恰好は?防具も無しって舐めてんのか?」
お揃いのジャージを着ているが、このジャージのカッコよさが分からないとわ、
残念な野郎だ。
そして、防具はなく、武器は俺が長剣を下げているだけで、
その他は九郎のリュックの中で、プラモのままだ。
ダンジョンに、お試しでほんの少し入ってみて、
花梨のお許しを得てから武具を揃えようと考えていたんだけど・・・
「おい、聞こえね~のか?」
「先輩の、有難いアドバイスだぞ!」
揶揄いを無視したら、ちょっと怒ったみたいだ。
なんなの、こいつ等。
「ああ、今日は冒険者登録に来ただけなんだ。」
それだけ言って、受付にまっすぐ進んだ。
先輩方とのやり取りをご覧になった結果、受付嬢は微笑みを消していた。
「田舎から出てきたばかりで何も知らないんです。
すいませんが、詳しく教えてくれませんか。」
丁重に頼んでみると、受付嬢は一つ肯き、事務的な口調で説明してくれた。
・冒険者登録は名前、年齢だけでよくって、パーティは6人まで。
・冒険者ランクは、真金・真銀・金・銀・銅・鉄があり、初心者は見習い。
・ダンジョン5階をクリアしたら鉄に、10階をクリアしたら銅にランクアップ。
・魔物を倒したら魔石となる。魔石はすべてギルドで買い取り。
・ダンジョン1階は、ゴブリン、スライム、大ネズミがいて、
その魔石は1つ銅貨1枚。
・他の人が戦っている魔物を奪うな、他の人に魔物を押しつけるな。
・ダンジョン内ではよく事故があるから注意すること。
うん、みんなと一緒に勉強したとおりだった。
「まずは、これくらいですね。それで、どうしますか?」
「じゃあ、登録をお願いします。
パーティの名は、トーエン(桃園)、メンバーは三人とも17歳、
名前は、サン、クロ、リン。」
一応、嘘はつかずに、すぐにバレないようにほんの少しだけ工夫してみたよ。
出来上がった登録証は木簡に名前と年齢を手書きしたもの。
ちゃちい。
身分証代わりの登録証がいるって思ってたけど、持っている方がカッコ悪いわ。
はぁ~。
登録が終わって振り返ったら、
さっき俺たちに絡んできた荒れくれものどもはいなくなっていた。
少し安心していたら、中年の落ち着いた感じの戦士が話しかけてきた。
「お前たちは、この街は初めてなのか?」
「そうだけど・・・」
「やっぱりな。ちょっと、向こうで話そう。」
その中年の戦士がギルドを出て行ったので、ついて行ってみた。
大通りの人が少ないところで、中年の戦士は立ち止まると、
感じのいい笑みを浮かべてから話し出した。
「ここのギルドには、2つの大きなクランがあって、
大概の冒険者はどちらかに所属している。知っているか?」
「知らない。」
「だろうな。
俺たちはエボニージャスティス、
さっきお前たちに絡んでいたのがバッドカンパニーの連中だ。
ちなみに、両方ともトップパーティはこの国にたった2つの真銀ランクだ。
で、当然、俺たち、エボニージャスティスに入ることをオススメするぜ。」
ギルド内で絡んできた連中と目の前の中年の戦士を比べたら、
もちろん目の前のヤツを選ぶのだが、どうしよう?
九郎と花梨も判断がつかないようだった。
「クランに入ったらどうなるの?」
「もちろん、アイツらから守ってやるよ。
ただし、クランのために働いてもらうし、上納金も必要だがな。」
「上納金?いくらいるのさ?」
「パーティごと、月に小金貨1枚(10万円)だ。」
「ゴブリンの魔石って銅貨1枚(100円)だよね?無理じゃない?」
「頑張れば出来るさ。
払わなければ、バッドカンパニーから嫌がらせを受け続けることになるぜ。
ちなみに、バッドカンパニーも同じ額だぜ。」
「う~ん。少し考えさせて。」
「おう。じゃあな。」
「あっ、1つ、教えてほしい。
あの絡んできたヤツ、ランクはどれくらいなの?」
「あいつ等は銀ランクパーティだ。じゃあな。」
中年の戦士はあっさりと去っていった。
「ほらほらほら!もう1個、Kが増えたよ~。
汚い!人間関係が!」
花梨がプリプリと怒っていた。
「・・・まあ、1度だけ、少しだけ、行ってみようよ。」
城門を出てしばらく歩くと、高い柵と櫓が2つ見えてきた。
門番にギルド証を見せて柵の内側に入ると、目の前に洞穴が開いていた。
視線を感じたので、右側を見てみたら、
戦士がニヤニヤしながら俺たちを指さしていて、
その隣では猫人の少女が鼻をヒクヒクさせていた。
ヤなカンジだが、せっかくここまで来たので、ダンジョンに入っていった。
ダンジョンに入ってみると、足元、壁、天井とも岩肌で、
幅は5メートル、天井まで3メートルくらいか、
かなり広い通路となっていて戦いは問題なく出来そうだった。
花梨だけは天井が低すぎることもあって、不満そうだった。
「ヤなカンジ~。」
聞いていたとおり、臭いはあんまりないが、ジメジメしていて、
苔が光っていて薄暗かった。
「スイッチ・オン!」
用意しておいたヘッドライトを点灯した。
低層階はトラップがないらしいが、これで安心だな!
あっ、もしかして、俺たちの位置がバレちゃうのか?
まあ、いいか!
薄暗いよりマシだもんな。
九郎は拳銃2丁とサブマシンガンを取り出し、リアル化すると
拳銃2丁を俺に手渡してくれたので、ポケットにしまった。
大銀貨1枚(5000円)で買った1階のマップを広げて、
予定通り、くるりと周回できるルートを確認した。
「よし、行こうか。」
「「了解!!」」
歩き出して10分、向こうに小さな人影が1つだけ、見えた。
「ギャギャ?」
ゴブリンか?
背は子どもくらい、肌が緑色、顔の各パーツが大きくて、毒々しい。
短い木の棒を振り上げ、ゴブリンは俺たちに襲い掛かってきた!
動きも子ども並みか?
だけど、3対1で、さらに大人子どもの体格差なのに、
攻撃してくるってバカなのか?
俺は1歩、前に出て長剣を抜き、落ち着いて袈裟切りにした。
「ぎゃ!」
真っ二つに切り裂かれたゴブリンは大量の赤い血を流し、倒れた。
ふう。
「おお~!やるじゃん、やるじゃん!」
「ありがとう。」
よし、落ち着いて殺すことが出来た。
それに、これくらいなら、10匹でも楽勝だ。
精神的にも問題なさそう。
よし。
しばらくすると、ゴブリンの体が消えて、小さな魔石が1つ残った。
これは楽ちんだ。
「クランの月会費、これが1000個だってさ。」
「無理じゃね?」
「だよな~。」
1時間ほどで、行程の半分くらい歩いた。
魔物はゴブリン10匹、スライム5匹、大ネズミ3匹現れて、
全て俺が剣で切り捨てた。
楽勝だった。
突然、花梨が俺と九郎の腕を抱え、囁いた。
「・・・後ろから誰か来てる気がする。」
「魔物か?」
「・・・どうだろ?なんとなく、だからね~。」
「あいつ等か?何人かわかる?」
「だから、わかんないよ。」
「そりゃそうか。予定どおり、出口に向かおうぜ。」
歩き出してしばらく、またスライムが3匹、現れた!
なんなく倒したんだけど・・・
「やっぱり追いかけられているよ!」
くそっ、分かれ道があったのに、ちゃんと追いかけてくるとは!
「急ごう!でも静かにな。」
今度はゴブリンが6匹も現れた!
しかも剣を持っているヤツもいる!
くそっ!
俺が4匹、花梨が2匹倒し終わると同時に、後ろから声がかかった。
「ようやく、追いついたぜ~!」
ギルドで俺たちに絡んできたプレートアーマーの戦士だった。
さらに、ダンジョンの入り口で見張っていた革ヨロイの戦士と猫人の少女、
そして戦士と魔術師が1人ずつ。
この猫人の嗅覚とかで追いかけてきたのか!
男どもは余裕たっぷりに、ニタニタと笑っていた。
「何か、用かな?追いかけてくるなんて、趣味が悪いよ。」
九郎がサブマシンガンを構えて、珍しく鋭く問いただしたが、
奴らはニヤニヤと笑ったままだった。
当然だけど、サブマシンガンの脅威を知らないみたいだ。
「いやさ、ど素人のボクちゃんを守ってあげようかなって。」
「大丈夫だよ。ゴブリン6匹、瞬殺できるし。」
「いやいや、ダンジョンって危ないんだよ。
知ってるか?時々、初心者が帰ってこないんだぜ。」
ぎらりと戦士の目が怖くなった。
「・・・へ~、それって貴方たちが関係したりして?」
「まさか!俺たちはど素人のボクちゃんたちを守ってあげたいだけだよ。
まあ?お礼はもらうけどな。」
「アンタたちのクランに入れってこと?」
「いや、そんな面倒なことはしねえ。
おい、小僧ども。その長剣と女を置いていけば、助けてやるぜ。」
もう一人の戦士が脅かしてきた!
殺気立ってきた敵だけど、俺は呑気な声を出した。
「花梨の命、この剣と同等みたいだよ?」
はいっと剣を鞘ごと渡すと、花梨は覚束ない手つきで剣を抜いた。
「こんな剣より、アッシの方がずっとイイっしょ!」
「「どうかな~?」」
「サ・ン・キュ~!」
「「カリンノホウガズットイイデス!・・・カ?」」
「サ・ン・キュ~!」
ワザとらしく怒ってみせた花梨との呑気なやり取りを見て、敵の一人が吠えた!
「テメエら、舐めてんのか!」
「いやいやいやいや、舐めてなんかいないよ?
なあ、この人たちのことどう思う?」
慌てて否定してから、九郎と花梨に彼らの印象を尋ねた。
「「雑魚!!」」
「「「アハハ!」」」
俺たちの笑い声がダンジョン内に響いた。
「舐めやがって!殺してやる!」
バン!バン!
剣を抜こうとした戦士3人、魔法を唱え始めた魔術師に
俺の2丁拳銃が2度、全く同時に火を噴いた。
音が2回しか聞こえなかったぜ、俺ってカッコいい~!
4つの右目に穴が開いて、敵4人は倒れた。
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