第9話 散髪
イリス教国からオーガルザ王国への街道は最も安全な地域だそうだ。
4日間、車で走ってみたが、確かに魔物なんて1匹も出ないし、
盗賊が出たっていう話も聞かなかった。
ただ、道を間違えてしまったようで、今日は宿場町にたどり着きそうになかった。
夕方、人がまったく通りそうにない所を見つけて車を停めたが、
日が沈むまで、もうしばらく時間があった。
「九郎、アッシが散髪してやるじゃん。」
花梨がハサミをチョキチョキさせながらニッコリと笑った。
「・・・大丈夫?散髪したことあるの?花梨って器用だったっけ?」
九郎がビビりまくっている~!
「大丈夫じゃん!
アッシは美容師を目指していたじゃん!
やったけどないけどさ!」
「ないのかよ!エア美容師かよ!」
九郎の正当なツッコミに花梨はむうって頬を膨らませんた。
「アッシに出来ないことはないじゃん!
もう、黒子は無くなったし、前髪をすっきりしようよ。」
俺的にも九郎の前髪は鬱陶しい。
できれば短くしてほしい。
失敗し続けても、丸坊主になるだけだしね!
「九郎、もう嫌な奴らはいないんだ。
ていうか、義兄弟たる俺と花梨しかいないんだ。
気分一新、すっきりしてもいいんじゃない?」
「う~ん、じゃあ、花梨、お願いするよ。」
花梨が鮮やかなハサミ捌きで九郎の長い髪を大胆に切っていく。
「あっ!」
その大胆さに九郎が驚いて何度も声をあげていた。
「ふ~、完成じゃん!」
20分後、花梨が満足げな声を出した。
「おおぉ、九郎、さわやか男子に変身だな。」
九郎はかなり短くなった髪をセンターで分けていて、
何年も黒いベールに包まれていた額を大きく見せていた。
普通に好感度の高い男子だ!
「どうよ、どうよ?」
花梨が得意げに九郎に鏡を差し出した。
「これが新しい僕か・・・ありがとう、花梨。イイ感じだね。」
九郎も納得の出来栄えだ!
花梨、凄い!
「やった!じゃあ、次は三蔵じゃん!」
花梨は嬉しそうに万歳したあと、俺をロックオンした。
「おお、どんな髪型にしてくれるの?」
「ハードモヒカン!」
「やだよ、なんでだよ!」
「「「アハハ!」」」
散髪が終わると、晩御飯の親子丼を食べていた。
「なあ、これからなんだけど、どうしようか?」
「僕は冒険者となって、最強になりたいな!」
「うんうん、異世界転移のお約束だよな!」
「アッシは、世直し漫遊旅!
この紋所が目に入らぬかってね!」
「へ~、花梨って水戸黄門を知っているのか!」
「アッシ、お爺ちゃん子だったからね。」
「悪者を退治しながら旅する、うん、それも魅力的だな~。
どんな話が面白いかな~。」
「そうだね、まずは流離の王子さまを助けたり、
いじめられている子どもを助けたり、
お店を奪われそうな人を救ったり、
盗賊どもを縛り首にしたり、
とにかく悪代官を成敗したり、がお約束だよね。」
「なんか、最後の方、違う番組でえらく不穏だったけれど、
いいね、いいよ!
じゃあ、3人だと、メンバーが足りない!
うっかりさんと、風車の人は絶対にいるよな!」
「うんうん!
後は、剣士とコックと射手と航海士と音楽家と・・・」
「うお~い、どっかの海賊船のメンバーになってるぅ~!」
「あの仲間、最高だよね!」
「ああ、あんな仲間、見つけようぜ!」
俺と九郎は右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、
胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。
「「イエ~イ!!」」
花梨のジト目を受けて、俺と九郎はニュートラルな状態に立ち返った。
「えへん!あとは、異世界といえばスローライフだけど、
内政チート知識なんてほぼほぼないんだよね。
ネットとかないと無理だよな~。」
「みんな、ただの高校生だもんね。」
「とりあえず、オーガルザ王国の首都ウィンブラに向かっているけど、
まずはそこのダンジョンに行ってみるでいいかな?」
「え~、ダンジョンなんて、暗くて、汚くって、
アッシの【リバティアイランド】使えないし、最悪じゃん!」
花梨はイヤそうに顔をゆがめた。
「確かに!・・・だけど、ダンジョンって行ってみたいんだ!」
だから、俺は花梨を熱っぽく見つめてみた。
九郎も同じ熱量で花梨を見つめている!
「ガキ!・・・とりあえず、1度行ってから相談な。」
「「ありがとう!!」」
そして、眠る時間がやって来た。
グーパーじゃんけんの結果、俺は0時から花梨と眠ることになった。
ランクルのセカンド、サードシートをフルフラットにしていて、
一人が横たわるなら滅茶苦茶広いけど、二人なら狭い。
しかも、女子!可愛い女子!
大丈夫かしらん?
即効で眠れるように、夕方から運動してばっちり疲れているけれど。
「お休み。」
「お休み。」
背を向けているせいか、花梨の声が緊張しているように感じる~!
・・・・・・・・・・・
鼻のてっぺんが何かに触れている・・・
何やら甘い匂いがする・・・
何だ?
はっと目を開いたら、花梨の顔が至近にある~!!!!
花梨も同じタイミングで目を覚ましたらしく、大きな目を見開いて固まっている~!
二人とも寝返りうって、鼻が触れあう距離にいる~!
こ、これ、唇を突き出せばキス出来るんじゃぁ・・・
ごくり。
そっと目を閉じて、ゆっくりと唇を突き出していく。
バチン!
「いってえ!」
花梨のビンタのフルスイングを食らった!
「死ね!セクハラ!」
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