第8話 感謝

15時くらいには200kmくらい走っていて、

その日10個目の宿場町が見えてきた。


この世界は歩きか、馬車での旅行で、1日40キロがマックスだから、

イリス教国の奴らに追いつかれることはあるまいて。ふっふっふ!


宿場町内の街道は人や馬車で混んでいるので、

やはり迂回して通り過ぎようとしたら、

幅が20メートルくらいの緩やかな川に通せんぼされた。


「花梨、どうしよう?」

「車で寝るより、ベッドで眠りたいじゃん?

お金はアウグストたちが結構、持ってきてくれたし!」


「確かに、ベッドに方がいいわ。」

ということで、九郎を叩き起こし、宿場町に歩いて向かった。


この河はイリス教国とオーガルザ王国との国境となっていて、

右岸と左岸、両方に宿場町があって、旅行者は必ず、どちらかで宿泊するそうだ。


アウグストたちからお金をいただいたので、懐は温かい。

だから、まあまあの高級ホテルに泊まることにした。


移動中、車の中では細かいプラモを作成できないので、

九郎はまた徹夜するつもりで、シングルを3つ借りることになった。


3人で、ホテルで食事をしたんだけど、

出てきたのは塩とニンニクとオリーブオイルのパスタだった。薄味の。

ああ、トマトソースたっぷりの濃いいパスタが食べたくなってきたわ。


花梨も食べたいものがあるらしく、九郎をギンと睨んだ。

「明日はイメージを最大限に膨らますんだよ!」

「ええっ!徹夜で武器、作るつもりなのに・・・」


「例えば、スポーツしに行くイメージなら、ジャージとかイケるんじゃね?」

「「おおっ!!」」

「お泊りに行くイメージなら、パジャマ、歯ブラシ、生理用品、

化粧道具とかイケるんじゃね?」


パジャマ、歯ブラシまではおおってテンション上がったんだけど、

生理用品と来てテンションはダダ下がりとなった。


「・・・生理用品に化粧道具って・・・僕には無理・・・」

「やっぱ、無理か~。どうしようっかな~。」

花梨は大きく両腕を上げて、座ったまま背伸びした。

うおっ!大きな胸が強調されている!


「まあ?いろいろと考えてみるわ。うん。」

そして、花梨はちゃんと座り直し、照れたような表情を浮かべた。

「あのさ、三蔵、九郎、一緒に旅してくれて、ありがと。」

「「こちらこそ、これからもよろしく。」」


本当はいつもの儀式をしたかったんだけど、

まわりに宿泊客がたくさんいるので止めておいた。


・・・・・・・・・・・・・・


旅に出て3日目の朝。


いつものように1時間ほど歩いてから、林の中に入り、

九郎がプラモのランクルをそっと地面に置くと花梨からストップがかかった。

「九郎、ちょっと待った。」

「うん?今度はなに?」


「試してみたいことがあるじゃん。

三蔵、九郎の肩に左手を置いて、右手は九郎の手の上に。」


何事かと思いながらも、花梨の指示通りにした。

花梨は九郎の肩に右手を置いて、左手は俺の手の上に重ねた。


「3人で魔力を注いでみよう。

で、イメージだけど、九郎はバーベキューセット。」


「「天才か~!」」

恒例の俺たちの掛け声に、花梨はニヤリと笑った。

「まあよ、まあよ!

三蔵はコンビニの弁当とか、お菓子とかを出来るだけたくさん。

アッシはお泊りセットをイメージする。

どう、どう?」


これが上手くいったときのことを思ったら、ゴクリと唾を飲み込んでいた。

「上手くいったら、もうなんにも困らないじゃない?」

「うん、うん。」


ちなみに、九郎の具現化の能力はこんな感じ。

・1日に、プラモデルを1箱具現化。

・制作に時間をかければかけるほど、性能アップ。

・10時間かけて作ったランクルの場合、8時間くらい、リアルに。

・ランクルは繰り返し使用出来て、1日に2回リアルに。

・第2次世界大戦時の歩兵セット1/35スケールの中身は、

機関銃2、サブマシンガン2、ライフル2、拳銃4、ナイフ4、

スコップ2、手りゅう弾2。


切り離すだけでプラモとは言い難い奴を、魔力を込めながら、

20分かけて、磨き、色を塗っている。

ちなみに、この歩兵セットは使い捨てなので、3日連続で作っていた。


九郎の持つ膨大な魔力は、カバンに入れているプラモに滔々と流れていて、

ランクルで言えば、ガソリンとなって貯まっているみたいだ。


「じゃあ、いくよ!」

「「おう!!」」

三人がそれぞれ、煩悩を肥大させながら、小さなプラモに魔力を流していく。


「どうだ?」

リアル化したランクルのバックドアをワクワクしながら開いてみると・・・


キタ~!


テーブルと一体型のバーベキューコンロ、折り畳み式のおしゃれな椅子、

そして~、カルビ、タン、ロースなど肉、肉、肉!!

焼肉のタレにハカタの塩、レモンまで!


俺と九郎がバーベキューセットを見て、雄たけびを上げている横で、

花梨は大きなリュックの中身を確認して喜びの声を上げた。


「やった!やった!化粧品に生理用品、う、うれし~!」


そして、残り2つあるリュックを漁っていくと・・・

残り2つのリュックからも、化粧品、生理用品、パンティとブラが・・・デタ~!

俺と九郎が横にいるのに、女物3セットをイメージするって、凄いわ!


今日は15時まで200kmくらい走って、

この世界に来て初めてホテルに泊まらず、車中泊することにした。


まずは、武器の試し打ちをやってみて、

そのあと、夕ご飯は~、バーベキュー!ヒャッハー!


イリス教国からオーガルザ王国への街道筋には魔物はもちろん、

大規模な盗賊団もいないらしい。


だけど、これまで使ったことのない武器はあるから、

三人で機関銃、サブマシンガン、ライフル、拳銃、手りゅう弾を試してみた。


花梨がヤバかった!


機関銃とか、サブマシンガンとかは銃口があっち向いたり、こっち向いたりする!

前衛でうかつに戦っていたら、後ろから蜂の巣にされそう。

さらに、手りゅう弾は遠くまで投げられないし、狙った方向にも行かないし、

ホント、ヤバいわ。


まあ?楽しそうだったし、「あんまり触らんとくわ!」って

自覚症状があったから試してみてホントによかったよ。


そのあとは、お待ちかねのバーベキューパーティーだ!

「じゃあ、かんぱ~い!」

コーラで乾杯してから、肉をそれぞれの前に並べていく。


「コーラ、うま~。いや、もう最高だね!九郎、ホントにありがとう。

でも、やっぱり、ビールでぷは~ってやってみたいね。」


「異世界だし、やっちゃうか!

でも、いくらこの辺りが安全っていっても、酔っぱらうのは怖いよな~。」

「だね~。」


食べきれないほどの肉、肉、肉だったので、

自分好みの焼き具合になるまで、目で、匂いで、焼ける音で、

色んな肉を愛でたよ。


会話もなく、美味い美味いと食べまくったけれど、

三人ほぼ同時に、限界が近づいてきた。


思い出したように、花梨が九郎に話しかけた。

「そうそう。九郎、もう、徹夜は止めなよ。」

「でも、移動中はプラモ作れないんだよ。

それに車の中でたっぷりと寝ているし。」

なぜか、焦ったように九郎は言い返した。


「ダメ、ダメ!こんなにデコボコ道なのに、車でぐっすりと眠れるワケないじゃん!

せめて、ベッドで6時間は寝ないと病気になっちゃうよ!」


俺はようやく、九郎が心配になってきた。

「九郎、そうしようぜ。疲れて倒れたら、その方がもったいないぜ。

もし、大きくって、細かいプラモを作るときは、

1日や2日、移動しなかったらいいんだから。

そんなに急ぐ必要ないだろ?」

俺の言葉に、九郎は眼を見開いた。


「ホントだ!期限もないのに、なんでか焦っていたよ!

うん、6時間は寝るようにするよ。」

「そうそう!寝不足は美容の大敵だよ!」


笑顔を浮かべている九郎と花梨を見ていると、感謝の念が沸き起こってきた。

「なあ、九郎、花梨、ホントにありがとう。

二人のおかげで、今日も楽しかったよ。」


突然の俺の感謝の言葉に二人はきょとんとしてから、笑顔を浮かべた。

「それは僕も同じだよ!」


「そうそう!でも、一番感謝しているのはアッシだよ!

ありがとう、二人とも!

アウグストに殺されても、友達ですらないアッシを守ろうとしてくれて、

ホントに嬉しかった。


アッシが甦ったのは、アンタたちに便乗したから。

今、生きているのは、全部、アンタたちのお陰。

ホントに、ありがとう。」


いつもギャルギャルしい態度の花梨がまじめに感謝の気持ちを表していた。


「よせやい、あの時はもう、義兄弟だったろ?」

恥ずかしくなって花梨から九郎に視線を逸らせた。


「そうだよ!花梨のことが大切だから、守ろうとしたんだよ!

守れなかったけどさ!」


大きく肯いた九郎だったけど、やっぱり恥ずかしかったみたいで、

最後は自虐ギャグを放っていた。


「花梨が俺たちの気持ちを解っていないみたいだから、

もう一度、義兄弟の契りをやるかよ?」


俺の言葉に、花梨は嬉しそうに肯くと、イイこと思いついたって顔をした。

「そうだ!誓ってからさ、もう一度同じ日に死んだら、もっと強くなれるじゃん!」

「「絶対に嫌だ!!」」


花梨は冗談を言ったつもりだろうけど、心底イヤすぎて、マジで答えてしまった。

「アッシもイヤだわ!」

「「「アハハ!」」」


笑い終わると、三人とも厳粛なカンジとなった。


「いくぞ!」

俺と九郎、花梨は右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、

胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。


それから、呼吸を合わせて宣言した。

「「我ら3人、生まれた日、時は違うけれど兄弟の契りを結ぶからは、

心を一つにして助け合い、困っている者たちを救う。

同年同月同日に生まれなかったけれど、同年同月同日に死ぬ事を願う!」」


そして、もう一度、右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、

胸をドーンとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。


「よし、今度はマジな誓いだからな。

俺たちの目標は、三人が助け合いながら、困っている人たちを助けることだ!

もちろん、俺たちが最高に楽しみながらだ。オーケイ?」

「「オーケイ、オーケイ!!」」


「花梨には似合わないカンジだけど!」

一番最初に生真面目さに我慢できなくなった俺は、つい揶揄ってしまった。

「うっさい、うっさい!アッシだって、困っている人は助けたいわ!」

「うん。さっきは九郎を心配してくれてありがとう。」

「うん、ありがとう。」

「・・・うん。」

珍しく照れ笑いしている花梨が可愛かった。


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