第6話 二つ名
重い。なんか冷たい。土臭い。重い。重い。
「うわぁ~!」
目が覚めてもやっぱり重かった!
「なんだこれ?うん?
九郎?
うん?
九郎、起きろ!邪魔!退け!」
「殺さないで~!
はっ、なに、これ?
き、貴船さ~ん!」
九郎はようやく起きてくれたのに、貴船さんが邪魔で動けないらしい。
「むにゃむにゃ、もう食べられない~!
はっ、幸せな夢見てたのに、邪魔しやがって~!」
貴船さんがプリプリ怒りながら九郎の上から動いてくれ、
九郎が俺の上から退いてくれて、
ようやく俺も体を起こすことが出来て、3人が座り込んで見つめあった。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「さっき、殺されなかったっけ?」
「九郎・・・服・・・血だらけ。」
「三蔵も!」
三人で視線を交し合った。
「やっぱ、殺されてんな!」
「うん。なんで生き返ったのかな?」
「異世界転移ボーナスか?
それとも、義兄弟の契りどおり、同年同月同日に死んだボーナスか?」
「どっちでもいいけど・・・僕、強くなったみたい!」
「なに~!・・・あっ、俺もだ!」
「アッシも!ねえ、どんな力か教えてよ~!」
貴船さんが俺たちの袖を摘まんで、引っ張ってきた。
「いや、能力の検証より、まずはこれからどうするか決めよう。
明日の早朝、逃げ出したい。どうだ?」
「「了解!」」
「城門は日の出まで開かないから、それまでは休んでおこう。」
「僕は徹夜でやりたいことがある。」
「おいおい、明日、そんなので大丈夫か?」
「武器が必要だろ?なかったら、また、殺されちゃうよ。」
「・・・そうだな。俺たちの部屋で、俺と貴船さんはまずは体を休めよう。」
「花梨。」
「えっ?」
「義兄弟なのに~、命を庇いあった仲なのに~、一緒に死んだ仲なのに~、
よそよそしいじゃ~ん。
花梨って呼んでよ。」
「OK。俺のことは・・・もう、三蔵って呼ばれているわ。
ははは。よろしく、花梨。」
「よろしく、花梨。」
俺たち三人は立ち上がると、右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、
胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチして、にっこりと笑いあった。
夜が白んできたころ、九郎に叩き起こされた。
花梨が布団とかをアイテムボックスに放り込んでから、
三人で足音を忍ばせ、こっそりと宿舎から出て行った。
城門についたら、もうすでに商売人の馬車や大勢の巡礼の人たちが並んでいた。
そして、夜明けとともに城門が開いた。
朝日が城門を貫いて俺たちを照らし、俺たちの未来を祝福しているように感じた。
オーガルザ王国へ続く街道は幅10メートルくらいの土の道。
馬車が走ったわだちはあるが、踏み固められ、歩きやすい道だった。
歩き始めて1時間ほどか、俺たちの後ろには誰もいなくなっていた。
この世界の人たちは健脚だし、花梨が遅いこともあるし、
九郎があくびを何度も何度もしているのもあった。
「疲れた~!もういいじゃん!
車に乗ろうよ~!」
「まだ、早いよ。・・・でも、少し休憩するか。」
2時間ほど歩こうって話だったのに、花梨が根を上げたので、
近くにあった木陰で休むことにした。
「そろそろ、能力を教えあおうよ!まずは、九郎から!」
さっきまでは疲れ果てた声を出していたのに、
花梨はテンションマックスの声をあげた。
「うん。僕も二つ名をもらったよ。その名は、【オルフェーブル】って・・・」
「なにそれ、イミフじゃん?」
九郎の話をさえぎって、花梨が首を傾げた。
「金細工師って意味らしい。
金じゃなくって、プラスチック細工師だけどね。
スキルは正直、具現化(プラモ)だけ。
だけど、魔力総量が倍に増えて、魔力出力は10倍に増えたカンジ。
で、昨日はコレを具現化したよ。」
九郎がリュックの中から取り出したのは、
プラモのままの小さな、小さな武器をいくつか。
「拳銃、サブマシンガン、ライフル、機関銃、ナイフに手りゅう弾か?」
「そうそう。第2次世界大戦時の歩兵セット1/35スケール。」
「・・・そんな時代の奴で大丈夫なのか?
っていうか、こんなちゃちいのって・・・」
「試す時間が全然ないけど、能力的には大丈夫だと思う。
耐久力に自信がないから、とりあえず2セット作ったよ。」
俺は武器の性能を心配したのだが、花梨は違った。
「なんだよ、もっといいものがあったのに~!
う~、まあ、しょうがないか。じゃあ、三蔵は?」
「俺も二つ名がついたぜ!【ネオユニヴァース】」
得意げに言葉を切ってやったら、花梨が食いついてくれた。
「なにそれ、なにそれ、カッコいいじゃん!ねえねえ、どういう意味なの?」
俺はキラリと白い歯を見せた。
「俺に惚れるなよ?」
「ないない。背があと30センチ伸びたら考えるわ。」
「ぐはっ!」
調子に乗りすぎた!バッサリと切り捨てられてしまった。
高2から、あと30センチ伸びろって、無理に決まってる!クスン。
「・・・直訳すると【新世界】になるんだけど、
俺のスキル【使い手】とセットだから、
【全てのモノの新機能を含めて、出し尽くす】ってカンジ。」
「すべてのモノか~。僕のプラモと相性ばっちりだね。」
「おう。なんでも使いこなしてやるぜ!」
俺と九郎はいつものとおり、右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、
胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。
「アッシは・・・あれ、アウグストじゃね?」
向こうから、騎馬が3騎、こちらへ駆けてきた。
「豆粒にしか見えないんだけど。」
信じられなくって隣を見てみると、花梨が憎悪の視線で凝視していた。
「アッシ、あいつを殺すから。」
「おいおい、大丈夫か?」
「うん。自信しかないよ。アンタたちはどうする?」
俺も何故か、自信しかなかった。
たとえ3対1でも、武器さえあれば勝てる自信しか。
「九郎の武器を試してみるさ。」
「僕は三蔵に任せるよ。弾は8発ね。一応、準備はするけどね。」
そう言って、九郎はリアル化した拳銃を2丁手渡してきた。
九郎は九郎で、二人に丸投げして不安は全くないみたい。
「銃なんて撃ったことないのに、いきなり2丁拳銃か、カッコいいな!」
もらった銃をニコニコと眺めていたら、
騎馬が近くにやって来て、3人は飛び降りた。
アウグストとその仲間の戦士2人で、
こいつ等も聖女の護衛でお偉い貴族サマだったハズ。
3人とも、急いできたのか、舐めているのか、
防具はつけていなくて、武器は長剣だけだ。
奴らはジロジロと俺たちを観察し、
俺が2丁拳銃を、九郎がサブマシンガンを持っていることに気付いたが、
警戒心は起こらないみたいだった。
この兵器を知らないようで、ますます自信がアップした。
「なんで、お前ら生きているんだ!」
俺たちを近くで見ても信じられず、アウグストは叫んだ。
「なんでって・・・」
どう答えるべきか迷ってしまい、九郎と視線を交わした。
「アンタが殺したって思ったのは、アッシの作った幻影ってコト!」
花梨が怒りを込めて吐き捨てた。
でも、何その嘘?
「なんだと?そんな馬鹿な!
ちゃんとナイフは壊れていたぞ!流血の跡だって・・・
そんな魔法、あるわけない!」
アウグストのバカめ、混乱していやがる。
「・・・三蔵とナイフで戦ったところまでが現実だったんだ!」
ガバガバな設定に気づいた花梨が苦し紛れに叫んだんだけど、
「なんだと・・・」
アウグストのバカ、ちゃんと信じて衝撃を受けていた。
「おい、アウグスト、お前がちゃんと確認しなかっただけだろ?
雑魚2人をさくっと殺して、さっさとこの女で楽しもうぜ!」
戦士の一人がしびれを切らして割り込んできた。
戦士の2人は相変わらず、俺たちを舐めたままだった。
「ちょっと待って。最後に教えてくれよ。
なんで、ここにいることが分かったんだ?」
「ああん?俺の魔法だよ。女にマーキングしていたんだ。
だから、どこに行っても無駄だ。」
マジか!こいつ、絶対に殺しておかないと!
でも、戦士のくせにしゃれた魔法を使うな。
やはり、アウグストと同じパーティだけに、なかなかの実力者のようだ。
「もう一つ。アンタたちはどれくらい強いんだ?
アンタたち2人も二つ名を持っているのか?」
この質問に、男2人は苦々し気な表情を浮かべた。
「・・・俺たちより強いパーティなんてない。」
つまり、国の中では強い方だけど、二つ名はないってことか・・・
アウグストの【剣豪】だって、【剣聖】【剣帝】【剣王】よりは下だよな。
「なに、笑っていやがる!
舐めてんのか!
弄ってほしいのか?おおっ?」
男2人が右手をさっと剣の柄に手を伸ばしたが、
その距離は5メートルのままで、この銃なら当たる!
バン!!
俺の2丁拳銃が全く同時に火を噴いて、男2人の右手の甲を打ち抜いた。
「があぁ!」
「な、なんだ?ポ、ポーション・・・」
バン!!
また、俺の2丁拳銃が全く同時に火を噴いて、
ベルトに差しているポーションに伸ばした男2人の左手の甲を打ち抜いた。
「があぁ!」
男2人は穴が空いた両手を見て、ブルブルと震えていた。
「な、なんだ、それは?どういうことだっ!」
ただ一人無事なアウグストが叫んだ。
動揺していることが丸わかりだ、バカめ!
花梨がアウグストをビシッと指さした。
「アンタはアッシが殺す!」
「くっ・・・くふふ。お前、攻撃魔法ないんだろ?
丸腰でどうするんだ?」
アウグストは丸腰の花梨を見て、少し立ち直り、
ゆっくりと剣を抜いて晴眼に構えた。
「じゃあ、アッシから行くよ。」
花梨が駆け出した、一歩ずつ、空へ!
見えない階段を花梨が軽やかに駆け上がっていく!
「なんだ?どういうことだっ?」
動揺しつつ、アウグストはダッシュして空中の花梨の足元に剣を振るった。
一瞬早く、花梨が駆け上がり、アウグストの剣は文字通り、空を切った。
凄い!マジで空中を走っている!凄い!
花梨は5メートルほどの高さまで駆け上がり、
そこから水泳の飛び込み競技の様に前回りしつつ、
何も持っていない両手を鋭く振った。
そして、空中で華麗に着地すると、今度はゆっくりと見えない階段を降りてきた。
「あああああああ!」
アウグストの悲鳴が響き、その両腕がポトリと地面に落ちた!
なんで?
花梨が斬ったのか?
どうやって?
「た、助けてくれ。」
敵3人とも両手が使えなくなり、3人ともが背を向けて逃げ出そうとした。
バン!バン!
俺が3発撃つと、右ひざを打ち抜かれた敵3人は倒れ、
悲鳴をあげ、転げまくっていた。
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