第5話 貴船花梨
まさか、今まで話したことのない奴らと
いきなり義兄弟になるとわ思わなかったわ、ウケる。
義兄弟って、桃園の誓いって何ソレ?ウケる。
梁多三蔵。身長150センチくらいで「チビ」と陰口叩かれている。
武器は何でもそこそこ使えるけど、他の奴らと比べて破壊力が全くなくて、
二つ名もないことから、みんなからバカにされている。
地味目のイケメンで、正義感があって、運動神経は抜群みたいだけど、ないわ。
うん、あの身長ではないわ。
仙波九郎。背は普通くらいで、額に大きなホクロがあって、
「ホクロウ」ってあだ名。
そのホクロを隠すために、前髪がやたら長い。
だけど、この世界に来たら、ホクロが無くなったみたい。
目が悪いやつとかも治っているから、病気?とか判断されたのかな?
魔術師なんだけど、攻撃魔法がなくって、
さらに具現化できるのはプラモデルだけだから、
みんなにバカにされていたけど、アッシは期待しているんだよね。
レベルアップしたら、日本と同じような暮らしが出来るんじゃないかと。
でも、もし、日本と同じ暮らしをさせてもらっても、ないわ。
ホクロが無くなったけど、ないわ。
うん、あのくそ丁寧なカンジ、ないわ。
この世界にきて、アッシは空間魔法、
つまりアイテムボックスが使えるようになった。
1㎥くらいと大したことないけど、
この世界の人たちにとったら、凄いことらしく、
めちゃくちゃスカウトされて、鼻が高かったよ。
付き合い始めたばかりの宗次郎と一緒に行動しようと思っていたんだけど、
宗次郎たちがこの世界の人たちに、その力を誇示し、
マウンティングしているのを見て、不安になってきたんだ。
アッシたちを一番アツく誘ってくれた、ドーブラ公国に行こうとしているんだけど、
オフィーリア公女はじめ、みんな高慢そうなんだよね。
もう、ぶつかり合うのが見えてるから、ドーブラ公国には行きたくなかった。
だけど、宗次郎たちと別れる決心もつかないまま、初めての休みの日に、
ドーブラ公国の奴らから接待を受けていたら、見つけたんだ。
サンキューコンビが二人っきりでウキウキと歩いているのを。
アッシはみんなに内緒にしていた光学迷彩をつかって、
宗次郎たちからこっそり離れ、サンキューコンビを追いかけた。
初めてストーキングしたから、ドキドキしたわ。
そうしたら、プラモが本物の車になったんだ!凄い、凄い!
アッシの期待どおりだ!
九郎と一緒なら、きっと日本の生活が出来る!
もうテンションが爆上がって、グイグイ、近寄っちゃったわ。
勢いで、マブダチどころか、義兄弟に!ウケる。
九郎たちと色々試し、話し合ってから戻ったら、
宗次郎たちに嫌味を言われたけど、あっそうって言うカンジ。
もう、危なっかしい宗次郎たちに付き合っていられない。
アッシは義兄弟と一緒にイクんだから!
司祭たちから、明日以降の訓練なんかの予定を聞いて、解散になった。
すぐに部屋に戻っていく三蔵と九郎とアイコンタクトを交わした。
そして、1時間後、アッシは自室を抜け出して、
三蔵と九郎との待ち合わせ場所に向かった。
いつ、ここから抜け出すか、何を用意するのかの最後の確認をするんだ。
正直、この世界のことを何にも知らない、弱っちい男女3人が遠く、
何日も旅をするなんて、バカげているけど、
アッシにはみんなにナイショの力がもう一つ、あるからね。
それはベイルアウト。
身の危険を感じると登録してある場所に緊急転移するんだ。
悪いけど、イザとなったら一人で逃げ出すけど、ゴメンね、サンキューコンビ。
待ち合わせ場所は庭園の中にある東屋で、ほんの少しだけ光が届いていた。
三蔵と九郎が立ち上がったので、手を振った。
「お待たせ~。で、どうしよっか?」
「何を、どうするんだ?」
後ろから悪意溢れる男の声が聞こえた。
「だれ?」
慌てて振り返ると、金髪碧眼の大柄な奴がゆっくりと近づいてきていた。
しまった!ウキウキしすぎて、まったく気づかなかったよ!
ドーブラの貴族で、戦士のアウグストだった。
2日前、アッシをエロく口説いてきたんで、こっぴどくフッってやったヤツだ。
アッシたち3人とも、武器なんて何も持っていないことを確認すると、
ニヤニヤしながら、見せつけるように剣の柄を握った。
「花梨、何を、どうするんだって?その出来損ないどもと。」
「べ、べつに・・・」
「くふふ。お前、俺たちを裏切って、そいつ等とつるむんだろ?」
「ち、ちがう。」
アッシはアウグストの圧に怯えてしまった。
「そうか、違うか・・・まあ、どうでもいいけどな。
無能なそいつ等はここで殺して、信用できないお前は奴隷にしてやるよ。」
アウグストは剣を抜きながら、凄い殺気を放ってきた!
「逃げろ!」
叫んで、逃げ出そうとした三蔵の肩にナイフが刺さっていた!
「ぐうっ!」
「三蔵!」
九郎が三蔵に駆け寄る。
「くふふ。お前らみたいな雑魚を逃がしたりするかよ?」
アウグストがニヤニヤ笑いながら、ゆっくりと近づいてきた。
「ベイルアウト!」
怖くなった私はイザという時の魔法を唱えた。
だけど!
「なんで・・・」
この前はちゃんと出来たのに転移出来ない!
なんで?
どうしよう!
どうしたらいい?
「くふふ。ここでは大きな魔法が使えないって言ってただろ?
聞いてなかったのか、バカめ!」
「あっ・・・」
アッシは余裕が全くなくなり、恐怖のあまり、ブルブル震えだした。
「逃げろ!」
「ぐっ、くそっ!」
三蔵がポケットに入れていた砂を投げつけると、
砂が目に入ったようで、アウグストは目をこすっていた。
アッシは脱兎のごとく、逃げ出した。
「大声を出せ!逃げろ!」
三蔵と九郎は一緒にわあわあ叫んでアッシに後ろをついてきた。
「あっ!」
アウグストと反対方向に逃げ出したんだけど、失敗だった。
真っ暗で見えなかったんだけど、すぐに行き止まりにぶつかってしまったんだ・・・
じゃりっと小石を踏みつける音がした。
「くふふ。鬼ごっこはもう終わりか?
よくも、この俺サマを馬鹿にしてくれたな?」
あんなに叫んだのに、誰も助けに来てくれない!どうして?
「ごめんなさい、許して!」
アッシが真剣に謝っているのに、
全く気にせずニヤニヤしながら、剣を構えて立ちふさがるアウグスト!
三蔵と九郎がアウグストに立ち向かい、アッシの前に進んでくれたんで、
嬉しくてしがみつきたくなった。
「ぐうっ。」
そして、三蔵は肩に刺さったナイフを抜いて、構えた。
三蔵の肩からは血がどくどくと流れていた。
二人とも恐怖からか、ブルブルと震えていた。
アウグストはむうっと機嫌を悪くしたものの、
何やら思いついたらしく、ひどく悪い笑顔を浮かべた。
「くふふ。お前ら、どっちかだけ、助けてやるよ。
どっちかは弄って、弄って殺す。
くふふ。助かりたい奴は手を上げろよ?・・・さあ!」
「さ、三人とも無事に助けてくれるなら、このことは黙っててやるよ。」
震える声で三蔵が言い放つと、九郎はうんうんうんうんと何度も肯いていた。
二人ともビビっているのが丸解りだよ。
「くふふ。かっこいいじゃないか。
じゃあ、二人とも死ね!」
アウグストが剣を振り上げると、三蔵が前に出て、ナイフで防いだ!
「くふふ!やるじゃないか!」
アウグストの剣速が少しずつ、速くなっていくが、三蔵は懸命に防いでいた。
「くっ、雑魚のくせに!豪剣!」
すぐに余裕が蒸発してしまったアウグストの剣が鈍く光り、
振り下ろされたその剣は三蔵のナイフを叩き折り、
三蔵の体を切り裂いていた!
「「三蔵!!」」
アウグストは倒れた三蔵につばを吐いた。
「【剣豪】の二つ名を持つ俺に刃向かうとは、バカめ!とどめだ!」
「三蔵!」
アウグストに向かって九郎が体当たりをした。
「ぐうっ、このクソがっ!」
アウグストは少しだけ態勢を崩したけど、そのまま九郎の体に剣を振り下ろした。
「ぎゃっ!」
「九郎!」
九郎は三蔵に重なるように倒れた!
「くそっ、面倒をかけやがって!オラ、行くぞ!」
アウグストはイラつきながら、アッシの腕を掴んだ。
「「行くな!!」」
倒れたままの三蔵と九郎が叫び、
三蔵がアッシの足を、九郎がアウグストの足を掴んだ。
「ああっ?なんだ、この死にぞこないが!」
アウグストが三蔵と九郎の腕を切り飛ばし、その体を何度も蹴りつけた。
「こいつらを信用するな!」
「きっと死んだ方がマシだ!」
「行くな!」
三蔵と九郎はもがきながら、叫び続けた。
アッシはアウグストの手を振りほどいて、
三蔵が手放した、折れたナイフを拾って、自分の頸動脈に添えた。
怖い!痛いの怖い!死ぬのが怖い!だけど・・・
「三蔵と九郎を治せ!ポーションを出せ!
治したら、アッシはアンタたちについていってやるよ!」
「「ダメだ!」」
「三蔵と九郎を治せ!」
ぼろぼろと泣きながら、アッシは叫んだ。
怖いのに!死ぬほど怖いのに、絶対に譲れなかった!
抗う力が湧いてきていた。
アウグストはせせら笑いながら、アッシの心臓に剣を突きつけた。
「くふふ。死ぬより、奴隷の方が絶対にマシだって!
さあ、どうする?俺たちの奴隷となるか、死ぬか、二つに一つだ。」
アウグストの剣がゆっくりとアッシに突き刺さってきた。
痛い!怖い!死にたくない!
だけど!
「三蔵と九郎を治せ!」
「三人そろって、死ね!」
アウグストの剣がアッシの心臓を深く貫いて、目の前が真っ暗になった。
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