第4話 リアル化

「凄い、凄い、マジ凄~い!さっすがじゃ~ん!

サンキューコンビをストーキングした甲斐があったじゃ~ん!」


!!

後ろからやたらテンションの高いギャルの声が聞こえた!


近くに誰もいないことを何度も、何度も確認したのに!

なんで?どうやって?いやそれより、誰なんだ?


動揺しながら振り返ると同級生の貴船花梨がキラキラと目を輝かせていた!


貴船さんは、髪を金色に染めている可愛い子で、女子1の陽キャ。

俺も九郎も挨拶以外はしたことないハズ。


確か、二つ名が【トランスポーター】で、ジョブが魔術師、

クラスメイトの中で誰も持っているって申告がなかった、

極めて貴重なアイテムボックスのスキルを持っていたハズ。


確か、富士谷ほか4人とドーブラ公国から誘われていたハズ。

確か、対馬宗次郎と付き合っていたハズ。


「えっ?なんで?いつの間に?貴船さん?」

「凄いね~、九郎。ちょっと乗せてね。」


俺と九郎の困惑を一切無視して、貴船さんはランクルの運転席に座った。


「ねえねえ、どうやったらエンジンかかるの?」

「スタートスイッチがあるだろ?」

「ああ、これね。うん?かからないケド?」

「多分、僕しかかからないと思う。」

「あ~、当然だよね!ねえ、九郎、やって見せてよ!」


貴船さんは笑顔のまま、車を降りると、九郎の背を優しく押した。


「う、うん。」

九郎が困惑しながら、車に乗ろうとしたので制止した。

「ちょっと待ってよ。

貴船さん、どういうこと?なんでここに?どうやって?なんで?

他の奴らは?どういうつもり?なんで?なんで?」


「ちょっと三蔵、うるさい、うるさい!落ち着きなよ~。」

そう言って、貴船さんは俺の肩をポンポンと叩いて、ニンマリした。

「ダチに会いに来て、何が悪いのさ?」


怖い、怖い!陽キャ怖い!

「ダチって・・・俺たちって挨拶しかしたことないよな?」


俺の確認に九郎はうんうんうんうんと何度も頷いたが、

貴船さんは心底不思議そうに首を傾げた。

「一緒に異世界転移した仲間じゃん?ダチじゃん?」


怖い、怖い、陽キャ怖い!

「向こうで仲良かった奴は、俺たちを見下して、イジメてくるけど?」


貴船さんは俺たちを真剣な瞳で見つめた。

「あ~、環奈とかね?

ゴメンね?あいつ等を止めなくって。

でも、アッシはサンキューコンビのこと、見下してないし、

悪口言ったことないし、馬鹿にしたことないし、

あいつ等と一緒に嘲笑ってないし。」


不愉快すぎて誰が悪口を言っているか、あんまり見なかったけど

「まあ、何人かはそんなカンジだったかな?」


九郎に目を向けると、九郎も自信なさそうだった。

「う~ん、貴船さんはそうだったかも?」


「でも、なんで?対馬と一緒じゃなかったの?」

対馬宗次郎の二つ名は【雷神】。ヤンチャ系で、音楽に夢中。目立ちたがり。

てっきり、貴船さんと付き合っているもんだと思ってたよ。


対馬の名前を出すと、貴船さんは口を尖らせた。

「宗次郎はさ~、力に飲まれて人の気持ちが分からなくなったじゃん!

こっちの世界の人をメチャクチャ馬鹿にしてんだよ?

しかも、聖女の取り巻きを馬鹿にしてんだよ?

駄目に決まっているじゃん!

あれ、絶対、酷い目に合わされるから、巻き込まれたくないんだよ~。」


「・・・食堂にはクラスメイトしかいないけど、

すんごい大きな声で話しているから、

この世界の人たちも、聞いているよね?」


同意すると貴船さんは肯き、その大きな目をキラキラ光らせた。


「そうそう!それにさ、九郎の魔法には夢があるじゃん?」

「夢?」


「そう、そう、夢!

故郷の世界では当たり前の物だけど、今は夢!

お風呂、シャワー、洋式トイレ、ウォシュレット!

ブラ、ショーツ、洋服、靴!

化粧品、生理用品!

スマホにゲーム!

ライトノベルにアニメ!」


「俗物だ!」

俺のツッコミを無視して、貴船さんは地団駄踏んだ。


「ここには何にもないじゃん!何にもないじゃん!」

大切なことだから、2度繰り返した!


「でもさ、九郎の具現化、期待どおり車が本物になったじゃん!

凄いじゃん!凄いじゃん!

これさ、イケるよ?さっきのヤツ、全部!」


腕をぶんぶん振り回して力説する貴船さんを見て、

俺と九郎は視線を交わした。


「・・・全部だって。イケる?」

「ほぼほぼ無理じゃね?」

「だよな・・・」


俺たちの当惑を見ても、貴船さんは瞳をキラキラしたままだった。

「ねえ、一度、動かして見せてよ!ねえ~!」


貴船さんに腕を掴まれブンブン振られた九郎は根負けしてしまい、

運転席に座って、スタートスイッチを押した。

ブルルン~!


おおっ、マジでランクルのエンジンが掛かった!


「凄い、凄い、マジ凄~い!ホラ、三蔵、乗ろうよ、乗ろうよ!」

貴船さんは拍手して喜ぶと、俺と一緒に後部座席に乗り込んだ。


「レッツラゴー!」

貴船さんの楽しそうな掛け声で九郎がアクセルを踏むと、

ランクルはゆっくりと前に進んだ!


「凄い、凄い、マジ凄~い!ねえ、どれくらい行けるの?」

「さあ?試してないからなんとも・・・」


九郎がどうだろ~って首を傾げたのに、

貴船さんはパンと手を叩いて、決然と声を出した。

「決めた!アッシ、サンキューコンビと旅に出るわ!」

「「えええ~!」」


「ホントに、対馬や、他のクラスメイトと一緒にいないの?」

「うんうん!」

「・・・俺たち、話したのは今日が初めてだよね?」


俺が恐る恐る尋ねると、貴船さんは嬉しそうに二回、うなずいた。

「そうそう!」

「ホントに俺たちと?男2人に女1人だけど・・・」

「マブダチだし、大丈夫っしょ~!」


貴船さんはウインクして、親指を立てて、右手を突き出した。


「これだけでマブダチって、陽キャ怖い!」

九郎も貴船さんの陽キャっぷりに怖気づいていた。


「・・・うん?貴船さんが俺たちとマブダチなら、俺と九郎はどうなるんだ?」

「親友より上ね~、う~ん、じゃあ、義兄弟か?」


「おう、義兄弟!いいね~、よしっ、桃園の誓いをやろうぜ!」

「三国志の劉備、関羽、張飛だね!」

「義兄弟の契りやるの~、面白そ~!アッシもやる~!」


「貴船さんはマブダチだろ?ダメだよ!見届け人な。」

「ええ~!ヤダ、ヤダ!アッシも義兄弟になる~!」


ジタバタ暴れる貴船さんに根負けしてしまい、車を降りてから、

深呼吸して相対した。


「・・・胸、ぶつけ合うけど、ホントにいいの?」

準備万端だったのに、気になりすぎて恐る恐る尋ねると、

貴船さんはニマニマ笑いながら、自分の大きな胸をツンツンした。

ゴクリと唾を飲み込んだのは内緒だ。


「ムフフ、あんたたち、ラッキーだね。

クラスで、アッシより胸が大きい女子はいないよ!」


そこまで言うなら、胸をぶつけあって、貴船さんの感触を大いに楽しんでやるよ!


「いくぞ!」

俺と九郎、貴船さんは右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、

胸をどーんとぶつけて、最後、両手でハイタッチした。


それから、呼吸を合わせて宣言した。


「「我ら3人、生まれた日、時は違うけれど兄弟の契りを結ぶからは、

心を一つにして助け合い、困っている者たちを救う。

同年同月同日に生まれなかったけれど、同年同月同日に死ぬ事を願う!」」


そして、もう一度、右腕をぶつけ合い、左腕をぶつけ合い、

胸をドーンとぶつけて、最後、両手でハイタッチした!

「「「イエ~イ!」」」

それから、3人そろって大笑いした。

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