第3話 散策
異世界に来て、2日目の夕食時。
俺と九郎は二人で静かに夕食を食べていた。
昨日の昼は一緒に食べていた富士谷、環奈、舛水は別のグループではしゃいでいた。
他の18人のクラスメイトたちはどうやら行動を共にするグループが
出来上がったようで、魔法や剣技について、
さらにどこの国からスカウトを受けたか、
どんな条件だったかとか、大声で語り合っていた。
俺と九郎が食事を終えて、ひっそりと部屋を出ていこうとしたら、
ニヤニヤしている舛水に声を掛けられた。
「おい、サンキュー、どこかの国から声は掛かったのか?」
「・・・いや。」
「そうか、まあ、頑張れよ。」
舛水の隣にいる環奈もニヤニヤしていた。
「そうそう、私たちみたいに頑張らないと!」
カチンときた!
俺だって、頑張ってるわ!必死だわ!
環奈に怒鳴りつける前に、
突然、立ち上がった富士谷が俺たちを指さして、大きな声を出した。
「こいつ等は頑張っても、無能だからムダなんだよ~!」
「「「「ぎゃははははは!」」」」
部屋中が嘲笑で満たされ、俺たちはまた屈辱にさいなまれながら逃げ出した。
九郎との二人部屋に戻ると、九郎は「ランクル」のプラモを取り出した。
今朝、具現化したのは紙ヤスリ、塗料などの仕上げセットだった。
気を取り直した九郎はランクルに塗料を丁寧に塗り始めた。
それをぼうっと眺めながら、俺は昼間の出来事を思い出していた。
午前は、戦士チームと魔術師チームに分かれて、
俺は戦士チームで剣、槍、弓、盾の使い方を学んだ。
剣だけでなく、槍、弓、盾もうまく使いこなせることが出来た。
ただ、それだけ。
クラスメイトの半数よりは上手に使えたが、
得意な武器での破壊力の差が有り過ぎた。
クラスメイトたちはお互いに「凄いな」「やるな」って褒めあっていたのだが、
俺の技を見て鼻で笑っていた。
昼からは座学で、この世界の歴史、常識なんかを学んだよ。
4つの国の首都の傍にはダンジョンがあるとか、(世界でも4つだけ)
エルフ、ドワーフ、犬人、猫人がいるとか、
魔族として、狼人、蜥蜴人がいることとか、
あとはドラゴンが最強とか、
アイテムボックスを持っている人はいるけど、
最も凄い容量が50cm×50cm×50cmでショボいとか。
「出来た!あっ!」
九郎が突然、喜びと驚きの声をあげた。
「どうしたんだ?」
「うん、完成したランクルにさ、魔力が注ぎ込まれていくんだ!」
「うぉ!マジか!完成してからか?」
「うん!なんか、凄いことになりそうな気がする。」
「いつだ?ほんで、どうなるんだ?」
「時間は結構かかりそうだよ。
どうなるかは・・・その時のお楽しみだな!」
九郎はこの世界に来て、初めて晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。
異世界に来て5日目。
今日は初めての休みだ。
これまでは訓練、座学、各国との交渉が続いていたんだ。
俺たちは結局、各国から交渉なんてなかったけど・・・
お小遣いとして、教会から大銀貨2枚(1万円くらい)もらった。
他のクラスメイトは聖女たちから接待を受けるみたいだ。
当然、俺たちにそんなものはないから、2人だけでこの都市を散策する。
大通りは広く、大勢の人が賑やかに歩いていた。
この都市は聖地であり、巡礼に訪れることが信徒の義務であり、
あこがれでもあるらしい。
だから、大通りには高級そうなホテル、明らかにぼろぼろのホテル、
旅グッズ屋、飲食店、お土産屋なんかが軒を連ね、
たくさんのお客さんで賑わっていた。
大きな交差点には騎士が複数、ビシッと立って睨みを効かせており、
治安はすこぶるよかった。
これまでは、なんだか盗聴されているのが怖くて、
真っ正直なことが言えなかったけど、
九郎の隣で歩きながら、辺りを確認したうえで、小声で話しかけた。
「これからどうする?俺はここから逃げ出したいけど?」
「もちろん、僕もだよ。」
「東に向かっているってことは、オーガルザ王国に行きたいってこと?」
「そう。聖女はいないし、東の方は黒髪が珍しくないらしいしね。」
「いいね、それ。でも、どうやって暮らしていくつもり?」
「冒険者でいいのかなって。試してみないとダメだけど。」
「冒険者なら、ダンジョンが有る所になるよな。
この世界にダンジョンは各国の首都近くの4つだけ。
ここからオーガルザ王国の首都ウィンブラまで歩いて1か月かかるんだろ?
俺たち、旅なんてしたことないし、かなり難易度高いよな?
ていうか、金もないし、無理だろ?」
九郎は俺を見て、ニヤリと笑った。
「まあ、今から実験してみて、それからだよ。」
このイリス教国に攻め込む阿呆な国はなく、また魔物、魔族も全くいないけど、
ちゃんと城壁に囲まれていた。
城門をくぐるとその向こうは街道がまっすぐ、広大な田畑の中を伸びていた
ゲートがあって、騎士がのんびりと警備していた。
入る者からはお金を徴収しているが、特に持ち物・身体検査はしておらず、
出ていく方は全く気にしていなかった。
九郎について、ゲートの外に出た。
しばらく街道を歩くと林があったので、その中に入っていった。
そして、少し開けた所にたどり着くと、九郎は振り返って得意げな笑顔を見せた。
「これだよ!」
リュックの中から、塗装まできっちりとした完璧なプラモデルを取り出した。
「うん、凄く丁寧な仕上がりだね。」
「へへへ。」
九郎はランクルを丁寧に地面に置いて、それに魔力を注いだ。
「うおっ!」
すると、その1/24スケールのランクルがむくむくと大きくなって、
1/1スケールとなった!
「マジか!」
マジか!しかも、プラスチックじゃなくって、硬くて、光り輝いていて、
これって、完全に本物じゃないか!
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