第2話 能力

クラスメイト全員の魔道具による鑑定が終わる頃には時間がかなり経っていたので、

ひとまず、昼食休憩をとることになった。


大きな食堂に案内されると、6人掛けのテーブルが8個並んでいたので、

学校の昼食時と同じように座っていった。


俺のテーブルには、仙波九郎、富士谷勇気、舛水三典、明智環奈の5人がいる。

環奈は、いつもは女子と食べているが、その女子たちは召喚されなかったんだ。


用意されたパンとスープを食べてみたが、それほど豪勢でも、美味しくもなかった。

「なあ、ジョブとスキルを教えあおうぜ!」

「いいねえ!」

「いいわよ!」

嬉しそうに舛水が提案すると、富士谷と環奈が二つ返事で了解していた。


「まあ、スキルはいっぱいあるから、一つにしておこうか。」

舛水がそういって、自分の分を申告し始めた。


舛水三典 【唯我独尊】。ジョブは賢者!で、スキルは雷魔法。

イケメン眼鏡。成績トップでそれを鼻にかけているカンジ。二つ名がぴったりだ。

俺たちの傍に環奈がいる時だけ近寄ってくる、嫌なヤツ。


明智環奈【風神】。ジョブは魔術師、スキルは風魔法。

俺の住んでいるアパートの隣人。ザ・幼なじみ。

小柄だが、俺より背は高い。ポニーテールの可愛い女子。


環奈は父子家庭で、その父は長距離トラックの運転手で環奈の世話が難しかったから

その父に頼まれて、今も2日に1日は、俺の家でご飯を食べている。

兄妹のように仲良くしていて、当然だが、大好きだ。

フラれるのが怖くて、告白なんてできないけど・・・


環奈のことを考えていたら、お母さんのことを思い出した。

俺の家は母子家庭で、俺を大切に育ててくれたお母さんのことが大好きだったのに、

今はなんか遠い親戚のように感じる。

これも異世界に来たせいだろうか・・・


俺(梁多三蔵)。ジョブは戦士、スキルは使い手、一つだけ。

使い手って何?

みんなスキル一杯、あるの?マジで?

ちなみに、背は150センチ。(実は149.8センチ)だが、

イケメン(のつもり)だ。


小学生の時、スポーツチャンバラ大会で優勝したのが唯一の自慢だ。(遠い目)

運動神経は抜群だが、パワーの差でいつも煮え湯を飲まされている。


仙波九郎。ジョブは魔術師、スキルは具現化・・・。

九郎のやつ、何か誤魔化している?

小学校からの親友で、背と顔は普通、趣味はプラモデルとかジオラマ作り。


額に大きなホクロがあり、長い前髪で隠していて、

口の悪い奴らから「ホクロウ」って呼ばれていたが・・・


「あれっ?九郎、ホクロが無くなっているよ!」

「うそっ!ホントだ!」

「あ~、よかったな、ホクロウ!

でも、目印が無くなって、誰かわかんなくなったわ!」


と厭らしく言ったのは富士谷勇気【大魔導師】。

ジョブは魔術師で、スキルは火魔法。

「デブ」ってあだ名で、いつもオドオドしていて、


4月いきなりヤンチャな奴らにイジメられようとしたのを、

俺と九郎が一緒にいて防いでやった。

なんか、エラそうだけど、実際そうだったんだ。

でも、今は富士谷が一番、エラそうにしていて、その目はギラギラとしていた。


見渡してみると、クラスメイトたちはみんな、

ハイテンションで、楽しそうに話していた。


俺たちの席でも、富士谷、環奈、舛水の三人が魔法について、

二つ名について楽しそうに話をしていた。

時折、俺と九郎を見つめる視線はなんだか、冷たくって、見下されたカンジだった。


食事が終わってしばらくすると、大勢の司祭たちがこの部屋に入ってきた。

そして、40歳くらいの優男、枢機卿イルーシブがこの世界の説明をしてくれた。


イリス教国の周りに4つの国がある。

西に「フラガン王国」があって、枢機卿ラーグルフと聖女シャルロットの生国だ。

東に「オーガルザ王国」があるが、出身の枢機卿は亡くなったばかりか、

聖女も見つけ出されていない。


東北に「ドーブラ公国」があって、枢機卿ゼノビアと聖女オフィーリアの生国だ。

北に「オルべス公国」があって、枢機卿イルーシブと聖女グレイスの生国だ。


3人の聖女候補の中から真の聖女が決まれば、

その生国の枢機卿が教皇となるそうで、

真の聖女の国は富んだ上に、宗教的権威も手にするから、

12の試練をクリアすることへの国の後押しが凄いらしい。


ちなみに、身分の高い者の方が、魔力などが高い傾向があるそうで、

聖女の3人はそれぞれ、王女、公女だったりする。


今回、俺たち異世界人は20人が召喚されたのだが、

本来、4人の聖女に5人ずつ、割り当てる予定だった。


しかし、オーガルザ王国の聖女が見つからなかったことから、

3か国は6人採用出来ることに決まったそうだ。

後の二人はどうするつもりだろう・・・


そして、俺たちは、その実力を教会及び聖女関係者に見せつけることになった。

それを見て、各国がスカウトに来るのだ。


案内された広い演習場の観客席には、フラガン王国チーム、ドーブラ公国チーム、

オルベス公国チームと国ごとに分かれて興味津々に座っていた。


俺たちの中から一番最初に技を見せつけたのは対馬宗次郎っていうヤンチャで、

富士谷勇気をイジメていたヤツだ。


その二つ名は【雷神】、ジョブは魔法戦士だ。上級職だ、羨ましい・・・

対馬は、20メートルは離れている標的に向かって剣を構えた。

ドン!

一瞬にして移動した対馬は、その標的を真っ二つにしていた!


「は、速すぎて見えない・・・」

観客たちの驚きの声を聴いて、対馬はニヤリと笑い、

真っ二つになった標的に向かって、右手を差し出して、なにやら呟いた。

ボウッ!

大きく燃え上がった標的はたちまち燃え尽きてしまった!

凄い火力だ!

雷神なのに、火魔法まで・・・キィー、羨ましい!


続いたクラスメイトたちも、剣を振るえば、大きな斬撃が飛んだりして、

標的を派手にぶっ壊し、ギャラリーが大きな歓声をあげていた。


魔法を放てば、その桁違いの威力に、ギャラリーは息をのんでいた。

そして、最後、俺たちのグループの番となった。


まずは舛水が前に出て、さっと手を突き出した。

「サンダーボルト!」

バリバリバリ!

大きな雷が落ちると、標的は粉々に打ち砕かれ、黒焦げになった!


「おお!初めての魔法で!詠唱省略!あの威力!凄まじいな・・・」

辺りの反応を見て、舛水はニヤリと笑い、

戻ってくると、笑顔の環奈とだけハイタッチをしていた。


次の富士谷勇気はこれまで見たことのない自信満々な顔をしていた。

「ファイヤードラゴン!」

富士谷の手から発せられた巨大は火の玉が、

凄まじいスピードで標的に当たると大爆発を起こした!


「うおっ!」

これまでで最大の爆発だったから、

これまで散々驚いていたのに、観客からまた驚きの声が上がった。


富士谷は得意げな笑顔を浮かべ、肩で風を切って戻ってきた。


その次に促された環奈は不安そうで、足がすくんでいた。

一声掛けようと一歩踏み出したが、先に舛水が声を発した。

「環奈、大丈夫だ。自信もってやるんだ。」

「うん!」

環奈の不安そうだった顔が笑みを浮かべ、その足取りは軽くなっていた。


環奈が口を少しすぼめると、標的がスパッと切れた!

「な、なんだ?いつの間に!」

辺りの驚きの声を受けて、環奈は嬉しそうに俺たちの元へ帰って来た。

「凄いな!」

「ありがと!」

そして、舛水と笑顔でハイタッチしていた・・・


次は俺の番だった。

これまでとギャラリーの視線の種類が変わっていた。

二つ名を持っていないからな・・・


俺は、そこに置いてあった長剣を持つと、

標的に向かって駆け寄り剣を振り下ろした。

ズバッ!


標的は真っ二つに切れたものの、なんていうか、驚きはなかった。

凄いけど・・・って、「けど」が付く。


これまでのクラスメイトが1万人の中でトップの力を見せたのに、

俺は10人の中でトップくらいか?


「ハハハ!」

「わざわざ、世界を越えてきて、これかよ・・・」

周囲から聞こえたバカにするような笑いに屈辱を感じた。


「充分、凄いよ。」

すれ違いざまに、優しい笑顔を浮かべた九郎が小声で褒めてくれた。


最後は九郎だ。

その場に立つとひどく緊張したようで、その顔は青ざめていた。


「具現!」

九郎が具現化したのは「ランクル」1/24スケールのプラモデルの箱だった!


異世界の人たちは何か分からず、???っていうカンジだったが、

クラスメイトの男子たちは噴き出した。


「ホクロウのやつ、プラモを出しやがったぜ!」

「ぎゃはは!異世界でおもちゃ屋やるつもりかよ!」

「オンリーワンだから、ぼろ儲けだぜ!」


舛水が一歩前に出て、みんなを制止した。

「みんな、まだ早いよ。」


でも、ニヤつきを我慢しているのが丸解りだ。

「きっと、ただのプラモじゃない!凄いことになるかもよ!

さあ、ホクロウ、魔力を通してみなよ!さあ!」


九郎が震える手で箱を開けると、当たり前だが、

組み立て前のプラモデルが入っていた。

九郎がプラモに手を当ててみたが、プラモに変化は全くなかった。


揶揄いたくてうずうずしているクラスメイトたちを横目に、

舛水が九郎からプラモをひったくった。

そして、そのプラモに手を当てた。

やっぱり何にも変わらなかった。


「ただのプラモだな!」

そう言って、舛水は九郎の足元にプラモをポイっと投げ捨てた。


「アハハ!サンキューコンビ、さすが!」

一番に嘲笑ったのは環奈だった!


たちまち追随するクラスメイトたち。

「ぎゃはは!マジで、ただのプラモだってよ!」

「二つ名がないんだ、しょうがないだろ?」

「マブダチどうし、仲がいいこって!」

「異世界に呼ばれたのに、これだよ!」

「ホクロウだから、しょうがないぜ!」


「「「「「ぎゃはははははは!」」」」」


大勢の嘲笑を受けて俯いている九郎。


俺も傷ついていたけれど、涙をこらえている九郎に駆け寄り、その肩を抱いた。

「九郎、行こう。」

そして、二人して逃げ出した。


「「「「「「逃げやがったぜ!ぎゃはははははは!」」」」」

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